サイレント・ウィッチ

登録日:2023/05/08 Mon 15:49:38
更新日:2025/01/24 Fri 04:16:51
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奇跡に詠唱は要らない───



『サイレント・ウィッチ』は、依空まつりによるライトノベル
イラストは藤実なんなが担当し、コミカライズは桟とびが担当している。
元は「小説家になろう」にて『サイレント・ウィッチ』のタイトルで連載していたオンライン小説。
2021年6月から書籍版がカドカワBOOKSより『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』のタイトルで刊行されている。
既刊9巻(番外編1冊含む、2024年8月現在)、スピンオフ2巻(上下巻)、コミカライズ4巻。

「なろう」のオンライン版は完結しており、後日談にあたる外伝も完結。本編から2年前を書いた前日譚に当たる「記憶喪失軍医ロザリー・ヴェルデの考察」も掲載されている。*1
この前日譚もスピンオフ「another 結界の魔術師の成り上がり」に組み込み、加筆が入る形で書籍化された。
本編も書籍化にあたって大筋は変わっていないが、魔術師の活躍が増えたり各キャラクターの掘り下げとなるエピソードが加筆されている。

2024年8月時点でシリーズ累計発行部数は60万部を突破し、アニメ化が発表された。
このライトノベルがすごい!2022」では総合新作部門7位、単行本・ノベルズ部門2位を獲得しており、「このライトノベルがすごい!2023」でも単行本・ノベルズ部門4位を獲得している。


◇作品の特徴


主人公であるモニカ・エヴァレットは人類で唯一無詠唱魔術を行使し、〈沈黙の魔女〉と称えられて国内最高峰の魔術師集団〈七賢人〉に抜擢された。
しかしてその実態は、人前で口を開く事も出来ない極度の人見知り。
無詠唱魔術もこの難儀な性格と類稀な計算能力によって生み出されたナナメ上の奇跡の産物であった。
そんなポンコツ魔女が同僚からの無茶振りで護衛任務に巻き込まれ、貴族や王族の通う学園に生徒として潜入する……と言うストーリー。

他の人間ができて当たり前のことがなかなかできず、全く自分に自信が持てないがそれでも健気にひたむきに任務に勤しむ不器用な少女モニカと、
他の人間には絶対に真似できない芸当で魔術を行使し、誰にも気づかれずに人を助けたり、敵対者を容赦なく叩きのめす〈沈黙の魔女〉のギャップが魅力。

ずっと人との関わりを避けてきたモニカだが、仮初の学園生活における様々な出会いの中でちょっとずつ自分を変えたいと思えるようになる。
引き出しに仕舞った大切なものが増えていくにつれ、少しずつできることが増えていく彼女の成長が一番の見どころと言えるだろう。
そして第二王子の秘密に触れるうち次第に明かされていく因縁と強大な敵に、モニカはどのような手段で立ち向かうのか――


なお王子様との秘密の学園生活…と言うとラブロマンスを想像しがちだが、モニカの対人能力が残念過ぎてなかなかそういう展開にはならない。
学園もの、それも女性主人公の作品にしては珍しく恋愛要素はエッセンス程度である。

文章は三人称一元視点で記述されており、モニカを始め何かと秘密の多い登場人物たちの持つ情報の違いや感情の機微が巧みに表現されている。
なろう発の作品ではあるが所謂ステータスやスキル等と言ったゲーム的な概念は登場せず、魔力・魔法が存在する前提の世界が舞台(ハイファンタジー)
時折地の文からツッコミが入る軽快な文章と、漫画やアニメに親しんだ世代ならば想像しやすい描写は良い意味でライトノベルと言った形で読みやすい。


◇あらすじ


人類は詠唱をなくして、魔術を使うことができない。
ところが、その不可能を可能にしてしまった、ひとりの少女がいた。
リディル王国における魔術師の頂点・七賢人がひとり〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレット。
史上、初めて無詠唱魔術を生み出した若き天才である。

しかし…
極度の人見知りであがり症の彼女は、使い魔の黒猫と山奥に引きこもり、
数式の本に囲まれて、ひっそりと魔術の研究に打ち込んでいた。

そんな彼女のもとに、七賢人の同僚である〈結界の魔術師〉ルイス・ミラーが訪ねてくる。
戸惑う彼女にルイスはひとつの王命を告げた。
それは――貴族の集う名門校に潜入し、第二王子を護衛する極秘任務だった……。

魔術と数字を偏愛する〈沈黙の魔女〉モニカのひそやかな活躍が始まる!

