あたご型護衛艦

登録日:2012/05/04 Fri 00:46:27
更新日:2024/02/21 Wed 18:31:28
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あたご型護衛艦は、海上自衛隊の護衛艦。


【スペック】

諸元
基準排水量 約7700t
満載排水量 約10000t(推定)
全長 165m
全幅 21m
深さ 12m
喫水 6.2m
速力 30ノット+
航続距離 不明 (こんごう型は20ノットにて6000海里)
乗員 300人

兵装
Mk.45Mod4 62口径5インチ単装砲 1基
Mk.41VLS 前64セル 後32セル 計96セル
高性能20mm機関砲 2基(CIWS
4連装艦対艦誘導弾発射管 2基
3連装魚雷発射管 2基

レーダー及び電子機器類
AN/SPY-1D(v)フェーズド・アレイ・レーダー(対空)
AN/SPQ-9Bレーダー(対水上)/あたご搭載
OPS-28Eレーダー(対水上)/あしがら搭載
OPS-20レーダー(航海)
AN/SQS-53-C艦首対潜ソーナー
OQR-2-1曳航式ソーナー
Mk.99FCS(ミサイル) 3基
Mk.160FCS(砲)
Mk.116FCS(対潜)
NOQ-2電子戦装置
Mk.137電波欺瞞紙(チャフ)発射管 4基

機関
IHI LM2500ガスタービンエンジン 4基2軸

艦載機 SH-60J/Kヘリコプター 1機(格納庫だけで現在固定の艦載機はない)


前級
こんごう型護衛艦
次級
まや型護衛艦


【概要】

あたご型護衛艦は中期防衛力整備計画に基づき、たちかぜ型護衛艦1番艦たちかぜと2番艦あさかぜの代艦として建造された海上自衛隊の護衛艦で、こんごう型護衛艦に次いでイージス・システムを搭載したイージス艦である。

なお、たちかぜ型護衛艦は3番艦さわかぜまで存在するが、さわかぜは予算等の都合や自衛艦隊司令部の陸上化。そして同時期に重複したP-1哨戒機の調達、潜水艦隊の規模拡大などにより代艦は計画されていなかったが、2013年度に新たに準同型艦2隻が追加建造されることとなった。

それと同時に、あたごとあしがらのイージス・システムを、従来のベースライン7.1J(UYQ-70による分散処理コンピューティング導入)から、対空戦闘機能と弾道ミサイル迎撃機能を統合化したベースライン9に更新が図られた。将来的にはまや型護衛艦と同様の共同交戦能力及びSM-6運用能力付与が予定されている。

海上自衛隊が保有する艦艇としてはましゅう型補給艦、ひゅうが型護衛艦などに続く排水量を誇っている。
同型艦は2隻。

イージス・システムは最新のベースライン7.1Jを搭載するものの、こんごう型と同じくアメリカからの輸入品で日本は一切ノータッチのブラック・ボックスである。
但し技術的に全く開示されていないわけではなく、民生電子部品を多用したネットワーク構造はひゅうが型やあきづき型といった国産新型艦のACDS開発に大いに参考にされた。

ベースライン7以降のイージス・システムはミルスペックコンピュータを排除、民生電子部品でほぼ完全に構成されている。
各部モジュールもホットスワップ方式でネットワークに接続されており、処理速度向上だけではなくCOTSリフレッシュという名前の近代化が極めて容易な長所を持つ。
あたごは2016年、あしがらは2017年からの改修によりイージスシステムを、対空戦機能及び弾道ミサイル迎撃機能を統合化。これによりSM-3ミサイルを用いた弾道ミサイル迎撃が可能となり、実弾発射による迎撃試験にも成功している。

艦体はアメリカ海軍のイージス艦アーレイ・バーグ級駆逐艦フライトⅡAを基に、こんごう型以上の指揮、通信機能とステルス性を海上自衛隊が要求したため、こんごう型と同じく原型のアーレイ・バーグフライトⅡAに比べ艦橋が一層大きくなっている。
あたご型の指揮、通信能力はかなり凄いことになっており、CIC(戦闘指揮所)の充実だけに留まらずFIC(司令部作戦室)まで搭載している。

