新型コロナウイルスは発熱や咳、痛み、呼吸困難などの症状が人の健康を蝕み、時には死に至らしめるが、同時に人が集うコミュニティにも「分断」をもたらし、弱体化させる。緊急事態宣言が出て、会社も学校も休みになり、バーやクラブは営業自粛となり、イベント、趣味の集いも中止になる。リアルのつながりがどんどん失われるなか、オンラインではなく、ぎりぎりな状態にあるリアルを「つなぐ」動きが、小さな場所から生まれている。
マスクに消毒用アルコール持参の重装備で筆者が訪れたのは、東京都国分寺市。この街に深く関わり暮らす農業デザイナーの南部良太さんに会った。
新型コロナウイルスの影響を受けて、2020年3月3日から南部さんたちが始めた活動は、個人宅向けの野菜のセット販売だった。もともと国分寺には野菜を中心に生産を行う農家があり、国分寺市では4年前から地産地消のプロジェクト「こくベジ」が進められている。「こくベジ」とは「国分寺の野菜」から採られた愛称だ。南部さんは、NPO法人「めぐるまち国分寺」が展開する農家から飲食店への配達などを担う「こくベジ便」事業に仲間とともに参画した。
しかし、2月末に小学校が休校になった時、付き合いのある農家から「給食用に作った野菜の持って行き場がない」との連絡があった。
「困っていた農家さんを見て何かできることがないかと考えはじめ、この機会に農家さんと一般市民の皆さん、季節の新鮮な野菜と家庭の食卓が『つながる』と良いのではと思った」
使われなくなった野菜が好評、人を再びつなぐ
南部さんたちが農家の野菜と一般市民を「つなぐ」ために選んだ方法は、以下のようなものだった。
「新鮮な野菜に『春のこくベジセット』という名前をつけてSNSなどでチャレンジ企画として販売を告知した。私のメールアドレスを公開して、直接メールを送ってもらい、希望のセットや個数など、そして受け取り可能な日を確認。受け渡し場所は、国分寺駅界隈の飲食店。野菜の配達はこくベジ便のメンバーで行うことにした」
南部さんたちが運ぶ野菜は「新鮮な野菜で美味しい」「地元産の野菜があると初めて知った」などと喜ばれている。セットの内容は、「小坂農園給食セット(里芋・葉つき大根・おまけ野菜)」「清水農園豊作セット(ほうれん草・ルッコラなどのサラダ菜・ニンジン)」「こくベジ給食セット(ネギ・ニンジン・のらぼう菜)」の3種類で値段は550円(野菜の種類が変わる場合も)。受け渡しは、「史跡の駅 おたカフェ」「カフェローカル」「KITCHEN HUIT(キッチン ゆいっと)」の3ヵ所で行った。
南部さんがスピーディーに動けたのは、先にも触れたようにこくベジ便の一員として地元の活動に関わってきたことにある。
「もとは都心の企業に勤めるデザイナーでした。子育てをきっかけに6年前に引っ越してきたら、日替わり店番として参加できる『つくし文具店』という面白いお店があり参加。そこをきっかけに地域のいろんなつながりが広がり今に至っています」
「ゆるやかに人がつながる国分寺は大好きな街。さまざまな出会いに感謝しつつ、これからも新しい人のつながりを作っていきたい。今回は地元の農家さんと地域の人たち。まだ他にもいろいろあると思うし、こんな時だからこそ、物理的な接触は難しいが、気持ちがつながる仕掛けを考えてみたい」
新型コロナウイルスの影響で人と人とのリアルな交流が難しくなり、何もしないでいると分断が進む。しかし、南部さんは今だからできるつながりを模索し、より良い街のデザインを考えている。
国分寺への取材後の4月7日、内閣総理大臣による緊急事態宣言が発令された。様々な要請がある中、南部さんたちは安全を確保しながら臨機応変に活動を続けている。こくベジ便の受け渡し場所である「史跡の駅 おたカフェ」と「カフェローカル」は4月中旬現在休業しているが、5月中旬から再開する予定だ。個人宅へのこくベジ販売もいったん休止したが、4月末から再開する予定。また、新しく参加するお店もあるという。
南部さんによれば、国分寺では緊急事態宣言以降、在宅のリモートワーカーが増加するのと併せて昼間人口が増えた。「家での食事ばかりだとストレスがたまりがちなので、プロの料理を自宅で味わえるテイクアウト需要が高まっています。住んでいるまちのお店、食の魅力に目を向けてもらうきっかけづくりができればと思います。こくベジの個人宅への販売、お店への納入ともに方法を模索しながら頑張りたい」(南部さん)。
■国分寺三百年野菜「こくベジ」