英語猫

本以外を読むために、本を読む

A rude awakening / 英単語の勉強法について

 

◆◇◆ 無根拠な楽観  

日本の大学生は入学した途端に「英単語はもう覚えなくてよいのだ」と勝手に思い込んで自滅する傾向があります。

 

理由は不明で少数の例外も見られますが、入学時の成績に関係なくだいたい一律に起こるようです。自分もそう楽観していた一人です。大学合格はスタートに過ぎないとあれだけ教師から散々言われ自分で自分に言い聞かせたにも関わらず、暗記作業についてはその意識を貫かないで自分は入学と同時に十分な暗記量を終えてゴールしたのだと勘違いしている。

実際にはたかだかDUOだかターゲットだか受験用英単語帳2・3冊分を覚えただけなのに、まるで「自分の単語力はもうShakespeareでも英詩でも歴史書でも飲み会でも医師の診察でもエコノミストでも議論でも猥談でも罵倒でも対応できるんだ!ドンと来いよ!」と言わんばかりに自信満々です。

その意識の表れとして心は早くも第二外国語へ向いていて、英語はリスニングだけでいいやとか簡単な英会話できればいいやとか数値目標も教材の想定もない浅い方針で過ごす。Twitterでは「大学生って暇だな~」などと毎日のように呟くのにその空き時間を今しかできない暗記に充てようとは決してしない。

そして本人はその浪費に何年も気付かない。

 

必修授業での指定教材をしっかり勉強すると口先では言いながら実際には試験前に本文を覚えてあとは忘れるというその場凌ぎに使うため、単語ではなく本文のどうでもいい雑学だけが頭に残る。

 

メイン教材を別で用意する、と判断したならそんな勉強法で何の問題もないのです*1。でも実際には何もしないから知識は受験時から衰え続けるだけ。「英語は受験の時が一番できてたな~」というセリフを僕は学内で何度聞いたか分かりません。

 

違和感を覚えていざ自習書を探そうとしても過去の成功に引き摺られ受験参考書のコーナーばかりを徘徊する。この参考書評判いいよな~とかあっこの単語帳有名だけどやってなかったな~って思っているかもしれませんが、その「有名」はどの学習段階にいる人たちの「有名」か考えたことはありますか。

 

だいたい英検準1級以下の水準だと思います。その段階にいる人は受験参考書の話をするのが大好きですし、実際に準1級は大学受験教材だけで余裕で突破できます。

米国の大学に通うノンネイティブの友人に英単語帳でおすすめあると聞いたら『Verbal Advantage』がまず出ました。この本はamazon.comだとレビューが65件も付いているような超有名な本ですが、あなたにとって有名でしたか。

たぶん洋書ペーパーバックの英単語帳なんて1つも知らないんじゃないでしょうか。

 

追い討ちするなら、そもそも普段使うネットショップはamazon.co.jpばかりで、amazon.comで買い物なんて考えたことすらないのではないでしょうか。

新入生と久々に話していて驚くんですが「地方で一番大きい書店やamazon.co.jp)にないから有名じゃない本なんだ」とか自分が最大の情報源だとしていたものの局所性を更新しない探し方が散見されます。その類の固定観念は今すぐに改めるべきです。

 

その固定観念英単語の勉強だけでなく学術調査全般にとって危険です。1年次の基礎演習で「資料は(所属キャンパスの図書館で配架を見て適当に探したので)見つからなかった」とか言い出す未来が見えていますし、「大辞典にこのXXは載ってなかったから大して重要じゃない」などと編纂時期や方針から生じる辞書記述の限界や性格をまるで自覚せずに語の解釈に振り回されることでしょう。

 

以上が「英単語はゴールした」と確信している貴方の現状です。
そして下手すれば4年後のあなたの姿そのままかもしれません。

 

 

◆◇◆  ここが、きっと、わかれみち

 

 

さて以上が前置きです。なるべく新入生のピュアな心を最大限に抉るように書いてきましたが、ここからちょっと前向きに解決策を探して行きましょう。

 

大学受験の参考書は大事ですが、
その主観的な重要さを更新する時期というものがあります。

それが今です。

 

大学合格というひとつの大事なゴールにたどり着き、受験をその最終目的としない新たな施設で勉強を始めるにあたって、今まで最高難易度・最重要だと思っていた受験参考書群を「およそ準1級レベル」という区分に位置づけることが重要です。その上で、自分の目的に沿った新しい「最高難易度・最重要な参考書群」をイメージしていくことが求められます。

 

有名な単語帳と聞いて、ついさっきまではDuoで良くて、キクタン4000で良くて、ターゲットで良かったのです。それはあなた方が受験突破を目標とする精鋭集団であり任務遂行のために一番有効な「有名どころ」はそれらだったからです。Duo唱えまくって、キクタン聞きまくって、ターゲット狙いまくってれば問題はなかったのです。

でもこれからは、それじゃいけない。

「有名」とされる物体の集合を、いま更新しましょう。

大学生のあなたにとってこれから有名に(もしくは「重要」に)なるべきは、ターゲットではなくVerbal Advantageに表れているような方向を目指す書物群です。

(ただしビジネス英語を目指している方は、何よりも第一にポライトネスを学んだほうがよいかと思うのでこの主張はあてはまりません。)

 

その具体的な書名は以下の記事1.に書きました。

 

記事1: 英検1級前後レベルの単語帳7冊と順序(素案) - 読書猫

 

また、英単語を勉強するに当たって意味は文脈から推測できる」という幻想を絶対にぶち壊しておく必要があるので、もしそのような幻想を抱いている方は記事2.をお読みください。

 

記事2: 「単語の意味は文脈から推測できる」という主張の反例 - 読書猫

 

どちらも新入生にとってはa rude awakening(厳しい現実を思い知らされること)でしょうが、非人間的な勉強量に対して「仕方ねえなぁ、いっちょ工夫してみっか」とさっさと取り掛かる人間を大学は歓迎しています。

 

終わらなくても役に立ちはするものです。

 

*1:まともな参考書を読んだ経験があれば、本文読解には何の役にも立たない画家の生没年を貴重な紙面に並べ立てる『東京大学英語読本1』がメイン教材には到底ふさわしくないことなどランダムに2つ3つ本文を読めば分かります。受験レベル外の単語・上級文法・音声学・文化背景の学習のどの観点からも、あのテキストは大学1年生の主教材とはなりえません。それらの参考書を開いたこともないから「とりあえず指定教科書だし今学期はこれ勉強しよw」という楽観だけで勉強を進めようとするのでしょう。「こいつはちょっとおかしいぞ」という疑念は自習者のみがたどり着ける逃げ道です。