TVアニメ公式サイトイントロダクションより抜粋

◇登場人物


◆主要人物


◆モニカ・エヴァレット / モニカ・ノートン
本作の主人公。17歳。
史上最年少の15歳で王国最高峰の魔術師である七賢人になった少女。
二つ名は〈沈黙の魔女〉。
世界で唯一の無詠唱魔術が使える魔術師。*2

しかし、その性格は非常に気弱で臆病かつ極度の人見知り。
どのくらいかというとちょっとでも人目があるとビクビクオドオドし始め、何かしら注目を浴びるだけで動けなくなり、知らない人間にグイグイ迫られると泡を吹いて倒れるレベル。
ことあるごとに「ひぃん」と泣き声をあげ、「無理ぃぃぃ!」と悲鳴をあげる。
その性格ゆえに式典では常にローブを深く被って俯いており、パーティーなどへの参加も全て辞退してきたため、名声とは裏腹に彼女の容姿を知るものはほとんどいない。

運動神経は何もないところで転ぶほど壊滅的に悪く、日ごろから運動不足かつ栄養不足気味なため体力もない。
作品序盤でルイスに連行されてミラー家を訪れた際に、医師でもあるロザリー・ミラー夫人からは一目見た瞬間完全に栄養失調の病人扱いされる程。
飛行魔術なんかは魔術要素には問題がないのに、バランス感覚が無く行使時に姿勢を保てないせいで苦手としている。

魔術と数式をこよなく愛しており、魔術や数式に夢中になると周りが全く見えなくなる。
緊張がピークに達すると数式の世界に逃げ込んで現実逃避する癖があり、虚な目で数式を唱え始める。

無詠唱魔術も在学していた「魔術師養成機関ミネルヴァ」で授業を乗り切るためになるべく人前で話さなくても済むように詠唱を省略し続けた末*3に編み出したもの。
一方で、無詠唱魔術は「難解な数式を途中式を全く用いずに即座に解を導き出すに等しい」と言われるレベルの神技であり、魔術については紛れも無く天才。
数式についても同様で、数字を一目見ただけでもその解や不自然な点を即座に見抜くことができる。


山奥の小屋に引きこもって難解な書類仕事や研究業を一手に引き受けて生活していたが、同じく七賢人のルイスから「セレンディア学園に在学中の第二王子フェリクスを、彼に気付かれないように護衛する」という国王陛下直々に命じられた極秘任務に引き込まれ、さらにルイスから「国王陛下の命令である以上、もし断ったり失敗したりすれば最悪の場合は処刑もあり得る」と脅かされたことで嫌々ながら引き受け、セレンディア学園の第二学年に編入生として潜入する。

学園では、「元は身寄りのない孤児でケルベック前伯爵夫人に引き取られ、前伯爵夫人が亡くなったことで伯爵家で疎まれて使用人のように扱われるようになり、今年度伯爵家の令嬢が入学するのでそれに合わせて世話係の一人として一緒に編入させられた」という設定となっており、モニカ・ノートンと名乗っている。
自己紹介もまともにできず、してもらった親切にお礼を言うのも一苦労、挙句護衛対象の顔を知らなかったり、その護衛対象に子リス呼ばわりでからかわれたり…
案の定前途多難な幕開けだったが紆余曲折を経て、不正に経費を着服して退学になった前会計に代わり生徒会の会計に就任する。


◆ネロ
モニカの使い魔。魔力の大きさや流れを探知すると言う特技を持つ。
普段は黒猫の姿をしているが、青年の姿にもなることができ、人の言葉も理解している。何なら猫の姿のまま人語を喋る。
読書家で、特に冒険小説が大好き。情報源が小説のため人間についての認識はやや偏りがある。


◆ルイス・ミラー
七賢人の1人である青年。
二つ名は〈結界の魔術師〉。
モニカと同時期に七賢人に就任してり、それゆえにモニカのことは「同期殿」と呼んでいる。
態度こそ上品で眉目秀麗とあって社交界でも人気だが、その実は腹黒でサディスティックな性格。

二つ名の通り結界魔術と封印術のスペシャリスト。
また、魔術兵団の元団長であり、国内有数の武闘派魔術師。
第一王子であるライオネルとは親友。政治的知見と駆け引きに優れ人脈も広い、兵団団長経験から戦闘指揮も執れる等、魔法戦でこそモニカに後れは取ったものの総合力では極めてハイスペック。
どんな仕事もこなせる万能タイプである上に七賢人では新参なのでいろいろな仕事を回されている模様。
任務の人事権を行使してモニカを護衛任務に引き込んだ張本人。
一方で国王陛下が何故か第一王子派である自分に第二王子のフェリクスの護衛を命じたことについては訝しんでいる。
対竜戦や災害時には「風の精霊王召喚」「鏡の牢獄」「硝子の虚城」「殲滅迷宮」などを用いる。

