茨城に480万円で家を買って東京で働く話
概要
都内で働き、都内に住んでいたが、茨城県の中古一戸建てを購入して引っ越した。 家自体の値段は480万円、追加でリフォーム費用が200万円ほど。 郊外暮らしもそこまで不便ではないので選択肢の一つに入れても良いのではなかろうか。
背景
地方から上京し、妻と当時2歳の息子と同居していた。
8万円で2DKのマンションを両国に借りていた*1が、全9戸の小さなマンションなのにちょくちょく警察や救急車が来るなど住民に難があったほか、新耐震基準前の建築であったりエレベーターなしの4階であったり、家族で暮らすには向いてない住まいであった。
最終的には、子供が夜泣きしている時に警察や児童相談所に虐待の疑いで通報されてしまう事が何度かあり、それが純粋に善意だったのか嫌がらせ目的だったのかは不明だが妻には相当なストレスになったようで、引っ越しを検討することになった。
家探し
前述の理由で騒音トラブルに悩まされたので一戸建てが望ましく、それならばと賃貸ではなく持ち家にすることに。
妻も自分も貧乏性で最初から新築は眼中になく、最低限の条件を満たす範囲でとにかく安い中古一戸建てを探そうということになった。
その最低限の条件というのは以下。
- 通勤時間が片道1時間半以内
- 最寄り駅から徒歩15分以内
- 建築が1981年(新耐震基準施行)以降
特に通勤片道1時間半というのは、庭付き一戸建てが庶民の憧れだった一昔前ならまだしも現代では避けられる距離だと思う。ただ、自分の職場ではラッシュ時を避けた時差通勤が可能なので、何とかなるだろうと考えた。
茨城県取手市
前述の条件で色々と物件を探していると、取手市が安そうということに。
取手市は、都心から常磐線沿いに隅田川・荒川・江戸川を渡って千葉に入り、さらには利根川まで渡って茨城県に入ったすぐの場所にある。
取手市とはどういう街か。 Wikipediaの記事の冒頭を引用すると以下の通り。
1970年代から1980年代にかけて東京都心のベッドタウンとして開発され人口が増加。それ以降、いわゆる「茨城都民」と呼ばれる住民が多くなった。
1995年をピークとして以降、都心回帰現象の影響や、子供が成長して家を離れるケース(当初より核家族が目立った井野や戸頭では、団塊世代前後の夫婦のみが暮らし、子供は進学・就職・結婚等で取手を離れて他地域を生活拠点とするケース)も多く見受けられ、人口は減少傾向に推移している。
つまり、高度成長期に東京通勤圏として栄えたものの、現代になって衰退した街ということである。
特に取手駅周辺は、つくばエクスプレス(TX)開通の影響を大きく受けており、以前は守谷市・常総市・つくばみらい市といった茨城県南部の人々は取手駅でローカル線からJR常磐線に乗り換えて東京に出ていたのに、TX開通後は守谷駅から秋葉原駅まで行けるようになってしまった。
また、TX沿線は大型商業施設や大型マンションの建設も進んで綺麗で新しく子育て世代が住みやすい街として人気になっており、その中でも守谷市には「茨城でもいいや」と考える人の貴重な需要すら持っていかれてしまった。
そのような取手市の衰退ネタは、取手市を舞台にしたWeb漫画である「けんなん!」*2が面白いので、他の話も含めて読んでみてほしい。
しかしながら、それにより取手市は、ギリギリ東京通勤圏でありながら住宅相場が安い穴場スポットになったのである。たぶん。
480万円の家
取手市に狙いを定め、いくつかの物件情報サイトで家を探した。
条件に合致する700〜900万円の物件をいくつか内見には行ったものの、取手駅からさらに乗り換えが必要などの問題があり、いまいち決めかねていた。
そんな中である日、住宅情報サイトに以下のような新着物件が追加されていた。
- 480万円
- 4LDK
- 取手駅から徒歩15分以内
- 築年数25年以下
条件だけ見ると非常に良い。ただ、内観写真もなく情報が少ない。
とりあえず不動産会社に連絡してみると、すごく汚れてますという返答。
「うーん?これはおとり物件か…?」とも疑ったが、内見したいなら案内しますよとの話だったのでお願いすることに。
その時に見た状況がこれ。
LDKの一部が激しく雨漏りし、そのまま数年放置されたことで天井がボロボロになっていた。さらにその影響か、LDKは全体的に壁も床も汚れている。
これはかなり酷い…のだが、逆にLDK以外はそこまで汚いわけではなく、何より破格な値段と好立地だったので、妻も自分も一発で気に入り「これ買いたいです!」と即答した。
とはいえ、建物の安全性は気になるので、本契約の前にホームインスペクション(住宅診断)なるものを自費で依頼し、建物に大きな瑕疵がないことは事前に確認した。費用は5万円程度だった。
