2014年2月9日の記事では,職業別の生涯未婚率を明らかにしたのですが,この記事は本ブログの中で一番読まれています。このようなデータはあまりないため,多くの人の関心を引いたのだと思います。
はて,なぜ職業によって未婚率が異なるのか。個々人の自由意思の総和が偶然そうなっているだけだ,という説明は到底成り立ちません。言わずもがな,各職業が得る富量や威信(prestige)が大きく影響しているとみられます。とりわけ男性にあってはそうでしょう。
それぞれの職業の威信は数値化が難しいのですが,各々が手にする富量は年収という指標で可視化できます。今回は,「就業構造基本調査」の職業中分類の統計を使って,年収と生涯未婚率の相関図を描いてみようと思います。わが国の結婚市場の現実を明らかにする作業の一つです。
私はまず,2012年の「就業構造基本調査」のデータを用いて,有業男女の職業別の平均年収を計算しました。本資料に載っている年収階層の度数分布(下記サイトの表35)から,独自に割り出しました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search
次に,有業男女の生涯未婚率を,同じく職業別に明らかにしました。生涯未婚率とは,字のごとく生涯未婚のままに留まる者の出現率ですが,統計上は50歳時点の未婚率で代替されます。この年齢以降は,結婚する者はほとんど皆無であろう,という仮定を置くわけです。5歳刻みの官庁統計から出す場合は,40代後半と50代前半の未婚率を平均するという便法がとられます。上記サイトの表25のデータを使って,職業別の数値を算出した次第です。
下の表は,このやり方で明らかにした,職業別の平均年収と生涯未婚率の一覧表です。職業従事者の総数が1万人に満たない職業は,分析から除外しています。「**」がそれです。これを除いた,男性の66職業,女性の62職業が分析対象です。
生涯未婚率は,職業によって大きく異なります。男性でいうと,最も低いのは鉄道運転従事者の2.2%で,医師の3.6%,管理的公務員の4.2%がこれに次いでいます。安定していて高年収・・・。分かるような気がしますねえ。
しかし女性は様相が違っていて,たとえば医師の生涯未婚率は19.3%と高い部類に入ります。ほか,黄色マークを施した情報処理技術者,法務従事者,記者・編集者なども,ジェンダーの差が大きくなっています。
さて,ここでの関心は職業別の年収と生涯未婚率の関連を明らかにすることです。上表のデータをグラフで可視化してみましょう。まずは男性から。横軸に年収,縦軸に未婚率をとった座標上に66の職業をプロットすると,下図のようになります。
ほう。年収が高い職業ほど未婚率が低いという,右下がりの傾向が観察されます。相関係数は-0.632であり,1%水準で有意です。男性にあっては,未婚率の職業差は,年収を介したものであることが知られます。
女性のほうはどうでしょうか。62の職業を同じ座標上に散りばめてみました。
女性にあっては右上がりです。傾向としては,年収が高い職業ほど,未婚率が高い。相関係数は+0.424であり,62というデータ数の上では,1%水準で有意と判定されます。
誰もが肌感覚で感じている,以下の傾向がデータで実証されました。
・男性は,年収が高い職業ほど未婚率が低い。
・女性は,年収が高い職業ほど未婚率が高い。
家庭を持つなら,「男が養うべし」「女は主たる家計支持者になるべからず」というような,明にも暗にも蔓延っているジェンダー観念の可視的な表現といえるでしょう。
しかし,それが時代にそぐわなくなっていることは,よく指摘されること。一馬力ではなく,二馬力でないと到底やっていけない時代です。国際的にみるなら,主たる家計支持者の半分が女性という社会もあり。わが国の現況は,いろいろな軸において,絶えず相対視されねばなりません。
https://twitter.com/tmaita77/status/465008131622191104
女性のクリエイター系(美術家,編集者等)の生涯未婚率が高いことも気になります。女性にあっては,結婚生活と創造的仕事の両立は難しい,結婚によって貴重なタレント(才能)が潰される現実にある,ということの証左ともいえましょう。
他にも,今回のデータから読み取れることは多々あろうかと思います。グラフの元データも添えて,資料として提示しておくこととします。