逃げ出したはずの場所は。
わかりにくい専門的なお仕事をしていて
一般が好むようなゴルフや野球・サッカーなどには興味がなく、アイドルが好きだったり歴史の本ばかり読んだりするような人です。
仕事も深夜残業やらパワハラ紛いのブラックぶり。話題といえば次のゴルフとか下世話な人間関係の噂話。
こんな感じで、リアルでは話題が合う方々もなくネットに逃げてみたら
よくわからない専門的なお仕事をしている方々もいて、ちょっと話題が合ったり
アイドルが好きな方々に誘われて握手会に行って憧れのあの子に会えて感激したり。
楽しい日々だったのですが・・気づいてみたら逆になってきたようにも。
リアルではネクタイが不要になって服装も自由な雰囲気になり、絶無にはなってないけどパワハラも激減。
システム化も進んで効率化し早く帰れるようになって、更にコロナ禍で嫌な飲み会も無くなりました。
他者のプライバシーに踏み込むような詮索もなく、相互尊重の大人の人間関係ができてきたようにも感じられます。
ところが、ネットではいつも誰かが何かに怒っています。
二次元美少女に難癖をつけ罵倒する狂信的活動家。
生きづらいと苦しむ男性を嗤い、中傷する弁護士。
ちょっと落ち度が有ればスクショ晒しの集団私刑。
話が合う人がいないという点ではリアルは前のままですが、あからさまなことはほぼ無くなりました。
逃げ出したリアルは気づけば平穏になり、webではなるべく避けるようにしても、どうしても争い事が目に入る。
さて、何処に行けば良いのでしょう。
中央経済社の会計専門書での独学のおすすめ。
中央経済社、株式公開企業ですがどうやらオーナー色が強いらしく、Twitter公式アカウントを代表自らが運営して自由な発言をしている!と話題になっておりました。
kabumatome.doorblog.jp
同社は会計分野の専門書を数多く出版しております。あんまり大量に販売できる性質の書籍ではありませんが、会計を仕事にしている方々からは根強い支持がありますね。
私の会計スキル、半分くらいは中央経済社の専門書を独学することで身についたようにも思います。
中央経済社の本で独学するとしたら…ということでいくつか。
まずはこちら。
ただ簡潔に書かれているので、まったくの初学者では読みこなせないと思われます。
まずは商業簿記2級くらいまでやってからになるでしょうか。
ベテランでも折に触れ読み返せば示唆を得られるというなかなかすごい基本書です。
続いて同じく桜井久勝先生の基本書。
「講義」の方は財務諸表を作成する側向けなのに対し、こちら「分析」は財務諸表を読む側向け簿記スキルがなくても分析まで行けるように基礎から書いているので経理担当じゃない方はこっちが良いでしょう。
もともとは証券アナリスト1次試験用テキストに加筆したものです。
「講義」は毎年改定されますが、「分析」は2年に1回の改定ペースですね。
ファイナンス分野ならこちらを。
米国翻訳ものの1000頁以上の分厚いテキストに取り組んで読み切れなかった方、いきなり数式だけで説明がない薄い教科書で何度も挫折した方でも。
また、文章だけで説明しているファイナンス入門系の本でもやもやして方も。
割引現在価値から始まってCAPMとかβとかMM理論まで、数式の意味がスッキリ理解できます。
情報の経済学やガバナンス論のさわりも有り。
最近読んだので良かったもの。
経理・財務部門ではない現場の方々に向けて資本コストの意味、考え方を「ストーリー」としてどう説明したらいいのかという課題に対するヒントを得られる良いテキストです。
法人税分野では・・
会計の学習経験はあるけど、税務は触ったことが無い初任者向けとしてこちらを購入して読んでもらいました申告加減算の意味、操作ってなかなか把握できないのでまずこのあたりの易しいテキストから。
中級編では・・