さらに、こんごう型と異なり建造当初から弾道ミサイル迎撃(BMD)の任務を視野に入れているため、BMDに対応出来るよう設計されている。
ただしそれは船体・VLS等艤装だけであり、あたご型のイージス・システムにはBMDシステムは連接されておらず、迎撃能力の付与は2016年から2017年の近代化を待たねばならなかった。

なお余談だが、あたご型護衛艦の排水量はイージス艦としては大きな部類に入り、アメリカのタイコンデロガ級巡洋艦を上回り、あの韓国海軍のイージス艦世宗大王級駆逐艦と同等の排水量となっている。

元々こんごう型の段階でタイコンデロガ級と同容積のCICを有し、その上であたご型はFICさえ有しているので最早巡洋艦と呼んで差し支えない規模である。なお国産イージス艦最大の地位はまや型に譲り、更にイージス・アショア代替となるイージスシステム搭載艦は12000トンほどになると推察されている。


【こんごう型との相違点】

似通った容姿のこんごう型とあたご型の二隻だが、よく見ると ぶっちゃけぱっと見でも…うわっ何すr…幾つかの相違点がある。
以下大まかな相違点を挙げていく。

①主砲
こんごう型ではイタリアの54口径OTO・メララ127mm単装砲を採用していたが、あたご型ではアメリカのMk.45Mod4 62口径5インチ単装砲を採用している(後述)。

②AN/SPY-1フェーズド・アレイ・レーダーの位置
4枚存在するAN/SPY-1。こんごう型では4枚ともだいたい同じ高さにあるが、あたご型では艦尾側の2枚が艦首の2枚より一段高い位置に設置されている。
SPY-1レーダー自身も天頂方向、沿岸部探知能力を向上させたSPY-1D(v)に置き換わっている。

③マスト
こんごう型では強度や技術的な信頼性から鉄骨を組み上げたようなラティストマストを採用しているが、あたご型ではステルス性を優先したため傾斜マストを採用している。

④格納庫の有無
こんごう型はヘリコプター発着の甲板は存在するも格納庫は無かったが、あたご型はヘリコプター格納庫も装備している。
但しヘリ離着艦システムが後日装備のまま就役から日時が過ぎており、実際は倉庫として使われているのが現状である(甲板上での給油は可能)。

⑤対潜システム
こんごう型ではイージス・システムの一環であるSQQ-89対潜システムが供与されず、同等品を国産せざるを得なかった。
しかしその技術が認められたためか、あたご型では本来のSQQ-89の最新改良型がシステムの一部として供与されている。
また2016年以降の近代化改装に際して、曳航ソーナーを国産のOQR-2からアメリカ製最新のMFTAに換装を行っている。

⑥艦隊旗艦設備
あたご型にはCICの他にFIC(FleetInformationCenter)という艦隊旗艦設備が別途設けられている。
ひゅうが型、いずも型といった大型ヘリ搭載護衛艦のそれに比べれば小さいが、それでも格段にこんごう型より旗艦機能は向上した。

⑦新型対水上レーダーの搭載
竣工段階では日本無線が開発を行い、多くの護衛艦に搭載されているOPS-28(E型)を搭載していた。
2016年以降の近代化改装に伴い米国製のAN/SPQ-9B(AESAレーダ2枚貼り合わせ構造)に置き換えることで、より対艦ミサイルなどの停空飛翔目標の探知能力向上を図っている。
ただし米国からの輸入という形を取っていることから一部納品遅延が生じ、2番艦あしがらでは後日搭載予定となっている。


この他にも細々と異なる変更点があるので気になったら調べてみるのも一興だろう。


【どうしてこうなった?】

こんごう型の項目でも説明されているが、こんごう型もあたご型もアメリカのアーレイ・バーグ級駆逐艦を基に設計されているが、何故こうも変更点が多いのか。
それは設計基となったアーレイ・バーグ級に由来する。
アーレイ・バーグ級は1991年に一番艦が就役してから現在まで建造されており、
実戦からのフィードバックにより様々な改良が施されており、建造時期により艦体がかなり異なっている。
こんごう型は初期のフライトⅠを参考に、あたご型は最新のフライトⅡAを参考にしているため以上のような差異がでたのである。


