最初にこの本がわかりにくいと感じたのは、自明としてある「クリエィティブクラス」の定義がよくわからなかったからである。それもそのはず、この本はこの著者の2冊目の本で(『The Flight of the the Creative Class』)、1冊目の『The Rise of the Creative Class』が未訳のため(本年中に翻訳されるとのことであるが)、前提としてある「クリエィティブクラス」の説明が不充分だったためである。
従って、「クリエィティブクラス」というものがどういうもの曖昧なまま読み進めなければならない。ようやくその定義が現れるのは半分経過した168ページである。そこには、「広義のクリエィティブ・クラスは科学者、エンジニア、芸術家、文化創造者、経営者、専門家、技術者を含み、狭義の場合は技能者を含めない」とある。この本は、アメリカに集中していたそれらの人々が世界中に移動するということについて書かれた本である。
今や経済成長の中心となりつつあるクリエィティブ経済にとって必要なものは三つのT、技術(テクノロジー)、才能(タレント)、寛容性(トレランス)が必要とある。特に重要なのは寛容性で、人種や性別や職業に対する偏見から自由でない場所にクリエィティブ・クラスは根づかない。9・11以降のアメリカには次第にこの寛容性がなくなり、それを求める人々が世界中に移動していると著者は警告している。
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クリエイティブ・クラスの世紀 単行本 – 2007/4/6
リチャード・フロリダ
(著),
井口 典夫
(翻訳)
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「クリエイティブ・クラス」とは、いったい何なんでしょうか。
提唱者のリチャード・フロリダは、クリエイティブ・クラスが流動化している状況を調査するのに職業分類を用いました。これに疑問なく従えば、いわゆるプロフェッショナルに定義される知的労働者を指すことになります。
ところが、この分類には当てはまらない、たとえばトヨタの工場労働者、伝説的なホテルマン、さらには本稿でも紹介されているSASインスティテュートやグーグルなどの社員についても、そうであると言っています。
『ハイコンセプト』の著者、ダニエル・ピンク――彼もクリエイティブ経済の賛同者の一人ですが――いわく「フロリダの定義はかなり広い」。
では、ピンクの考えるところでクリエイティブ・クラスを定義すると、「左脳思考だけでなく、右脳思考もできる人」であり、「何らかの専門性を持ちながらも、そこに埋没することなく全体観を俯瞰でき」、かつ「論理的でありながらも、美しさや遊びといった、論理では説明し切れない世界を理解できる人」ということになりましょうか。
しかし、定義はあまり重要ではありません。ナレッジ・ワーカー(知識労働者)のそれはそもそもあいまいで、ホワイトカラー全般プラス一部のブルーカラーといった認識に落ち着いているのではないでしょうか。ナレッジ・ワーカーの台頭にまつわる主張は、むしろ、天然資源、工場、労働者数などが物を言う工業の時代から、知識や情報、ビジネスモデル、労働者の質が競争を左右する知識の時代へ移行しているという、パラダイム・シフトの指摘でした。
クリエイティブ・クラスという概念は、パラダイム・シフトではなく、ナレッジ・ワーカーの「再解釈」を訴えています。21世紀における付加価値、すなわち「イノベーション」を創造できる、あるいはリードできるナレッジ・ワーカーといえるでしょう。
その背景には、さまざまな分野において標準化が進み、定型的な知識が広く共有されるようになった現在、ドロシー・レオナルドが唱えた「ディープ・スマート」、野中郁次郎らの「豊かな暗黙知」など、属人的な知の重要性が認識されていることがあります。
くわえて、イノベーション――けっして一発屋的ではなく――を継続的に実現するには、このように標準化や共有化が難しい知をふんだんに持ち合わせていることが有利であり、もちろんただ持っているだけでは無意味ですから、これを組織的に活用できる能力が不可欠です。
よって日本でも、必然的にダイバーシティ・マネジメントが重要性を帯びてきます。とりわけ、暗黙知の宝庫である「団塊世代」、ビジネスパーソンとしての知識や能力、組織へのロイヤルティも高く、不文律もわきまえている「ワーキング・マザー」の再活用が不可欠です。また、若者が将来の希望を失うことなく、組織に貢献し、学習を重ねていくためにも、ミドル層の働き方や処遇を変えていく必要もあるでしょう。
しかも、日本はこの2007年、65歳以上の高齢者が21%以上を占める「超高齢社会」に世界で最初に突入します。そして、2055年には総人口は1億人を切り、平均寿命が女性は90歳、男性は83歳を超え、高齢者比率も40%を超えるそうです。このように、労働力人口も生産人口も減少していくという未来においては、高齢者や女性の活用は時代の要請であり、またイノベーションの源泉となるはずです。
クリエイティブ・クラスを「創造的な人たち」と直訳してしまうと、その本質や背後にある時代の変化を見失いかねません。しかし、このようにデジタル思考してしまう人はそもそもクリエイティブ・クラスではないのかもしれませんが――。
- ISBN-10447800076X
- ISBN-13978-4478000762
- 出版社ダイヤモンド社
- 発売日2007/4/6
- 言語日本語
- 本の長さ349ページ
