10cc「I'm Not In Love」の秘密
(本家ブログに書いたエントリーをこちらにミラーしてみる)
Music Thing経由で、音楽録音専門誌「Sound On Sound」によるWeb公開記事「CLASSIC TRACKS: 10cc 'I'm Not In Love'」を読む。
後期ビートルズのスタジオレコーディングにまつわる話も色々と有名だけれど、この10ccの話も半端じゃない。コアなファンには有名なトリビアなのかもしれないけれど、オレは全然知らなかったのでかなり驚いた。
記事全文を訳すのはとてもじゃないので、とりあえず「I'm Not In Love」にまつわる事件を簡単に箇条書きしてみる:
- 曲が作られたきっかけは、メンバーのEric Stewartが奥さんからいつでも「愛している」と言うように催促されたから。Eric Stewartは、毎日そんなことを言っていると、その言葉の真意が失われてしまうと反論。この事件からインスピレーションを得て「I'm not in love with you」というコンセプトが出来上がる。
- 作曲はEric StewartとGraham Gouldmanとの共作。最初に出来たオリジナル・アレンジはボサノバだったが没になる。10ccはメンバーの4人全員が納得できない曲は全て没にするルールだった。
- なぜか、メンバー以外の関係者に「I'm Not In Love」は受けが良かった。特にスタジオ秘書のKathy Redfernが強く推して、再度レコーディングに挑戦。
- 月並みなラブソングを作るのは反対ということで、変なアレンジを皆で考える。
- Kevin Godleyが声だけで作ろうと提案。そこから48声・13音階(合計624声)のテープループを作成。声の録音には3週間かかった。
- 完成したテープループを再生して16トラックマルチに落とし込む。これで使える残りのトラック数はわずか3トラック。1トラックに声をミックスするためのガイド演奏(シンセによるキック音、フェンダーローズ、ガイドボーカル)を録音。
- 4人のメンバーがフェーダー操作を分担して声をステレオにミックスダウン。声ミックスが完成した後は、メインボーカルと楽器をダビングする必要があるため、13声の素材は消去する必要があり、ミックスの失敗は許されなかった。
- 完成した曲には何かが足りないということで、楽器ソロを入れることになる。普通のソロではつまらないので何にするか揉めた結果、ベースソロに。
- ベースソロだけでは何かが足りないということで、さらに変な音を探す。Lol Cremeが以前に思いついた「Be quiet, big boys don't cry」という台詞を入れることになるが、誰の声で録音するかで揉める。そこへ秘書のKathy Redfernがやってきて、「忙しいとこ申し訳ないけど、電話が…」とメンバー達に囁く。まさに天啓だった…。
- シングルカットするには長すぎるということで、BBCラジオでかけるためにベースソロをカットしたショートバージョンが作られる。リスナーからの要望があまりに多いためオリジナルバージョンを放送したら、全英チャートで1位になった。
実際にはもっと複雑でさらに色々な逸話があるので、興味のある人は頑張って原文を読んでほしいところ。
それにしても、ロック・ポップスの歴史の中においてラブソングというジャンルでなら間違いなく必ず上位にランキングされるこの曲が、もしかしたらこの世には存在しなかったかもしれないというのはなんだか不思議な感じ。あと、10ccというグループが執拗に「普通ではないこと・月並みじゃないこと」を追求していたのが面白い。
改めてCDを探し出してきて「I'm Not In Love」を聞き直してみたけど、そういう話を知って聴くと、なんとも言えない感動があるね。