私はミル。
世界中で大人気のカードゲーム、マジック:ザ・ギャザリングのプレイヤー。
使うデッキはLO(山札破壊)系と決めているの。
2024年12月15日の今日もカードショップのデュエルスペースで対戦相手を募集中。
「やあ、ミルちゃん。今日もレガシーの対戦相手を待っているのかい?」
店長さんがひとりで座っている私に声をかけてくれる。
「はい! 今日も対戦募集中です」
「ちょうどいい、彼がレガシーの対戦をしたいそうだから相手をしてもらうといい」
店長さんの紹介でひとりの男性がミルの対面に座る。
「対戦よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ダイスを振って先手後手を決めたら手札を確認。よし、先手だし良い手札だ。
「キープします」
「同じくキープで」
「では、私のターン。アンシーから1マナで《遺跡ガニ》を」
「なるほど、ライブラリアウト。どうやらボクとキミは本当に相性がいいらしい」
「……?」
「こちらのターン。フェッチランドを置いて、ゴー」
「では、ターンをもらいます。アンタップ、アップキープ、ドロー。1マナで《面晶体のカニ》を出してフェッチランドをセット」
「それぞれのカニの上陸が誘発して、そちらの山札を合計で6枚 墓地に置きます。そのままフェッチランドを起動して島を持って来てさらに6枚」
「ペタル、囲い、タッサオラクル、ウィル、デイズ、アトラクサ、カサド=ドゥーム、大烏、考慮、納墓、思案、プッシュ」
(……この落ち方、このデッキは!)
「青黒リアニメイト、ですか」
青黒リアニメイト
手札を捨てる能力や、デッキから直接墓地にカードを送る効果で大型クリーチャーを墓地へ送り、《動く死体》などのリアニメイト・カードで墓地のクリーチャーを蘇生し、圧倒的な速さでライフを詰めるコンボ系ビートダウンデッキ。
「そちらのエンドにフェッチを起動して《地底街の下水道》を持って来て諜報1。上に置いてターンをもらいます」
「アンタップ、アップキープ、ドロー。土地を置いてメインに、落としてもらったアトラクサを《動く死体》でリアニメイト。ETBで手札を補充」
「こちらのターン、島を置いて6枚切削し、《罠の橋》をキャスト。アトラクサの攻撃を封じます」
(……《罠の橋》はアーティファクト、黒の除去呪文ではアーティファクトに触れることができない。これでしばらくは耐えられるはず)
(……いや、何か見落としている気がする。1ターン前の上陸で墓地に落ちたカードの中に見えたカードに青黒リアニメイトには普通 入らないカードがあった。《タッサの神託者》)
(《タッサの神託者》なら戦闘を介さずにゲームを決められる。でもそのためには能動的にデッキ枚数を一気に減らす手段が必要なはず。レガシーのデッキで青黒リアニメイトに偽装できる信託者デッキと言えば……!)
「そのデッキ! 青黒リアニメイトでなくワールド「気づくのが遅かったようだね。《納墓》により《世界喰らいのドラゴン》を墓地に送り《Dance of the Dead》で吊り上げさせてもらうよ!」
ワールドゴージャー
《世界喰らいのドラゴン》とリアニメイト・オーラによる無限コンボデッキ。
《世界喰らいのドラゴン》の「場に出た時、自身以外のすべての戦場のカードを追放する(自身が場を離れると場に戻す)」誘発型能力で、リアニメイト・オーラを追放し、リアニメイト・オーラの「場を離れた時、蘇生したクリーチャーを生贄に捧げるデメリット」を誘発させる。
結果として「ドラゴンが場を離れたのでリアニメイト・オーラが帰還し、オーラの効果で生贄に捧げられた墓地のドラゴンを蘇生、ドラゴンの場に出た時の誘発でリアニメイト・オーラが再び追放され、ドラゴンが生贄に捧げられる。ドラゴンが場を離れたので最初に戻り……」と無限に自分のカードが場と追放領域を移動しつづける。
「これで《地底街の下水道》が無限に場と追放領域を移動するので、《地底街の下水道》が場に出た時の諜報でデッキをすべて墓地に送り、ループの最後に蘇生対象をドラゴンから《タッサの神託者》に変更することで特殊勝利。投了するかい?」
「いえ、投了はしません。優先権を手放しますので山札をすべて墓地へ送ってかまいません」
「それじゃあ、山札を墓地へ送るね。1枚目、2枚目……」
「最後に《タッサの神託者》を蘇生して特殊勝利。何か妨害はある?」
「ありません。次のゲームに行きましょう」
【サイドボーディング】
(墓地に落としたカードから相手のデッキを推理する、そんなLO使いとしての基本を今の私では実践できていませんでした)
