イメージが氾濫する世界において,イメージ・リテラシーを高める意味で,実に興味深く読んだ。澁澤龍彦や,種村季弘,高山宏,高階秀爾などの男性の書き手にはなかなか書けそうにない(世代的な制約もあって)視点が多々紹介されており,個人的には今後イメージに対する態度がかなり変わりそうだ。他の方も書いている通り,カラー図版を大量に入れてくれれば言うことなし。個人的には星を10個くらいつけたい名著だと思った。
最近,一神教を背景として育ったand/or白人であるand/or男性である人々のbiasが鼻についてしょうがない。恐らくは無意識裡に自らを「名誉白人」くらいに位置付けている,西洋に詳しい日本のインテリの皆さんにもウンザリしている。もちろん稀有な例外もあるが,例えば元外交官のあの人や,宗教社会学者を名乗るあの人などの「教えてやる」感があまりに不快だ。本来,一般的な日本人は上記の様々なbiasから自由な,新たな視点を提供できるはずだ。若桑も「受け売り」的な態度で研究を続けてきたなか,女子学生たちからの素朴で真摯な質問から,言わば「覚醒」したというエピソードが本文中に現れる(ここは評者がやや「盛って」いるかもしれない)。
ちなみに動物実験レベルでは「可愛らしさ」は「家畜化度」を反映しているということらしい。そういう意味では,何となく「カワイイ」を追いかけている女性の皆さんにもぜひ読んでもらいたい。若桑には『お姫様とジェンダー』というジェンダー論に特化した軽めの著書もある。評者はこの本でディズニーの見方が変わった。山本浩貴などの若い書き手にこうした視点を継承していってもらいたいものだ。
ネガティヴなレビューを書いている皆さんは,ここで批判されている,権力者や男性に都合の良い様々な固定観念を払拭済みということなのであろうか。
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若桑 みどり
(著)
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- 本の長さ440ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2012/3/7
- 寸法10.8 x 1.7 x 15.2 cm
- ISBN-104480094326
- ISBN-13978-4480094322
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- 発売日 : 2012/3/7
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 440ページ
- ISBN-10 : 4480094326
- ISBN-13 : 978-4480094322
- 寸法 : 10.8 x 1.7 x 15.2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 127,314位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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上位レビュー、対象国: 日本
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- 2013年9月14日に日本でレビュー済み前半は理論編で、イメージがヨーロッパの歴史の中で、どのように描かれ、扱われてきたのかを論じ、
後半で、ヨーロッパの中世以降の、アテナ、マリア、ダヴィデなどの代表的なイメージの扱われ方を論じている。
いずれも、対象はほぼヨーロッパに限られており、ヨーロッパのイメージの歴史といった方が正しい。
また、これまであまり取り上げられなかったこともあり、ジェンダーに関する記述が多い。
最後に、とってつけたように、東京の彫刻についての部分があるが、
それまでのヨーロッパに関する分析の緻密さに比べると、あまりにアドホックで、個人的な印象にとどまっているのが残念だった。
- 2020年1月28日に日本でレビュー済みAmazonで購入アテナ、マリア、マリアンヌ、自由の女神、裸婦像と扱われているのが女性のジェンダーネタばかり。数少ない男性(ヘラクレス)はレイプの話をしていてやはりジェンダーネタ。
ならタイトルは「イメージに見るジェンダー論(図像学もあるよ)」として欲しかった。
