任天堂が再び、不可能を可能に変えた。2017年3月に発売された「Nintendo Switch」の初年度の販売数が、2,000万台を突破しようとしているのだ。この数は発売から4年が経つ「Wii U」の販売数をすでに上回っている。約10年前に発売された「Wii」から、米国で最も速いペースで売れたゲーム機の座を奪ったということだ。任天堂はSwitchとともにゲーム世界に返り咲き、栄光の日々を取り戻そうとしている。
ただし任天堂には、力強いスタートを切りながらも、つまづいた歴史がある。任天堂は過去20年、成功と同じくらい挫折を味わってきた。まるで見ていると一喜一憂してしまうメロドラマのようだ。WiiやSwitchのような人気ゲーム機の陰で、Wii Uや「ゲームキューブ」のような失敗作も生み出されている。
任天堂の君島達己社長は1月中旬、毎日新聞のインタヴューで、Switchが長く生き残るには「2年目が重要」と述べている。しかし、2年目も勢いを持続させるには何が必要なのだろう? いくつかアイデアを考えてみた。
1: 段ボール工作の「Nintendo Labo」をフル活用
2018年早々に発表された工作キット「Nintendo Labo」[日本語版記事]は、最高の驚きを与えてくれた。任天堂は現在のハードコアゲーマーにこだわらず、新しいプレイヤーを見つけ、誰もが楽しむことのできる体験を創造するという戦略に再び立ち返ろうとしているのだろう。
2000年代半ばにはこの戦略が功を奏し、Wiiと携帯ゲーム機「Nintendo DS」が2,500万台超の販売数を達成した。この成功を支えたのが、「Wii Sports」「Wii Fit」「脳を鍛える大人のDSトレーニング」などのゲームだ。いずれも、撃つ、飛ぶといったゲームの既成概念を無視し、ゲームにあまり縁のなかった新しいプレイヤーを獲得した。
段ボールとひもで工作するNintendo Laboも、そうした類いのゲームだ。創造性に重点を置けば、大きな話題をさらう可能性を秘めている。Nintendo Laboはキット形式で販売され、大人はもちろん子どもでも簡単に、さまざまな物体を組み立てられる。
現時点で発表されているキットは2種類だ。1つ目は家、リモコンカー2台、釣りざお、バイク、ピアノからなり、2つ目は「ロボットスーツ」のようなものをつくって体に装着できる。段ボールを切り離したり折ったりする作業があるものの、それは「LEGO」のセットを組み立てる作業とよく似ている。ただし、本番は完成してからだ。
それぞれの物体にはスロットがあり、Switchのタッチスクリーンや「Joy-Con」と呼ばれる小さなモーションコントローラーを合体できる。これらを使い、Wiiのように体を動かして遊ぶというわけだ。例えば、ピアノは鍵盤を押すと音が鳴る。ロボットスーツを装着すれば、歩き回りながら、腕や脚で画面上の敵を倒すことができる。
しかし、用意されたキットは始まりにすぎない。この奇妙なアイデアを武器にしたいのであれば、何より創造性を重視すべきだ。任天堂はプレイヤーにどのくらい自由を与えるか明言していないが、プレイヤーが自前の段ボールで工作できるようになることをほのめかしている。
Amazonからの荷物が毎日届くようになったいま、家庭には段ボールがあり余っている。そうした段ボールを活用できるようにしてほしいのと、どんなものでもつくることができるよう、キットのソフトウェアをプログラム可能にしてほしい。4月に発売されるNintendo Laboが人々を魅了し長生きできるかどうかは、プレイヤーがどのくらい創造性を発揮できるかにかかっている。
2: オンラインサーヴィスを提供するという約束を果たす
Switchには素晴らしい多人数参加型ゲームがいくつもあるが、「PlayStation Plus」や「Xbox Live」のようなオンラインサーヴィスはまだ存在しない。どちらのサーヴィスも、手ごろな月額料金で、多人数参加型オンラインゲームをプレイしたり、ゲーム内で友人と音声チャットしたり、音声チャットのグループをつくったりできる。
