思う存分、黄金の焼き団子を : 伊勢屋

和菓子はコーヒーにとても合う、と思っている。
涼しくなると、尚更、熱いコーヒーとスイーツの組み合わせに罪悪感を感じづらくなる。
今日なんか、終日秋雨にかなり冷えた気がして、失ったカロリー補填を言い訳に、伊勢屋が誇るお団子を購入してきた。

伊勢屋はおにぎりとおはぎ、そしてこのおだんごが不動のレギュラーメニュー。
春夏秋冬、これらは変わることが無い。
だんごは、『焼き』と『餡』のふたつのみ。
お互い全く浮気しない鴛鴦コンビのように２つの味覚がガラスケースに積み上がっている。

相当高齢になるはずだが、ご主人と奥様は今日は一段と元気そうだったので、こちらまで元気のお裾分けをいただいた。
思わず多めに買ってしまったのは言うまでもない。

このお店の焼き団子は、所謂みたらし団子な訳だが、全くと言っていいほど飽きが来ない。
美しい鼈甲のようなタレの色合いが、定期的にリピーターとして戻ってこさせるポイントかもしれない。
そのみたらしダレは、砂糖と醤油のバランスが程よくて、しつこい甘じょっぱさや田舎っぽさもない。

ご主人に、お店の創業に纏わるストーリーを伺ったことはないけど、少なく見積もっても50年近くこのエリアで続けてこられたのではないだろうか。
開店以来、マイナーチェンジこそあれ、基本の焼き団子は姿を変えず、街の人を魅了してきたのだと思う。

ご夫妻と話す度に、最近の物価高が話題に出る。
この２年間の間におだんごは90円から110円に。
昔ながらの高齢のお客様に、お詫びしている誠意を目にする度に、社会の不条理を感じざるを得ない。

今の円安と労働力不足では仕方ないんだけど、値上がりスピードに驚く。
こんな小さくて良心的なお店は、値上げせざるを得ない現実にさぞかし苦労しているだろうと思い、店主に訊ねてみると、予想通りの答えが返ってきた。
お稲荷さん、２年前は70円でした。それが今や90円から100円に。
これまでが、安過ぎたと言ってしまえばそれまでなんだけど、伊勢屋のお団子やおにぎりを楽しみにしているオールドファンの高齢者には重たかろう。
これまでお腹の足しにあまりならないと思って、あまり購買記憶がないお稲荷さん、久々にトライしてみた。甘じょっぱいタレに童心に帰りそうな思い。
毎回、伊勢屋のごはんモノシリーズは米がしっかりしてると書いてるけど、そのご飯の旨さを引き立てるのは、こういう昔ながらの濃いい醤油ダレだな、と改めて思う。
軽くて食べやすいものばかりが持て囃される中で、頑固に守り抜いて欲しいものです。

ここのタラコおにぎりが残ってる時は、本当に嬉しい。今日は良い日だ、と一人ゴチてしまう。

おにぎりメニューどれをとっても、にぎり具合がちょうど良くて、途中で分解することもない。海苔はしっとりとおにぎりに張り付いてくれているので（本来おにぎりとはこういうものだと思ってる）、コンビニおにぎりみたいに海苔がパリパリしてる分、食べてる手元が散らかる心配もない。
毎日毎日、これだけのバラエティを数十個づつ用意するご夫妻には心から頭が下がります。
本当に伊勢屋のおにぎりと番茶が有れば、それで幸せ。

ご主人のこだわりで、ずっと新潟米を貫いてらっしゃるらしい。
おはぎも水まんじゅうもずんだテイストが必ずあるので、山形県のご出身なんだろうか、と勝手に想像していたのですが。
そう言えば、新潟名物笹団子餅がメニューに置いてあった気がした。いつか試してみよう。

お昼過ぎの石川台駅で降りることが有ると、いつも伊勢屋の前でおはぎやお団子を買い求める人の列が目に入ってくる。ここのおにぎりは絶品だっけ、と気づかされ、ついつい今日もそれで済まそう、という流れになってしまう。

天候が安定しない中、今日は絶好のピクニック日和。
中々諸事情が許してはくれないけど、偶にはランチタイムを洗足池公園などで、慎ましく心豊かに過ごしたい。そんな時、コンパクトに三角形に纏められた伊勢屋のおにぎりは最高のお供となる。

午後も２時を過ぎると、おにぎりの『在庫』は、ほぼほぼ底をついている状況。ラストのたらこと高菜をなんとか確保して、幸運な公園ランチを決め込んだ。
少しうま味調味料を感じないでもないけど、昼飯くらい炭水化物をがっつくことを赦してはもらえないだろうか。
日本のソウルフードならば、偶には糖質摂取も気にせず有り難く戴きたい時がある。

タイミングが合えば、必ず買ってしまう伊勢屋のおにぎりorおだんご。
人気の売れ筋なのか、日によって具ごとに作る量が異なるかはわからないのだが、正午過ぎには、人気のたらこ、鮭は売り切れてしまっていることが多い。

今日は偶々山菜おこわが残っていてラッキー！
餅米の山菜おにぎりはどっしりとした重量感で、他のおにぎり２個分くらいの腹持ちを期待できる。
昆布やおかかのおにぎりなんて、買うまでもない、と普段は思ってしまうのだが、子供の昔話の絵本から抜け出てきたような王道のおにぎりを自作してみて、と言われても、なかなかできるものでもない。

伊勢屋のおにぎり三つと番茶でもあれば、日本人としての醍醐味を十二分に堪能できる、そんな欲望のハードルが低い自分をいつも笑っている。

年末年始は、お餅の予約が殺到するお店。
寒い２月半ばくらいまでは、自家製の切り餅とおしるこ用のあんこを販売している。
地元の人からすると、四季折々の年中行事のようなもの。夏場には水羊羹やら水まんじゅうが店頭に並ぶ。
だんごや大福、と言えば常温でも固くなりづらい求肥を使うところが多いと思うが、このお店は一貫して100％餅米のお餅で勝負している。
本来、通常のお米を何割か足して餅米の原価を浮かした求肥の方がお店としては有難いはずなのに。
餅本来の力強い歯応えのあん団子と焼き団子は、何度食べても飽きがこない。
昨今、店主の口から『お醤油も砂糖もお米も全部価格が騰がっていますよ』との嘆きを聞かされる。
団子は２年前は90円だったのが今や110円。
逆に、よくその範囲で収めてくれているな、と涙すら出そうになる。
グルメ批評だけ念頭に置いていると、基本的な飲食店の苦労を見落とす事が多い。
国会議員ども、こういう街の希少な伝統店舗を真剣に護れよ。

時々食べるおにぎりやお稲荷さんが、好きで、よく買うのだが、ちゃんとしたレビューを書くのは初めてのこと。
ドリンクは色んな意味で対象外だが、テイクアウトできるおにぎり屋さんとしては、この伊勢屋を越えるお店を私は知らない。
最近は余り食べないけど、おはぎと焼き団子、草餅も絶品。季節に合わせて定番を送り込んでくれる街には布不可欠なお店。