宇都宮ライトレール

登録日:2023/10/05 Thu 22:47:01
更新日:2024/09/17 Tue 20:06:29
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宇都宮ライトレールとは、栃木県でLRT路線を運営する鉄道事業者である。

本項では、同社が運営する「宇都宮芳賀ライトレール線」についても取り扱うもの、というよりたぶんそっちがメインになっている。

概要

宇都宮市…というより、北関東地区は周知の通り車社会であり、通勤通学にも自動車バイクが多用されてきた。
しかし、宇都宮市の鬼怒川両岸には高度経済成長期に内陸部では最大級となる工業地帯、清原工業団地や平出工業団地が造成され、また芳賀町や真岡市にも工業団地が造成されたことで、産業集中により交通が集中、社会問題にもなるほどの慢性的な交通渋滞が発生していた。
また、地図を見ればわかると思うが、宇都宮市は東西方向はJR宇都宮線と東武宇都宮線・西側はJR日光線が存在するが、東側は公共交通、特に軌道系交通ががら空きである。
さらに宇都宮線・国道4号(旧道)・新4号で都市が分断されているため、東西方向の移動が困難であった上、バスも宇都宮駅西側に集中しており、公共交通へのアクセスが困難な空白地帯を多数抱えている状況下にあった。
これらの問題を解決するため、宇都宮都市圏の東西方向に軌道交通を敷設する「新交通システム構想」が宇都宮ライトレールの源流となった。

当初はAGT(ゆりかもめ等)、ガイドウェイバス、スカイレールなどの形態が検討されたが、海外視察などの結果「安価に敷設できる交通機関」として最終的に路面電車方式のLRTに決まった。

日本では2000年代以降、既存路線の延伸や普通鉄道からの転換など路面電車の見直しが各地で行われるようになったが、路面電車が存在しなかった都市での新規開業は1948年の富山地方鉄道伏木線(現:万葉線高岡軌道線)以来となった。

2018年に起工し、当初は2021年開業を予定していたが、新型コロナや原材料費高騰の影響で工事や車両納入の遅れもあり2年延期し、2023年8月26日に宇都宮駅東口-芳賀・高根沢工業団地間が開業。
同時に本社機能が宇都宮市内の雑居ビル「アクシスビル」から平出の車庫に移転した。

今後の計画として宇都宮駅東口から高架線で宇都宮駅を横断し、駅前大通道路と並行して二荒山神社~東武宇都宮駅前~教育会館に至るルートの整備が予定されており、2030年代前半の開業を目指している。

+ 「LRT」という鉄道について少し
日本では宇都宮ライトレールが話題となっていることや、或いは北陸地区での成功例から「LRT=路面電車」というイメージが通っているが、これは半分正しく半分違う。
そもそもLRTというのは「Light Rail Transit」の略称であり、日本語に訳すと「軽量軌道交通」となる。
意味合いとしては「バスと本格的♂電車の中間の輸送量の、安上がりに建設できる軌道交通」である。
…LRTの正式名称を見ればわかるが、路面電車を意味する「Tram」や「Street car」という単語は入っていない。
何が言いたいのかといえば、「路面電車はLRTの形態の一つでしかない」、逆に言うなら「路面電車以外のLRTもあり」ということである。
LRT=路面電車というのは大雑把すぎる認識であり、
ようなもの。
要するに、「電車とバスの中間の規模の市内交通」であれば、路面電車はもとより地下鉄でも通常の鉄道でもAGTでも、或いは懸垂式モノレールを地上スレスレで走らせても、理屈の上では「LRT」と名乗ることができる。
どちらかというと「次世代・新型路面電車」というよりも、「現代の軽便鉄道」と捉えた方がいいとも言える。

え、じゃあ「路面電車じゃないLRTって例えば何」といえば、例えば静岡鉄道は普通鉄道であるが「実質的なLRT」と評される事があるし、またイギリスのLRT協会に於いては江ノ電もLRTの一種として数えている。
江ノ電って路面電車だろうと思うかもしれないが、実は江ノ電はれっきとした「鉄道」として登記されている路線である。併用区間?あれは江ノ電曰く「ただのクソデカ踏切」、らしい。