スピンオフ「another」は彼が主役…というか端的に言えば彼の過去を書いた作品である。


◆リィンズベルフィード
ルイスと契約している風の上級精霊。愛称は「リン」。
普段はメイドの姿をしていることが多い。
基本的にはなんでもできる優秀な使い魔だが、その性格は勝手気ままで、ちょくちょく天然じみた極端な言動に出ることがあり、ルイスにしばしば「駄メイド」と呼ばれている。


◆セレンディア学園生徒会


◆フェリクス・アーク・リディル
リディル王国第二王子で生徒会長
18歳で学年もモニカの一つ上の第三学年。
母方の祖父は国内有数の大貴族であるクロックフォード侯爵。
モニカの護衛対象。

性格は温厚で誰にでも分け隔てなく接する美青年であり、学内での人気も高い。
一方で少し腹黒く意地が悪い一面もあり、モニカのことをよくからかっている。
また、敵対する相手に対しては容赦がない。
素性が怪しかったモニカを調査するうちに興味を持ち始め、彼女を生徒会会計に任命する。

生徒会では会長としてその辣腕をふるい、成績優秀で外交関係などでも成果を上げるなど非常に優秀な人物だが、一方で有力貴族の間では「クロックフォード侯爵の傀儡」と噂されている。

実はモニカが黒竜撃退の折に翼竜の群れを討伐した時、お忍びで視察に出ていた彼はその場に居合わせており、以来〈沈黙の魔女〉の大ファンになっている。
しかし、何故か祖父であるクロックフォード侯爵から魔術を学ぶことはおろか、魔術に関わることも禁じられており、それを表立って見せることはない。
また、その他にも隠していることが多く、謎の多い人物でもある。


◆シリル・アシュリー
生徒会副会長。
ハイオーン侯爵家の養子。
フェリクスには絶対の信頼と忠誠をおいており、フェリクスからも信頼されている。
努力家で礼儀正しい性格だが、厳格で頑固。
学校の顔として来校者と接することも多い生徒会役員にはそれに相応しい能力や立ち振る舞いが求められると考えている。
フェリクスから会計に抜擢されたモニカのことを訝しみ、いつもオドオドしているモニカを生徒会役員に相応しくないと考えていたが、モニカが能力を見せ始めるうちに次第に彼女のことを認めるようになる。
氷の魔術を得意とする一方、魔力を過剰に吸収する体質でもあり、溜め込んだ魔力放出するための魔導具であるブローチを身につけている。
短縮詠唱を使いこなす等、魔法戦の実力は中~上級魔術師相当と言われセレンディア学園でもトップクラス。


◆エリオット・ハワード
生徒会書記。
ダーズヴィー伯爵家の長男。
明るい性格だが身分階級主義者でもあり、成り上がり者を快く思っていない。
一方で、貴族や王族は地位に胡座をかかずに力を発揮し、その身分に相応しい役割を果たすべきだとも考えている。
その考え方から、伯爵家の養子だが庶民出身のシリルとはライバル関係にある。
同様にモニカのことも快く思っていなかったが、モニカに得意とするチェスで上を行かれたのを機に、彼女に一目置くようになる。
フェリクスとは過去に因縁があり、内心では「王族の役割を果たしていない」と感じている模様。
Web版では正直印象が薄いが、書籍版では彼なりの貴族観が垣間見えるような見せ場が増える。


◆ブリジット・グレイアム
生徒会書記。
シェイルベリー侯爵令嬢。
学園三大美人の一人でフェリクスの婚約者候補の一人。各種成績も優秀な才色兼備。
フェリクスとは幼馴染だが、学園での2人の会話はどこか探り合いのような空気になる。
彼に何かと目をかけられているモニカの事は一部能力については認めているものの、人前に出ることの多い生徒会役員としては不適格と考えている。


◆ニール・グレイ・メイウッド
生徒会庶務。
代々調停者を務めてきたメイウッド男爵家の長男。
温厚で気の利く性格であり、相手の望むものや求められるものを察する能力に長けている。
その性格からモニカとはすぐに仲良くなった。
調停者の家計の出身だけあって、学内で揉め事や議論が起こった際の仲裁やまとめ役をやらせれば右に出る者はいない。
一方で、相手の望むものや求められるものを察せるということは、逆に相手がしてほしくないと思っていることも察せるということでもあり、エリオット曰く、チェスなどのゲームでは非常にエグい手を使ってくる。
そのため、滅多に怒ることはないが、怒らせると怖い相手とも思われている。
Web版では正直印象が薄いが、書籍版ではその交渉術の見せ場が増えている。


