「生成AIアプリケーション」つくっちゃえ! 「Dify」の実力
インフルエンサーに聞く生成AIの活用術 vol.1
インフルエンサーに聞く生成AIの活用術いまいち生成AIをつかいこなせないなぁと思っている人は全員集合! ChatGPTを使い始めたけれど「もっとできることがありそう……」と感じているビジネスパーソンのみなさん。今、最新の生成AIの情報や使い方は、X(旧ツイッター)で活発に発信されています。
生成AIを猛勉強中のNIKKEIリスキリング新入社員・鎌倉りりぃ(@lily_NIKKEIResk)が、Xで話題の生成AIインフルエンサーに「本当は教えたくないとっておきの活用法」を聞きました。最新の生成AIツールと「ハック」なテクニックを紹介。「えっ、それ反則級!」とうなるような生成AIの活用術で、きょうからあなたの仕事を変えよう!
■自分だけのオリジナルAIアプリをつくろう Difyの可能性
■「たった数日で作れる」 Difyの実践的活用法
■もう目前?「AIエージェント」時代を生き抜くスキルとは?
第1回にインタビューするインフルエンサーは、生成AI開発のスタートアップMYUUUを率いる室谷東吾さんです。生成AIを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)支援などで大手企業の業務効率化などに携わってきた室谷さん。Xでは「Tom」(@0x__tom)として最新の生成AIにまつわる情報を日々発信し、多くの開発者やビジネスパーソンからフォローされています。
今回は室谷さんイチオシの「Dify(ディファイ)」を紹介します。Difyは、特定の目的・用途に特化したオリジナルのAIアプリを誰でも簡単に作ることができる、今注目のプラットフォームです。
難しいコードは一切不要。直感的な操作で、生成AIツールを組み合わせて、業務効率化や顧客対応などにも応用可能なAIアプリもつくれます。そんなDifyの具体的な活用法を初級・中級・上級と3段階に分けて、室谷さんに教えてもらいました。
自分だけのオリジナルAIアプリをつくろう Difyの可能性
Difyは「ブロック」のように生成AIなどのツールを組み合わせてオリジナルのAIアプリをつくることができる
りりぃ 「Tom」さんのX、いつも見ています。まずはTomさんの「正体」について教えてください!
室谷(Tom) ありがとうございます。Xでは「Tom」として活動している室谷東吾です。ドバイ(UAE)でMYUUU(ミュー)という生成AIスタートアップを2023年に立ち上げ、生成AI事業を手掛けています。生成AIで企業の業務効率化やDXを支援するのが事業の中心です。
りりぃ 生成AIを事業化したきっかけはなんだったんですか?
室谷 最初は全く違うブロックチェーンの事業を考えていたんです。歩いてトークンを稼げる「STEPN(ステップン)」のようなプロダクトを作りたいと思っていました。なるべく低コストで始められないかと考えていた時に、ChatGPTが登場したんです。
最初は社内の効率化ツールとして自社だけで生成AIを使っていたのですが、あるスタートアップイベントに参加した時に、生成AIの事業化があまり進んでいないことに気づきました。「あれっ、これは自分たちのノウハウが生かせるかもしれないぞ」と。そこでDifyの事業をテスト的に始めてみたところ、予想以上の反響があって、今に至ります。
りりぃ ありがとうございます! そもそもDifyってどんなツールなんですか?
室谷 簡単に言うと、誰でも独自のAIアプリケーションを作れる技術です。Difyを使えば特定の目的に特化したAIアプリを簡単に作ることができます。例えば、自社の製品情報やマニュアルを学習させたオリジナルのAIボットのようなものを、プログラミングの知識がなくても作れる。ブロックを組み合わせるような直感的な操作で、これまで外注で数千万円、数億円していたようなシステムも作れてしまう。そこが画期的なポイントですね。
りりぃ ChatGPTではダメなんですか?
室谷 ChatGPTは多用途に使える汎用的な生成AIですが、複雑なタスクや専門的なタスクを処理させる際には使い勝手が悪く、「物足りない」ということも少なくないと思います。生成AIを「さわってみた」という段階を超えて、仕事で本格的に使おうとすると、個々の業務に応じてカスタマイズした方が効率的です。
Difyは使う生成AIを選ぶことができ、ツリーのように条件による分岐もつくることができます。仕事や業務に合わせて細かくカスタマイズでき「自分が最も使いやすく、最も適した結果が出る」AIアプリをつくれます。
りりぃ 自分専用のAI……便利そう!具体的にはどんなAIアプリがつくれるんですか?
室谷 例えば「自社の製品についての問い合わせに24時間対応するAI」や「社内の業務マニュアルを理解して回答するAI」などです。データを学習させることで、ChatGPTよりも正確で具体的な回答をするAIアプリがつくれます。
グーグルの検索エンジンや生成AI「Perplexity」など様々なツールを組み込むことができる
りりぃ ほかにどんな使い方があるのか気になります!