ある程度法人税を学んで申告書も作ったことがある中級以上の経験者向けですが…申告ソフトのマニュアルを読んでも「なぜここに数字が飛んでくるのか?」わからなかったのがパターン別に整理されて理解できるようになる名著です。実務で経験した知識は忘れにくいとは言われますが、雑然としていて体系のなかのどのくらいの位置なのかレベル感が掴みにくいです。
仕事で実務に取り組むのと並行して定評のある基本書で地道に学習しましょう。
他にも中央経済社からは良書がたくさん出ています。
昔は毎月たくさん買っていたのですが、諸事情により書籍代も多額には振り向けられず、最近はそんなには買っておりません・・w
読んで聴けるファイナンス入門講義のおすすめ。
本日のお題はこちら。
「道具としてのファイナンス」で有名な石野雄一氏の新しいファイナンス入門書が出ておりました。本書、専門の財務担当者ではなく一般のビジネスにかかわっている方向けに、最低限の知っておいて欲しいファイナンスの知識を解説しております。
過去情報としての財務会計と未来を読むためのファイナンスの違い、利益と現金の違いから始まり、CAPMによる資本コスト算定、WACCの考え方、フリーキャッシュフローの計算、NPV、IRRとその意味など、基礎的なファイナンスの考え方が語りかけるような記述で説明されております。
花王やアマゾンなど実際の企業とその経営者の言葉を引用してファイナンスがどう経営の場で生かされているかも具体的に説明されており読者の興味を引く方法も上手いですね。
フリーキャッシュフローの算定の際に増加運転資本を考慮するのはなぜか、継続価値の計算の意味、キャッシュ・コンバージョン・サイクルの計算方法の図解など、なるほどこう説明すれば理解がしやすいのか!と膝を打つ記述もあります。
数式が登場する場面など、初心者には難しそうな個所では「著者も最初は苦労しました」「難しい個所は飛ばしてもかまいません」など配慮されており、これは数々のファイナンスセミナーをこなし支持を集めた著者と、編集者の優れた部分も感じさせます。
読んでいると、実際のライブ講義を聴いているようです。
わかったつもりの私でも「こう見れば理解できた!」という個所がいくつもありましたので、中級以上の方でも目線を変えたり、初学者の指導にヒントを得られることと思います。
「道具としてのファイナンス」と合わせて、ぜひ。
答えのない問題の「正解」を売る情報商材屋という人々について。
情報劣位にある者に、優位にある側が正しい情報をお金をもらって教える。
ここで売られているのは、情報です。
身近なところでは簿記検定や宅建試験の受験指導から、公認会計士や司法試験などの難関国家試験予備校まで、広く世の中で行われています。
これらはまっとうな商売ですし、誰も彼ら受験指導者のことを「情報商材屋だ」と呼ぶことはないでしょう。
また、大金持ちになりたい、異性にモテたい、有名企業に内定をもらいたい。
こういう「情報」を求める情報劣位にある者もいます。
こういうニーズに対しても、インターネットでは「私がその成功の秘訣を知っている」と称して、藁にも縋る思いの人々に高額な情報を売っています。
彼らはしばしば「情報商材屋」だと嫌悪され、糾弾を受けています。
資格試験予備校と情報商材屋の境目はどのあたりにあり、なぜ、後者は嫌われるのか。
自分自身でも答えが見つけられておりませんでした。
ふと考えるに、後者の「成功の秘訣」を売ると称している情報商材屋が売っているものは、たいていの場合、「答えがない」「基準が不明確」「再現性もない」などの共通項があるのではないかと。
大金持ちになるための方法は、ビジネスに最低限の基準はあれど、この世に大金持ちは少数で多くの貧困が残っていることを考えるに、万人に向く成功法はなさそうです。
異性にモテる方法など、相手も生身の人間であり好まれる性質に一般的な傾向はあれど効果と帰結はバラバラです。
大企業の採用選考も、どうように最低限の基準はありそうですが、受験者のタイプや企業別に受け入れられる方法に答えがなさそうです。
