技倆（うで）不錯（たしか）　陸續（つぎつぎ）列（なら）ぶ　"菜（めし）"の碟（さら）　質問（き）けば卽答（こたへが　すぐさまかへる）　　 : 中国茶寮 一華

"味神樣（あぢがみさま）"の招集（ひとこゑ）に靡（なび）き、
六年（むとせ）ぶりの『一華』。
"菜系（ちすぢ）"不詳（つまびらか）ならねど、手煆煉（てだれ）の師傅（おやかた）。
その名（な）、"原田純二（はらだじゆんじ）"と喚做（よびな）す。

一同（みな）が揃（そろ）ふまで、
食桌（めしづくゑ）の"瓜子（たね）"を喙（ついば）む 。
"南瓜子（ぼうぶら）"、"西瓜子（すいか）" 、"瓜子（たね）"に多樣（さまざまあ）れど、
當日（このひ）は"葵瓜子（ひまはり）"。

"向日葵（ひまはり）"、"こまはり"、"美濃尾張（みのをはり）"。
"時辰儀（とけい）"の針（はり）は"偸兒廻轉（ぬすびとまはり、Clockwise）"。
軈而（やがて）、
半晌（はんとき）ほどで全員集合（みながあつまり）、醼（うたげ）の開始（はじまり）。

劈頭（いやさき）の【冷盤（さきづけ）】ゟ（より）、
掉尾（いやはて）の【甜點（あまみ）】まで、一無不味（あぢあしきものなし）。
食材（なか）には、"龍鰕（かまくらえび）"、"雲紋石斑魚（くゑ）"、"魨（ふぐ）"、など、
貴價（ねのはるもの）も、、。

元來（もとより）、
"魨胾（てつさ）"、"魨鍋（てつちり）"は東瀛（こちら）固有（ならでは）のものなれど、
"川（しせん）"、"粤（くわうしう）"など震旦（もろこし）の烹調法（て）を加（くは）へ、
唯一無二（ほかにな）き菜（もの）に、、。

その精麁巧拙（よしあし）、
鐵面（あつかま）しも輕々（かるがるし）く評論（かた）るを躊躇（はゞか）る。
何者（なんとなれば）、夏華（もろこし）の"菜（もの）"でも、
豐葦原瑞穗國倭（とよあしはらみづほのくにやまと）の"食（もの）"でもなければなり。

居多（あまた）鮮美（よきあぢ）ある中（うち）、
殼（から）まで饕餮（むさぼ）り盡（つ）くせし"炒龍鰕（かまくらえび）"。
半點（いさゝか）濃厚（こいめ）ながら、複雜玄妙（あやしくもたへ）なる味（あぢはひ）。
「如此如此（かくかくしかじか）の調劑（あぢつけ）にて、、」とはこの亭主（あるじ）。

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【暗匣】：富士膠片（Fujifilm）X-T5 無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡珠】：福倫達（Voigtländer）MACRO APO-ULTRON 2/35 @F2～2.8
　　　　　安徽長庚光學（Venus Optics）老蛙（LAOWA）4/10 Cookie @F8
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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony） α7 II　無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Pancolar 1.8/50 @F2 ※2017-07

近會（ちかごろ）、頓（とみ）に人口膾炙（うはさ）の『一華』。
掌柜（あるじ）、原田純二（はらだじゆんじ）師傅（おやかた）は、
豐後國（ぶんごのく尓）に生（む）まれ、
畿内（あちら）にて修業（わざをならひおぼえ）、東遷（あづまのちにうつりぬ）。

當地（こちら）に店舖（みせ）を構（かま）ふるまで、
雌伏（みをやつ）し、童蒙（わらんべ）相手（あひて）に技倆（うで）を振（ふる）ふこと、
大約（およそ）七年（なゝとせ）。
滿（まん）を持（じ）ゝての開業（みせびらき）は去年（こぞ）の八月（はちがつ）。

茲（こゝ）で、會得（みにつけ）たる"菜系（さいけい）"を質問（たづ）ぬるに、
「滬菜（シャンハイ）は不案内（よくしるところにあら）ねど、
粤菜（カントン）、川菜（シセン）、京菜（ペキン）は、自家藥籠中（わがもの）に！」
と、大（おほ）いに胸（むね）を張（は）る。

