少女像設置に対抗して、安倍政権が大使・公使を一時帰国させた件。
少し前の記事ですが。
「駐韓日本大使の「一時帰国」が続くとどんな影響が出る?(THE PAGE 2/21(火) 11:40配信 )」
この記事はなかなか面白い記事でしたが、一時帰国という対抗策が本件については不適切だったと素直に認められない点が残念ですね。まあ、誰しも安倍政権や右翼は怖いでしょうからね。
ロシア大統領の南千島訪問や韓国大統領の独島上陸の場合とは性質が異なる点が理解できていない
美根氏が言及しているように確かにロシア大統領の南千島(北方領土)訪問や韓国大統領の独島(竹島)上陸の際にも一時帰国で抗議の意思を示したことはあります。
大使の一時帰国について国際的なルールはありません。日本は2010年にロシア・メドベージェフ大統領(当時)が北方領土を訪問した際や、2012年に韓国・李明博大統領(同)が竹島を訪問した際に大使を一時帰国させたことがありましたが、1週間前後で帰任させました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170221-00000003-wordleaf-pol
ただ、これらは少女像の設置とは性質が明らかに異なります。それは問題の重要性とかの次元ではありません。
ロシア大統領の南千島(北方領土)訪問も韓国大統領の独島(竹島)上陸も、基本的には一時的なものです。ロシア大統領が南千島(北方領土)に常駐することはまずありえず、訪問の用が済めばそこを去りますし、韓国大統領の独島(竹島)上陸も同じくわずかな時間の滞在で去っていくことが決まっています。
ですから、大使を一時帰国させ抗議した段階で既に現地から相手国首脳はいなくなっており、抗議した日本側の面子を保ったまま大使を戻す判断ができるわけです。
ところが、少女像設置の場合はそうはいきません。
首脳の訪問とは違って、一時的とは限らず半永久的に設置され続ける可能性があるからです。そして、大使を一時帰国させ相手国に抗議したとしても、現に設置され続けている以上、日本側は面子を保ったまま大使を戻すことができません。少女像が設置され続けている状態で大使を戻せば、設置を容認したというメッセージになりかねず、そのような政治判断は安倍政権には下せないでしょう。
つまり、日本側には政治的な選択肢が“少女像が撤去されるまで大使を戻さない”しか残っていないということです(その他に、次期大統領就任時というタイミングで戻すという選択もあるにはあります。)。
要するに日本側は、政治的な選択肢を韓国政府側に委ねてしまって、自身が主体的に選択できる余地を無くしてしまったことを意味します。
そしてさらに問題なのは、日本側の政治的な選択肢を委ねられた韓国政府もまた、少女像に対して行使できる選択肢が極めて少ないという点です。
行政が強権行使して市民の権利・財産を侵害する濫用を容認する傾向が強い日本と違って、韓国ではそういった権力の濫用に市民側が強く反発する傾向があります*1。そして、現に設置されている少女像を行政が強制撤去する法的根拠は極めて希薄です(参照)。
さらに韓国政府は朴大統領が弾劾されている状況で、次期大統領選での保守派の苦戦も確定的です。
次期政権で自分たちの強権行使が訴追の対象になりかねないことを認識していれば、現政権が無理をして少女像撤去を強行するというのも考えにくいでしょう。
これらを踏まえれば、韓国政府に圧力をかければ少女像が撤去される方向に動くという安倍政権の判断は間違っていたという他ありません。むしろ自らの面子上、振り上げた拳の落とし所を見失ったとも言えます。
さて、美根氏は大使を早期に帰任させるべきだという考えのようです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170221-00000003-wordleaf-pol日韓間に課題山積、早期の帰任が望ましい
一方、韓国においては、昨年秋以来の朴槿恵大統領の側近をめぐるスキャンダルから発して朴大統領が議会において弾劾され、その職務が停止されました。黄教安首相が大統領代行を務めていますが、大きな政策を打ち出すことはできません。代行が大統領の職務を代わって行えないのは大使の臨時代理以上でしょう。
韓国がこのような状況に立ち至っているときに日韓両国間で厄介な問題が生じたことは不幸なことですが、慰安婦少女像問題も野党の主張などから再燃した面があり、韓国の政情と絡み合っているようです。
しかしながら、慰安婦像問題はあくまで他の問題と区別し、切り離して早期の解決を図るべきです。日本と韓国の間には、慰安婦少女像以外に、金融・通貨に関するスワップ(交換)、盗難文化財の返還など解決を要する問題があります。
政情困難の中ではありますが、長嶺大使らには早期に帰任して諸問題の解決に取り組んでもらいたいと思います。
この考え方に立つのであれば、安倍政権が取った一時帰国という対抗策は愚策であったと批判すべきですが、今の日本ではそれがタブーですから「韓国の政情」に責任をなすりつけているようです。しかし言うまでもなく一時帰国という対抗策を選択したのは安倍政権であって「韓国の政情」ではありません。
そして、その影響は次期大統領選に野党有利の状況を作り出しており、安倍政権にとっては望ましくない方向に動いています。
もちろん安倍政権の目的が慰安婦問題の解決などではなく、嫌韓感情を煽って支持率につなげるというものであれば話は別です。
韓国政府が法的に撤去などできないことを承知の上で、それを要求し、もし韓国政府が少女像撤去を強行すれば“韓国は無法な弾圧をする国家だ”と非難し、撤去に応じなければ“韓国は反日活動を行っている”と主張し、日本国内の世論を煽り自らの支持率を上げるのに利用する。そういう策であれば、慰安婦問題をまともに理解できてない日本社会に対しては確かに効果的でしょうね。
ただ、韓国に対する蔑視感情で動いたのなら、救いようがありませんね。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170221-00000003-wordleaf-pol駐韓日本大使の「一時帰国」が続くとどんな影響が出る?