運賃収受方式

宇都宮ライトレールは、ICカードの利用者を対象に「信用乗車方式」という制度で運賃を収受している。
これは簡単にいうと「自己申告制の運賃支払システム」で、乗客は正しい運賃を支払ってくれるという性善説に基づき、運賃の確認作業を省くというもので、ヨーロッパの鉄道事業者は大体これを採用している。
日本での採用は宇都宮ライトレールが最初というわけではなく、PASMO加盟事業者の路線バスや、鉄道においては紀州鉄道線なんかでも採用している。
ワンマン運転をする列車においては、乗務員の負担を軽減するのに一役買う事ができる。
この方式は決して無賃乗車や運賃の誤魔化しを許している訳ではなく、不定期の抜き打ちチェックなど乗務員に負担を掛けない形で不正乗車の防止策を行っている事が一般的。邪な事は絶対に考えないように。犯罪です。

この関係上、交通系ICカードの有無で乗り降りの方法が異なるので注意。

交通系ICカードの場合…
乗車時はドア横の乗車用カードリーダー(下段)にタッチ→下車時は降車用カードリーダー(上段)にタッチ
乗車・降車共どのドアからでも可(=運賃の確認作業が無いので運転手の目が届かない後部ドアでも支払える)

現金の場合…
停留所にある整理券発行機で整理券を受け取る→乗車する→車内の運賃表示器で運賃を確認→下車時に運賃箱へ運賃を投入
降車時は一番前のドアからのみ降車可(=運賃表示器の金額と投入額が正しいかを、運転手の目が届く前部ドアで確認を受けながら支払う)

現金の場合は、均一運賃でない路線バスの乗り降りと同じ方法だと言えばわかりやすいだろうか。
とはいえ、どのドアでも使える交通系ICカードがあった方が乗り降りは格段にスムーズになる。

宇都宮ライトレール開業に合わせて、関東自動車などのバス事業者では従来のバスカードが廃止され、代わりに地域連携ICカード「totra」(トトラ)が導入されている。
一見するとローカルな乗車カードに見えるが、地域連携ICカードは歴としたSuicaの一種なので、定期券以外の利用方法はSuicaに置き換えて通用する。

車両

  • HU300形
ブレーメン形の3両編成のLRVで、製造は新潟トランシスが担当。
工業団地への通勤客や、沿線の教育機関への通学客の需要を見越し、定員は国内の路面電車では最大となる160人クラスとなっている。
国道4号を越える陸橋を渡るなどのため「軸重は10.5t以下に抑えること」という要求事項があったため、完成した車両の全備重量は3両合わせて39tという驚きの軽さ。軸重10.5tどころかまさかの6.5tである*1
2024年鉄道友の会ローレル賞受賞。

放送関連

車内放送は平川京子氏が担当。
また各停留所の英語音声はメガネなどで知られるHOYAが制作している。HOYA独特のアレな発音も健在
あまり知られていない?ようであるが、チャイム類は全て曲名がついている。
始発・終点車内放送「Yellow Brick Road」
下り車内放送「欅」
上り車内放送「銀杏」
トランジットセンター車内放送「フリージア」
宇都宮駅東口発車メロディ「美雷と」
芳賀・高根沢工業団地発車メロディ「黄柳」
非営業列車接近メロディ*2「梨」
停車列車接近メロディ「皐月」
通過列車接近メロディ「雲雀」

なお、2024年の開業一周年前後には、声優下野紘氏による特別放送も実施された。
曰く「下野紘という名前が下野(しもつけ)につながるのと、アニメ『鬼滅の刃』に於いて我妻善逸役を演じていた点が雷都こと宇都宮のイメージにピッタリだった」とのこと。


路線

宇都宮駅東口-芳賀・高根沢工業団地の14.6km。
実は宇都宮ライトレールの路線は専用区間まで含めてすべて「併用軌道」、つまり道路との共用区間という名目になっている。
理由は、そのほうが建設時にコストや法律面で有利になるため。
その一方で法律としては鉄道事業法ではなく軌道法が適用されるため、基本的に最高時速は40km/hに制限される。
ただし、将来的には特認を得て50~70km/hにスピードアップをする予定。