さらに續（つゞ）けて、
「廣東（クワントン）、香港（ホンコン）、臺灣（タイワン）には、
足（あし）運（はこ）びたる經驗（ためし）あり。
さすれば、その影響（わざとちからをう）くること一方（ひとかた）ならず。」とも、、。

「四大菜系 （よんだいさいけい）」と云ふなら、
蘇菜（そ）、粤菜（ゑつ）、川菜（せん）、魯菜（ろ）の四（よ）つ。
本朝（わがくに）で「滬菜（さんはいれうり）」と喚做（よびな）さるゝものは、
蘇菜（そさい）、浙菜（せつさい）などを總稱（まとめたるよびかた）。

同樣（おなじ）く、
扶桑（わがくに）で「京菜（ぺきんれうり）」と呼（よ）ばるゝものは、
魯菜（ろさい）、宮廷菜（きゆうていさい）、清眞菜（せいしんさい）、
などを總稱（まとめたるよびかた）。

夏華（もろこし）では、
蘇菜（そ）、粤菜（ゑつ）、川菜（せん）、魯菜（ろ）に、
浙菜（せつ）、閩菜（もん）、湘菜（しやう）、徽菜（き）を合（あ）はせ、
「八大菜系（はちだいさいけい）」とするが慣習（ならはし）。

震旦（もろこし）に源流（みなもと）を持（も）つ見世（みせ）は、
『家全七福』なら"粤菜（ゑつさい）"、『趙楊』なら"川菜（せんさい）"、
と云ふ工合（ぐあひ）に、
明白（あきらか）なる馬印（むまじるし）顯示（しめ）すが尋常（つね）。

しかるに、本邦（わがくに）では、
それを明（あ）かさぬ菜館（めしや）が大半（あらかた）。
菜譜（こんだて）に"麻婆豆腐（あれ）"と"北京烤鴨（これ）"を列（なら）べ、
"咕嚕肉（すぶた）"に鎭江香醋（くろず）を用（つか）ふ。

當家（こちら）もまた、その傾向（かたむき）あり。
師傅（つくりて）も客（たべて）も、瑞穗國大倭人（みづほのくにおほやまとびと）。
加旃（しかのみならず）、かゝる邊鄙（かたゐなか）の小（ちい）さな舖（みせ）。
何（なん）でふ、敢（あ）へて旗指物（はたさしもの）背負（せお）ふべき哉（や）？

案下某生再説（それはさておき）、
この日（ひ）の點菜（しなえらみ）。
「水餃子（すいぎやうざ）は"紅油水餃（たうがらしあぶらのぎやうざ）"」
なれど、「手打（てう）ちに非（あら）ず」

鍋貼（やきゞやうざ）ならいざ知（し）らず、
水餃（すいぎやうざ）の皮（かは）ハ手打（てう）ちに限（かぎ）る。
廚（くりや）の豆瓣辣醤（からしいり、そらまめみそ）も、
郫縣豆瓣醬（ひけんそらまめみそ）ならで陳腐（ありきたり）のもの。

已（や）むことを得（え）ずして、
"咕嚕肉（すぶた）定食（ていしよく）"なるものを選擇（えらむ）。
甜點心（くわし）二品（ふたしな）を追加（くは）へ、
對價（あたひ）、一千百五十圓也（いつせんひやくごじふゑんなり）。

俟（まつ）ほどに、件（くだん）の品（しな）が此方（こなた）に、、。
玄（くろ）き盆（ぼん）の、歪（ゆが）み、撓（たは）むこと、
豪雪（おほゆき）の番傘（ばんがさ）、
鎭西八郎爲朝（ためとも）の彎（ひ）く強弓（こはゆみ）に異（こと）ならず。

"咕嚕肉（すぶた）"には、
菹（つけもの）、小碟（こざら）、湯（しる）、米飯（こめのいひ）が附（つ）く。
醬菜（つけもの）は、醤芹菜（セロリしやうゆづけ）。
花椒（かほくざんせう）香（かほ）る醬蘿蔔（すゞしろしやうゆづけ）のごときもの。