THE PAGE 2/21(火) 11:40配信
韓国駐在の日本大使が不在になったまま、1か月以上がたちました。釜山の日本領事館前に新たな慰安婦少女像が設置されたことを受けた措置で、今回は「一時帰国」ですが、外交関係においては「大使の召喚」というステイタスもあります。それらはどう違うのか。また、大使が不在で日韓関係や現地の交流においてどんな影響が考えられるのか。元外交官の美根慶樹氏が解説します。「召喚」とは違う「一時帰国」
慰安婦少女像をめぐって日本政府が長嶺駐韓大使と森本在釜山総領事を1月9日に一時帰国させて1か月が過ぎました。ソウルの日本大使館前に像が設置されたのが5年前の2011年、日韓両政府が慰安婦問題の最終的解決に合意し、韓国政府が慰安婦少女像について「適切に解決されるよう努力する」と明言したのが2015年、そして釜山の日本総領事館前に新しい像が設置されたのが昨年。5年以上もこの問題は未解決となっており、しかも状況はさらに悪化しています。
長嶺大使らを一時帰国させたことについては賛否両論がありましたが、日本政府は長く我慢を強いられてきたことであり、韓国政府に強く抗議し、また迅速な対応を促すためにやむを得ないことだったと思います。
大使の一時帰国について国際的なルールはありません。日本は2010年にロシア・メドベージェフ大統領(当時)が北方領土を訪問した際や、2012年に韓国・李明博大統領(同)が竹島を訪問した際に大使を一時帰国させたことがありましたが、1週間前後で帰任させました。
なお、大使を「召喚」することもあります。これは一時的な措置という意味合いはなく、外交関係断絶に発展してもやむを得ないという覚悟で呼び戻す場合に使われることが多いです。これに比べれば、「一時帰国」は単に事務的な理由からも行われることなので深刻な事態とは限りません。協議で会える人が「格下」になる恐れ
しかしながら、長嶺大使らをこれ以上日本にとどめておくのがよいか、疑問です。
大使は少女像問題の解決だけが任務なのではありません。長嶺大使らは日本国を代表し、韓国において日本に対する理解の増進を図り、また、日本が韓国を正しく理解するよう努めることが任務です。さらに、日本と韓国の間の経済・文化交流の状況をしっかりとフォローし、必要に応じて対応しなければなりません。たとえば、日本側が不利になることがあれば韓国政府と協議して正さなければなりません。そのため、大使や総領事は大統領以下の韓国政府要人と常に意思疎通をよくしておくことが必要です。
長嶺大使が一時帰国している間、ソウルの日本大使館では公使が大使の代理となっていますが、それはあくまで臨時の措置であり、どんなに頑張っても大使のようなわけにはいきません。大使は一言でいえば日本を代表していますが、公使は大使を補佐するのが役割であり、その違いは非常に大きいです。北朝鮮によるミサイル発射のような挑発的行動への対処の面で日韓両政府は常に連携、協力し合っていますが、大使が不在であると韓国政府のハイレベル要人との協議などにも困難が生じるでしょう。会える人も格下になる恐れがあります。要するに、困難な問題であるほど大使が外相など韓国政府の責任者と直接交渉して解決策を探る必要があるのです。
また、長嶺大使らが長期間任地を離れていることに韓国民の間でも不満の声が上がっています。少女像の問題を別にすれば、韓国民がそのように思うのはもっともな面があります。日韓間に課題山積、早期の帰任が望ましい
一方、韓国においては、昨年秋以来の朴槿恵大統領の側近をめぐるスキャンダルから発して朴大統領が議会において弾劾され、その職務が停止されました。黄教安首相が大統領代行を務めていますが、大きな政策を打ち出すことはできません。代行が大統領の職務を代わって行えないのは大使の臨時代理以上でしょう。
韓国がこのような状況に立ち至っているときに日韓両国間で厄介な問題が生じたことは不幸なことですが、慰安婦少女像問題も野党の主張などから再燃した面があり、韓国の政情と絡み合っているようです。
しかしながら、慰安婦像問題はあくまで他の問題と区別し、切り離して早期の解決を図るべきです。日本と韓国の間には、慰安婦少女像以外に、金融・通貨に関するスワップ(交換)、盗難文化財の返還など解決を要する問題があります。
政情困難の中ではありますが、長嶺大使らには早期に帰任して諸問題の解決に取り組んでもらいたいと思います。
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■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