宇野維正の映画興行分析
初登場1位『ファーストキス 1ST KISS』 映画界における坂元裕二脚本作品の真価と可能性
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2月第2週の動員ランキングは、塚原あゆ子監督、坂元裕二脚本、松たか子&松村北斗主演の『ファーストキス 1ST KISS』がオープニング3日間で動員17万4000人、興収2億5400万円を記録して初登場1位となった。本作に関しては脚本の坂元裕二に注目が集まりがちだが、映画興行分析的なアングルから、まずは塚原あゆ子の監督作品であることに着目してみよう。
TBSのコンテンツ制作部門、TBSスパークルに所属する塚原あゆ子はこれまでテレビドラマを主戦場として活躍しながら、本作を含めて5作品の映画を監督しているが、そのうちたった2年弱の間に公開された近作4本すべてが動員ランキングのトップに立っている。事実上、現在の実写日本映画界における最大のヒットメイカーと言っていいだろう。2023年3月に公開された『わたしの幸せな結婚』(最終興収28億円)の初動成績との比較で、今回の『ファーストキス 1ST KISS』は39%。2024年8月に公開された『ラストマイル』(最終興収59.6億円)の初動成績との比較では26%。2024年12月に公開されて現在も公開中の『グランメゾン・パリ』の初動成績との比較では41%。こうして並べてみると、今回の『ファーストキス 1ST KISS』の出足が物足りなく見えるかもしれない。
しかし、重要なポイントは『ファーストキス 1ST KISS』が、コミック原作でもなく、テレビドラマの映画化作品やシェアードユニバース作品でもないことだ。テレビドラマの映画化作品であった『西遊記』から14年のブランクを経て、独立系配給作品にもかかわらず興収38.1億円を記録した『花束みたいな恋をした』、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した『怪物』、そして今年4月公開、脚本執筆や制作では本作に先んじていた『片思い世界』と、2020年代に入ってから軸足をテレビドラマから長編映画に移した坂元裕二。彼の映画界における快挙は、興行成績や受賞歴以上に、この時代にあってスクリーンに完全オリジナル脚本の作品を送り出し続けているところにある。
また、主にアジア地域で広く公開された『花束みたいな恋をした』、是枝裕和監督作品ということもあって欧米各国を含む世界中で公開された『怪物』と、坂元裕二脚本映画はスタンドアローンのオリジナル作品であることから国内のマーケットのコンテクストに依拠することなく(当たり前の話だが国内のテレビドラマの映画化作品を海外で劇場公開しても観客はごく限られている)、グローバルのマーケットにも開かれてきた。当然、今回の『ファーストキス 1ST KISS』も海外展開が予定されているが、日本語圏の住人じゃないとわからない固有名詞が次から次へと飛び出す(それがあの作品の面白いところでもあるのだが)『花束みたいな恋をした』と比べても、普遍的なラブストーリーである『ファーストキス 1ST KISS』の可能性はさらに大きいはずだ。
■公開情報
『ファーストキス 1ST KISS』
全国公開中
出演:松たか子、松村北斗、リリー・フランキー、吉岡里帆、森七菜、YOU、竹原ピストル、松田大輔、和田雅成、鈴木慶一、神野三鈴
脚本:坂元裕二
監督:塚原あゆ子
企画・プロデュース:山田兼司
制作プロダクション:AOI.pro
配給:東宝
©2025「1ST KISS」製作委員会
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