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日本国債は危ないか、日本国債を危うくするものは誰か

【要約】
・日本国債の置かれた状況はギリシャ国債とは大きく異なっています。
・日本国債について考えるにはその保有者割合を調べることも有用です。
・米国国債と日本国債保有者の違いを見ると、今後日本がとるべき道が見えてきます。

前回のエントリーで、EUの中のギリシャには「国際金融のトリレンマ」の問題があることから、ギリシャ国債が危ないことを論拠に日本国債が危ない、という説は議論が粗いということを書きました。*1
では肝心の日本国債は危ないのか。 今回はこの点について考えてみましょう。
現段階で、日本の政府債務残高は、国と地方合わせて1,100兆円を超えるとされています。*2 
このうちの大半を国債が占めています。 国債残高推移は右図のようになっています。2005年から2008年までの比較的好景気だった頃は国債残高の伸びが一時止まりましたが、それ以前もそれ以降も国債残高は増え続けています。ここでよく聞かれる話として、政府債務残高が家計の金融資産に追いついた途端に日本国債は破綻するという説があります*3。 この説の妥当性を考えるため、まず日本国債は誰が保有しているかを調べてみました。

右は2010年度末段階での日本国債保有者割合を示しています。*4 このグラフで市中銀行等となっている部分の約2/3が銀行等の保有部分で、残り1/3は生保等の保有部分となっています。次の一般政府・公的金融機関とは、公的年金や財政融資資金などです。ついで日銀、海外そして個人が続いています。 銀行等や生保等の保有部分とは家計が銀行に預けた預金や生保の掛金などが原資になっていますから、確かに債務残高が増えて、家計の保有資産に追いつけばどうなるのか気になるところです。そこで次に、日本の国債の今後を考える時のひとつの参考情報として米国債保有者も調べてみました*5


米国債保有者割合
日本国債保有者との大きな違いは、現在の最大の保有者が日本の日銀に当たるFRBと政府内保有となっていることと、それに次ぐ保有者は海外となっていることです。 米国債保有者との比較から、日本国債は必ずしも日本国民が買い支えるべきものではなく、海外保有者を増やす、あるいは中央銀行が買い入れるという選択肢も異常でもなんでもないことが分かります。そうすると、小黒一正氏のように2020年ころに政府債務と家計金融資産が同規模になることをもって、日本国債の破綻予定年、という議論の拙さが確認できます。
 ただ、国債消化を海外に頼るという選択肢は、債権国の発言権の増大などのマイナスもあり、積極的に勧められるものではないでしょう。
もう一つの選択肢、中央銀行の買い入れはどうでしょうか。中央銀行は原理的に言えば無限に自国通貨を発行可能ですから、中央銀行が自国国債を買い入れ、自国通貨を発行することは、通常の国ではインフレを招くことから余り勧められる話ではないでしょう。米国が現在FRBの3回目のバランスシート拡大(QE3)に躊躇しているのは、QE3が景気回復に効果があっても、同時にインフレを招くために景気回復とインフレ亢進を天秤にかけているためです。
ただ、デフレという特殊な状態では話は別です。 国債を消化すると同時に、デフレを脱却できるのですから、デフレ国にあっては国債中央銀行買い入れは一石二鳥の金融政策となるわけです。 日本は現在世界唯一の長期デフレ国です。*6
ところが、日本国債保有者割合を経時的に見てみると、驚くことに右図のように日本銀行は日本国債保有割合を増やすどころか減らし続けています。*7 このように日銀がデフレ維持政策を採っているようでは日本がデフレを脱却することはなかなか厳しいでしょう。ましてや野田内閣が狙う消費税増税などで国債消化を図ろうとするならば、民間から資金が吸い上げられる結果、1997年に橋本内閣が消費税を上げた時と同様に消費税率アップにもかかわらず、税収は増えないで、そのかわりデフレがひどくなり、景気は奈落の底に落ちるといった結果が待っているでしょう。
 結論としては、政府債務と家計金融資産が同規模となったからといって国債の危機が来るわけではありません。
 デフレ日本では国債を日銀が引き受け、デフレを脱却し好景気を呼び込み、自然増収にによって国債を消化するという政策が正道です。 この正道を外れ、日銀がデフレ政策を堅持し、野田内閣が消費税増税に走るというまるで逆の政策を採ったとすれば日本経済のみならず国債消化も怪しくなる可能性はあるでしょう。

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