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2024年6月13日

電動工具の互換バッテリーを分解、検証してわかる安さの理由

電動工具の互換バッテリーを分解、検証してわかる安さの理由

電動工具のバッテリーは非常に高価です。バッテリーの買い替え時などには通販サイトなどで販売されている互換バッテリーの安さにつられてしまい、つい購入してしまう方も多いと思います。

互換バッテリーは本当に安全な使用ができるのか不安な方も多いと思います。今回は、実際に互換バッテリーを購入してみて、その実情を検証してみます。

  • 互換バッテリーの中身を開封して分解検証
  • 互換バッテリーは表記のバッテリー容量と実際のバッテリー容量が異なる
  • 急速充電や大電流放電に対応したリチウムイオンセルを使用していない
  • 良いセルを搭載していても互換バッテリーの保護回路が危険
  • 互換バッテリーの仕様は電動工具の使用に適しておらず、ユーザー側で検証する方法も限られているため、互換バッテリーの安全は保証できない。

電動工具のバッテリーには高い放電性能が求められている

前回の記事で解説しましたが、電動工具のバッテリーには、モバイルバッテリーやノートパソコンに使われるバッテリーよりも高い性能が求められています。

電動工具に使われるバッテリーは、数十分で放電してしまう高負荷な作業から、軽い負荷で長時間放電する用途など様々な使用方法が想定されています。そのため電動工具などに使われているバッテリーには大きな負荷が掛かる場合でも安全・確実に電力を供給できる高性能なセルが採用されています。この条件を満たせる高性能で高価なセルを採用せざるを得ないのが現状です。

しかし、ネット通販などで販売されている互換バッテリーは、電動工具の純正バッテリーとは比べ物にならないほど安い価格で販売されています。これは一体何故なのでしょうか。

なぜ互換バッテリーは安いのか、理由を考える

互換バッテリーは、主に通販サイトによって販売されており、電動工具メーカー純正のリチウムイオンバッテリーよりも安価な価格で販売されています。

現在、電動工具に使用されている高出力なリチウムイオンバッテリーは、EV車・電動バイク需要から市場価格が高騰しており、原料のレアメタルの高騰も重なって値上がりが進んでいる状態が続いています。

一般的に、電動工具用のバッテリーは高容量・高出力のグレードの高いリチウムイオンバッテリーを採用していて、販売価格も一般的なリチウムイオンバッテリーより高い傾向にあります。

推測として、通販サイトで安価な価格で販売されている互換バッテリーが価格を安くできる理由としては、下記の3点が考えられます。

  • 容量を偽って販売(6.0Ah表記だが実質4.0Ahなど)
  • 高レート充電・大電流放電に対応していない安いバッテリーセルを採用している
  • EVや電動バイクのバッテリーを電動工具用にリサイクルしている

リチウムバッテリーにおいて、予想される最悪のケースは、2番目の「高レート充電・大電流放電に対応していない安いセルを採用」していた場合です。この場合、電動工具の使用に適していないため実際に使うと高いリスクが発生します。

電動工具用リチウムイオンバッテリーを供給する3社

リチウムイオンバッテリーを製造するメーカーは世界各地に多数存在しますが、電動工具メーカーにリチウムイオンバッテリーを供給する企業は少なく、大手電動工具メーカー向けには主に下記の3社がリチウムイオンセルを供給しています。

  • SAMSUNG SDI
  • 村田製作所(2017年にソニーエナジー・デバイスを買収)
  • LG Chem

電動工具用バッテリーの開発はハードルが高く、屋外利用主体で氷点下から50℃を超える環境に対応しなければなりません、さらに大容量・高出力性を必要とするため、ハイグレードなリチウムイオンセルを採用しています。

このような高性能セルを開発できるメーカーは限られていて、高いシェアと持ち最先端研究を行うメーカーだけが高出力電動工具用バッテリーを供給しています。

過去の国内企業ではPanasonicやMaxellなども電動工具向けリチウムイオンバッテリーを供給していましたが、現在はモバイル向けバッテリー開発やEV向けの開発にシフトしています。

互換バッテリーを分解してセルの種類を確認

互換バッテリーの開封

今回の検証では、互換バッテリーを分解して中に組み込まれているリチウムイオンバッテリーセルの種類を確認します。

電動工具に採用されているバッテリーセルは、18650サイズと呼ばれる円筒型のセルで、ラベルにはリチウムイオンセルの品名が記載されています。この品名からバッテリーセルの「用途」「容量」「最大充電電流」「放電容量」などの仕様を確認します。

