連載:あなたを作る10曲(第二回)
Charli XCX、乃木坂46のMVも手掛けた映像作家・柳沢翔を形作る10曲とは? ヒップホップが与えた影響と共にプレイリスト紹介
あるアーティストとの出会い ヒップホップに傾倒した学生時代
――まずは柳沢さんの音楽との出会い、いわゆる原体験はいつ頃だったか覚えていますか?
柳沢翔:音楽は…多分両親が好きだった井上陽水を認識したのが初めてな気がします。「ダンスは上手く踊れない」だったような…。いまだに井上陽水の声を聴くとメランコリックな気持ちになりますね。昔住んでたアパートのベランダがスカスカで下の階のおばさんと目が合ったとか思い出します。初めて買ったCDはZARDか、グレートチキンパワーズだったかな?多分小三ぐらい。
そこからは、みんなと同じようにミスチルとかラルクを聴いていましたが、高校生のときにNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDが流行り出して。うわ! カッコいい! って。サンプリングって手法にめっちゃワクワクして、渋谷のDMRでサンプリング元が載ってる本買いました。黄色い表紙の。捨てられなくていまだに持ってます(笑)。ちょうどその時期、リンプ・ビズキットがリミックスをいっぱい出してて。そのなかにネプチューンズやメソッドマン、ティンバもプレミアもいて、そこから洋楽ヒップホップも漁るようになりました。
――周りの友人と一緒にヒップホップを聴いていたんですか?
柳沢:僕は神奈川県の七里ヶ浜という海沿いの町出身なんですが、防波堤にクジラのグラフィティがボムされてて、なんとなく景色の一部として記憶してたんです。大学一年生の時、134号線沿いのセブンイレブンに夜勤バイトで入ったら、一緒に働いてた一個下の子がボムってた本人だったんです。ビックリして(笑)。すぐ仲良くなって、海沿いで一緒に絵描いたり、タギングの真似したりして。彼はSHINKという名義でラップもしていたので、イベントを見に行ってるうちになんとなく彼の周りのラッパー達とも混ざっていきました。
当時の鎌倉/藤沢シーンではShink & 卍、ダイナリデルタフォース、ハイイロデロッシ、ポールスター、イートレーダー、オロカモノポテチ、デルカテックが好きでしたね。ローカル過ぎて意味不明かも(笑)。でも自分にとっては全員スターだし、今でもです。イートレーダーのMCJAPはTakuma the greatという名義で今もめっちゃ活動してます!
――その辺りのエリアだと、あとはOZROSAURUSとか?
柳沢:オジロは横浜エリアなのでちょっと違いますが、でも、みんな何かしら影響を受けてたと思うし、誇りに感じてる部分があったと思います。僕もラップを少しやってみたんですが、あ、これは全然ダメだな(笑)って早々に気づいて、ライブペイントの方にのめり込んでいきました。Shinkや美大の友人たちと一緒に、横浜ロゴスでhiphopショーケースとライブペイントのイベントをやっていたんですが、その中でオジロの影響力を改めて感じることが多かったです。
――今回作成いただいたプレイリスト10曲は、ヒップホップ色が強いというのは大前提で、2000年~2003年ぐらいの楽曲と、最近の2019年~2023年までの大きく2つに分かれているなと思っています。2002年はDragon Ash「Life Goes On」、RIP SLYME「楽園ベイベー」の大ヒットがあった年で。
柳沢:キングギドラの「公開処刑 feat.BOY-KEN」はどれぐらいですかね?
――「公開処刑」も2002年なんですよ。ほかには、KICK THE CAN CREW「マルシェ」とか。
柳沢:懐かしいなー。
――嵐が「a Day in Our Life」を出したりしていたときで。
柳沢:スケボーキング(作詞・作曲は「SHUN・SHUY」名義)がやってたやつだ!
――翌年には映画『8 Mile』が日本公開されるわけですけど、2002年はJ-POPも含めてヒップホップ一色な年だったと記憶しています。
柳沢:僕、あるときから音楽をあんまり聴かなくなっちゃったんです。新卒で入ったCM制作会社がめちゃくちゃハードで、それをきっかけに音楽から遠ざかってしまいました。ヒップホップの反体制的なところが好きだったんですけど、社会人になって所謂「バビロン側」を選んだ自分が、曲の中でディスられてる気がして。その上、指示された仕事も満足に出来なくて周りの人達に迷惑をかけている。カッコいいボースティングを聴いてもアガれなくて、むしろツラい。自分を誇る、なんてもう1ミリも思えない。hiphop好きなんて言えるのかな…なんてことを考えていたとき、THA BLUE HERBを聴けなくなってしまったんです。そこから音楽を全然聴かなくなりました。
仕事でアイドルソングばかりを聴くようになり、自然とほかのジャンルの音楽は聴かなくなってました。いやー、偏ってますね(笑)。この2、3年で少しずつ現行音楽を聴き出した、という感じです。だから、今回作成したプレイリストでは、年代が分かれてるんだと思います。