2013年kilk recordsの新連載がスタート
新進気鋭のレーベル、kilk recordsの主宰者、森大地が、様々なゲストとともに音楽業界に疑問を投げかけてきた「kilk records session」。2011年から1年に渡り送ってきた本企画だったが、森の野心は留まることを知らず、2013年も連載することが決定!! テーマはより明確に。音楽業界で新しい方法でサバイブしていこうとしている人たちに焦点をあて、森が毎月体当たりで対談に臨んでいく。
第1回となる対談相手は、残響塾の塾長、虎岩正樹。イギリスのリーズ音楽大学へ留学し、卒業後は単身渡米、後にインディペンデント・アーティストを育てるプログラムをMI Hollywood GITで立ちあげ学科長に就任。帰国後は、2010年までMI Japanの校長を務めるなど、日本だけでなく世界で音楽に携わってきた男である。森の真っすぐな音楽に対する想いと、虎岩の経験と知識、熱い想いが混じり合った第1回目にふさわしい対談となった。じっくり読み込んで、あなたの中で咀嚼して考えてみてほしい。
進行&文 : 西澤裕郎
photo by 雨宮透貴
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Aureoleの未収録曲を、OTOTOY限定で配信開始!
Aureole / Comfort : Early Recordings
【配信価格】
単曲 150円 / アルバム 1,000円
【トラック・アーティスト】
01. Spec / 02. Icy Cranium / 03. Fishes / 04. Asil / 05. Charge / 06. Rou / 07. Polar Circle / 08. Holiday / 09. Young People / 10. Noe / 11. Violence / 12. Some Things Return To Me
1st、2nd、3rd Albumにも収録されていないアウト・テイク集を集めた、Aureoleのルーツとも言える作品群『Comfort : Early Recordings』。ライヴ会場で限定300枚のCD-R作品として販売されていたこの作品を、OTOTOYで独占配信することが決定。Aureoleの始まりはここから!
総勢44組が客演で参加しているhydrantの新作
hydrant house purport rife on sleepy / many of these memories of the sun, and increasin' gratitude
様々なサウンドをミックスさせたサウンドが特徴的なkilk records所属のhydrant house purport rife on sleepyがセカンド・アルバムを完成! ゲストにカヒミ・カリィ、Fragment、aoki laska、米盛つぐみ(TINGARA、ex.りんけんばんど)、Limited Express(has gone?)、Aureole、ハチスノイト(夢中夢)など、総勢44組を迎えた2枚組のセカンド・アルバム。
【配信価格】
mp3 単曲 150円 / アルバム 1,800円
wav 単曲 200円 / アルバム 2,200円
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新音楽時代 vol.1 対談 : 森大地(kilk records)×虎岩正樹(残響塾)
森大地(以下、森) : 虎岩さんは、何をきっかけに残響塾を始めたのでしょう。
虎岩正樹(以下、虎岩) : まず始めにお断りしておかないといけないのが、日本の音楽業界で飯を食うのは、僕にとって残響塾が初めてなんですよ。僕はいわゆる「業界」というところにいたことがないので、「業界」っていう言葉がよく理解出来ていないんです。だからこそ見えてくることを具体化していきたい。それが、今のスタンスなんです。
森 : わかりました。その上でお聞かせいただければと思います。
虎岩 : 僕はずっとアメリカで音楽をやりながら、音楽教育に携わっていたんです。その中で見えてきたのは、音楽というのは伝えるための手段のひとつにしかすぎないってことでした。だとすると、僕が本当にやりたいのは、表現するということなんだと気が付いて。自分で何かを表現することの楽しさを学んだ人って、他のことをやりだしても上手くいくんですよ。パワポを使ったプレゼンでも、ステージの上に立ってライヴをやるのと一緒なんです。そこからヒントを得て、ロック・ミュージシャン的なスタンスで別のエリアに出て行けば、全然違ったアプローチでものを教えられるんじゃないかって思ったんです。そういう学校をやりたいって言うと、みんな胡散臭そうにして逃げていっちゃたんですけど(笑)、残響レコードの河野章宏さんだけは一緒にやりましょうって言ってくれて。それが残響塾を始めることになったきっかけですね。
森 : 表現したいという想いからだったんですね。
虎岩 : 日本人って「伝える」ことを軽視しがちだと思うんですよね。「やる」ことと「伝える」ことっていうのは、本来全く別のスキルなんだってことを伝えたいんです。例えば職人さんの中には、口べたな人っているじゃないですか? 本当はすごいことをやっているのに、「あなたは何をやっているんですか? 」って聞かれた時に、そんなにすごいことをやっているように伝えられないことがある。ちゃんと自己表現するためには、トレーニングやシステマティックなアプローチが必要なんです。ミュージシャンとしてずっとやってきて当たり前だと思っていた事が案外そうでも無いんだなって。 いくらベッドルームで練習していたってダメで、伝えられてナンボでしょ?
