国立天文台科学研究部・天文シミュレーションプロジェクトで行なわれている研究内容は多岐に渡り,現在の天文学・宇宙物理学の相当な範囲をカバーしている.ここでは一部のみしか紹介できない.これ以外にも様々な分野の研究が行われており,日本最大級の研究グループの特徴を生かした分野間交流も盛んに行なわれている.
このページの記述の大半は日本における天文学・宇宙物理学の理論的研究 (2022年12月更新)に基づいている.
最新のメンバーによる研究紹介はパンフレットを参照のこと。
太陽系は惑星、衛星、環、小惑星、太陽系外縁天体、彗星と、質量・組成・軌道の違う多様な天体から構成されている。これらの天体はどのようにして形成されたのだろうか。また、近年、観測によって銀河系には太陽系以外にも多様な惑星系が存在することが明らかになっている。これらの惑星系は太陽系とは何が違ったのだろうか。惑星系は原始惑星系円盤とよばれる星周円盤から形成される。原始惑星系円盤から惑星系までの形成過程を理論的に明らかにし、多様な惑星系の起源を描き出すことを目指す。現在は微惑星形成、地球型惑星形成、ガス惑星核の形成、惑星環の構造などについて研究を進めている。
原始惑星系円盤内のダストとガスより惑星は形成され、また一方で、円盤内の化学進化は生命起源分子種も含めた太陽系内外の惑星系の物質生成に繋がると考えられる。円盤内のダスト・ガス・化学進化を含めた円盤進化モデルの構築と最新の観測に基づくモデルの検証やALMAデータの解析により、惑星系形成過程を検証し、さらに惑星系内の物質の起源を解明することを目指している。特に最近は、円盤ガス・ダスト進化、および円盤の諸進化段階における水と有機分子、元素組成比と同位体比に着目したモデル計算やALMA観測などの研究を行っている。
星は様々な階層の天体を形成する最も基本的な要素であり、その形成過程の理解は天体物理学の基本的問題の一つである。この過程では重力が重要な役割を果たすが、星間乱流、磁場、原子・分子過程、輻射が絡み 合った複雑な系である。これらの素過程を取り入れた 磁気流体力学、輻射磁気流体力学の非定常シミュレー ションをおこない、乱流、磁場、回転等の役割を明らかにすることを目指している。またシミュレーションと観測を比較する手法や、高精度、高速のシミュレー ション手法の開発等にも注力している。
惑星形成は、ミクロンサイズのダストが互いに衝突・付着し、最終的に数千キロメートルもの惑星へと成長する過程である。特に近年、ALMA望遠鏡等の天文観測の飛躍的進歩により、原始星の周囲に存在する原始惑星系円盤が詳細に観測され、惑星形成の環境が明らかとなってきた。その結果、原始惑星系円盤はリング・ギャップといった複雑な構造を持つことが明らかとなってきた。更には、ミリ波偏光からダストサイズが100ミクロン程度であることも明らかとなった。このような環境下で惑星は形成可能なのだろうか?我々はこのような天文観測の情報に留意しながらダスト成長の素過程を解き明かすべく、理論・観測の両面から研究を進めている。
太陽系外にすでに数千個もの惑星が発見され、惑星系が普遍的に存在することがわかってきた。一方、少なくともこれまでに発見された惑星系の多くは太陽系とは全く異なる構造を持っている。このような惑星系の存在の普遍性と多様性の成因を解明することが我々の研究目標の一つであり、惑星系の形成過程を理論的に明らかにすることで、その謎に迫ろうとしている。また最近では、新たな惑星を探すだけでなく、発見された惑星個々の特徴を詳しく調べ、惑星系の多様性に加えて、惑星自体の個性を明らかにしようとする時代に入った。我々は、惑星大気の成分や温度、雲の有無などを明らかにする試みを始めている。そのために様々な波長での同時観測が有用であり、2020年代に打ち上げが予定されている複数の宇宙望遠鏡ミッションや2030年代の地上超大型望遠鏡計画に参加し、それらの分光観測データから系外惑星の個性を明らかにする理論研究に力を注いでいる。さらに、惑星の気候に関する理論研究から、地球のように海を持つ温暖な環境の成立条件および他の気候状態の実現可能性を追究している。こうした研究を総合し、最終的には、我々の住む地球のような生命体がいる惑星の有無を明らかにし、地球を含むハビタブル惑星の起源および進化を理解することを目標にしている。