冒頭で触れてる黒人差別ネタなど他にも掘り下げてほしい所は多々あったのにジェンダー論だけに特化されても、という感想。
- 2022年10月25日に日本でレビュー済みAmazonで購入同じ著者の美術史の入門書に『イメージを読む』という著作があり、これを読んだらもう一歩深く美術史や絵画の知識を得たいと思い、それで購入して読んだのが本書『イメージの歴史』でした。内容は前作より難しかったけれど、その分、美術についての知識が格段に深まったと思っています。美術鑑賞が大好きなので、これまでもさまざまな美術館で一流の画家たちによる作品を見てきましたが、一枚一枚の絵にどのような意味があるのかなど考えることがありませんでした。その意味で、これからは絵画に描かれた思想や意味などを知った上で、より深く絵画鑑賞ができそうです。とても素晴らしい本でした。
- 2012年3月11日に日本でレビュー済み本書は元々放送大学の教科書として執筆されたものであるが、著者が生前研究し続けて来たヨーロッパ芸術史の集大成として書き下ろされた学際的研究手法による<イメージの歴史>の意義を考察するという野心的な試みを結実させており、芸術作品の孤高なる価値よりも、民族、言語、国家を超えて共有されるイメージや排除されるイメージなどを、多元的に描き出そうとする試論でもあり、まさに新たな研究領域の成立でもある。
この新たな歴史学的アプローチを補強するのは、エドマンド・バークであり、ジェンダー研究であり、オリエンタリズムの手法であり、背後権威と知的資産の両面で支援するのはワールブルク学派の成果であり、ここは著者の十八番でもある。
理論編と実践編に分かれているので、実に読みやすい構成である。中世ヨーロッパの王侯貴族の海外進出の産物としての新知の収集実績としてのヴンダーカマー(Wunderkammer)の伝統を踏まえて、知の収集とその解析の意義を近代史に対して並行して描き出し、最後は20世紀日本のイメージ分析で締めくくる実に戦略的な構想は、端倪すべからざる著者の才気を忍ばせる。
文庫本版よりも図版が精確に読める大型本での出版も必要であろう。掲載図版の大版を別の美術全集で探すのは面倒である。
- 2020年5月13日に日本でレビュー済みAmazonで購入ジェンダー的な視点を通して、それぞれ上層と下層の価値観を分けて、キリスト教圏の人々が抱いていたイメージの歴史を推し量ると言う意味で非常に調べられた本だと思いました。
ただ、最後のまとめに関しては、日本にはユーディットにもアテナにも相当する人物は元々いなくて、日本の美術界は西洋の価値観の表面をコピーした部分が大きいでしょうし、西洋と日本の対比の部分には雑さを感じました。
あえて、出すとすれば神功皇后や天照が相当するかもしれませんが。。
- 2012年4月21日に日本でレビュー済み読み始めは、アトリビュートに関する独特な視点から見た解説書の
ような印象を持った。しかし読み進めるうちに美術作品を包括的に
捉え、その制作に至った理由、目的を明らかにしていく著者の分析は
素晴らしく、その魅力に引き付けられてしまった。特にカソリックの
教義の変遷によって、美術作品が逐次影響を受けてきたことが詳細に
語られており、類書に見られない秀逸さを持っている。
- 2020年4月9日に日本でレビュー済み”イメージの歴史”という中立的なタイトルだが、むしろイメージは材料に過ぎず、ジェンダーとポスト植民地主義からの視点による、家父長制と帝国主義批判に力が入り過ぎ、陳腐な印象を与える。このような主張のためにイメージ分析が利用されているという印象を与えるのだ。ジェンダーからの批判は、女性研究者であるだけに力が入り、説得的な主張も多々あるのだが、帝国主義批判になると、ごく常識的な議論で今更こんなことを言うのなら、イメージ批判などを迂回せず、もっと直接的にやれば良いのに、と思った。言い換えれば、イメージは単なる批判のための材料にしか過ぎない。しかも高貴な古典ギリシア的女性像は西欧の植民地帝国を表し、アジア、アフリカは裸の原始的女性で象徴される、と言うテーマがここにもそこにもあるよ、と言う文章が続き少々飽きてくる。タイトルからは、もう少し広範なイメージ分析、例えば近代で大衆が何をイメージに求めたのか、前近代ではどうだったのか、あるいはそれに対するエリート芸術の側からの対応はどうだったか、などを期待したのだが。いくつかの映画研究者による同様の批判的研究の方が、より映画そのものの内部からの分析があって、まだしももう少し深みがあるように感じた。