松村北斗が映画界で“無双状態”に 『ファーストキス 1ST KISS』硯駈役がハマり役な理由

松村北斗が映画界で“無双状態”に

 スクリーンに大きく映し出された松村北斗の表情を思い出すたび、不覚にも涙が込み上げてくる。記憶の中にある彼の声が脳内で反響するたび、やはり涙が込み上げてくる。それも、一度そうなってしまうと簡単には止められない。ここでいう松村とはもちろん、公開中の映画『ファーストキス 1ST KISS』における彼のことだ。俳優・松村北斗が演じる硯駈が、この心に住み着いてしまったのである。

 本作は、現代人の心模様を軽妙に描出する稀代の脚本家・坂元裕二の最新作であり、ひと組のカップルの関係を描いたラブストーリーだ。駈(松村北斗)と結婚をして15年になるカンナ(松たか子)はある日、事故によって夫を失ってしまう。いつからか夫婦生活は冷めきり、離婚の話も出ていたとはいえ、あまりにも思いがけない別れ方である。

 しかし、ひょんなことからカンナは駈と出会った15年前の暑い夏の日にタイムトラベル。まだ夫になっていない若き日の彼と出会い、カンナは再び恋をする。そして現代へと還ると、少しだけ状況が変わっていることに彼女は気づく。過去を変えれば駈の死を避けられるかもしれないと考えたカンナは、タイムトラベルによって現在と過去とを往還し、何度も愛しい人と“出会い直す”のだ。

 ここまで『ファーストキス 1ST KISS』の概要とあらすじを簡単に記してみたが、涙が込み上げてはキーボードを叩く手が止まってしまう……。そんな本作で松村が演じるのは、29歳のハツラツとした駈と、心身ともに鈍くなってしまった44歳の駈だ。そう、カンナとはじめて出会った日のまぶしい好青年と、事故死する直前のくたびれた中年男性である(登場するのは主に前者だが)。

 若き日の駈は、自分の好きなことに夢中になっている青年で、これを松村は等身大の演技で自然に体現している。口から出てくるのは坂元が生み出した軽妙なセリフの数々だ。松村は変に力んだりすることなく、ほとんどあるがままの姿で軽やかに、この物語の世界に存在しているように思える。思い返せばついさっき道端ですれ違ったような、横断歩道の向こう側に目をやるとそこに存在を認められるような、そんな人物像を立ち上げている。

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