手塚治虫のダークサイド?『アポロの歌』実写化決定でSNS騒然  失意の中で描かれた“黒手塚“の問題作

■手塚治虫の神髄は“黒手塚”にある

手塚治虫『アポロの歌』(講談社)

  手塚治虫の漫画『アポロの歌』のドラマ化が決まった。佐藤勝利と髙石あかりがW主演を務め、2月18日よりMBS/TBSドラマイズム枠で放送される。『アポロの歌』は、1970年に「週刊少年キング」で連載開始された手塚治虫のSF青春漫画で、主人公の近石昭吾は幼少期の母とのトラウマの影響で、愛を憎みながら生きているという設定だ。

 近年、手塚作品は比較的マニアックなタイトルも映画化やドラマ化される傾向があり、いわゆる『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』、『リボンの騎士』などのメジャー作品とは異なる作品も注目されるようになってきた。『ばるぼら』や『新選組』などは知る人ぞ知る作品だったが、映像化されたことで知名度が格段に上がっている。

 そんな手塚作品には、ファンの間で“黒手塚”と呼ばれる作品が多数存在する。手塚のイメージといえば、健全で、明るくて、誰でも読める漫画というイメージを持つ人は多いかもしれないが、実際はそういった作品は案外、少数派といってもいいかもしれない。とにかく多彩な作風で知られる手塚だが、内容が極端に暗い作品が存在するのだ。そして、『アポロの歌』も黒手塚に挙げられることがある作品である。SNSでもトレンドとなり「実写化して大丈?」「ダークな内容をどこまで映像化できるのか期待」など様々な意見が飛び交っていた。

 原作では、母から虐待を受けた近石が警察に逮捕され、精神病院に入るところから始まる。治療を受けるなかで近石は夢を見るのだが、女神像から、愛を呪った罰を受けなければならないと宣告される。それは、女性を愛したとしても、結ばれる前に自分か相手が死んでしまうというものであった。このあらすじからもわかるように内容は相当暗めであり、なんと、70年には神奈川県で有害図書に指定されたこともある。

■精神状態が反映された70年代作品

 さて、『アポロの歌』が発表された70年ごろ、手塚は失意のどん底にいた。劇画が全盛となるなかで手塚は古い作家とみられており、ヒットも出せず、周囲からは手塚は終わった、つまりはオワコンだと言われていた。73年には自ら立ち上げた虫プロダクションの倒産も経験している。のちに1968年から1973年の時期を手塚本人が“冬の時代”と呼んでいるが、この時代は手塚自身の心情を反映しているのか、とにかく陰湿で暗い作品が多い。

 その筆頭格が『アラバスター』である。『アポロの歌』と同じ70年に「週刊少年チャンピオン」で連載が始まった作品で、愛していた女優に捨てられたオリンピックの金メダリストのジェームズ・ブロックがアラバスターを名乗り、美に対して復讐するために犯罪に手を染めていく物語だ。手塚自身も、好きではないと語ったほど、精神的に追い詰められていた時期に描かれたいわくつきの作品である。

 こうした“黒手塚”を量産した時代を経て、手塚は73年に『ブラック・ジャック』を「週刊少年チャンピオン」に発表、人気作品となる。また、翌年からは『三つ目がとおる』を「週刊少年マガジン」で連載開始した。両作品とも長期連載となり、手塚は完全復活を遂げる。黒手塚と呼ばれる『アポロの歌』は、名作を生み出す礎となった作品ともいえる。そうした意味でも、なかなか意義深い作品と言っていいだろう。

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