現在は各駅停車のみの運行だが、快速運転の予定があり途中の平石・グリーンスタジアム前の2駅で緩急接続が可能な構造となっている。

宇都宮駅東口と車両基地(平石停留所近く)に窓口があり、そこで定期券を買うことができる。

01 宇都宮駅東口(ライトキューブ宇都宮前)
始発停留所。
東北新幹線宇都宮線日光線烏山線乗り換え。島式の1面2線。
1番線と2番線があるが、通勤・通学時間帯以外は基本的に1番線から発着する。
副駅名のライトキューブ宇都宮は、東口に建設されたコンベンションセンターから。
ライトキューブ宇都宮・カンデオホテル・駅ビル「ウツノミヤテラス」とペデストリアンデッキで接続されている。
ウツノミヤテラスの4Fには家電量販店・コジマが入居しているが、特筆すべき点としてこのウツノミヤテラス店ではコジマの太陽マークが(店内とはいえ)久方ぶりに復活していることが挙げられる。
線内で唯一の有人駅でもある。

02 東宿郷
千鳥式の2面2線の停留所。
周囲はアパやダイワロイネットなどのホテルや、餃子店がしのぎを削る宿泊と餃子の激戦区。

03 駅東公園前(栃木銀行宇都宮東支店前)
千鳥式の2面2線の停留所。
副駅名は栃木銀行の支店より。
周囲には栃木銀行の他にもホームセンターカンセキとそのグループ店舗、ゲームセンターGIGO、ビートルズをテーマとしたベーカリー「ペニーレイン」などがある。

04 峰(シーデーピージャパン本社前)
国道4号を越えた先にある停留所。千鳥式ホーム2面2線。
副駅名は付近に事務所を構える派遣会社、CDBジャパンより。
停留所付近にはココイチがある。

05 陽東3丁目(新宇都宮リハビリテーション病院前)
千鳥式の2面2線の停留所。
副駅名は新宇都宮リハビリテーション病院より。かつてはここにコジマの旧本店があった(現在は4号線沿いに移転)。

06 宇都宮大学陽東キャンパス(ベルモール前)
千鳥式2面2線の停留所。副駅名はイトーヨーカドーを核店舗とするショッピングセンター、ベルモールより。
周囲には宇大陽東キャンパス、ベルモール、ベイシア、住宅展示場、GRガレージ宇都宮、ビジネスホテル「シーラックパル宇都宮」等がある。そのため線内でも利用者が多い駅の一つ。
ベルモールが実質的にトランジットセンター(バスターミナル)としても機能しており、停車時には乗換駅を知らせるチャイムが鳴る。

07 平石
島式ホームの2面4線。通勤・通学時間帯の一部の列車はここで折り返す。
宇都宮ライトレールの車庫及び本社、トランジットセンター、幼稚園が周囲にある。
小規模ながら駐車場もある。

08 平石中央小学校前
相対式ホームの2面2線。
停留所名である平石中央小学校は目の前。
ここから東側は高架で鬼怒川を渡り、清原地区に入る。

09 飛山城跡(アキモ前)
相対式の2面2線。線内で唯一の高架駅だが、どちら方面に進んでも上り勾配がある。ちなみにエレベーターは無い。
清原地区最初の駅。ちなみに駅名の由来となった飛山城は、かつてこの辺りを統治していた芳賀氏の城である。
副駅名のアキモは漬物などを作る食品メーカー。アキモ「前」というにはちと離れすぎている気がするが。
周囲にはアキモの他にもレッカー業者・セキヤレッカーがあるが、ほとんどが畑で建物そのものが少なく、路面電車の沿線とは思えないような非常にのどかな風景が広がっている。
小規模ながら駐車場あり。
ちなみにここから次の清陵高校前までの勾配は宇都宮ライトレール最急勾配区間(60‰)であり、その勾配はかつての横軽にも匹敵する。

10 清陵高校前(作新大・作新短大前)
相対式の2面2線。
副駅名はもちろん作新学院大学…って、こっちのほうがメインで良かったんじゃないの?って思う方もいるだろうが、宇都宮ライトレールの停留所名のルールには「停留所には特定の個人・団体の名前は基本的に避ける」という物があるため、私立の作新大ではなく公立の清陵高校が選ばれた、というのが理由。
作新大・清陵高校以外にも、中外製薬の工場も周辺にある。
ちなみに清陵高校は全日制の普通科高校だが、将来的には定時制・通信制のみのフレックスハイスクールになる予定*3

11 清原地区市民センター前
島式の1面2線。トランジットセンターに直結している。
清原台・ゆいの杜の循環バスや、真岡や益子方面へのバスも発着する。
周囲には野球場を含むスポーツ公園や、東洋紡やデュポンの工場がある。
あと時々清原地区のとある住民がペットとして飼っているポニーも出没する。LRT開業日にもやってきたとか。