◆セレンディア学園の生徒


◆イザベル・ノートン
ケルベック伯爵令嬢。
モニカの極秘任務を知る人間の一人でモニカの協力者。
ケルベック領を襲った黒竜をモニカが退治したことで領地を救われたため、一家揃ってモニカに多大な恩義を感じており、彼女もモニカのことを非常に強く慕っている。
非常に度胸があり、咄嗟の機転も効く。社交界に精通し、断片的な情報を繋げて事態を把握することも得意。
設定上はモニカは家で疎まれているということになっているため、悪役令嬢の演技の猛特訓を重ねて学園ではモニカに表向き辛く当たっているが、陰ではモニカの世話を焼きたがり、何かとモニカに助け船を出している。


◆ラナ・コレット
モニカのクラスメイトで最初の友人。
国随一の豪商の娘。
男爵令嬢だが昔からの貴族ではなく、父親は商人としての国への貢献が認められたことで国王から爵位を賜った。
そのため学園では成り上がり者として見られており周囲から浮いていたが、同じく浮いていたモニカに興味を持ち、声をかけたことで友人になる。
ラナ自身も不器用なところはあるものの、彼女が友人に向ける無償の言葉や態度は
まともな友人が居なかったモニカの価値観を大いに改め、救いになると同時に成長の糧にもなっていく。
家柄の関係もあり、流行に詳しい。容姿端麗な第二王子を目の前にしても本人よりその服飾品に目が行くタイプ。


◆グレン・ダドリー
モニカと同時期に編入した編入生。
ルイスの弟子。
ルイスの弟子だけあって魔術の腕前は相当なものたが、単純な性格で軽率な行動の多いトラブルメーカー。
実は本命であるモニカから目をそらさせるためにルイスが囮として学園に送り込んだのだが、グレンはその事はもちろん、極秘任務のことすら知らされていない。


◆クローディア・アシュリー
ハイオーン侯爵令嬢でシリルの義妹。
ニールの婚約者。
学園三大美女と称される美貌を持つが、非常にシニカルな性格で刺のある発言をする。
識者の家系としてしられるハイオーン侯爵家の中でも取り分け幅広く豊富な知識を持つことで知られており、学園一の識者として知られている。
一方で、多くの人間がその知識を求めて図書館のように都合よく自分に頼ってくる状況に嫌気が差しており、周りにあえてきつく冷たく接することでそうした人間を遠ざけている。
婚約者であるニールにベタ惚れしており、ニールが絡むとIQが急降下する。
ニールと仲の良いモニカのことを面白く思っておらずにつっかかっていたが、ニールの手前表向きの友人関係を結ぶ。


◆ケイシー・グローヴ
モニカの友人の一人。
王国東端の国境に接する領地を持つブライト伯爵家の令嬢。
明るく面倒見が良いが気の強い性格。
乗馬と裁縫が得意。貴族ではあるが故郷が竜害で貧しい領地のため大抵の事は自分ででき、何かと抜けているモニカの世話を焼いてくれる。


◆エリアーヌ・ハイアット
レーンブルク公爵令嬢。
クロックフォード公爵の血縁にあり、表向きにはフェリクスの婚約者候補筆頭。
しかしフェリクス本人には最低限の社交でしか相手してもらえずやきもきしている。
周囲には学園三大美女と称され学園祭の舞台ではヒロイン役を務めるものの、年齢的に幼く見える容姿にはコンプレックスがある。
そのプライドの高さからWeb版では割とシャレにならない悪意をチラつかせていたが、
書籍版では本筋に絡む状況により特に過激な部分は彼女の本意ではないと言う形でフォローされた。


◆七賢人

◆メアリー・ハーヴェイ
現役の七賢人では最古参。なお就任最古参ではあるが外見は年齢不詳の美女。
二つ名は〈星詠みの魔女〉。星を見て国や人の未来を占う占星術の達人であり、「預言者」と呼ばれて国王からも絶大な信頼を得ている。
また名門貴族の出身であることから有力貴族や議会とも繋がりがあり、それらとの連絡・折衝も行っている。
直属である国王が臥せって以降も七賢人がある程度の独立性を保っているのは彼女の尽力によるところが大きい。
Web版でも事態をどこまで見通しているのかはぼかされていたが、書籍版ではより明確に目的を持って暗躍するようになる。
〈天文台の魔術師〉クラレンス・ホールという弟子がおり、土属性魔術で師匠を守る。