リフォーム
古い家に住むことに抵抗がない自分と妻でも、さすがにそのまま住むことは出来なかったのでリフォームすることに。
ここでホームセンターで資材を揃えてDIYしました…とか言うとブログ記事としてはもっと面白くなるのかもしれないが、そんな技術も暇もなかったので素直に業者に頼んだ。
結局、LDKの雨漏りの補修や天井&壁のクロス交換のほか、外壁塗装から和室の畳の張り替えまで色々追加してしまったので、最終的にリフォーム費用は200万円ちょっとになった。*3
リフォーム後の写真はこんな感じ
部屋の造りが少し古臭いのは否めないが、壁と天井のクロスを全て張り替えたので清潔感は出た。このLDKはカウンターキッチンで15.5帖の広さがあり、そこそこ気に入っている。
フローリングは全く張り替えなかったので、雨漏りが直撃した部分の床は色褪せたままになっている。ただ、当初は床全体にも傷みがあると思っていたのだが、ハウスクリーニングだけでそこそこ綺麗になったのは嬉しい誤算だった。
ちなみに、取手市には住宅リノベーション補助金という制度があり、中古で購入した住宅のリフォーム代についてその費用の10%、上限30万円まで補助してくれる制度がある。自分もそれで20万円ほど補助して貰えた。*4
同じような制度は多くの自治体で行われてるようなので、もし中古住宅の購入を検討している場合は調べてみると良いと思う。
住んでみた感想
進学・就職で実家を離れるまでは地方で生活していたので郊外暮らし自体は特に心配していなかったが、長距離の電車通勤はこれまで経験がないので実際やってみるとどうなのだろうという不安はあった。 結論から言うと通勤含めて概ね予想通りではあったのだが、いくつかの観点での感想を書いていく。
(良い話と悪い話を混ぜて書いたらわかりづらくなったので [Great], [Good], [Bad] を先頭に付けた。それぞれ「都内に比べても良い」「都内には劣るがそこまで悪くない」「悪い」くらいで考えていただけると。)
快適さ
都内で高級マンションに住む事に比べてどうなのかは知らない(まあ負けるだろう)が、少なくとも都内に安い家賃で無理して暮らしていた頃に比べると快適である。
[Great] 家が広い
4LDKは家族3人で住むのに十分な広さで、自分専用の部屋も持てた。都内でこの広さに住もうとするとある程度のお金が必要になるので、安く広い家に住めるのは郊外の一番良いところ。
[Good] 騒音に気を使わない
引っ越して数週間が経った頃、子供が広いリビングを楽しそうにドタドタと走り回っているのを見て、一戸建てにして良かったなぁと思った。
Great ではなく Good にしているのは、別に戸建てでなくてもお高めのマンションなら防音はしっかりしてるのと、古い家なので建物自体の防音性は良いものではなく、周辺が閑静なのもあって、深夜に子供が大声で泣いてしまうと外まで泣き声が漏れてしまうため。
[Bad] 虫が多い
特に自宅は虫が多く、蚊、クモ、蛾のような不快害虫はもちろん、トンボ、カマキリに加え、なぜかクワガタも室内に入って来てしまったことがある。取手市というよりも自宅の周辺環境の問題だと思うが、市内を歩いていても都心よりは虫が多いと感じる。自分は平気な方だが、苦手な人には結構つらいであろう。
[Bad] (2020/06/14追記) 冬場は室内が寒い
ブコメで指摘されてて思い出した。結構大きなデメリットなのだが実家も同じだったのと喉元過ぎてたので忘れてた。
古い木造住宅は断熱性が優れてないので、冬場は室内でも非常に寒い。そもそも取手が東京よりも寒い*5。特に先に写真をあげた15.5帖で広々として窓も大きく明るいお気に入りのLDKは、冬場になると無駄に広く窓からも冷気が伝わる暖めづらい部屋になってしまい、真冬にエアコンをぶん回してると月の電気代がゆうに2万円を超えてしまう。
娯楽
自分はインターネットされあれば楽しく生活出来るのだが、家族がいるとそうも行かない。週末に家族で何して過ごすかを考えた場合は、取手市だと苦労することは多い。
[Great] 利根川サイクリングロードに近い
自転車が好きでロードバイクに乗ってるのでこれは非常に嬉しい。ちょっと気が向いた時に30kmほど小回りしても良いし、銚子市の犬吠埼まで往復180kmを丸1日がっつり走っても良い。
[Bad] 近場の遊び場が少ない
一応近場に娯楽、商業施設はあるのだが、やはり東京に比べるとその数が少なく、数年住むと大体どこも行き尽くして飽きることになる。
よく田舎民はイオンで遊ぶと言われるが、そもそも取手市にはイオンすらない。昔はあったのだが取手の衰退により2015年に閉店してしまった。*6
[Bad] 水族館・動物園などが非常に遠い