室谷 具体的な「ユースケース」は、日々生まれている状況です。Difyは細かくカスタマイズできるのが強み。生成AIなどのツールの組み合わせはそれこそ無限にあります。今年「Dify部」というコミュニティーを立ち上げました。Difyを使うユーザー同士を集めて、週に1回程度オンラインで集まり、新しい活用法やノウハウを共有しています。思ってもみないような面白い使い方が続々と生まれています。
「たった数日で作れる」 Difyの実践的活用法
りりぃ それでは本題です。室谷さんの「本当は教えたくないとっておきのDify活用法」を教えてください! まずは初心者でも使えるようなものからお願いします。
室谷 コンテンツ制作の効率化で使うのがわかりやすくオススメです。SNSやオウンドメディアなどインターネット上で情報やコンテンツを発信する企業は多いと思います。おそらく多くの企業では「記事担当」「YouTube担当」「X担当」など、チャネルごとに担当者を分けていますよね。
りりぃ うんうん、それぞれに運用を分けていることが多いと思います。
室谷 例えば制作するコンテンツの情報源が同じなら、その1つの情報源から各チャネル向けのコンテンツを自動生成できます。例えば、YouTubeの動画から字幕データを取り出して、それを元にブログ記事を作成する。その記事をさらにX用の短文に要約する。そんな一連の流れを自動化できます。
「字幕データの取得」→「記事作成」→「X投稿文作成」のそれぞれの処理をする生成AIを組み込みます。YouTubeのURLを入力するだけで自動で、記事とX投稿文が出力されるAIアプリの完成です。
りりぃ 「生成AIを組み込む」って操作が難しそう……
室谷 Difyは画面上で必要な機能を線でつないでいくだけです。「字幕を取得して」「記事を作って」「要約して」という感じで、DifyのブロックをつないでいけばOKです。もし指示内容(プロンプト)に困ったら、別の生成AIを使って「指示」をつくらせることもできます。ITエンジニアがいなくても、実用レベルのものが作成できます。
Dify でつくった「営業リストを作成する」アプリ
りりぃ では中級レベルだとどんなことできますか?
室谷 営業リスト作りが役に立つと思います。例えば会社名を入力するだけで、その会社のホームページを見つけて、事業内容を分析するAIアプリがつくれます。「この会社は自社製品に興味がありそうか」「リモートワークを導入しているか」といった情報まで自動で判断できるようにして、優先順位などスコア化してリストして表示するようにもできます。
りりぃ 具体的にはどうやって作るんですか?
室谷 Difyの画面上で「ワークフロー」というものを作っていきます。営業リスト作成なら、最初のノード(結節点。Difyではブロックのように表示される)で「会社名から企業サイトを検索」、次のノードで「企業情報を抽出」、さらに「スコアリング」というように、必要な機能をつなげていく。各ノードの詳細な設定も、「会社の特徴を3点まとめて」「リモートワークの有無を判定して」といった感じで、普通の日本語で指示を書いていきます。
りりぃ 上級レベルだとどんなものが!?
室谷 社内の情報を一括管理するシステムは少し難しいかもしれませんが作成可能です。就業規則や評価制度などの資料をDifyに読み込ませれば、「育休の申請方法は?」「残業代はどう計算するの?」といった質問に、関連規定を参照しながら正確に答えてくれる「AIアシスタント」がつくれます。
りりぃ でも社内の大事な情報を扱うの、ちょっと怖くない?
室谷 良い指摘ですね。Difyは自社のサーバー内に設置できるので安心です。実際、ある出版社では過去に出版した雑誌のデータを学習させて、新しい記事を企画・作成したり、日本語の記事を外国語に翻訳したり様々な用途で活用しています。自社サーバー内のシステムなので、情報漏洩リスクも限りなく低い。その上で、データの抽出から翻訳、記事作成まで、すべて自動化を実現しています。
りりぃ 既存のシステムと組み合わせることもできるんですか?
室谷 はい、実はこれが大きな特徴なんです。Difyで作ったAIアプリケーションは、すべてAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース。異なるソフトウエア同士をつなぐ)として外部システムと連携できます。
例えば、ある人材会社ではネット上の求人媒体の入力フォームにDifyでつくったAIアプリケーションを組み込んで、応募者の経歴書を自動でフォーマット化しています。手作業だと1件30分かかっていた処理が、数秒で完了できるようになりました。
りりぃ 30分が数秒……! すぐにでも作り始めたいのですが、どこから手をつければいいですか。
室谷 最初は単純なワークフローから始めるのがおすすめです。例えば、ブログ記事を要約してX投稿文を作るというようなものです。Difyには「テンプレート」という機能もあって、よく使われるワークフローのひな型が用意されています。それを少しカスタマイズするだけでも、結構使えるものが作れますよ。
りりぃ 慣れてきたら、もっと複雑なものも作れるんですよね。
室谷 そうですね。例えば「競合分析AI」を作るなら、複数の情報源から情報を集めて、トレンド分析や市場予測までしてくれるようなものも作れます。さらにSlackと連携させれば、「今週の競合動向をまとめて」とチャットで頼むだけで、リポートを自動生成することもできます。可能性は無限大なんです。
ワークフローを組み立てるところから、APIとして公開するところまで、すべて直感的に操作できます。Difyの裏側では、データの前処理や、AIモデルの使い分け、エラー処理など、かなり複雑な処理が動いていますが、ユーザーはひとまず考えなくても使えるようになっています。
りりぃ これからDifyを始める人にアドバイスをお願いします!
