「アドビ システムズ日本法人でのチェンジマネジメント」のオファーを常務から受けた翌日、2015年7月23日の朝の通勤路の風景を、私は今でもくっきりと思い出せます。梅雨明けの青い空から突き刺すような強い日差しが降り注ぐ中、通勤路である都内の川沿いをずっと一つのことを考えながら歩いていました。

過去の面談情報から、変革の阻害要因を推測してみる
「米国や欧州ではアカウントマネジメント部はすべてカスタマーサクセスマネジメントという部門になっているのに、なぜ日本だけができていないのか」という疑問でした。
「日本だけができていない」ことには理由があり、その阻害要因を考えるほど「なぜ?」が次々に湧き上がってきました。そして何か分からないけれど阻害要因という回り続ける大きなスクリューに、自分の思考がかき回される錯覚に陥ったことを覚えています。
そしてオフィスに着くころには、真夏の暑さでかいた額の汗よりも、脳から汗がダラダラと流れ続けたような疲労を感じていました。「5分も考えて答えが出ないならそれはもう悩みになっているし、考えるのはやめよう」と割り切ってはみたものの、気持ちは晴れません。
そして、あるとき「ファクトは自分の脳内には無い。ファクトはクライアント、メンバー、会社内のいずれか、その組み合わせの中にある」という考えにたどり着きました。ヒントになったのは、オフィスのあちこちに張られた「チェックイン」というアドビ特有のキャリア面談を促進する社内啓蒙ポスターでした。
アドビのチェックインは、マネジメントとメンバーが継続的に実施する、形式にとらわれないリアルタイム型フィードバックの仕組みで、キャリア面談のフレームワークとして使われていました。そこではメンバーのキャリアステップの意欲とそこに至る主体性を尊重します。
この結果、アドビ社はグローバルで自主退職の割合を30%引き下げ、78%の従業員から「マネージャーからのフィードバックに対して常にオープンである」という意見を得られるようになっていました。私はこのチェックインに目を付け、チェンジマネジメントの対象となる「アカウントマネジメント部」のドキュメントに目を通しました。ここで着目したのは「変革を受ける側の志向(モチベーション)」だったのです。