2024年の年間ベスト企画
田幸和歌子の「2024年 年間ベストドラマTOP10」 個からチームへ、女性の作り手たちの力
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、放送・配信で発表された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第7回の選者は、ライターの田幸和歌子。(編集部)
田幸和歌子の「2023年 年間ベストドラマTOP10」 秀逸な脚本と若い才能に感じた希望
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、ア…
1. 『宙わたる教室』(NHK総合)
2. 『ライオンの隠れ家』(TBS系)
3. 『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)
4. 『燕は戻ってこない』(NHK総合)
5. 『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)
6. 『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)
7. 『お別れホスピタル』(NHK総合)
8. 『団地のふたり』(NHK BS)
9. 『虎に翼』(NHK総合)
10. 『光る君へ』(NHK総合)
カリスマ的な脚本家やプロデューサーが物語を牽引する時代から、「チーム力」の時代に移行したことを感じさせられた2024年ドラマ。その最たるものが、“諦めていたものを取り戻す場所”定時制高校を舞台とした伊与原新原作・窪田正孝主演の『宙わたる教室』だ。
実はいくつかの媒体に記事化を提案した際、「地味」という理由で却下された。なにせ舞台は静かで暗い夜の教室、メインキャストは窪田正孝のほか、いぶし銀のイッセー尾形、若き天才・伊東蒼、ムードメーカーのガウと若手の小林虎之介という小所帯。しかし、小林扮するディスレクシアの青年がメインの第1話から視聴者の熱狂が生まれ、その熱量は回を重ねるごとに高まっていった。
章ごとに主人公が異なる7章立てのオムニバスを全10話の物語にするにあたり、窪田扮する元科学者の先生を軸にし、原作では描かれていない部分を脚本と窪田の緻密な芝居が補足。月の光のような安らぎを与える先生との出会いで、生徒たちが変化していく一方、セカンド演出のアイデアにより、生徒たちとの交流を通して先生自身も変化していく物語が紡がれた。達者な役者陣と誠実な制作チームの中で小林虎之介がぐんぐん成長し、光を放つ様、チームが一つになっていく様を見届けるドキュメンタリーのようでもあった。
『宙わたる教室』実写化は“運命”だった 制作陣が心がけた“あえての余白”と宇宙への思い
「ここは諦めたものを取り戻す場所ですよ」 現在放送中のドラマ『宙わたる教室』(NHK総合)は、実話に着想を得て生まれた伊与原…
ちなみに、同作のチーフ演出・吉川久岳と映画『愛がなんだ』などの脚本家・澤井香織は、ヤングケアラーを描いたNHKスペシャルドラマ『むこう岸』のタッグ。いわゆる「親ガチャ」など、格差の不公平感から希望を持ちにくい時代に、「希望を描く」ことを名言してスタートした同作では、「学ぶこと=知」が自分の世界を広げてくれる希望を見せてくれた。
また、16歳未満の出演者がいたため、撮影は全ての場所に黒い遮光ビニールをかけて行われたことや、劇中に登場する科学実験も全て実際に行われ、困難を極めたことなど、気の遠くなる作業がこの作品の誠実さを支えていたことにも触れておきたい。
「チーム力」と言えば、説明不要なのが、野木亜紀子脚本×塚原あゆ子演出×新井順子プロデューサーの『海に眠るダイヤモンド』。内田ゆき制作統括×中島由貴チーフ演出という『アシガール』(NHK総合)、『スカーレット』(NHK総合)チーム×大石静脚本による大河ドラマ『光る君へ』だ。制作陣のメインを女性が占める両作が、ここまでの壮大なスケールと、隅々まで行き届いた細やかかつ濃厚な人間模様を両立する秀作になるとは、新時代を感じずにいられない。