(《世界喰らいのドラゴン》を予想していれば《罠の橋》でなくカウンター呪文を構えることができていた。私の練度が足りていなかったゆえの敗北です。)
(それにしても、最後の無限ループで墓地に落ちたカードからデッキの全貌を見ることができたのは幸運です。LO探偵らしくサイドボーディングを推理させていただきましょう)
(基本的には【青黒リアニメイト】と【ワールドゴージャー】のハイブリッドですが、気になるカードがありましたね。《遺跡ガニ》による切削で墓地に落ちた《考慮》。あのカードは普通、リアニメイトとゴージャーどちらのデッキタイプでも優先してメインに採るほどのカードではないはず。ここに何か仕掛けがありそうですね。レガシー環境で《考慮》を入れるデッキと言えば……)
【2ゲーム目】
「先手をもらいます。マリガンチェック、マリガンします」
「こちらもマリガンで」
「ダブルマリガンします」
「こちらはキープで」
「お待たせしました。キープします。それでは先攻をもらってアンシーを置いてエンドです」
「ターンをもらってアンタップ、アップキープ、ドロー。まずは0マナの《ライオンの瞳のダイアモンド》を置いて、アンシーから《暗黒の儀式》を唱えて3マナ。《最後の審判》を唱えます」
「ライフを半分にして、山札を自分の選んだ5枚のみで構成し、残りのカードを追放します!」
「やはり、そのデッキはアグレッシブサイドボーディングで【Doomsday Combo】に変形するワールドゴージャー!」
Doomsday Combo
《最後の審判》によってデッキをコンボパーツのみにする事実上の「1枚コンボ」デッキ。
コンボパーツ5枚の積み方を「パイル」と呼び、勝利のために何種類ものパイルが研究されてきた。
現在は《タッサの神託者》で特殊勝利を行う型が主流。
「メインボードの切札でもある《タッサの神託者》を残したまま、サイドボードから新たに《最後の審判》を加えることでキルターンを大幅に縮める算段、私には推理出来ていました。メインから積まれた《考慮》は《タッサの神託者》の勝利条件である山札が2枚以下という条件を成立させるために5枚のパイルを2枚減らすキーカードというわけです」
「へえ、このアグレッシブサイドボーディングを初見で見抜かれたことは今まで一度もなかったよ。それで探偵さん、見抜いているならどうする?」
「こうします。あなたがライブラリーから5枚のカードを”探して”パイルを構成したことで罠の発動条件を満たしました。0マナで《書庫の罠》をトラップキャスト!」
「それに対応して手札のブレストを追放し、《意志の力》でカウンターさせてもらおう」
「場の沼をコストに《秋の際》をサイクリングしてドローをスタックに積み、その上から《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動。手札をすべて捨てて青3マナをマナ・プールに加える。《秋の際》のサイクリングを解決し、パイルから1枚ドロー」
「ここです! パイルからのドローにスタックして《外科的摘出》、墓地の《ライオンの瞳のダイアモンド》を追放します!」
「今さら墓地対策カードを使ってあがいても手遅れだよ。パイルからキーカードの《考慮》を引いて青1マナで山札を減らしつつ《タッサの神託者》をドローし、残りの青2マナで神託者を出して僕の勝ちだ!」
「そう都合よく山札が配列されていれば、ですね」
「《最後の審判》で僕の山札は完全に配列されたパイルになっている! 運任せじゃない!」
「《外科的摘出》は墓地から追放したカードの同名カードを手札と山札からも追放しつくすインスタント。あなたのパイルから《ライオンの瞳のダイアモンド》を探させてもらいます」
「……! 僕のパイルの中に《ライオンの瞳のダイアモンド》はないよ」
「残念ですが、あなたには非公開領域である山札に《ライオンの瞳のダイアモンド》が残っていないことを証明できません」
「パイルから”探さ”せてもらいます。 ……はい、どうやら本当に山札にダイアモンドは残っていないようですね。疑ってすみませんでした。それでは山札を”シャッフルして”お返しします」
「……完全に配列した僕のパイルが、切り直された」
「さあ、どうぞ引いてください。運が良ければまた同じ順番の山札になっていますよ」
「ドロー、《タッサの神託者》か。残りの山札は4枚。神託者を出しても特殊勝利はできない。これで投了だ」
「グッドゲーム! それでは最終戦にいきましょう」