もちろん、クラウド上にゲームをセーヴしたり、アップデートを自動ダウンロードしたり、早期リリース版のゲームにアクセスしたり、成績に応じて賞品を獲得したり、月替わりで無料のゲームをプレイしたりすることも可能だ。現在のところ、Switchにはこうしたサーヴィスがほとんどない。
任天堂はオンラインサーヴィスについて、9月に開始すると約束している。当面の策として、「スプラトゥーン2」のプレイヤー同士がつながることができる基本的なスマートフォンアプリをつくった。
任天堂によれば、オンラインサーヴィスは年額20ドルで、安定したオンラインプレイ、音声チャットパーティー、そして1983年に発売された「ファミコン」用のゲームなどを提供する予定だという。
ファミコンのゲームには、「バルーンファイト」「ドクターマリオ」「スーパーマリオブラザーズ3」が含まれ、すべてオンラインプレイできる。しかし、そろそろ焦らすのはやめて、約束を果たしてほしい。
きちんと整理されたオンラインサーヴィスが始まれば、Switchのプレイヤー同士がオンラインで容易につながることができる。「マリオカート」のようなゲームを友人同士でプレイするのが驚くほど簡単になるはずだ。現状では、プレイヤー同士が音声チャットで助け合うことができないため、ハウツーガイドを参照しなければならず、友人が遊んでいる多人数参加型ゲームを知ることすら難しい。
1人で遊ぶゲームに関しても、「PlayStation4」(PS4)や「Xbox」では達成度に応じてトロフィーなどの商品を獲得できる。これもオンラインサーヴィスの強みであり、ゲームがより面白く、ソーシャルになる。だが、Switchにはない要素だ。
Switchはオンラインプレイや交流を重視していないため、オンラインマルチプレイに対応しているゲーム自体があまり多くない。実にもったいないことだ。日常的に友人たちとオンラインプレイしているゲーマーは、より多くのゲームを買い、プレイする傾向にある。任天堂がオンラインサーヴィスの約束を果たし、これらすべての要素を満たしてくれることを願う。
3: 新たな「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」をつくる
Wii SportsはWiiと同時に発売され、ゲーム機の売り上げを押し上げた。Xboxは新シリーズ「Halo」で世界を熱狂させた。Switchにはこのようなゲームが存在しないが、それは不要だったからだ。任天堂は17年、同社の人気シリーズ2作をパワーアップさせて復活させた。
まずは、Switchと同時に「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」が発売された。30年以上の歴史をもつ「ゼルダ」シリーズの概念を覆す新時代のゲームで、17年を代表する作品となった。
任天堂はさらに17年の締めくくりとして、「スーパーマリオ オデッセイ」[日本語版記事]を発売。こちらも斬新な素晴らしい作品で、各社のゲーム・オブ・ザ・イヤーにノミネートされている。17年の「E3」でこの2作品をクローズアップしたことは、任天堂の自信の表れだ。
任天堂は18年も魅力的なゲームを発売するのだろうか? そうあってほしい。
任天堂が本格的な「ポケモン」を用意していることは、すでにわかっている。ポケモンシリーズ初となる家庭用ゲーム機向けの「コア」ゲームだ。『Pokmon GO』と携帯ゲーム機「3DS」向けポケモンシリーズも好調を維持しており、いまポケモンはかつてないほど熱い。素晴らしいポケモンゲームが発売されれば、数百万単位の新しいプレイヤーを獲得できるだろう。
さらに、「メトロイドプライム4」の発売も決まっている。「メトロイド」シリーズはゼルダと共通点が多い(違いといえば、地下に潜むモンスターが多いこと、宇宙服を着ることくらいだ)にもかかわらず、売り上げは芳しくない。「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」のように広大な世界を自由に探検できれば、大きな反響があるかもしれない。