【武装】

  • Mk.45Mod4 62口径5インチ単装砲
あたご型の主砲にして武装面からのこんごう型との相違点1。
こんごう型の主砲はイタリアのOTO・メララ社が開発したものだが、こちらはアメリカ製。
こんごう型の砲と比較して砲塔がステルス性を意識しているため小さく、まるでナイフで切り落としたような鋭角なデザインとなっている。
そのほかに砲身長を62口径に延長(こんごう型のOTO・メララ社の砲は54口径)されているため砲弾一発当たりの破壊力が向上している。
また砲自体の重量も軽い。
しかし砲の速射速度はOTO・メララ社45発/分に比べ20発/分と半分以下になっているため、
OTO・メララ社が対空対艦対地の万能砲だったのに対し、本砲は対艦対地に特化しているといえる。
専守防衛を掲げる自衛隊がこんな砲を装備するなんてけしからんニダ。
これは我々への侵略の兆候アル。
テメーらは巡航ミサイルに核まで持ってんだろ。
また本砲は最近就役したあきづき型護衛艦にも採用されており、今後の砲熕兵装搭載護衛艦の標準火砲となる可能性が高い。

  • Mk.41VLS
ご存知イージス艦の主力兵装。武装面での相違点2。
こんごう型に比べ6セル増えたことと、こんごう型は前29セル後61セルに対しあたご型は前64セル後32セルとなっている。
VLSセル数増大は非実用的とされたミサイル再装填クレーン撤去による。
将来のBMD対応に備えてミサイルへ膨大な情報を転送する光ファイバも実装され、SM-3やESSM収納も可能である。

  • 高性能20mm機関砲
アメリカ製のMk.15ファランクス。いわゆるCIWS。
対空ミサイルで撃ち漏らした敵ミサイルや敵軍用機を撃ち落とす最終手段。
あたご型は最新のBlock1Bと呼ばれる物を採用している。銃身が76口径から92口径に延長、FCSも電子光学系が組み込まれた。現行運用されているのは更に目標脅威判定能力や整備性向上を図った、BLOCK1Bベースライン2の模様。

  • 4連装艦対艦誘導弾発射器
あたご型最強の武器。中身はこんごう型のハープーンミサイルと異なり、国産の90式艦対艦誘導弾を装備している。
無論ハープーンと互換性のある誘導弾であり、既存のハープーン搭載艦でも運用できる。
逆に本来は90式を搭載している護衛艦がハープーンを搭載しているケースも多い。この辺りは弾薬調達の都合に左右される。
将来的にはもがみ型より配備の始まった17式艦対艦誘導弾への更新も予定されている。

なおあたご型建造に際して何と米国政府及びレイセオンからトマホーク巡航ミサイルの売り込みもあったという。
しかし当時の憲法及び自衛隊法では運用法が存在せず、何よりも余りに高価であることから断念した模様である。

まぁ結局、反撃能力の一環としてトマホーク導入が決まったんですけどね奥さん。

2022年以降の防衛予算増額、防衛大綱の変更で敵基地攻撃能力が盛り込まれ、その一環としてトマホーク500発の導入が決定された。一部で80年代の旧式と揶揄されるが、導入されるのはタクティカルトマホークという現行最新モデルである。システムの互換性を有する(元々イージスシステムはトマホーク運用能力を組み込まれている)ことから、まずあたご型を含むイージス護衛艦から搭載されると予想される。


【同型艦】

DDG-177 あたご
あたご型護衛艦の一番艦。
2004年4月5日起工。2007年3月15日竣工。
第3護衛隊群第3護衛隊所属。母港は舞鶴。

DDG-178 あしがら
あたご型護衛艦の二番艦。
2005年4月6日起工。2008年3月13日竣工。
第2護衛隊群第2護衛隊所属。母港は佐世保。余談だが上の画像は艦番号からこの娘である。


【凖同型艦】

海上自衛隊は今後の艦隊防空及びミサイル防衛を踏まえてイージス護衛艦8隻体制を打ち出した。
それにより27/28DDGとして改あたご型護衛艦が既に予算として認められ、イージス・システム2隻分の一括購入なども為されている。
基準排水量は8200トンとあたご型より更に大型化しており、相応の性能向上と新規技術が盛り込まれている。以下に簡単に記述すると