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- 単行本 : 349ページ
- ISBN-10 : 447800076X
- ISBN-13 : 978-4478000762
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上位レビュー、対象国: 日本
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- 2007年5月30日に日本でレビュー済み様々な学説との関係について言及されている部分があり、そうした論理的な部分が読み切れていないと、深いところは分からないような気がする。ただし、センスで一気に読み通してしまうことも可能で、自分なりには「クリエイティブ・クラス=(精神労働と肉体労働の区別なく)不定形で創造的な作業を仕事とする人たち」と理解した。さらに、そうした階層を集め、活躍してもらえるようにするには、社会や都市に多様性と寛容性が求められ、そうしたことを真剣に考えないと、日本もやっていけないのではないかとの示唆も得られた。例えば政策的に移民をもっと受け入れるなどであろう。米国人独特の表現なども、日本人向けにうまく訳されている。国や企業のエグゼクティブ向けの書であろう。次のライズの出版にも期待したい。
- 2013年9月1日に日本でレビュー済みAmazonで購入工業化の次の段階に世界は突入している。それは創造的な職業が主役になる世界。とはいうものの、サービス業の従事者と2極化が進んでいるのではと問いかける。才能が集まる都市の時代になるということは分かったが、では、どうすれば良いのか。同じことの繰り返しで間延びした印象がある。
- 2008年6月25日に日本でレビュー済みAmazonで購入アメリカでは全労働者の 30% がクリエイティブな仕事についているが,これはこれまでアメリカが世界のクリエイティブなひとびとをひきよせていたからだという.ところが,最近はそういうひとびとがむしろアメリカ以外の国にひきよせられている.本書はそういう危機感にいろどられている.
すこし意外だったのは,日本もこの本で使用された統計がとられた 2000 年ころにはいくつかの項目でアメリカよりクリエイティブだとみなされたことである.しかし,たぶん現在ではそうでなくなっているのだろう.
この本は日本では「クリエイティブ資本論」よりさきに出版されているが,「クリエイティブクラス」そのものについて書かれているのは「クリエイティブ資本論」であり,それをまず読むべきだとおもう.この本はアメリカ人向きであり,日本人が読む必要はないのではないかとおもう.
- 2008年1月11日に日本でレビュー済み「クリエイティブ・クラス」というネーミングに、思わず知的好奇心を呼び起こされてしまう、
そんな読者層がターゲットの本でしょう。訳者も想定読者に「官民のトップ・エグゼクティブ」をあげています。
想定読者のレベルに入るかどうかは別問題ですが、面白い指摘が多かったとは思います。
著者のあげる、経済発展の三つのT、「技術」(テクノロジー),「才能」(タレント),「寛容性」(トレランス)で、
確かに「寛容性」というポイントは、私にとっては新鮮な“尺度”(メジャーメント)に写りました。
9.11以降、アメリカの強さを裏打ちしてきた「寛容性」が失われてきているという指摘は、非常にイメージしやすい例でした。
また、「グローバルな才能の磁石」として、カナダのトロント,オーストラリアのシドニーといった都市の分析も、
興味深く読めました。
ただ、全体に非常に冗長な感があり、読みきるには相当な根気が必要だったのも事実です。
『The Rise of the Creative Class』というのが本著の前にあるようで、こちらへの批判に対するカウンターが長いです。
「寛容性」は“論敵”にはあまり重視されていないのかもしれません。
最後まで読み進めて、巻末にある「クリエイティビティ」の国際ランクを眺めてみると、
著者の持つような自国への“楽観主義”がどれだけ重要なのかを、改めて感じます。
日本のランクは二位。アメリカより上ですが、日頃この“閉塞感”ですから・・・。
“我々も、もっとやれる!”というメッセージを、本書から読みとるのも、悪くないかもしれません。
- 2007年4月28日に日本でレビュー済みこのフロリダの著作が米国でベストセラーになったのは、やはり都市経済学の視点から最新のデータで実証的にアプローチしている点が評価されてのことだと思う。実際、わが国のクリエイター一般や移民に対する不寛容は、産業や社会の活力を大きく阻害している。こうした書を国の責任ある者も読むべきであろう。
- 2020年9月17日に日本でレビュー済みもはや古典とされるクリエイティブ都市論の本書は重要な切り口を与えてくれる
クリエイティブとはとても差別的で、成立しにくいものであり、移り気である
移民にキーがあるが、ドバイやバンクーバーのように移民が多ければいいというだけでもない
- 2007年4月18日に日本でレビュー済み政治、経済、人材にもクリエイティブの発想が大切ということで、
創造性がいかにこれからの時代大事になって行くかを書いている。
面白い考え方だなと買って読んではみたが、
読み進むにつれてこれは、イノベーションの言い換えに
過ぎないなということを感じた。
クリエイティブ・クラスという言い方は、
とてもキャッチーで新しく聞こえるが、
本書の内容に特に新しいことは別段かかれていないのが残念。
分厚い単行本ではなく、某ビジネス誌の特集ページで十分の内容。
ただ、経済のネタ本としては面白く読めるかも。