「ああ、でもその前にサイドボーディングの時間をもらっていいかな?」
「ええ、構いませんよ」
【サイドボーディング】
(さて、マッチ最終戦。次で勝負がつくわけですが……対戦相手には「ワールドゴージャーに戻す」か「Doomsday Comboのままにするか」の選択肢がありますね)
(どちらを相手にする場合でも、初手に《外科的摘出》は握っておきたいですね。同じ役割の《根絶》をサイドから増やしましょう)
【3ゲーム目】
「ではマリガンチェック、キープ」
「マリガンチェック。マリガン……マリガン1回でキープです」
「ではターンをもらいます。フェッチ置いてエンド」
「アンシー置いて《思案》を唱えます。切り直してエンドです」
「エンドにフェッチ切って《地底街の下水道》を持ってきて諜報。ブレストを墓地へ送ってターンもらいます。アンタップ、アップキープ、ドロー」
「島を置いて、2マナで《超能力蛙》を召喚してエンドです」
《超能力蛙》
『モダンホライゾン3』で登場した共鳴者クリーチャー。
一般的な共鳴者が「手札を捨てることで、ターン終了時まで+1/+1」という能力を持つのに対して、このカードは+1/+1の修整をカウンターの形で得るため、ターンをまたいで効果が持続する。
ダメージを与えるたびに1ドローするサボタージュ能力を兼ね備えているため、不利なブロックかハンドアドバンテージかの選択を対戦相手に強いることができる。
【ディミーアマークタイド】などで高速で墓地や追放領域を肥やすために採用される。
【青黒リアニメイト】では手札に引いてしまい処理に困る釣り先を墓地に送る潤滑油として使われる。
「私のターン。アンタップ、アップキープ、ドロー」
「《面晶体のカニ》を出して、土地を置いて上陸。3枚デッキを削ります」
「思案、動く死体、思考囲いが落ちます」
「ターンエンドです」
「アンタップ、アップキープ、ドロー。そのまま戦闘まで。カエルでアタック」
(カエルのパワーは1。本来ならタフネス2のカニでキャッチできますが……共鳴者能力で手札を捨てられると、一方的に戦闘破壊されてしまうのでブロックできませんね)
「ノーブロックで」
「では手札から《世界喰らいのドラゴン》と《渦まく知識》を捨ててカウンターを2つ乗せます。戦闘ダメージ3点。カエルのサボタージュ能力で1枚引きます」
(サイドチェンジで【ワールドゴージャー】に戻してきましたか。次のターン以降は打消しか、墓地追放は構えないといけませんね)
「2マナで2体目のカエルを出して、エンドします」
「ターンをもらって、土地を置いてカニの上陸が誘発。3枚切削します」
「Will、Push、Danceが落ちます」
「これでエンドです」
「ではターンをもらって、カエル2体で戦闘」
「スルーで」
「小さい方のカエルの共鳴者能力を2回起動して手札を2枚捨てます。6点ダメージが通って、それぞれのサボタージュが誘発。2枚ドロー」
「墓地のインスタントとソーサリーを合計5枚、探査コストとして支払い、《濁浪の執政》を出したいです」
「カウンターが5つ乗って8/8です」
「マークタイド!? これまで一度も見えていなかったのに……!」
「サイドボードから入れてデッキを変形させたんです」
「……二段階のアグレッシブ・サイドボーディング!?」
「環境がよく分かってないので変に対策カードをサイドに積むよりは対戦相手の意表を突いた方がいいだろう、という素人の策ですよ」
(私の手札の打消し《湖での水難》は相手の墓地の枚数が増えるほど打消し範囲が広がる。でも、マークタイドは探査コストで墓地のカードを追放しながら出てくるから打ち消せない……!)
「アンタップ、アップキープ、ドロー。駄目ですね。次のターン、2体のカエルが墓地を追放して飛行しながらの総攻撃で私の負けです。対戦ありがとうございました」
「ありがとうございました! また遊びましょう」
(絶対に推理させない、パターンの異なる3種のデッキタイプに変形するデッキ。レガシーにはあんな無理が通る構築もアリなんですね。それを可能にするあのデッキの功労者は《超能力蛙》……。またひとつレガシーの知見が増えました)
【翌週】
「こんばんわ、お疲れ様です」
「ああ、この前のライブラリーアウトの。お疲れ様です」
「あの……ご愁傷様でした」
「はは、まあ何か別の構築を試してみますよ」
2024年12月16日。
《超能力蛙》はレガシーで禁止され、彼の三段変形デッキは瓦解した。
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