なのに、情報商材屋は「私の売る情報を買えば、必ず成功できる」とやる。
しかも、共通する一般的な傾向や最低限の基準は学校教育や社会常識で身につけられそうな部分も多く、高額な販売価格には見合いそうもありません。
価値がないものを高い値段で売りつける。
資格試験の過去問反復練習のような再現性が低いのに、「これが成功法だ」と。
人として、邪悪ではないでしょうか。
これは、繰り返される経歴詐称と情報商材屋の搾取行為を見かけて、個人的に感じたまでのことです。
被害は繰り返されておりますし、お金を払ってしまう人には届きはしないでしょう。
とりあえず、備忘までに私の考えを残しておきます。
「戦争は女の顔をしていない」のご紹介。
紙の本が長らく品切れでしたこちら、在庫が復活しておりました。

- 作者:スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ
- 発売日: 2020/02/27
- メディア: Kindle版
1941年6月、独ソ不可侵条約を破ったナチス・ドイツは、ソ連に侵攻。
300万を超えるドイツ国防軍が枢軸同盟諸国とともにいっせいに国境を越えました。
爾後、史上空前の規模の戦いがウクライナ、ベラルーシ、ロシアの大地で行われます。
当初は奇襲を受けて苦戦したソ連赤軍はモスクワ前面で辛うじてドイツ軍を食い止めます。その後、1942年冬にはスターリングラード市街戦でドイツ軍を破り、1943年夏のクルスク戦の勝利の後は完全に優位にたって1945年5月にはベルリンを陥れます。
独ソ戦(ソ連側の呼称では「大祖国戦争」)では、ソ連側は勝利したものの国土の大部分が戦場となって荒廃、多くの死者を出します。
最近の推測では、ソ連側の死者は2,700万人ともいわれています。
このような大きな犠牲を払った大祖国戦争では、男性兵士とともに100万人を超える女性兵士が出征。
それも、看護師や炊事洗濯などの後方支援だけではなく、狙撃兵や戦闘機パイロットとして最前線での戦闘にも従事したのです。
本書は、その元女性兵士たちにインタビューし、戦場での実態を聞き取りしたノンフィクションです。
ソ連崩壊前、英雄的な労農赤軍が、悪のファシスト・ドイツ*1を破り、ヨーロッパに解放と平和をもたらしたという公式史観に支配されており、生身の兵士の喜怒哀楽、戦争の悲惨さを生々しく書いた本書には出版の機会は与えられませんでした。
ロシアではソ連崩壊後の今日でも、このような英雄史観は国是であり、大祖国戦争の戦勝記念日は華々しい軍事パレードで飾らます。
男女平等の社会主義国の建前にも関わらず、戦争は英雄的な男たちの物語であり、女性兵士たちの悲惨な体験は、タブーであることに変わりはありません。
コミック化もされております。
出征した女性兵士が照準器越しにドイツ兵をとらえ、初めて狙撃、射殺して震えて泣き出してしまう場面。凄惨なパルチザン戦、捕虜虐殺、ドイツ国内に入り兵士たちへの「褒美のお土産」としてミシンを略奪してしまう場面。
また、社会主義革命によって男女平等が進んだ成果もみられます。
女性の蒸気機関車の機関士となったり、前線の総司令官ロコフソスキー元帥に「同志元帥!」と物怖じせずに呼びかけるシーンなど。
スターリン独裁下のソ連という、史上最も残虐な抑圧体制のもとで起きたナチス・ドイツとの戦い。
そのなかで人々がどのように生きていたのか。
歴史の1ページとして知っていただきたく。
かぼちゃの馬車をめぐる悪と善の逆転物語について。
本日のお題はこちら。
上京した女性に割安な家賃でシェアハウス「かぼちゃの馬車」を提供し、家賃収入は30年契約で空室が出てもサブリースで保証。自己資金不要ですべて銀行ローンで賄えます。
リスクなく副収入が得られて、ゆくゆくは派遣事業で収入を得て家賃ゼロで女性たちに住まいを提供、社会貢献にもなります・・
夢のようなスキームで、話が旨すぎる・・正常な判断力があれば、気づくはずでは・・?