①イージス・システムの新型化
当初よりBMDシステムをイージスに統合化したベースライン9.0以降を搭載。
現行最新の7.1Jに比較しても格段に処理性能が向上している他、当初からBMD能力を持つ初のイージス護衛艦となる。

②低空警戒能力の強化
従来はOPS-28系列対水上レーダーとOPS-20C航海用レーダーが低空警戒を担当したが、近年では性能不足が目立ち始めている。
このため米海軍でも採用数の増えているSPQ-9B低空警戒レーダーの導入が明記されている。
簡単にいえばF-16C戦闘機のレーダーを原型としたフェーズド・アレイ・レーダー2枚を背中合わせとしたもので、対水上警戒能力も非常に高い。

③推進系の変更
これまでのイージス護衛艦はCOGAG方式のオールガスタービンだったが、27/28DDGでは発電機と組み合わせた複合推進方式となっている。
低速時は発電機をガスタービンで稼働させて静粛性と燃費を確保。高速発揮時にはガスタービンを駆動させて速度を得る方式である。
統合電気推進と異なり推進系の電力を艦内に回すものではないが、曳航ソーナーなどを使う低速域での静粛性向上が期待される。

④対潜能力の強化
あたご型の艦首ソーナー及び曳航ソーナーの組み合わせから、米国製最新のマルチバイスタティックソーナーに置き換わる。
これにより浅深度から深深度に至る探知能力が格段に向上。
上述のガスタービン・電機複合推進の低速時の静粛性からASW能力が大幅に改善される。

⑤電子戦能力の向上
ECM(電子妨害)に米国製最新モジュールを、ESM(逆探)には国産の最新型を混載。
年々進歩する対艦ミサイルの脅威や逆探困難なフェーズド・アレイ・レーダーの電波探知への対応を図っている。
上述のソーナーシステムや最新ベースラインの供与、技術開示といい米国も相当に同盟国として日本に期待しているのかもしれない。

その他にも就役年次から考慮して現在開発中の陸自の12式を原型とした新艦対艦誘導弾、07式新アスロックへの対応も為されると推察される。
防衛技研や海上幕僚監部装備課はこのクラスに大変な自信を抱いている模様で、盛り込まれる新機軸も概ね堅実妥当なもの故に今後に期待したい。

この準同型艦はまや型護衛艦として結実。
2020年に1番艦「まや」が、2021年に2番艦「はぐろ」が就役し、イージス艦8隻体制が完成している。


【衝突事故】

あたご型を語るうえで(無論悪い意味で)、欠かせない話題。事故が起きたのはあたごが就役してまだ1年も経っていない、2008年2月19日。
あたごがアメリカでの訓練を終え日本に帰国する途中、漁船清徳丸と衝突。
漁船に乗っていた船主の58歳の男性と乗組員で船主の息子23歳が行方不明となった。
二人は必死の捜索活動にもかかわらず、5月20日に認定死亡となった。

その後、海難審判によりあたごに回避義務があったと断定。見張りを怠ったとして、あたごの当直士官2名が刑事告訴されたが無罪となった。


事故発生直後一部の報道機関*1は、あまり情報が入っていない状態にもかかわらず、あたごに回避の全責任があると断定して報道し、
最終的にあたごのみならず海上自衛隊全体を批判する報道をしている。
しかし
  • 大型船舶は小型船舶と比べ旋回性や停止性が大きく劣る。
  • 大型船舶は外部から速度の誤認を生じやすい。
  • 大型船舶から小型船舶は非常に視認しにくい。
といった点から小型船舶は大型船舶に近づかないよう航行するのが鉄則である。
そのため自衛隊憎しの先入観ありきの報道ではないかとの批判もあった。

とはいえ無罪判決を受けながらも、衝突の要因があたご側にもあったことは事実であり、
これを一因として当時の海上幕僚長が辞任することとなった。


なおこれは噂レベルであるが漁船乗りの間では大型船にチキンレースを仕掛け、それに成功すれば大漁というジンクスが存在するという。
仕掛けられる側とすれば迷惑千万であり、漁船以外にも遊覧船が物珍しい自衛隊艦艇に近づき危険な事態に陥ることも度々生じていると言われる。














追記・修正はBMDの改修を受けてからお願いします。

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最終更新:2024年02月21日 18:31

*1 大体wiki籠りがマスゴミと考える報道機関