恒星の構造がどのように時間発展していくかについて、主に独自開発している恒星進化コード HOSHI を用いて理論面から研究しています。大質量星のモデルでは特に大質量星が超新星爆発に至るまでにどのような元素合成を行うかに着目し、質量や金属量の変化に加え自転運動の影響を調べています。また自転・磁場・対流乱流のカップリングを整合的に扱う理論モデルの構築にも挑戦中で、中・小質量星の観測と比較することで理論モデルを検証しています。惑星・星形成・超新星・遠方銀河など様々な分野と連携することで恒星が宇宙で果たす役割を包括的に理解することを目指しています。
超新星爆発、特に大質量星が一生の最期に起こす重力崩壊型超新星爆発、および関連するガンマ線バースト、高速電波バースト、重力波天体、初代星、元素の起源に関する研究を行っています。具体的には、輻射流体計算や元素合成計算などの数値シミュレーションを用いる理論的研究と様々な口径の望遠鏡による撮像・分光観測を用いる観測的研究を組み合わせて、(1) 超新星爆発、ガンマ線バースト、高速電波バースト、重力波天体などの突発天体の起源を明らかにすること、(2) 宇宙における多様な元素の起源や宇宙の化学進化、さらには初代星の素性を明らかにすること、(3) 突発天体を用いた遠方宇宙研究を開拓することを目標として研究を進めています。
重力崩壊型超新星は太陽質量の約10 倍を超える大質量星がその進化の最終段階に示す大爆発現象である。 パルサー、マグネター,ブラックホールといったコン パクト天体の形成過程そのものであり、ニュートリノ 反応や原子核反応を司る高エネルギー物理学の宇宙に おける実験場となっている。星の持つ、質量、自転、磁場といった量が、星の一生にどのように影響し、超新星やガンマ線バーストといったどのような最期に結びつくのかは恒星進化の大問題である。
近年では京コ ンピュターや天文台の並列計算機によって非常に大規模な数値シミュレーションが可能になったため、急速 にそのメカニズムの解明が進んでおり、一般相対性理論や詳細なニュートリノ反応を取り入れた精密科学に なりつつある。超新星のもっとも基本的な爆発メカニズムはニュートリノ加熱によるため,ニュ-トリノの輻射輸送計算をどのように解くのかは最重要課題である.国立天文台では第一原理的なボルツマン方程式を近似したM1スキーム,もしくはIDSAスキームでこの問題に挑んでいる.
重力崩壊型超新星爆発は星の表面で起こる光の放射の前にニュートリノや重力波を放出する.多波長の光の他にニュートリノや重力波を用いて重力崩壊型超新星爆発の性質を明らかにするのがマルチメッセンジャー天文学である.ここでは特にニュートリノと重力波の重要性を説明する.
超新星1987Aからのニュートリノの検出は,10数という小統計でありながら,革命的な情報をもたらした.まず,重力崩壊型超新星は超巨星の爆発であること,そしてその中心部の鉄のコアが重力崩壊を起こし,ニュートリノを放出することである.これらは理論予言と観測で第ゼロ近似では定量的にも大きな矛盾がなかった.次に近傍で超新星爆発が起こったときに発生するニュートリノバーストを捉えようと,多くの観測機器が準備されている(SK-Gd, Hyper-Kamiokande, IceCube, KamLand, JUNO, DUNE).この大統計観測の時代に備えた理論予言もまた重要になる.
超新星爆発の中心部のシミュレーションは,強い乱流的な対流や降着衝撃波不安定性といった非球対称的な物質の流れが爆発メカニズムに本質的な影響を与えると示唆した.この非球対称の流れを観測的に確かめるには重力波を使用するのが適切である.なぜなら重力波は4重極的な非球対称的な物質の運動によって生じるためである.近年LIGO-VIRGOグループは多くの連星系の合体の重力波を検出している.そこに日本のKAGRAが加わり,より精度の良い観測が行われようとしている.連星系の次のターゲットとしては超新星爆発からのものが期待されている.