◆レイ・オルブライト
二つ名は3代目〈深淵の呪術師〉。代々呪術を専門に扱ってきたオルブライト家現当主。
国でも数少ない呪術の使い手であり、呪術で相手を呪うことも、逆にかけられた呪術を解くことも得意としている。
体に刻み込まれた多数の呪術により、髪は紫、瞳はピンクという変わった風貌になっている。
病的な愛されたがりのため発言の9割は聞き流していい愚痴や妬みや呪詛*8で満ちている挙句、
見かけた若い女性に詰め寄ったりするので、城内の若い侍女たちは彼を見かけると迂回するとか。
また同時に引きこもりでもある。当主とは言いつつ家の運営は殆ど先代に当たる祖母に任せているうえ、七賢人会議の出席率はモニカよりも低いと言うのだから大概。
書籍版では出番が増え、モニカとルイスがオルブライト家から盗難にあった呪具を取り戻す手伝いをした代償として、ルイスからフェリクス護衛の極秘任務に協力させられている。


◆ブラッドフォード・ファイアストン
二つ名は〈砲弾の魔術師〉。
二つ名の通り砲弾魔術を得意とする戦闘特化の魔術師。特に多重詠唱で強化された砲弾は通常の攻撃魔術ははじき返すとされる竜の体すらぶち抜くほどで、作中に登場する魔術の中では最強の威力を持つ。
その秘訣は七賢人一とも称される魔力操作技術。多重強化は重ねる程加速度的に制御が難しくなるため、七賢人抜擢の理由となった六重強化魔術は未だに彼の専売特許。
勝負事が好きでカードゲームや飲み比べ、魔法戦等を良く他の七賢人に持ちかける。まあ絡みやすさの理由で対象はほぼルイス固定だが。
また、ウーゴ・ガレッティという弟子がおり、詠唱に時間のかかる師匠をサポートしている。


◆ラウル・ローズバーグ
5代目にして当代〈茨の魔女〉。〈茨の魔女〉は世襲制の屋号のようなものであり、魔女と呼ばれているが名前からわかる通り男性。
国内最高と称される魔力量を誇る。ただし専ら趣味の土いじりとその延長にある植物絡みの魔術研究に没頭しているため披露する機会は少な目。
地の文に何度も「美しい」と記載されるイケメンだが、その容姿は先祖にあたる初代〈茨の魔女〉に由来し、ラウルは生き写しとも言われている。
その初代の名前が良い意味でも悪い意味でも有名すぎて、同年代の友達がいないのが悩み。
戦闘の際、奥の手として「人喰い薔薇要塞」を用いるが、これを初代以降再現できたのは彼だけで、魔力と血を吸収して強力になる性質がある。
なお、初代〈茨の魔女〉レベッカ・ローズバーグが使用した「黒炎」の再現はできない。
そういった事情故にか本人に悪気はないのだが時々人との距離感がおかしい。目が合うと自家製野菜を勧めて来る。

オルブライト家とローズバーク家は代々の当主が七賢人の一角を担っており、レイとラウルも当主就任と同時に七賢人に就いている。


◆エマニュエル・ダーウィン
〈宝玉の魔術師〉の二つ名を持つ付与魔術のスペシャリスト。クロックフォード公爵の庇護のもとバリバリの第二王子派で、第一王子と懇意であるルイスとは犬猿の仲。
付与魔術を活かした魔導具製作で知られるが、工房の運営資金調達の為に現役七賢人の中では特に権力へのすり寄りと政治活動が露骨で、式典・宴会等では有力者や富裕層への売り込みには余念がない。
本来なら彼の銘を冠した魔導具は王都に家が買える程の高級品の筈だが、市場には粗悪な魔導具が出回っている。本人はそれらの粗悪品はすべて贋作と主張している。
Web版では名前こそちょくちょく出るもののモニカとの絡みがなく、しかも周囲に振り回されてばかりで存在が薄かったが、書籍版では自ら行動を起こし、〈パウロシュメルの処刑鏡〉を作った。
その結果、書籍7巻表紙の「七賢人、団結」イラストではハブられてしまった。X(旧:Twitter)公式の公開カウントダウンには居たのに…。*9