森 : そうですね。
虎岩 : 不特定多数の人たちに向けてパーソナルに喋るということを、僕らは当たり前のようにステージでやっていたけど、普通の社会でも気付くことができる場所を、残響塾が提供出来ればいいなと思っていて。「これってよく考えたら身内言葉だよね」とか「もっと説明出来ないと、この子たちには伝わらないんだ」とか、要はライヴ・ハウスでこける体験(笑)を通して、お客さんも含めて互いにフィードバックできる場所になればいいと思っていますね。
森 : 音楽産業が閉鎖的であるという問題に対してはどのように思われていますか?
虎岩 : ものすごく身内ノリだと思いますね。それは音楽産業だけの問題ではなくて、日本の社会構造全体の問題のような気もしますが。例えば音楽産業で起こっている問題って、日本の農業で起こっている問題と本質的には同じだと思うんです。農家と農協の関係とアーティストとレコード会社、作家と出版社、etc。業界の常識を超越できれば他にいくらでも道筋はあると思うんです。例えば残響塾のビジネス・セミナーで演奏させてくださいって言ってきたアーティストの一人は、大手通信会社のサポートを受けながら全国ツアーを回っています。それはまさに自分たちの演奏が、ビジネス・セミナーに来ていた営業マンの目に留まった結果なんですよ。もし自分たちの音楽を聴いてくれる人やCDを買ってくれる人だけに向けてやっていたら、その人たちが一体何をやってる人か、どういう人なのかが他の人に見えにくくなくなっちゃうんですよ。
森 : 僕もそれはよく分かります。自分達の音楽を分かってくれる人さえ分かってくれればそれでいいみたいな、一種の諦めみたいなものがありますよね。
虎岩 : だから逆に言うと、嫌ってくれる人も探さなきゃいけないんですよね。ネガティヴ・コメントってポジティヴなものと同じくらい大事なんです。これは世界中同じなんですけど、本当に売れている人って大嫌いなアンチもいるじゃないですか? つまり、みんなAKB48がどうしてダメかって声を大にして何時間も語るじゃないですか? でもその分、彼らは時間を使っているわけですよ。「良い」って言ってくれる人には、そのぐらいアンチがいるってことは、普遍的な構図だと思うんですよ。だから、誰にも知られていない状況にアーティストが飛び込んでいかなくてどうするの? とも思うんですよね。そこで発揮される勇気って、何のしがらみもないアーティストの特権だし、僕らがそれをやって見せていかなかったらどうするのって。
森 : そうなってしまったのは日本人の元々の性格が原因だと思いますか? それとも日本の産業システムが原因だと思いますか?