18年には、任天堂の人気キャラクターたちが戦う「大乱闘スマッシュブラザーズ」のキャラクターを充実させ、eスポーツに対応したかたちで復活させる予定だ。任天堂にとって、大乱闘スマッシュブラザーズシリーズは長年のベストセラーのひとつ。約15年前から世界中でトーナメントが開催され、多数のプレイヤーが参加している。
だが、任天堂はこれまでeスポーツに消極的だった。しかもシリーズの人気作は、すでに生産を中止したゲームキューブやWii Uのゲームだという悲しい現実がある。オンライン対戦が可能な続編の発売は、Switchにとって絶好のチャンスかもしれない。
Nintendo Laboのようなまったく新しいシリーズがつくられる可能性もある。リスクは高いが、任天堂には経験がある。多くの場合、羽目を外し、新しいことに挑戦したとき、任天堂は輝きを増す。任天堂に必要なのは、大きく考えることだ。
4: ゲームの安定供給
Switchが17年に成長を続けた理由のひとつは、任天堂が初めて綿密な発売計画を立て、大きな遅れもなく面白いゲームを供給し続けたことだ。「ブレス オブ ザ ワイルド」と「スーパーマリオ オデッセイ」は最高だったが、2つの大ヒット作の間にも優れたゲームが次々と店頭に並べられた。
「スプラトゥーン2」「マリオカート8 デラックス」「ARMS」「マリオ+ラビッツ キングダムバトル」などのゲームがスケジュールの空白を埋め、話題のゲームが毎月登場することを印象づけた。
任天堂はいまも、この勢いを維持しようと努力しているようだ。18年も「星のカービィ スターアライズ」「Mario Tennis Aces」「ベヨネッタ3」「ファイアーエムブレム」や「ヨッシー」シリーズの新作が発売を控えている。
さらに17年と同様に、Switchオーナーの多くがプレイしたことのないWii Uの名作たちが移植される予定だ。具体的には、「ドンキーコング トロピカルフリーズ」「ベヨネッタ」と「ベヨネッタ2」、「ゼルダ無双 ハイラルオールスターズ DX」などだ。
意外性はないものの、前途有望な発売カレンダーだ。願わくば、予想外の作品をいくつか付け加えてほしい。「Kotaku」のスティーヴン・トティロも言っているように、任天堂はときおり最高に奇妙で型破りだが、最高に面白いゲームをつくることがある。
5: 3DSの死を受け入れる
任天堂は常に、二正面作戦を行ってきた。家庭用ゲーム機は大ヒットと大失敗の両方があるが、携帯ゲーム機は常に大きな武器だった。
家庭用ゲーム機Wiiと並ぶ人気を誇ったのが携帯ゲーム機「Nintendo DS」で、Wiiの販売数を5,000万台も上回った。TVと接続されたゲームキューブは不振にあえいだが、ポケットに入る「ゲームボーイアドバンス」は8,000万台以上も売れた。
質の悪い裸眼3Dディスプレイを搭載した携帯ゲーム機「3DS」でさえ、PS4とほぼ同じ約7,000万台を売り上げている。一方、3DSの兄弟にあたるWii Uは、任天堂の家庭用ゲーム機で史上最悪の売り上げを記録している。
このように、安定した携帯ゲーム機の売り上げが任天堂を存続させてきた。ただしこれが、常にゲーム開発の能力を二分させ、リソースを酷使してきたのも事実だ。結局、これら2つのシステムをうまく支えることには一度も成功していない。
しかし、Switchは携帯ゲーム機と家庭用ゲーム機を兼ねる。任天堂はついに、すべての力をひとつのシステムに注ぎ、リヴィングルームと通勤列車でプレイできるゲームの開発を強化できるということだ。Switchの力を最大限まで引き出したければ、任天堂は18年、3DSに7年の命を終えさせなければならない。別れを言うのはつらいが、そのときが来たのだ。
6: インディーゲームの泉をつくる
1年前であれば、Switchをインディーゲームの聖地にすることなど馬鹿げたアイデアだった。しかしいま、携帯ゲーム機の世界では、ダウンロード可能なゲームが急増している。任天堂のこれまでのゲーム機とは異なり、Switchのプレイヤーたちは、任天堂以外のゲームにも関心を示している。