周囲から見れば、こんなバラ色の話には裏があると気づきそうなものですが、騙されてしまった方々はどこかでその嘘を信じてしまい、シェアハウスの物件を見に行くことすらせずに、1億円ものローンをスルガ銀行から借り入れし、かぼちゃの馬車のオーナーになりました。
しかし、こんな旨い話が長続きするはずもありません。
30年続くはずの家賃保証サブリースは、わずか1~2年で詰まってしまい、かぼちゃの馬車を運営するスマートデイズは経営破綻状態に。
もともと割高な建築見積でローン金額の一部を抜き取られ、シェアハウス入居者の家賃では回らず、新しいカモが借入するローンが前の借り手のサブリース支払いに充てられていただけの典型的なポンジ詐欺スキームだったわけですが。
借り手はサブリースを止められ、スルガ銀行からは返済を迫られて窮し、自殺まで考えます。
しかし、そこに数々の経済事件や反原発訴訟で名を挙げた敏腕の河合弁護士が登場、これは投資の失敗による自己責任に帰すべきものではなく、スマートデイズとスルガ銀行が共謀した詐欺・不正事件だとして立ち上がります。
被害者団体の代表を務めたトム氏(仮名)のリーダーシップもあり、河合弁護士とトム氏らはこの機に乗じて二次的な金銭詐取を行おうとする不動産業者、分断をはかるキックバック受領被害者、やる気のない弁護士を躱していきます。
「敵」を資力のないスマートデイズではなくスルガ銀行に絞り、絶対に無理だといわれた前代未聞の「代物弁済的スキーム」でスルガ銀行からローン帳消しを勝ち取るまでの物語です。
本書は、小説風のノンフィクションの体裁をとっており、スマートデイズとスルガ銀行は「悪」であり、かぼちゃの馬車のローンの借り手は一貫して騙された「善」の被害者であるという構図は崩していません。
物語として読めば、詐欺にあった善良な被害者が、敏腕弁護士の活躍で悪を懲らす爽快な逆転劇になっており面白く読めました。
ただ、スルガ銀行のビジネスモデルを絶賛し過去の不正通報は見逃した金融庁長官や官僚たち、新しい被害者を連れ込むキックバック受領者、何度も詐欺を繰り返しても最後はするりと逃げてしまうスマートデイズ創業者、顔の見えないスルガ銀行創業家やノルマに追いつめられて不正融資に加担する行員・・このあたりの周辺の物語はほんの少ししか語られません。
河合弁護士が代物弁済的スキームでローン帳消しを勝ち取ったのはほんの一部の被害者のみ。
周囲で見え隠れしていた脇役たちの物語と、まだ救済スキームに乗っていない借り手たちのお話は、この「逆転物語」のあとにも続きます。
創業家への株主代表訴訟の行方やスルガ銀行の再生の先もふくめ、このお話の続きを待っております。
ホロコーストをめぐるいくつかの誤解について。
本日はこちらを再読いたしました。
高校の世界史にもナチス・ドイツによるユダヤ人迫害・虐殺の記述は必ず出てきますし、いろいろな映画にも取り上げられ、アウシュビッツ収容所のガス殺害施設などもよく知られていると思います。
教科書に書かれたイメージでは、ヒトラーと狂信的なナチが、主にドイツに住むユダヤ人を迫害し、とうとう殺害のためにガス室へ送り込んだという漠然としたものとして捉えられているのではないでしょうか。
ちょっと詳しい方でも、主にポーランドに住んでいたユダヤ人に被害が多かったというイメージも追加して保有しているかもしれません。
本書では、ホロコーストをめぐるいくつかの誤解を解いてくれます。
①ヒトラーは理解不能な狂人ではなく、それなりの戦略家であり、彼の思考と現代の我々の思想はまったく無縁というわけではない
②ホロコーストはドイツ国内やポーランドに所在したアウシュビッツだけ起きたのではなく、ポーランド・ウクライナ・ベラルーシ・バルト三国などで大量殺害が起きている
④ホロコーストはアウシュビッツなど強制収容所でガス殺されただけではなく、約半数の犠牲者はウクライナなどで射殺されている
⑤殺害を行ったのは親衛隊や行動部隊など確信的ナチだけではなく、ナチ党員でも無く反ユダヤ思想すら持たない秩序警察官や国防軍兵士も殺害実行者の多くを占めた
また加害者の約半数はドイツ人ですらなく、ウクライナ、リトアニア、ルーマニアなどの兵士や補助警察官あるいはただの民間人が虐殺に協力した
⑥ホロコースト実行はナチ国家の犯罪ではあったが、虐殺は国家組織、官僚機構が破壊された場所でこそ起きた
国家が崩壊したエストニアでは99%のユダヤ人が殺され、ドイツ占領軍はいたものの国王政府が残っていたデンマークでは、99%のユダヤ人が生き延びた
非常に長大でキツい記述が続く歴史研究書ですが、ステレオタイプ的なホロコーストのイメージを崩して史実を明らかにしてくれる著作であります。