Amazonには色々なメーカーから互換バッテリーが販売されていますが、今回はレビュー件数が多く評価も良かった2社の互換バッテリーをピックアップして実際に購入してみました。

また、本記事は中国ブランドの互換バッテリーを検証していますが、国内企業が販売する互換バッテリーの検証も別記事で行っています。興味のある方はご覧ください。

※リチウムイオンバッテリーの分解は大変危険です。ショートやセルの損傷により火災の原因になるので真似しないでください。

①M社 マキタBL1860B互換バッテリー 結果:電動工具非推奨

電動工具互換バッテリー

2018年10月のレビュー評価で1位だったM社製のマキタ互換バッテリーを検証します。

ケース外観はマキタの純正バッテリーとほぼ同じ寸法のバッテリーケースです。ラベルには6.0と記載されていますが、Ahの単位が記載されてないので、ある意味で表現上の抜け道になっているのかもしれません。

電動工具への装着感については、スライドや端子の位置が少しずれているため、途中で引っかかってしまい、非常に強い力で押し込まないと装着できませんでした。この時点でバッテリーの端子を傷つけてしまうので割とアウトですが、充電・放電自体は可能でした。

電動工具互換バッテリーの分解
セルを取り出して品名を確認する。品名はINR18650Pと記載されていた。

分解してみるとバッテリーセルのメーカーは中国メーカーの製品で品名はINR18650Pでした。紙に巻かれているセルと巻かれていないセルがあり、包装の有無によって極性を確認しているようです。

写真からわかるように、ラベルには7.4Whと記載されています。この時点で7.4Wh/3.6V=2.0Ahと計算できるので、2セル並列構成で4.0Ahになり表記の6.0Ahバッテリーの容量とは異なります。

バッテリーセルのデータシートを検索してスペックを確認すると、1セル当たりの容量はラベルの表記通り2000mAでした。このバッテリーの容量は2並列構成だとバッテリー容量4.0Ahになります。これはケースに記載された「6.0」の表記と差異があります。

さらに、データシート上の「Max Charge Current(充電電流)」「Max Peak Discharge Current(放電電流)」の項目を確認すると、充電レートが1C(4A)と記載されており、マキタの急速充電器で充電すると過電流状態で充電されることが判明しました。

k-tech INR18650P 2.0Ahデータシート
データシートを確認したところ、MAX Charge Current(最大充電電流)の項目が1C(2000mA)となっていた。この互換バッテリーは4000mAまでの充電電流しか許容できず、DC18RCなどの急速充電器では充電してはいけない。

マキタ純正の充電器はDC18RCで9.0A充電、DC18RFで12.0Aの充電電流を行っているため、この互換バッテリーを純正充電器で充電すると過電流充電になり危険です。

②D社 マキタBL1860互換バッテリー  結果:電動工具非推奨

電動工具互換バッテリー

次はD社のバッテリーです。先ほどのM社のバッテリーとは微妙にバッテリーケースの寸法が異なるようで、装着もスムーズで、しっかりとした取り付けができました。

蓋を開けたところ、制御基板は①のM社の物と同一のものでした。互換バッテリーの保護基板は同じ設計の回路が普及しており、複数の中国基板ベンダが互換バッテリー業者に販売しているものと考えられます。

バッテリーセルの品名確認ですが、全て厚紙に覆われていたため品名を確認するのにも一苦労でした。3本目にしてやっと刻印が記載されているセルに当たりましたが、セル製造元は記載されておらず詳細は分かりませんでした。

互換バッテリーの分解
品名の20Rだけは確認できたが、製造元までは判明しなかった。ちなみに20RはSAMSUNG SDIで同名のシリーズが展開されている。

唯一の手がかりとなりそうなのが「18650-20R」と記載された品名です。

20Rは、Samsung SDIが販売している高出力用途のリチウムイオンバッテリーセルの品名です。Samsung純正品であればラベルにメーカー名が記載されるため、同仕様のコピー品と推測されます。

この件についてSamsung SDIに問い合わせたところ、「情報だけでコピー品かどうかの判別は出来ないが、Samsungロゴを記載していないセルも支給している場合があり何とも言えない」と回答がありました。

Samsung SDIの20Rと完全に同仕様であれば、セル当たりの最大充電電流は2C(4000mA)になります。このバッテリーパックの構成の場合であれば、充電電流は8Aまで許容できるため、M社のバッテリーよりは安全かもしれません。