事実、Switch向けのダウンロード可能なゲームでは、「Stardew Valley」が最も売れている。「Super Meat Boy」も、Switch版が発売された初日にメーカーが驚くほどの売り上げを記録した。10年に「Xbox 360」版が発売されたときと「びっくりするほど近い」数字をたたき出したそうだ。
これらはいい兆しだ。そして任天堂は、インディーゲームの開発者を取り込み、ダウンロード可能なゲームを売り込む努力を怠ってはならない。
「Stardew Valley」「いっしょにチョキッと スニッパーズ」などのゲームはスタートとして最高だが、これからは、「Celeste」のような最新ゲームを充実させ、ダウンロード可能なゲームの聖地を目指すべきだ。
そのためにはまず、オンラインショップの改善が必要だ。現在のオンラインショップは、ベストセラー、新作などの基本的なカテゴリーしかなく、面白いゲームに焦点を当てたり、カスタマイズ可能にしたりといった工夫が足りない。それでも18年に入ってから、毎週10本を超えるペースで、ダウンロード可能なゲームが発売されている。インディーゲームは間違いなく有望だ。
7: ストリーミングアプリを増やす
インディーゲームの開発者を取り込むだけでなく、ストリーミングアプリも増やしていくべきだ。現在のところ、Switch対応のストリーミングアプリは「Hulu」しかないが、「Netflix」「YouTube」「HBO」「Vudu」「Sling TV」「Amazon Video」もストリーミングアプリをもっている。Switchの形態を考えると、対応すべきアプリはほかにもたくさんある。タブレットで機能するアプリであれば、おそらくSwitchでも機能するだろう。
任天堂はSwitchを発表したとき、まずはゲームに注力したいと語っていた。18年はオンラインショップの門戸を広げ、もっと多くの体験を可能にすべきだ。
8: 2019年と20年のサプライズを用意する
任天堂がこのまま集中力を維持すれば、18年はSwitchにとって素晴らしい1年になるだろう。しかし、さらに重要なのは19年と20年だ。任天堂はたいてい3~4年目につまづく。ゲームキューブ、「NINTENDO64」、Wii Uはすべて、4年目に勢いを失った。次のゲーム機の開発がすでに始まっていたためだ。もし任天堂が集中力を維持すれば、Switchが流れを変えてくれるかもしれない。
Switchが長生きするには、まずは「Xbox One X」や「PS4 Pro」のようなアップグレード版が必要だ。すでに「Switch Pro」のようなものの開発が始まっていることを願う。
プレイヤーたちは現在、「スーパーマリオ オデッセイ」や「ブレスオブザワイルド」に夢中で、ハードウェアの問題を無視している。しかしどこかの時点で、わずか6時間のバッテリー寿命や、32GBのオンボードメモリを物足りないと思うようになるだろう。microSDカードを購入しなければ、オンボードメモリには5つ程度のゲームしか保存できない。
さらにSwitchにはカメラがなく、ドックに置いているときしかワイヤレスヘッドホンを使用できない。4K以上の解像度でゲームを出力するには、プロセッサーのアップグレードが必要だ(現在の解像度は1080p)。10年前には、HD画質のテレビが普及したことで、HDではないWiiの“死期”が早まった。これを教訓に、Switchは4K画質のテレビに対応すべきだ。
Switchは急速に、本格的な携帯ゲーム機として市場で唯一の存在になろうとしている。ソニーとマイクロソフトには、いまのところPSとXboxをテレビから切り離す兆候は見られない。任天堂にとって、これは朗報だ。たとえ近い将来、Switchにほぼすべての希望を託すことになるとしても。
もしSwitchの勢いを維持できなければ、任天堂のハードウェア事業は再びつまづくかもしれない。逆に、もし人々に驚きをもたらし続け、Switchの基本機能を強化できれば、任天堂にとって最高の数年間が待っているはずだ。
TEXT BY JEFFREY VAN CAMP
TRANSLATION BY KAORI YONEI/GALILEO