虎岩 : 両方だと思います。日本人の中には、静かだけれども確固たるもの、いわゆる職人魂的なものがあると思うんですよね。その反面、その場で今起こっていることに対して協調することが一番だと思う日本人気質っていうのは、確かに原因の一つではあると思います。あと、録音技術が発達して音楽が商品化するようになってから、プロダクトとしての音楽が大事になってきたじゃないですか。そこにはサイクルがあると思うんですよ。そういうものが出来て、壊されて、また出来て、みたいな。今の日本ってそのサイクルが変わるタイミングにいると思うんですね。
森 : 具体的にどういうことでしょう。
虎岩 : アメリカで2000年代初頭に起こったことを思い浮かべてみてください。今、日本で起こっていることと非常に似ているんですよ。こうやればこうなるっていう定番が崩れて通用しなくなっていったんです。面白いのは、その変革がどこから来るのかっていうのを日本で聞くと、ほとんどの皆さんが、中を取り持っていた流通から変わるって答えるんですよ。だけどそんなことあるわけないじゃないですか? その人たちは今までの仕組みで食えてたわけだから。自分から仕組みを変えるなんてあり得ないですよね? 僕だったら多分出来ない(笑)。怖くて。森さんみたいに小回りの利く人は良いですけど、大きな会社をやってる人たちは仕組みとして絶対に難しいと思うんです。家電業界とかが元気ないのも同じ理由です。仕組みっていうのは作り手と受け手からしか変わらないんですよね。アメリカでは作り手から変わったんです。例えば、マドンナがレコード会社との契約を辞めちゃったりとか、プリンスがワーナーと喧嘩別れしたりとか、色んなことが起こったわけですね。彼らは色んな批判も受けました。元々古い体制があったから有名になったクセに今さら何だよ、みたいな。でも彼らは自分達に一番リスクがあった事を分かっていたわけですよ。だって、食わせないといけない人間もいっぱいいるんだから。彼らは次世代のミュージシャンに対して社会的な責任を背負っているという自覚もあるんです。僕らが変わらなかったら次が続かないでしょっていう、、、日本でもそのクラスの人達が新しい流れを作る事で、音楽業界という枠を超えて誰もが「新しい事が起こっているんだな」と誰もが認識できる社会現象を作る第一歩になると思うんです。
森 : なるほど。
虎岩 : 例えばプリンスが2010年にアルバムをイギリスの新聞の折込みに入れてタダで配っちゃったんですね。それで何が起こるかというと、単純に新聞の記事になるんですよ。自分のファン向けではなくて、世界中でCNNのトップ・ニュースになるんです。そうすると全くプリンスを聴かない、知らない普通の人達も「あ、世の中そういうことになっているんだ」って認識するんです。僕らがいくら音楽を販売しますって言っても、それはファン向け、音楽ファン・ベースのことしか出来ない。でも、例えば日本でもそのクラスのアーティストが、今度はこういうことをやるんだってなったら、瞬間的に社会現象として認知させることが出来ること思うんです。それがミュージシャン、アーティストの役割だと思うんです。で、実際にアメリカで何が起こったかっていうと、次の世代の若い人達が「あ、そうか。今は直接ファンに届けられる時代なんだ」って気がついたんですよ。自宅でジャム・セッションして書いた曲を「明日iTunesで売るね」みたいなことが当たり前になっている。僕がアメリカにいた2006年にはみんなそうですよ。
森 : レディオヘッドとかナインインチネイルズとかもそうですよね。
虎岩 : そう。そこから10年かかっているわけですよ。例えば、レディオヘッドがオープン・プライスで音楽を売りましたよね。あれはけして儲かってはいない(笑)。では彼が何をやりたかったというと、投げ銭でみんながどのくらい払ってくれるかってマーケティングをしていたわけですよ。アルバム1枚の売り上げを捨ててでもそれをやりたかったってことです。そしてファンを信用するベースを作ったわけです。だから今はフリーでmp3で全部出しても、CDの売り上げもちゃんとある。物で欲しい人がどのくらいいるのかっていうことも、10年ぐらいかけてリサーチしているわけですよ。ナインインチネイルズだってそうですよね。僕は今、日本の置かれている状況が悲観的だと思っているわけではなくて、まさにその転換期に来ていると思っているんです。普段は好きな事をやって食わせてもらっているんだから、ここで立ち上がらなくてどうするのって。
森 : 確かにそうですね。
虎岩 : アーティストが変わると次に何が変わるかというと、受け手が変わるんですよ。ここ(流通)ではないんですよ。「そうか、プリンスのライヴに行くとタダでCDがもらえるんだ」、「面白いから行ってみようか」と思うし。更にいっぱい若いミュージシャンが色んなことをやりだすから、それに対しての好奇心だったり探究心だったりがどんどん育っていく。それで何が起こるかっていうと、こっち(アーティスト)とこっち(受け手)がどんどん新しい変革をしていって勝手に繋がっていく。そうすると流通が変わらざるを得ないわけですよね。中って常に受け身なんですよ。それはアメリカも日本も全く同じでした。しばらく「変えたくない」って言って色んな人を訴えてみたりとか…。
森 : まさに、今の日本がやっていることですね。
虎岩 : そうです。アメリカでもユーザーを訴えたりとかってことが続くんですけど、そうすると総スカンを食うわけです。だって先に意識改革しているのはアーティストとか受け手ですもん。こいつらは新しいことをやっているわけだから無視していいよって言っていたのが、無視出来なくなってくるわけです。そうするとこっち(流通)が変わらざるを得ない。変わらないと潰れちゃうから。彼らは給料がかかっているからめちゃくちゃ早いわけです。僕らが残響でやりたい事っていうのはそれで。
森 : どういうことですか?