直接構成のリチウムイオンバッテリーで全セル電圧監視を行っていない

互換バッテリー保護回路の想像図
[図クリックで拡大]

2つのバッテリーに共通した危険性が「セル毎の電圧監視がない」点です。

リチウムイオンバッテリーの充電は最大充電電圧を超えると危険性が高くなり、容易に発火や破裂などを引き起こす状態となります。

電圧を高くするために直列で構成されているリチウムイオンバッテリーの場合、セル間の電圧バランスが崩れることによる過充電や過放電を保護するためにリチウムイオン保護ICの組み込みが原則で、リチウムイオンバッテリーには何重にも安全機能を備えた保護基板を搭載するのが一般的です。

これらの互換バッテリーには、セル毎の電圧監視機能が搭載されていないため、セル過充電による発火リスクが非常に高くなっているものと考えられます。

niteの互換バッテリー火災事故報告

独立行政法人 製品評価技術基盤機構(nite)では2020年1月に非純正リチウムイオンバッテリーの製品事故をプレスリリース1を公開しています。

2018年から充電式の電気掃除機や電動工具の事故が急増しており、その大半が事業者の指定する純正バッテリーではなく、互換バッテリーと呼ばれる非純正が原因であったことを指摘しています。

独立行政法人NITEの令和元年度事故情報収集結果(R01年度第2四半期)で公開されているマキタ電動工具互換バッテリーの事故調査報告。明確に「セルアンバランスを検知する回路が無い」と記載されており、バッテリーとして根本的な欠陥が指摘されている。[クリックで拡大]
Screenshot

急増!非純正リチウムイオンバッテリーの事故
~実態を知り、事故を防ぎましょう~

2018年度から2019年度にかけては、充電式の電気掃除機や電動工具の事故が急増しています。事故の多くは、事業者の指定する純正バッテリーではなく非純正バッテリー※5で発生した火災事故です。非純正バッテリーの事故は初回充電時や購入後1年未満に多く発生しています。

互換バッテリーの高い発火リスク

通販サイトで評価の高かった互換バッテリーを購入してみましたが、残念ながら今回検証したバッテリーの中に、純正品相当として使用できる互換バッテリーはありませんでした。

特に、懸念していた最大充電電流については致命的です。

急速充電器で充電した場合、バッテリー設計上の最大電流値をオーバーしているため、バッテリーそのものの安全性が失われている状態になっています。

レビューで良く見かける「互換バッテリーはすぐ使用できなくなる」理由の一つには、バッテリーセルの充電電流条件を満たしていないためと考えられます。 安全弁が開放されてバッテリーが使用不能な状態になるならまだ良い方で、最悪の場合は発煙・発火等の危険性も考慮しなければなりません。

バッテリーは単純に「放電できた」「充電できた」だけでOKとなる製品ではありません。ユーザーが要求する性能を満たし、十分な安全性が継続的に保証されたバッテリーでなければいけません。

バッテリーセルの仕様と用途が根本から違っている以上、非常に高いリスクは考慮しなければなりません。製品的な事故だけではなく「工期間際で急にバッテリーが使えなくなったら?」「急に発火して現場検証で作業が止まってしまったら?」等の運用的なリスクも考える必要もあります。

互換バッテリーの使用は発火リスクが高い

今回の検証内容から、互換バッテリーが安い理由は「容量詐称、及び低レート充電セル」を採用しており、低コストバッテリーを採用しているためと判明しました。

急速充電を許容できないバッテリーセルを採用しているは大きな問題です。急速充電に耐えられないバッテリーセルでは、大きな充電電流を受け入れられずにバッテリー内部で変質が発生し、セル破損のリスクが高くなり早期のバッテリー故障を引き起こし、最悪の場合熱暴走からの発火にまで至る可能性も考えられます。

電析が起こる原因と条件 起こさないための対応策は?|電池の情報サイト
http://kenkou888.com/category18/%E9%9B%BB%E6%9E%90_%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E6%9D%A1%E4%BB%B6.html

充電器も注意、急速充電器で使うと危険性が上昇

互換バッテリーは急速充電非対応のセルを搭載しているので、マキタ純正の急速充電器を使用するのは危険です。マキタ最新の急速充電器DC18RFでは最大12A充電、一世代前のDC18RCでも9A充電で充電を行っています。

今回の検証によって互換バッテリーが許容できる充電電流は4A~8Aと判明したので、純正の急速充電器には対応できません。もし充電してしまうと、しばらくの間は普通に使用できていても、急速にセル内部の変質と劣化が進み、良くても充放電不可、最悪のケースで発火の可能性が考えられます。