小碟（こざら）は毛豆（えだまめ）。
心持（こゝち）よきほどに辣椒（たうがらし）の辣（からみ）が附加（くは）ゝる。
湯（しる）はかの"蕃茄蛋湯（あかなす・かきたまじる）"。
鹵（しほけ）も過（す）ぎず佳味（よきあぢはひ）。

扨（さて）、"咕嚕肉（すぶた）"：
米酢（よねず）に醬油（しやうゆ）などの作料（てうみれう）を用（つか）ひ、
具（ぐ）は、
豬肉（ぶたにく）、洋葱（たまねぎ）、紅椒・青椒（あかあをピイマン）と云ふ陣容（かほぶれ）。

洋葱（たまねぎ）には適切（ほどよ）く火（ひ）が入（とほ）り、
甜（あまみ）溢（あふ）れつ、なほ、齒應（はごた）へをも留（とゞ）む。
然（しか）るに、
青椒（ピイマン）は、半點（いさゝか）過剩（すぎ）たる火候（ひいれ）歟（か）？

かゝる蔬菜（あをもの）、
滑油（あぶらどほし）により、
能（よ）く、顏色（いろみ）と食感（はごたへ）を兩立（ふたつながらにならびたゝす）。
とは云へ、どれもこれも、おしなめて上等（よ）き味（あぢはひ）。

倩（つらつら）、
"正宗杏仁豆腐（ほんばのきやうにんどうふ）"の風韻（かをり）を聞（き）くに、
南杏（なんきやう）固有（ならでは）の芳香（かぐはしきかをり）に缺（か）け、
北杏（ほくきやう）特有（ならでは）の甜（あまみ）も薄（うす）め。

掌柜（あるじ）、
小人（それがし）の質問（とひ）に應答（いらへ）て曰（いへら）く、
「杏仁（あんずのたね）は不使用（つかひをりませぬ）。」
「その縁由（ことのよし）、種子過敏症（たねアレルギ）を懼（おそ）れてのことなれば、」

實（げ）にも！
これぞ、童蒙（わらんべ）相手（あひて）の七年間（なゝとせ）の親切心（おもひやり）。
賓（まらうど）を慮（おもんばか）り、
その嗜好（このみ）を知（し）り、菜（れうり）に活（い）かすが吉（よし）。

惜（を）しむらくは、白酒（もろこしせうちう）なきこと。
やはり、宴席（うたげ）にこれを虧（かく）は、
宛然（あたかも）、佛（ほとけ）の眉間（みけん）に白毫（しらが）なく、
與太者（よたもの）が背（そびら）に唐獅子（からじゝ）の文身（ほりもの）なきがごとし。

老板（あるじ）、
小人（それがし）と同樣（おなじく）、
蛙（かいる）、蛇（くちなは）餐（くら）ふを愛好（このむ）。
加旃（しかのみならず）、能（よ）く皮（かは）の美味（うま）さも知（し）る。

三河（みかは）の淺蜊（あさり）と、
身（み）・皮（かは）の間（あはひ）に旨味（うまみ）を有（も）つは、
魚（うを）、獸（けだもの）、鳥（とり）、水果（くだもの）、
永劫不變（とこしへにかはら）ぬ普遍的眞理（いづこもおなじものゝことわり）。

東道（あるじ）、
西土（もろこし）の食（たべもの）を通（よくし）りながらも、
摸倣（まね）を嫌（きら）ひ、
敢（あ）へて、川（せん）・粤（ゑつ）混淆（いりまじり）も躊躇（ためら）はず。

原田師傅（はらだおやかた）：
その眼精（まなこ）は覇氣（やるき）を宿（やど）して光輝（ひかりかゞや）き、
その舌（した）は朴訥（たどたど）しくも熱（あつ）く語（かた）り續（つゞ）けて、
秋毫（つゆ）停止（とゞ）まる兆（きざし）なし。

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【照相機】：東京通信工業 索尼（Sony） α7 II　無反光鏡可換鏡頭照相機（みらーれす）
【鏡頭】　：東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Pancolar 1.8/50 @F2～F4
　　　　　　東蔡（Carl Zeiss Jena）MC Flektogon 2.8/20 @F8