12 グリーンスタジアム前(キヤノン前)
島式の2面4線。上りと下りの島式ホームが道路を挟んで千鳥状に配置されている。
副駅名はキヤノンの工場より。当のキヤノンは従業員送迎に関してはバス党っぽいけど
「周囲に工場しか見えないのになんでこうな大規模な電停になってるの?」と疑問に思う方もいるかもしれないが、この停留所の付近には停留所名にもなっているサッカー場・グリーンスタジアムがある。
地元クラブである栃木SCのホームでもあるため、試合の日には臨時列車を運行することも見越して折返しのためにこのような物々しい設備になっている、というのが真相。
周囲にはキヤノンやカルビー、久光製薬、長府製作所の工場、電停名であるグリーンスタジアムなどがある。

13 ゆいの杜西(阿久津整備前)
千鳥式2面2線の停留所。
副駅名は付近にある自動車整備工場、阿久津整備から。
周囲には副駅名の元である阿久津整備の他にもスーパーマーケット「かましん」、TSUTAYA、パチンコREITO、ルートイン、マクドナルド、焼肉きんぐ、とちぎ産業創造プラザなどがある。

14 ゆいの杜中央
千鳥式2面2線の停留所。
読んで字の如く、ゆいの杜地区の中心部。
周囲にはヤマダ電機、ソフトバンク、ジョイフルスターバックスコーヒー、タクシー会社「北斗交通」などがある。

15 ゆいの杜東(ホンダカーズ栃木中央ゆいの杜店前)
千鳥式2面2線。
副駅名は停留所の目の前にあるホンダカーズから。
ここの店舗にはライトライン塗装のN-VANが展示されており、開業前後にSNSでちょっと話題になった。
周囲にはホンダカーズ以外にもトヨタ(ネッツ店)、カインズ、カスミ等がある。
宇都宮市内最後の駅であり、ここから東側に進むと芳賀町に入る。

16 芳賀台
千鳥式2面2線。
付近には栃木ヘリポートがあることから、中日本航空のメンテナンスセンターや栃木県消防署の航空隊などヘリコプターに関わる事業所が多い。
なにげに仮称段階から停留所名が変更されなかった唯一の電停である。
芳賀町で最初の駅。

17 芳賀地区工業団地管理センター前(リブドゥコーポレーション栃木芳賀工場前)
相対式2面2線。副駅名はリブドゥコーポレーションの工場より。
あまり聞いたことのない会社かもしれないが、大人用紙おむつや介護用品を作っている会社である。
芳賀工業団地トランジットセンターもある。
芳賀町役場がある祖母井(うばがい)地区方面へのバスやあり、事実上の芳賀町の代表駅となっている。また、市貝・茂木方面へのバスもある。

18 かしの森公園前
島式ホーム1面2線。
周囲には停留所名ともなったかしの森公園がある。というかそれしかないなんて言うな
本田技研工業の正門があり、そこへの通勤が主な用途らしい。

19 芳賀・高根沢工業団地
宇都宮ライトレールの終点。
周囲には本田技研工業の工場や研究所、高根沢御料牧場がある。
芳賀町の中でも高根沢町との境界付近に存在する。

余談

車社会ということなどから「本当に乗客が来るのか?」「採算がとれるのか?」という声も少なからずあったようだが、いざ開業してみれば開業前から住民にアピールしていたなどもあって大盛況、初年度で黒字になるかもしれないとすら言われるような状況になっている。
また、飽くまで本項目の作成者の独断であると断った上で書くなら、通勤通学客だけでなく定期外乗客もかなり多いという印象である。
何しろ一般住民がアトラクション感覚で利用したり、スマホで車両をパシャパシャしたりという光景が当たり前なのだから…。

その一方、道路で並走し、右折しようとしたドライバーが誤って電車に衝突する事故も報道されるようになった。まあこれに関してはLRT導入ゆえの初期症状と言えるし、今後の改善に期待しよう。

なお、開業2か月後の10月23日には早くもダイヤ改正が実施され、朝夕時間帯の増発・延長が行われた。


宇都宮ライトレールに乗車した方は追記修正をお願いします。

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最終更新:2024年09月17日 20:06

*1 ブレーメン形路面電車は台車が一両に付き一つのみなので、合計6軸となる。つまり39÷6=6.5tとなる。

*2 回送、試運転など

*3 LRTの開業により清原地区から宇都宮市中心部へ通いやすくなったため、清原地区にある清陵高校の全日制課程を存続させる必要が無いと判断されたため。