既に配信限定でリリースされていた8曲に新曲1曲をプラスし、今回CDとして初めて発売する運びとなった
宍戸留美デビュー25周年記念作品は、これまでの彼女の音楽の集大成的なものでは全くなく、
むしろ2011-13年にリリースした3部作のアウトトラック作品集のような、どちらかというと地味な内容です。
収録時間も34分と、フルアルバムというにはかなり短いものなのですが、それがどうして最初は地味に感じても
じわじわ味わいが増すような滋味深さ、郷愁としての東京の暖かさにスポットを当てたような作品となっています。
3部作では、今の東京の下町の空気感が歌われていた気がしましたが、本作ではもっと時代を遡った大らかな東京の
街の雰囲気みたいなものを感じ取ることが出来ました。
それにしてもデビュー25周年にして、本作をリリースした理由は、おそらく次のステップに移るための通過儀礼としてであり、
さすがは元祖・自己プロデュースアイドルと呼ばれた彼女の新たな挑戦とも言える実に戦略的な試みであると言えるでしょう。
デビュー25周年という節目に、まず資金投資して、それらを興味深く展開し、最終的には資金回収、次回作の製作費作りへ
という流れは見事です。さすがは90年代のアイドル衰退期にデビューし、自らインディーズアイドルという道を選択し、
紆余曲折ありつつも業界をサバイヴしてきた人だなあと感心させられます。
そしてここで重要なことは、彼女がお金を稼ぐことの意味は、常に次のやりたいことのためにあるということでしょう。
淡いノスタルジーすらも感じさせる作品を25周年記念としてリリースした後、次にどう出るのかが、既にとても気になります。
同時発売の写真集といい、クラウドファンディングでの応援プロジェクトといい、常に戦略的かつ現実的に先を見据えつつ、
やりたいことをやり続ける力強い姿勢と行動力には、本当に感服させられます。
(ジャケはピンクが欲しかったけど、黒でした。その辺もさすがだなあと。だってもう一枚買いたくなるでしょう)