虎岩 : 今まで流通の中にいた人はこの仕組みをグレー・ゾーンにしていたんですよね。アーティストに対しては「はい、ここにハンコ押してね」受け手には「はい、CDは3000円で買って下さい」みたいなことをやっていたわけですよ。僕達はそれをオープン・インフォメーションにしようと思ったんです。今までの仕組みの良い所もダメな所も全部話そうと。音楽ファンが黙って払っていた3000円がどこに行っているのか考えてましょうって言う提案です。そのお金がどういうふうに使われているかのを考えるのはあなたの責任ですよって。そういうところまでアーティスト自身や音楽ファンが考えて出す事で初めて見えてくる事があると思うんです。そういう「音楽業界セミナー」を僕らは定期的にやっています。
森 : 業界を変えるとして、大物メジャー・アーティストが何かアクションを起こすというのは有効なことだと思うんですけど、例えばインディーズ・クラスのレーベルやアーティストが同じことをしても、それを収益化するっていうのは非常に難しい状態だと思うんです。ヒントとしてでも、ミュージシャンとかレーベルはこうなっていくべきだ… みたいな話だとどうでしょうか。例えば、極端かもしれませんがCDをメインで売るのはやめていく方向に動いてべきだとか、力を入れて売り続けるにしてもその売り方を変えるべきだとか。
虎岩 : 答えはないとしか言いようがないです。まさに今、森さんが言ったように、業界としては次の答え、次のフォーミュラを探そうとしてるわけです。でも、“これが定番”みたいなもの「そんなものないよ」って言っていて。才能のある人に周りが寄生虫みたいにくっついて飯が食えていた時期なんていうのは、音楽の歴史全体から見てものすごい短いわけです。僕自身は誇り高き寄生虫としての自覚をいつも持っていたいなと思っているんですが… 寄生虫とか言うとむちゃくちゃ嫌な顔されるんですけどね(笑)。
森 : (笑)。
虎岩 : だけどそうなんです。要するに音を出せるやつがいなかったらやっていけないんです。今、森さんが言ったようにフォーミュラがあって、これをやって、このタイアップがあって、こうやってこうやったらお金が入ってきます、なんていうのは音楽を創造するという事があって初めて成り立つ部分なんです。それが今うまくいかなくなっているのはなぜかって言うと、やっている側と受け手側がその仕組みに気づいちゃったわけです。アーティスト一人一人の音は違うのに届け方が一緒って変でしょ。アーティストが表現するのと同じくらいのエネルギーで、届け方まで独自のやり方が考えられるよっていうことに受け手も気が付いちゃった。だから、全体に対してのメッセージとしては、フォーミュラを待ってるくらいだったら「他の人にはできねえな」ってことを考えればいいと思う。
森 : 敢えて答えとして出すとすれば、売り方そのものも多様化すべきだってことですね?
虎岩 : 例えば、この部屋に10人集めてそれぞれiPodの中身見せてって言ったら、恐らく同じ曲は入っていないです。だけど15年前くらい前だったらあったと思う。ちょっと話題としては古いかもしれないけど、わかり易かったのは「We are the world」。ハイチの大震災があった時に同じ企画をリバイバルしましたよね。当時は別にカントリーとか聴いてなくてもウィリー・ネルソンくらい知っていたり、一応全員分かるんです。だけどリバイバル・バージョンではみんなが知っているスターがいない。最初は俺年取ったなって思ったんですけど、若い子に聞いても答えは同じ。でも逆に言えば趣味は細分化されていて、それぞれにファンはいるわけです。アーティスト自身が独自のスタンスで“どうやって届けるか?”っていうことまで考えているという事が、今はワンセットなんです。だからそこまでを考えてるミュージシャンにはみんな人がついています。