超新星爆発は明るさや時間スケールにかなり多様性を持っていることが明らかになってきている。また、爆発直後に加えて爆発直前からも超新星爆発が観測されるようになり、爆発直前の星の情報も得られるようになってきた。超新星爆発の多様性は、その親星や熱源の多様性に起因している。超新星爆発の研究を通して星の死の直前の状態を明らかにし、なぜ超新星爆発は多様性に富むのかを恒星進化理論に基づいて検証している。逆に恒星進化理論の予言する星の最期の状態に基づいて、どのような星からどのような超新星爆発が観測されるべきかを明らかにする研究も行っている。いくつかの突発天体サーベイにも関わり、超新星爆発の観測的研究も行なっている。
Gamma-Ray Bursts are explosive stellar explosions or coalescence of binary systems. They are so powerful that they can be observed up to high-z. Several works in Dainotti et al. (2022a,b,c,d) have shown the importance of GRBs as standardizable candles also in relation to the study of SNe Ia as standard candles. We tackle this problem by enlarging the sample size and by finding a more suitable sample which can have the smallest scatter possible.
X線連星やAGNは、降着円盤を介してコンパクト星の重力エネルギーを解放することで、宇宙ジェットやガンマ線放射などを噴出している。この時、降着円盤内で生じる様々な磁気不安定性が、高エネルギー現象を引き起こすトリガーとなっている。我々は、スーパーコンピュータを用いた大規模シミュレーションにより、降着円盤の磁気不安定性の成長と突発現象の関係を調べている。また、数値計算で予想した放射と特に電波連続波の観測を比較し、放射源の3次元的な空間分布のモデル作成などを行っている。
重力レンズ効果は、その主要メカニズムが重力のみで記述されるという単純さにより暗黒物質を研究する強力な手段となっている。また宇宙の構造形成進化を介して、宇宙の暗黒エネルギーの巨視的性質およびニュートリノ質量を探るユニークな手段にもなっている。現在、国立天文台と国内外の研究機関との共同プロジェクトとして、すばる望遠鏡Hyper SuprimeCam survey が行なわれている。これは現在世界最大規模の大規模撮像観測プロジェクトであり、その主目的の一つは重力レンズ効果を応用した観測的宇宙論研究である。こういった背景のもと、重力レンズ効果を応用した高精度宇宙論研究を理論・数値シミュレーション・観測的手法を組み合わせ推進している。
ビッグバンで始まった138 億年の宇宙史の中で,初代星,そして銀河が誕生し,銀河が織りなす大規模構造が出来たと考えられている.このような宇宙の進化を観測で明らかにすることが研究の目標である.本研究室では,すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡といった光学・近赤外線観測を中心に,ALMA やスピッツアー望遠鏡などの多波長観測も行い,赤方偏移0(現在)から赤方偏移11(約134 億年前)の宇宙にある銀河を調べている.暗く検出が難しい銀河には重力レンズの増光効果を利用する一方で,2020年代初めに打ち上げ予定のJWST望遠鏡の観測に携わり,赤方偏移20 の宇宙にまで迫ろうとしている.
宇宙の誕生時や、ブラックホール・中性子星などの高エネルギー天体で起こる謎の現象は、超重力理論など素粒子の標準理論を超える新しい物理学に起因している可能性がある。その解明のためには、一般相対性理論、場の量子論、数学などを駆使する理論的な研究が必要となる。宇宙は138億年前に誕生し、ビッグバンと呼ばれる火の玉の状態から膨張して現在の大きな姿となってきた。その火の玉がつくられたのは宇宙年齢が約0.01秒以下、その温度は少なくとも約1千億度以上の高温で、素粒子物理学を用いなければ解明できない。また、火の玉になる前に、光の速度より速く膨張したインフレーションと呼ばれる時期があった。インフレーションを起こすのも未発見の素粒子の一種であるスカラー場だと考えられている。現在の宇宙を構成するエネルギーの内訳は、星や太陽などを構成する眼に見える通常の物質はたった約5%、眼に見えない正体不明の物質であるダークマターが約25%、そして物質とも呼ぶことができない正体不明のダークエネルギーが約70%である。インフレーションを起こす素粒子は何なのか?ダークマターとダークエネルギーの正体は何なのか?、そして通常の眼に見える物質がその反物資より多い理由とは何なのか?それらの謎の解明のためには、新しい理論予言と比較して将来観測計画の全ての波長の電磁波、ニュートリノ、重力波、宇宙線などのマルチメッセンジャー天文学的観測を総動員して検証して行なければならない。そうした教科書を書きかえるような新しい物理学への扉を開く理論的な研究がこのテーマである。