イギリス海軍が騙された「偽エチオピア皇帝」
この事件は1910年、ケンブリッジ大学の学生を中心としたグループが、
「イギリスを訪問中のエチオピア皇帝一行」に扮して、時のイギリス海軍をすっかり騙してしまった、という伝説的ないたずら事件です。
騙された当の海軍は激怒しますが、イギリス国民は海軍のマヌケっぷりに大笑いしたそうです。
ケンブリッジ大学の学生ヴェア・コール
事件の首謀者の1人ヴェア・コールは、ケンブリッジ大学の学生で家は大金持ち。
趣味はいたずら。
趣味を実行する時には莫大なカネを使って、「ガチ」のいたずらを仕掛けていました。
例えば、労働党の党首マクドナルドに変装して偽の労働党集会を開き、
労働組合をクソミソにこき下ろす一方、政敵のトーリー党を賞賛して労働党支援者を唖然とさせたり、
ヴェネチアのサンマルコ広場にトラック数台分の馬糞をまき散らしたり、
とにかくいたずらで人を驚かせることが大好きな男でした。
そんな彼のいたずらで最も有名なものが「偽エチオピア皇帝事件」です。
エチオピア皇帝一行に変装
1910年2月10日、コールら学生6人は、イギリス外務次官の名前で海軍司令部に電報を打ちます。
「今から3時間半後にアビシニア(エチオピア)の皇帝がポートランドに到着する故、これを迎えて歓待すべし」
そしてあらかじめ用意していた民族衣装を着て、皇帝、皇女、側近、通訳、イギリス外務省職員に変装。ポートランド駅行きのお召し列車(これも自費で調達)に乗り込みます。
駅を降りると、海軍将校らが華々しく一行を出迎え、コールら一行はVIPの送迎車に案内されます。
6人の格好は、冷静に見たらエチオピア人とは思えない雑なものでしたが、海軍の連中は誰も気づかなかったようです。
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「ブンガ!ブンガ!」
一行は、海軍長官らの案内で軍艦や兵器工場を案内されます。
と、偽皇帝が両手をかざして
「ブンガ!ブンガ!」
と叫び始めました。
何か粗相があったか、と顔面が強ばる長官。
そこに偽通訳が
「閣下は、すごい、実にすごいとおっしゃっています」
と言うと長官は「なるほど、それはよかった」と安堵し喜んだそうです。
もちろんこれはエチオピア語ではなく、自分たちで考えたでたらめな造語で、
この他にもでたらめな言葉で長官に話しかけますが、誰もおかしいと気づきませんでした。
また、両国の国歌斉唱の際、海軍は誤ってザンジバルの国家を演奏してしまいましたが、当の海軍はもちろん、コール一行も誤りに気づきませんでした。
なんなんだ、この光景は。
赤っ恥の海軍
一行はロンドンに到着すると、新聞社デイリーミラーに事の顛末を種明かし。
翌日に大々的に報じられると、海軍は国民の物笑いの種になってしまいました。
騙されたことを知った海軍長官は激怒しコールの処罰を求めますが、特に犯罪を犯したわけではないので罪に問われずに釈放されています。
ちなみに「ブンガ、ブンガ」はその年の流行語になったそうです。