6月7日に、テレビ東京系で「ソレダメ! 〜あなたの常識は非常識!?〜」という番組が放送されました。
日常にある常識だと思っていたあれやそれやが、実は違う! ということを教えてくれる情報バラエティ番組です。TVerとかネットもテレ東で見られるかと思ったらうまく探せませんでした。
この中に、「ソレマル!」というコーナーがありました。
今回のテーマは「そばのツウな食べ方」。NEWSのマッスーさんこと増田貴久さんがお蕎麦屋さんで蕎麦を食べているところを、横にいるマナー講師の方が「ソレダメ!」「ソレマル!」とダメ出しをするコーナーです。
これが、まあひどい。
言いたいことはいろいろとあったのですが一番ひどかったのが、マッスーさんが蕎麦を箸でつかみ、つゆに半分ぐらいつけて食べた瞬間に出た「ソレダメ!」です。いわく、「つゆは3分の1ぐらいをつけないと風味が飛んでしまう」とのこと。
とんでもない。そんなことはありません。
では何故これがとんでもないのか。
それを理解するためには、蕎麦屋さんの種類について知らなければなりません。
●江戸の蕎麦屋は三系統ある
江戸時代から続いているお蕎麦屋さん、つまり江戸そばは大きくわけると三系統になります。御三家という奴ですね。「藪系」「砂場系」「更科系」です。「藪そば」とか「砂場そば」とか「更科そば」というのを見かけたことがある人も多いと思います。それぞれ、扱っている蕎麦の系統が違うのですね。
藪系は、江戸のお蕎麦屋さんで、もともとお客さんの中心が忙しい職人でした。大急ぎで食べて、すぐに仕事に戻らなければならなかったため、あまり待たせずすぐに食べられるよう、あげたてのお蕎麦を出していました。蕎麦には水がついていますから、食べているうちにどんどんつゆが薄まってしまう。薄まってもいいように、つゆを辛くしたと言われています。そういった歴史があるから藪系のつゆはかなり濃く、辛く、たっぷりつけると味がかなりきつい。というわけで、3分の1くらいをつけて食べるのがソレマルというのは正しいのです。
砂場系のお客さんは、町内の商家が中心です。さらに、大阪発祥というのもポイント。出前が多かったので、移動中に蕎麦がのびないよう、しっかりと水を切る。というわけで、蕎麦自体には水がついていないのです。さらには、関西風の味付けに近く、わりと甘口にしているからたっぷりとつゆをつけていいのです。3分の1しかつけなかったら物足りなくて仕方ないのですね。
最後の更科系は長野県更級村から江戸へ来たのが由来です。お屋敷への出前や町内の寄り合いがメイン客層。ここも砂場と同じくたっぷりとつけてもいいけれども、薄くはないつゆです。なので3分の1は少し物足りないはず。
というわけで、「蕎麦はつゆに3分の1だけつけるのがツウ」というのは、3分の1しか正しくないのです。藪系だったら正しいけれども、砂場系や更科系だと正しくないのですね。
●ロケに使われた蕎麦屋さんは
では、番組ではどの系統のお蕎麦屋さんだったのか。
これがなんと、ロケをしているお店が更科堀井さん。更科蕎麦の本家筋というか、文字通りの総本家ですよ。
よりにもよって、更科蕎麦の総本家で、更科蕎麦を食べながら「藪系の食べ方が正しい」なんて言うんです。これはちょっとひどくないですか。というか、相当失礼な話じゃないですか。
更科堀井さんだと、更科蕎麦(蕎麦の実の中心近くを使っていて白い蕎麦。蕎麦の香りは強くない)は甘口で、盛りそばは辛口のつゆを使っていたはず。
そういった情報を全て提示した上での「3分の1がツウ」であるのならまだしも、おしなべて3分の1と言うなんて……
ちなみにこういったお蕎麦の知識を得たいとしたら何が一番いいのか。
一巻の82ページと83ページの見開きを見てみましょう(Kindle版そばもん1巻より引用)。
今お話ししたことが、全て書いてありますね。
はい、僕もこの「そばもん」で学び、あれこれお蕎麦を食べて実感したのでした。
ここにも描かれていますが、お店がどの系統かわかっていればそのままそれぞれの作法で食べればいいし、そうでないなら汁を少しなめてみて、どれぐらいにするのかを考えるといいと思います。
下手に「ツウ」ぶってなんでも3分の1だけつけるようにしても、それが一番おいしい状態であるのは3分の1以下だとおぼえておきましょう。
美味しく食べる以上に「ツウ」なことはありません。