◆その他の登場人物

◆ダライアス・ナイトレイ
クロックフォード公爵。
国内で最も権力のある貴族であり、フェリクスの母方の祖父。国内で優勢になりつつある第二王子擁立派をその政治力でまとめ上げている。
王国貴族の中でも有数のタカ派として知られ、帝国との戦争を目論んでいると専らの噂。
また懇意の者であっても国や自身に危害を及ぼすと判断したら容赦なく切り捨てる冷徹さを持つ。
フェリクスに魔術と関わることを禁じるなど、孫への接し方には謎が多い。


◆ウィルディアヌ
フェリクスの使い魔である上位精霊で。若い水の精霊のため戦闘や探知は苦手だが、幻影や変身は得意。
普段はトカゲの姿をしていることが多い。


◆アガサ
ケルベック伯爵家の侍女。
イザベルとは主従関係ではあるが同時に流行小説を嗜む同好の士でもある。
悪役令嬢演技にはノリノリで付き合いつつ、モニカが絡むと時に暴走することもあるイザベルのブレーキ役。


◆ウィリアム・マクレガン
〈水咬の魔術師〉の二つ名を持つ老魔術師。
リディル王国最高峰の魔術師養成機関「ミネルヴァ」で長らく教員を務めており、かつてミネルヴァに在学していたモニカらも彼の指導を受けていた身である。水竜討伐数最多。
現在は名誉教授として一線を退いていたが、諸事情によりセレンディア学園の魔術担当教員が不在となったことから急遽学園に招聘されるも同然の形で学園の教師として着任した。
そのためルイスが事前に行った「セレンディア学園にモニカの素性を知る者がいないか」と言う調査よりも後に学園にやってきたことになる。
眼が悪く、モニカとニアミスした際には気づかなかった模様。それでも彼女がミネルヴァにいたのはつい数年前のことだが…?


◆ヒルダ・エヴァレット
モニカの養母。父の死後親戚の家で引き取られていたモニカを保護し、諸事情から身元を隠して自身の養子とした。
魔術研究所の上級職員でヒルダ自身は独身。料理や掃除をする際に何かと魔術で代用しようとしては食材と家具を台無しにし酷い時には小火騒ぎになる家事オンチ。
家政婦を雇ったのはモニカを引き取ってからだそうだが、それ以前はどうやって生活していたんだろうか?
モニカの生活力も(悪い意味で)大概だが山小屋で一人暮らしができている分養母よりはだいぶマシ。
才能をいち早く見抜きミネルヴァに斡旋してくれた人物だが、それだけでなくモニカにとって恩人の一人。


◆バーニー・ジョーンズ
ミネルヴァの生徒。
アンバード伯爵家の次男。
モニカがミネルヴァに在学していた時の友人だった。
十代前半で短縮詠唱を修得した天才少年だったが、それ以上の才覚を見せたモニカの才能にうちのめされる。
また、モニカが自身の才能に無自覚なまま接してきたことでプライドを深く傷つけられ、モニカに決別を宣言した。



◇用語


◆リディル王国
物語の舞台となるセレンディア学園がある王国。
特に魔術の扱いに長けた大国家。
王には3人の王子がおり、次期国王が誰になるかで意見が割れている。


◆セレンディア学園
物語の主要な舞台となる全寮制の学園。
王族や貴族の多くが学ぶ学園であり、魔術師養成機関ミネルヴァ、神殿傘下の院と並ぶ、三大名門校として知られている。


◆七賢人
リディル王国の頂点に立つ7人の魔術師に送られる称号。
魔術師のみならず、リディル王国の国民全体の憧れの的であり、尊敬を集めている。
七賢人に任命されると魔法伯という伯爵位に相当する爵位をもらうことができる。
七賢人の選出は空席ができた際に都度補充。選出試験は候補者に対する実戦(魔法戦と呼ばれる模擬戦)と面接により行われる。
七賢人の選出基準も実力最重視であり、一度七賢人に選出されても定期的な魔力量の検査が義務付けられており、その検査で魔力量が一定数値を下回ると称号は剥奪される


◆本作における「魔術」と「魔法」
本作において「魔法」は「魔力を用いて何らかの現象を発生されること」の総称であり、「魔術」は魔術式の構築と詠唱により何らかの現象を発生させる魔法の一種という扱い。魔術以外の魔法の例としてほかに「竜のブレス」「魔導具の使用」などが挙げられている。
魔法生物である精霊や竜は魔力操作に長けているため手足を動かすのと同じように「なんとなく」で魔法を行使できるが、人間は起こしたい現象に合わせて必要な魔術式を構築して詠唱を行い、式に沿って魔力を操作する必要がある。*15
どんなに簡単な魔術でも数秒、大規模なものや複雑な条件のものになると数分以上の魔術式詠唱が必要となる。短縮詠唱と言うものも存在するが、行使したい魔術式を理解して省略できる部分を適切に判断する必要があり、ここが不完全だと威力低下や精度低下、最悪の場合暴発もあり得る。(この理解度が人外レベルにまで極みに極まってしまったのが主人公である〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレット)


