速さを求め、ディテールにこだわる18年ぶり新作『首都高バトル』 早期アクセス版に見る“走りの原点”とは?
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あの最速伝説的レースゲームがよみがえる。『首都高バトル』が早期アクセスを2025年1月23日に開始した。国産スポーツカーが夜の首都高速道路(以下、首都高)をブイブイいわせる人気シリーズ、18年ぶりの新作だ。早期アクセス初日に同時接続プレイヤー14000人を突破し、注目度と話題性の出だしは好調である(SteamDB調べ)。シリーズファンはもとより、本作で初めて首都高を走るゲーマーも多かろう。その両者が抱える懸念は「製品版でどんなゲームになるか」だ。
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本作のテーマは“原点回帰”だと開発者がインタビューで述べている。もちろん、ここでいう原点とはシリーズ史の初代ではない。『首都高バトル』が掲げる「走りの原点」であろう。ならば先にあげた懸念は次の言葉に言い換えられる。原点に何があるか。本稿は首都高バトルが人気を博したコア要素を原点と仮定し、早期アクセスの方向性を予想する。
詳細は次章で述べるが、先にクルマの話で心のエンジンを温めておこう。いまなおモータースポーツの最前線で活躍する自動車メーカー・トヨタには“道が人を鍛え、クルマを鍛える”という言葉がある。走るステージこそ違えど、この言葉こそ『首都高バトル』のコア要素にピッタリだ。首都高を走ることでプレイヤーはスピードという感性を開花させ、そしてクルマにスピードを求めるのである。
人とクルマと首都高と
『首都高バトル』の魅力は敷居の低さだ。走り屋がテーマの『湾岸MIDNIGHT』や『頭文字D』、エンスージアストがテーマの『GTロマン』など、マンガやアニメからすんなりと入っていける。それだけでなくレースゲームやドライブシムとしても敷居が低い。「銀座クラーッシュ!」と必殺技を叫びたくなるような、格闘ゲームっぽく楽しめてしまうのだ。
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ゲーム内容は、オープンフィールドの首都高を周回しながらライバルカーとバトルする。バトルに勝てばドラマが進展し、全員倒せばゲームクリアだ。パッシングで合図すればその場でバトルが始まり、ライバルのSPゲージ(格闘ゲームの体力ゲージと同じ様式)がゼロになるまで走り続ける。SPゲージは相手の後ろを走ると減り、壁やクルマとの接触でも減る。つまり壁や他のクルマにぶつけ、執拗にブロックして相手の心をへし折れば勝利だ。
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早ければ、いや速ければ30秒で決着だが、1分、2分と集中力の続く限り走り続けてもいい。危険走行を避けて粘り強く追い、コーナーでスパッと抜き去っても勝ちである。好きに走ればいい。ただあるのは「どっちが速いか」ということだけだ。この考えを育みプレイヤーを首都高の住人にするのが、人・クルマ・首都高のドラマである。
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ライバル図鑑の紹介文でクルマとの向き合い方や人となりがわかり、ただのザコ敵ではなくネームドだという実感がわく。パーキングエリアでライバルと会話でき、プレイヤーが走りに応じたニックネームで呼ばれるのもイイ。こうしたフレーバーで走り屋の世界を匂わせるのだ。バトルを経て進展するストーリーも、ただ走りたいという気持ちが変化する様子を描く。呼応するかのように次々と新たなスピード域の住人が参戦する。
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バトルでCP(おカネ)を稼ぎ、クルマを買い替えチューンアップし、新たなスピード域で首都高を走るのだ。走れば走るだけ首都高を覚える。それだけでなく、スピード域に応じてコーナーが違った表情を見せる。この繰り返しで自分が見つけた走りを磨くのだ。首都高に鍛えてもらっている、という心地よさで朝まで走れてしまうのだ。
俺が走るから、道があるんだ
以上が『首都高バトル』のコア要素である。前作『首都高バトルX』で完成したバトル・ドラマ・首都高をそのまま継承した。前作で未実装だった湾岸線・横羽線があるのはグッドだ。シリーズファンの悲願成就といえよう。ここから本作は早期アクセスを通じてコア要素を磨いていくように思えた。
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まずはコンテンツについて。本作ではストーリーと車種にあたる。ストーリーは前作から大きく進歩した。3本のストーリーラインで、シリーズファンも新規プレイヤーもカバーする。走りのモチベーションをかき立てられると請け合おう。車種は現在50弱である。90~00年代のスポーツカーや、ドレスアップで人気のボックスカーが並ぶので、いつもの顔ぶれに見えるだろう。ここからどんな車種を追加するかは製品版のお楽しみだ。
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筆者はゲーム開始時に選択する車種からセンスの良さを感じた。現実的に購入可能なスポーティーカー、スズキ「スイフトスポーツ」。長年愛される2シーターのクーペ、マツダ「ロードスター」。マンガ『頭文字D』で有名な「ハチロク」。この3台から、古今のクルマファンを幅広く捕らえようとする気概が見える。前作から18年もの間に発売した、戦闘力が高いニューマシンの参戦に期待したい。
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一方、プレイ感の補強については調整中だと感じた。ドラテクを磨くよう促すためかマシンパワーの縛りが強く、ライバルカーの性能が上回りすぎてキツい。さすがにキツすぎたようで、2月10日のアップデートではマシン強化のアンロック段階とライバルの強さが調整された。無論、その調整で新たなネガが出てくるにちがいない。そのネガを打ち消す調整が入り―― 別の場所でネガが出て―― 少しずつ詰めていくのだ。それが早期アクセスの意図、チューニングの過程である。
チューニングに魔法はない
18年の年月を経てよみがえる『首都高バトル』には、たしかに“原点回帰”という声が聞こえた…… 早期アクセスの仕上がりをクルマに例えるなら、まっすぐ走り、曲がり、止まるクルマである。アタリマエに聞こえるが、首都高のスピード域でアタリマエができるクルマは少ない。これならチューニングのベースカーに申し分なさそうだ。
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ベースカーと例えたので、ゲームプレイとストーリー以外のパートに触れておく。ビジュアルはまさに『首都高SPL』である。メジャーメーカーの人気シリーズめいた豪華さはないが、夜の高速道路が醸す雰囲気は首都高にこだわるメーカーならではだ。過去作アレンジのBGMでファンサービスをキッチリこなすのもうれしい。ブースト圧を開放する音や、スキール音やデフが効く音もその気にさせてくれる。
特記すべきはクルマのディテールだ。運転席視点はないが、窓から計器類やカーナビの光が見えてニヤリとできる。ドレスアップもノレる要素だ。ライバルたちとカーラッピングを競い合えばクルマに愛着がわく。エアロ・ホイールの実在メーカーと提携し、時速300kmファンタジーにリアリティを与えたのもコダワリポイントにあげたい。
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このベースカーをいかに乗りやすくするか、そして乗りこなすまでを楽しめるチューンドカーにするか。ここが、早期アクセスというチューニングの焦点になると思われる。製品版を待つゲーマーはチューンドカーの出来映えを楽しみにしてもらいたい。早期アクセス参加者はベースカーで楽しめたか、メーカーへ声を届けよう。
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