今、『あいこら』が面白い
以前、『神to戦国生徒会』が面白いと書いたのと同じノリで、今、『週刊少年サンデー』で連載中の井上和郎『あいこら』が面白いです。
マガジンで今一番の注目作が神toであるように*1、サンデーで今一番の注目作が『あいこら』だと言えるでしょう。
「面白いけど、アニメ化はしない面白さだな」という点でもこの二作品に通じる何かを感じます(もしアニメ化なんかしたら、どちらの雑誌も末期症状だと思われます)。
ストーリーとしては、こういう話です。
憧れの大都会・東京にやってきたごくフツーの高校生、前田ハチベエ。だが、ただひとつ、彼には女のコに”独特”な好みが… それは、透き通るようなブルーのネコ型パッチリ目、新幹線200系の先端のような胸、アニメのサニーちゃんのような脚、甘ったるい低音ハスキー声… しかし、偶然か奇跡か!? 好みのパーツを持つ女の子4人に一気に出会い、ひょんなことから彼女たちの女子寮の離れに仮入居することになってしまった…! 井上和郎先生が描くフレッシュでポップなピンポイントラブコメ!
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実はぼくは前作『美鳥の日々』を大して注目せずにいたのですが、『あいこら』は素晴らしいです。おそらく、面白さのキーワードは「作者、肩の力抜きすぎ」だと思います。
まずなんといっても、作品のフォーマット(第1話の構成を含む)が赤松健『ラブひな』からの流用なのですから。ジャンプに投稿する漫画家がみんな『ドラゴンボール』や『北斗の拳』を参考にして描く感じでしょうか。
いわゆる「女の子いっぱいHラブコメ」のテンプレートとして有効利用しているわけですが、レギュラーの人数をちゃっかり7人から5人に減らしている、というコスト的な手の抜き加減も見逃せません。
キャラクター構成
『ラブひな』のレギュラーは7人であり、主人公を抜くと6人、さらに脇役扱いの浦島はるかを抜くと5人です。
それぞれの属性と役割を記号的に分配すると以下のような形になります。
- 成瀬川なる ・・・ ツンデレ眼鏡(メインヒロイン)*2
- 紺野みつね ・・・ 関西弁(司会役)
- 前原しのぶ ・・・ 後輩(ロリ担当)
- 青山素子 ・・・ 剣道(ツンデレその2)
- カオラ・スゥ ・・・ 外人(ロリ担当その2)
- 浦島はるか ・・・ 年増(監督役)
以上の、「漫画的に描き分けられる限界の人数」をギチギチに表現していた作品が『ラブひな』だったわけですが、それに比べて『あいこら』のヒロインは4人、しかも「司会・監督役」である雨柳つばめを抜いて考えると3人です。
……3人。それって普通のラブコメの人数じゃないですか井上先生……。
それぞれの属性と役割を記号的に分配すると以下のような形になります。
この通り、二人ほど消えたり融合させられたり、巨乳が生えたりしていることがご理解頂けると思います。
ちなみに仲間内で『あいこら』の話をする時は、上から順番に
- 成瀬川*3
- 眼鏡しのぶ(「巨乳しのぶ」でも可)
- ロリ素子
- キツネ先生
で通じてしまいます(というかそうとしか呼ばれません)。
しかし、このようにぞんざいな名前の呼び方も、作品を悪し様に扱いたいからではなく、作者の程良い手抜きっぷりを愛するが故の愛情表現の裏返しであるのです、多分。
作品構造
以上のように、『あいこら』は「主人公が変態になった『ラブひな』」という見方が有力なのですが、確かにそうではあるものの、それは作品の一面を捉えた評価でしかありません。
『あいこら』はやはり、「サンデー系ラブコメ漫画」の系譜を受け継いだ作品として評価されるべきでしょう。でなければ、ファンタスティック・フォーを知らずにMr.インクレディブルを「ワンピのパクり」と言ってしまうようなものです。
例えば、ヒロインの人数を少なめにしているのも、考えてみれば単なる手抜きではなく、漫画的に計算されたものであったことが連載が進むにつれ解ってきます。
『ラブひな』は「漫画的に描き分けられる限界の人数」ギリギリであるが為に「新キャラを非常に加えにくい」フィールドを形成していた(全14巻で増えたキャラといえば計6人程度)のですが、『あいこら』は逆に、どんどんサブキャラのお披露目を済ましていきます。10話にも満たないのに、もう4人ほど増えているのです。
……しかも殆ど「使い捨て」状態で。要するに「ハーレム+回転寿司」の形式になっているということです。(→参考)
こういった形式は『ラブひな』よりもむしろ、『らんま1/2』や『星くずパラダイス』との影響関係で語る必要があるでしょう。
そもそも『ラブひな』自体が『星くずパラダイス』のブラッシュアップ版であったことを含めて考えると(→参考)、やはり『あいこら』は伝統あるサンデーラブコメの系譜に連なる作品として浮上してくるのです。
加えるに、「サブキャラ達がレギュラー以上の奇人変人揃い」という点や、「実は主人公はかなり強い」「その主人公の目的はヒロインを守ること(主に奇人変人達の脅威から)」などの点も、サンデー的な要素として発見できるでしょう。
逆に言えば、「ギャルゲーっぽさが無い」という指摘もできます。サンデー系のラブコメにギャルゲー要素を足した『ラブひな』から見れば、むしろ原点に逆行していると捉えるべきでしょう。
大意
それにしても、やはり『あいこら』が突然面白くなったのは
「ただの変態だと思われていた主人公に、いきなり最強伝説の設定が付いた」
瞬間からだと思います。それまであやふやだった主人公の行動原理も「理想的なパーツの持ち主を力ずくで守る」*4という形ではっきりした途端、『あいこら』はその輝きを増していきます。
なんせこの主人公、「ヒロインをオトす」ことにはまるっきり関心が無いのです。かといって、ヒロイン自身をぞんざいに扱うこともなく、「理想的なパーツの持ち主」として最大限の敬意を払うと共に、全力をもって周囲のケアに励むのです。
また、自分と同じ志を持つ変態仲間とは必要以上に争おうとはせず、「一般人/変態」の共存共栄を目指すという、暖かいハートの持ち主でもあるのです。大きい、なんて大きな男だ。
主人公、前田ハチベエは「正義の変態」と呼ぶに相応しい、正に現代のヒーローではないでしょうか。
「罪を憎んで、フェチを憎まず!!」
関連リンク:『美鳥の日々』応援絵日記−感伝喜−
4コマが普通に面白いので見に行くべし。