◆魔術師
魔術を行使する人間の総称及び職業名。魔術自体かつては貴族が独占していた技術だが、リディル王国においては竜害の拡大に伴い平民にも門戸が開かれたと言う経緯がある。
魔力量や技量に応じて試験を行い、見習い、初級、中級、上級と言った区分分けがなされる。
中級魔術師ともなれば一生食うには困らず、また上級魔術師かつある程度の功績があれば〈●●の魔術師〉や〈●●の魔女〉と言った二つ名が与えられる。
なお上級魔術師の条件に魔術の2つ同時使用があるが、基本的に人間にはこの2つが上限とされモニカ含めた七賢人も同じ*16。ただし既に発動済みの術式を後から変更する分には問題なく、結界魔術の形を変えたりと言った手法は魔法戦の駆け引きで発生する。
また追加の詠唱と魔力を投じて固定化を施すと、この2枠の枠外で長期間の保持も可能。施設の防護結界や危険な魔導書の封印はこちらで行われる。


◆魔法戦
魔法のみを行使するという条件で行われる模擬戦。
会場に魔法戦用に特化した結界を張り巡らせ、その中で戦うことになる。
魔術をはじめとする各種魔法のみ使用が許され、ダメージはすべて「魔力の減少」という形に変換される。
魔術の使用やダメージによって魔力がなくなると敗北となる。
モニカは豊富な魔力量に加え無詠唱魔術による手数の多さ&速度なども相まって魔法戦では無類の強さを誇る。
かつては物理攻撃も有効であったが、〈水鏡の魔術師〉サムス・ホレイソンにより物理攻撃無効化術式が組み込まれた結界になった。


◆魔力中毒
人間が高濃度の魔力に晒されることで起きる症状。初期症状では頭痛や吐き気を伴う。悪化すると幻覚や眩暈、意識障害を経て最悪死に至る。
許容量は体質や魔力量に依存し、魔力量の高い人間は耐性が高い。
治癒魔術や身体強化魔術等、人間の体に直接作用する魔術はこの魔力中毒の危険性が高いため、リディル王国だけでなく大陸の殆どで使用や研究が禁止されている。
また魔術で精製された水は飲用に向かなかったり*17、魔力濃度の高い土地には人間が定住ができないと言った影響もある。



◆精霊王
精霊王召喚時にその力の鱗片を示す。
炎:フレム・ブレム

水:ルルチェラ

風:シェフィールド
白く輝く風、春を告げる者──そんな二つ名を持つ風の精霊王

大地:アークレイド

雷:ヴォルガング

氷:フラウリシェル

光:セレンディーネ
セレンディア学園の名前の由来。

闇:エルディオーラ


◆竜害
魔法生物である竜が人の住む領域に現れることによって起きる災害。言わば獣害の竜版だが、竜はその巨体や強靭さ、気性も相まって被害の規模が桁違いに大きく、下位種の竜1匹でも少なからず犠牲者が出る。
数十匹が同時に出現したり上位種が絡む大規模竜害ともなると、最悪街や国が滅ぶことも。
リディル王国は比較的竜害が多く竜騎士団や魔法兵団、諸侯の軍で対応しており、竜退治が得意な七賢人が同行することもある。
発生頻度は地域によってまちまちで、特に東部辺境は発生頻度が高いらしい。


◆契約精霊
中位~高位精霊が人間の魔術師と契約を結び主従関係となったもの。
魔法生物である精霊が魔力濃度の薄い土地でも活動できるよう、魔術師に魔力供給をしてもらうのと引き換えに強大な魔法で魔術師に助力する契約。
魔術師の得意属性と精霊の属性が一致しないと契約することはできない。
相応の魔力量と、契約魔術を中心に高い魔術知識に加え得意属性と合致する精霊との縁故がなければ契約は叶わず、リディル王国内でも希少な存在。
故に魔術師の間では特に高位精霊との契約は一種のステータスである。


◆使い魔
魔術師が魔力を分け与えつつ主従契約を結んだ動物。主人である魔術師の言葉をある程度理解し行動するが、人間や高位精霊ほど知能が高いわけではなく人間語を喋ることはない。
そのため基本的には物を押さえたり取ってくると言った簡単な雑用、手紙や荷物を持たせて使いに寄越すと言った運用になる。
当然人型に変身したり、冒険小説を読み漁ったりはしない。…はて?