室谷 大事なのは、まず自分が解決したい課題を明確にすることです。「どんな情報が欲しいのか」「どんな形式で出力してほしいのか」をはっきりさせれば、あとは必要な機能を組み合わせていくだけ。失敗を恐れずに、いろんなワークフローを試してみてください。
もう目前?「AIエージェント」時代を生き抜くスキルとは?
室谷さんが主宰する「Dify部」では、オンラインの会合で作成したアプリの事例を共有している
りりぃ 室谷さんの「AI観」についても教えてください。生成AIがどんどん進化している中で、私たちはこれからどんなスキルを身につければいいと思いますか。
室谷 面白い質問ですね。「AIエージェント」が登場しつつある中で、人間がなにができるかということですね。
りりぃ AIエージェント? それって普通のAIと何が違うんですか?
室谷 ChatGPTのような従来の生成AIは、私たちが指示を出すのを待っている「受け身」な存在でした。でも、AIエージェントは自分で判断して行動できる「能動的」なAIなんです。例えばWebマーケティングの役割をAIエージェントに与えてあげると、必要な情報を自分で集めて、施策立案し、施策実行のところまで作ってくれる。
りりぃ すごい!そんなAIが出てきたら、私たちの仕事がなくなっちゃうんじゃ……
室谷 いえいえ、むしろ逆なんです。AIエージェントといっても、全知全能の存在というわけではありません。全ての業界や職種で使える万能なAIエージェントの実現はまだ先と考えています。だからこそ、各産業の特性に合わせてAIエージェントをうまく使いこなせる人材が必要になってくる。例えば。例えば「この業務はこのAIが得意」「この分析はこのAIでここまで行い、ここから先は人間がやるべきだ」といった具合に、AIの特性を理解した上で最適に配置していく。いわばAIの「人材戦略」のようなものです。
りりぃ なるほど! そのためにはどんなスキルが必要なんでしょう?
室谷 特定の技術に特化するよりも、会社の事業構造を理解し、俯瞰(ふかん)的な視野で戦略を立てられる力が重要です。AIはツールであって、それを使って何を実現したいのか、ビジネスの視点で考えられる人が求められるようになるのではと考えています。
それから今いる自分の分野で専門家といえるようなスキルを身につけることも有効です。いま私は、各業界で専門的なノウハウをもつ人と一緒に、業界特化型のAIソリューションの開発を進めています。例えば、マーケティングのソリューションならマーケティングのプロと一緒に作る。医療分野なら医療の専門家と。その業界を知り尽くした専門家と協力することで、より実践的なAIツールが作れると考えています。
りりぃ 適切に「配置」するためにAIについても知っておいた方がいいですか?
室谷 はい、とにかく手を動かして、座学だけじゃなくて、実際にAIツールを触ってみるのが近道だと思います。失敗してもいいから、試行錯誤を重ねることで、AIの特性が見えてきますす。僕のおすすめは、毎日少しでもAIツールを使う習慣をつけること。新しいツールが出てきたら、すぐに試す。その積み重ねが、実践的なスキルになっていきます。
りりぃ Difyもまずさわることが大事?
室谷 その通りです。私が主催するコミュニティー「Dify部」では初心者向けの勉強会も開いています。ユーザー同士でノウハウを共有できる仕組みも検討中です。作成したアプリケーションの「DSLファイル」を共有して、お互いの知見を交換できるような場にしたいと思っています。
りりぃ DSLファイル?
室谷 あ、ごめんなさい、専門用語でしたね。簡単に言うと、Difyで作ったAIアプリケーションの設計図のようなものです。DSLファイルを見ることで「こんな使い方もできるんだ!」という発見があると思います。
りりぃ 詳しい人と一緒に学ぶと上達が早まるって言いますよね! 室谷さん、もしよければDify教えてください!
室谷 すごいやる気ですね(笑)。では、まずはDify部に参加してみたらどうですか? きっとりりぃさんなら、使っていればすぐに上達できますよ。
……というわけで、「インフルエンサーに聞く生成AIの活用術」は連載として、これから室谷さんとともにXの生成AIインフルエンサーさんを続々とインタビューしていきます!次回は12月24日公開予定です。お楽しみに!
経営者や各分野の専門家による無料ウェビナー「NIKKEIリスキリングcafe」も定期的に開催。ちょっと楽しく、だけど真面目に学び直しをしたい人に役立つ情報をお届けしています。