水族館や動物園、遊園地のような子供と行きたい大型の娯楽施設は取手市の周辺にはなく、都内あるいは大洗・日立などの茨城県央まで出掛けることになる。子供を連れての移動となるとちょっとした旅行になってしまう。
利便性
当然ながら利便性では都内には敵わないが、意外とそこまで不便ではない。
[Good] 取手駅が始発で座れる
JR常磐線は取手駅始発の便が多く、その便を選べば確実に座れる。座れてしまえば今はスマホという便利なものがあるので、長距離通勤もそこまで苦痛ではない。
[Good] 終電が遅くまである
取手は一応東京通勤圏として発展しただけはあって、東京からの終電は意外と早くない。
JR常磐線の取手行き最終列車は上野駅00:23発で、山手線でちょうど反対にある恵比寿駅でも23:49発の電車に乗れば間に合う。都内在住者の終電とそんなに変わらないので、飲み会で一人だけ先に帰るようなケースはあまりない。*7
[Good] 付近の店舗がそこそこ充実している
東京通勤圏としてある程度の人数が集中して住んでるため、住宅地であれば付近にスーパーやコンビニはそこそこある。特に自宅からはコンビニもスーパーも徒歩3分以内に立地しており、日常生活の食料品や消耗品の買い物には困らない。
都内のように超大型の商業施設や多様な専門店はないが、そういう買い物は都内に住んでた頃から通販が中心だったし、どうしても実店舗で買いたい場合は都内まで足を運べば良いのが関東近郊の強み。
[Bad] 一部地域限定サービスが使えない
Uber Eats や Prime Now など、スマホアプリからリアルでのサービスを受けることが出来る流行りのサービスは、一部都市限定のものが多い。東京23区から神奈川、埼玉、千葉と対象が広がっても、茨城までは対象とならないことも多い。
平成のネットや通販の普及で、都市と田舎での利便性に差はなくなったと思っていたが、令和になってまた変わるのかもなぁとちょっと心配している。
新型コロナによる生活の変化
さて、去年までは前述のような感じでそこそこ不便ながらも概ね快適に暮らしていたのだが、今年になって生活スタイルもだいぶ変わってしまった。
自分の勤務する会社も在宅勤務が推奨となった上、緊急事態宣言後もそのまま恒常的に在宅勤務が導入されることになった。
往復2時間を超える通勤時間が不要になったことで平日でも時間の余裕は出来たし、急に在宅勤務が決まって作業環境に困る人も多い中で、自分は作業机のある自室も確保していたため大きな支障もなく、結果的には郊外に引っ越しておいてラッキーだったかなと思う。
通勤の利便性も重視した上で今の家を選んでいるので少し損した気持ちもあるのだが、在宅勤務が働き方の中心になったとしてもアフターコロナであれば一定の頻度で出社する機会はありそうなので、無駄に近くなく遠過ぎもしない今くらいの通勤距離がちょうど良いのかもしれない。
最後に
茨城県取手市に住む話とボロ家を買ってリフォームして住む話とが混ざって話の軸がブレてしまったが、今回は特に前者を伝えたくてこの記事を書いた。
正直なところ、自分は実家が貧乏で親の老後が心配だったり奨学金の返済も残ってたりと経済的にマイナスからのスタートになっており、それを自分の生活水準の低さと日常的な苦痛への耐性を利用して手っ取り早く帳尻を合わせたみたいなところがあるので、お金に余裕がある人は素直に東京に住むのが良いと思う。
ただ、都内の住宅相場が異常なほど高いのは事実だと思っているので、まだこれから社会がどう変化するかはわからないけど、もし近い将来に在宅勤務や時差通勤の普及によって必ずしも通勤の利便性を最優先に考えなくて良くなるのであれば、無理に都内にこだわらず郊外を引っ越し先の選択肢に入れても良いのではなかろうか。
(そして取手市にも人が増えて、あわよくば再興を……無理かな……。)
最後の最後に、自宅と取手市のお気に入りの写真を並べておく。
*1:都内に住んだ経験がないとわからないかもしれないが、結構安い。
*2:個人的なお気に入りは始発の話と高井さん登場の一連の話です。
*3:内訳としてはLDKの雨漏り関連の補修が30万、壊れてた給湯器やビルトインコンロの交換が20万、外壁塗装が100万、その他が50万という感じ。外壁塗装が一番高いのだが、10〜20年の間にはやっておかないとマズいものらしいので、最低限のリフォームだとしても150万円は掛かりそう。
*4:住宅の購入自体を補助する住宅取得補助金という制度もあるが、これは優良な(新しい、広い、緑が多い、など)住宅を購入した場合にのみ適用されるもので、当然ながら今回は対象外。
*5:昨冬の最低気温を 気象庁のページで調べたが、東京が-2℃に対し、取手(のお隣の龍ケ崎)は-6℃。
*6:そして守谷にイオンが出来た…。