使用する充電器に関しては一部の互換バッテリー販売ページでは「DC18RF使用禁止」と書かれている場合があり、ページに書かれていなくても購入後に「DC18RFに使える?」と聞くと「使えない」と回答されることもあります。

ちなみに、「制御基板側で充電電流がセーブされていて低電流充電されるのでは?」とも考え、実際にDC18RCの充電電流も測定してみましたが、DC18RCの最大充電電流の9.0Aで充電されていました。危なかったので充電器からすぐ取り外しました。

互換バッテリーの充電電流測定
互換バッテリーの制御基板には充電電流を少なくするための仕組みが入っているのでは?とも期待したが、DC18RCの仕様上の最大電流9Aで充電されていた。データシート上では、このバッテリーの充電電流は4.0A以下でなければならないため、この状態で充電を続けるのは非常に危険。

純正急速充電器がダメなら互換充電器を使えばいいんじゃないか、とも考えてしまいますが、互換充電器も互換充電器で充電動作に怪しい部分があり、互換バッテリーに搭載している保護基板も保護動作が完璧ではないので色々と危険です。それ以前に、純正品ではない互換品同士を組み合わせたリチウムイオン充電は最も危険な行為なので絶対に止めましょう。

互換バッテリーのオススメメーカーは存在しない

「互換バッテリーの中には純正品相当で安全に使えるバッテリーもあるんじゃないか」と思う方も多いと思いますが、互換バッテリーは販売元の身元や保証が不明確な実態が多く、おすすめと言えるメーカーは存在しません。

令和2年度製品安全業務報告会の電動工具用互換バッテリー調査では、ネット通販で販売されているマキタ互換バッテリーの大規模な試買調査が実施されました。

全12種の互換バッテリーを分解調査で、11試料が当サイトの互換バッテリー検証と同じ結果になり、残りの1試料では電圧監視一切なしと報告されています。

互換バッテリーは何年も前から販売されている製品ですが、Amazon販売ページ「取扱開始日」を見るとほとんどの互換バッテリーが1年以内の取扱開始と表記していています。低評価レビューや大きなトラブルが発生すると販売ページ・ストアフロントページごと削除して製品評価を初期化するため、発火トラブルや不良の情報を製品レビューから見ることはできません。

純正品相当の互換バッテリーの存在を否定する訳ではありませんが、同一販売元による継続的な販売が保証されておらず、セルのラベル自体偽装されてしまうと判別が難しい問題があります。純正品相当の安全性が確保された互換バッテリーがあったとしても、ユーザーがそれを判別することはほぼ不可能です。

製造物責任法上の輸入事業者の実態も不明確であり、互換バッテリーの製品事故がありながら多くのユーザーが泣き寝入りしている実態が改善されない以上、推奨できるような互換バッテリーメーカーは存在しないと評価しています。

それでも互換バッテリーを安全に使い続ける方法

さて、ここまで互換バッテリーの危険性は解説しましたが、この記事を見ている方などは既に互換バッテリーを使っている方もいると思います。購入してしまった互換バッテリーはどうすれば良いのでしょうか。

互換バッテリーは電動工具の大電流充放電に適していないセルを採用しているので、低電流での使用に限ればある程度のリスクは抑えられます。

互換バッテリーでは大きな放電電流を必要とする丸ノコやグラインダー等の使用は控え、ライトやラジオなどの負荷が少ない製品へ使用にとどめた方が良いでしょう。

また、充電電流が低いマキタDC18SDやHiKOKI UC18YKSLなど低電流充電の充電器の使用に限れば、互換バッテリーの充電電流の条件は満たすことができます。

ただし、互換バッテリーの保護基板に問題があるのも確認しているので、セルアンバランスからの過充電発火に対しては高いリスクが残っています。互換バッテリーを使用する場合は充電時に決して目を離さず、容量不足やパワー低下など少しでも違和感があった場合はすぐに廃棄するのをおすすめします。

ちなみにリチウムイオンバッテリーをゴミ箱に廃棄するのは危険なので絶対に一般ごみとして捨ててはいけません。2

互換バッテリーに関しては、JBRC非加盟のメーカーが多く、廃棄方法に関してもクセのある製品です。この点に関しては後日また解説したいと思います。

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参考資料

脚注

  1. 急増!非純正リチウムイオンバッテリーの事故~実態を知り、事故を防ぎましょう~
  2. リチウムイオン電池の適正処理について|環境省環境再生・資源循環局
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