【9月25日 AFP】地球温暖化対策としての炭素税導入論には、問題の複雑さをごまかしている側面があり、導入を急ぎすぎれば世界経済が打撃を受けるのみならず、温室効果ガス問題が悪化する恐れさえある――。ドイツの科学者らが23日、炭素税は「地雷原」だと警告する論文を英科学誌「ネイチャー・クライメートチェンジ(Nature Climate Change)」に発表した。

 炭素税は、製造・輸送の過程で排出された二酸化炭素(CO2)量を元に製品に課税するもの。温室効果ガス削減策として推進される半面、「世界の工場」中国を筆頭に新興国からは猛反発を招いている。

■製品の「CO2含有量」に隠された問題点

 2010年のある報告によれば、米国の輸入品におけるCO2含有量は1ドル当たり平均777グラムで、輸出品は同490グラムだった。一方、中国は輸入品のCO2含有量が1ドルあたりわずか49グラムだったのに対し、輸出品は同2180グラムと、米国とは対照的な数字が示された。

 だが、この数字は幾つかの点で誤解の元になっていると、独ポツダム気候研究所(Potsdam Institute for Climate Impact Research)のミハエル・ヤコブ(Michael Jakob)氏とロベルト・マルシンスキ(Robert Marschinski)氏の論文は指摘する。

「一般的に欧米が輸入する製品は、発展途上国で大量の温室効果ガスを排出して作られている。その排出量をどの国が負担するべきかについては、異論が多い」(ヤコブ氏)

■複雑に絡み合う国際貿易の仕組み

 まず、中国のCO2排出量が大きい原因の1つは、米国向け輸出品の需要増大だ。ヤコブ氏によれば、輸入品の形で米国に流れ込むCO2排出量の50%が、米国が抱える膨大な貿易赤字の結果だという。

 また、経済の仕組みの中で新興国が担う役割も、問題を複雑化させている。新興国は「CO2含有量の多い製品の製造により特化している傾向が高い」(論文)ためだ。

 欧米の新興国向け輸出品の典型は、省エネ技術を活用して製造される工作機械だ。しかし、これらの工作機械が新興国で玩具製造などに使用される際、電力源となるのは化石燃料の中でもCO2排出量の最も多い石炭だ。

 こうした条件下では、炭素税の導入は温暖化対策として逆効果になりかねない。新興国が工作機械を自国で製造しようとすれば、欧米製のものよりエネルギー集約型になる可能性が高く、結果的に製品に課税される炭素税額は上昇することになるからだ。

「結局のところ、世界貿易に介入すれば効果より害をもたらすだろう」とマルシンスキ氏は述べ、製品のCO2含有量ではなく、むしろ国ごとのエネルギー生産過程でのCO2排出量を問題とすべきだと指摘した。

 国際社会がもっと協力して、よりよいエネルギー効率と地域の排出権取引に支えられた排出量削減目標を定めることこそ最も必要なことであり、「炭素税はその代わりにはなれない」と、同氏は結論付けている。(c)AFP