◆シュバルガルト帝国
リディル王国の東に隣接する大国。
数年前に新しい皇帝が即位し、革新的な政策をどんどん打ち出している。


◆ランドール王国
リディル王国と帝国共に隣接する小国。大国に挟まれているため風見鶏的な政策が目立つ。
リディル王国の第一王妃ヴィルマ妃の出身国なため、親ランドール派の貴族と第一王子擁立派は接点が多い。


◆古代魔導具
旧時代の魔術師達が作った魔導具。現在では失われた技術*18が使われており、現代魔導具とは桁違いに強い力が秘められている。
共通点として魔導具自体に人格が宿っており人間と会話することが可能。発動の管理は魔導具自身が行うため、古代魔導具の人格に認められるか最低限説得できないと使用することはできない。
また多くの古代魔導具は戦略兵器としての面も兼ね備えており、国家レベルで封印管理されている。
Web版では後日談から登場した概念だが書籍版では比較的早い段階から登場している。


◆星紡ぎのミラ
古代魔道具の一つ。愛しい人と結ばれることを夢見ている。土地の魔力を吸収するが、吸収量は星の巡りによる。
ハーヴェイ家が管理している。


◆偽王の笛ガラニス
古代魔道具の一つ。精霊を操る。
戦火に焼かれて失われたらしい。


◆識守の鍵ソフォクレス
古代魔道具の一つ。頼られたい。アスカルド図書館の禁書室の番人。最弱古代魔導具と言われる。アスカルド大図書館の禁書室の目録を契約者に開示する。


◆ベルンの鏡
古代魔道具の一つ。反射結界を張る。
帝国のある一族が独占管理している。


◆暴食の箱ゾーイ
古代魔道具の一つ。他者を喰らうことで、その力を増幅する。
記録上はリディル王城の宝物庫に収められている。


◆陽光の宝剣アトラス
古代魔道具の一つ。
記録上はリディル王城の宝物庫に収められている。


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最終更新:2025年01月24日 04:16

*1 ロザリー・ヴェルデは本編にも登場するルイス・ミラーの婚約者(本編では結婚後でロザリー・ミラーと改姓済)に当たる

*2 ただし、人間に限らなければ、精霊など他に無詠唱魔術が使える存在はいる

*3 人見知りが極まりすぎていて「試験の為に人前で呪文を詠唱する」事すら不可能だった

*4 本作の竜は眉間が弱点とされ、弱点以外の鱗は槍や銃弾はおろか上級攻撃魔術をもはじき返す

*5 Web版では竜が苦手とする氷属性の矢、書籍版等ではモニカ最強の技である精霊王召喚

*6 飛んでいる矢に別の矢を当てて叩き落とすのに等しい

*7 汎用性や習得のしやすさを全く考慮できないわけではなく、後にそう言った視点で改良を加えることはある。なお分割には強い抵抗がある模様

*8 なお特に魔力は籠っていない、要するにただの恨み言

*9 しかも枠を奪ったのは恐らく冬眠中で殆ど活躍もないであろうネロである。

*10 もっとも、当時弱冠15歳かつ対人恐怖症のモニカを本気で七賢人にさせようとした訳ではなく、同時期に選抜試験に臨んでいた弟子達の鼻っ面をへし折る目的での当て馬推薦。目論み通りモニカはその弟子達を魔法戦でぼっこぼこにしている。

*11 前日譚でげんこつを落とされてもトラウマを発症しない程度には。場面的にはギャグ補正かも知れないが

*12 公衆衛生に関しては初代〈茨の魔女〉に寄るところも大きい

*13 近いうちに強制免職となる可能性があるレベルまで魔力が落ち込んでいた。

*14 anotherでは自慢の遠距離狙撃すらモニカにお株を奪われる羽目に。

*15 人間の中でも魔力操作が優れた者ならば曖昧な魔術式でも無理矢理に魔術を行使できるものの、それだと精度や燃費が犠牲となっているので魔術式を使いこなすに越したことはない。

*16 リディル王国には1人だけ例外として、前述のカーラ・マクスウェルが存在する。書籍版では6巻にて登場するが、Web番では前日譚と外伝のみの登場で本編では姿を見せない

*17 洗い物に使う程度や、魔力量の高い人間が目覚めの1杯に飲む程度ならば問題ない

*18 ただし後日談で示唆される製法からすると、作る技術が失われたと言うより価値観の変化で作られなくなった結果技術も伝承されなくなったと言う方が正しい