先月26日に、結婚*1した。結婚するにあたって、妻側の姓を選んだ。従って、自分の姓が変更されることとなった。
姓とは
姓*2の法的な性質については、血統名説、家名説、家族共同体名説など、諸学説が存在しており*3、現代では、個人の呼称としてとらえられるべきであるとする説*4が通説である。つまり、法学における学説上、昭和22年の民法改正による家制度の廃止以来、姓というのは個人の呼称の一部分に過ぎない。
また、一般における法的な側面ではなく、自らの姓について、社会的または文化的に、どういった意味があるのか、自分なりに考えたりもした。ここ数ヶ月、先祖の戸籍を遡ったり、祖母に話を聞いたりしていたのは、こういった理由もちょっとある。そして、社会的にも、ぼくの姓は変わったとしてなんら問題はない、呼称の一部分でしかないという結論に達した*5。
なぜ妻の姓を選んだか
婚姻にあたり、なぜ妻側の姓を選んだか、一番大きな理由としては「おもしろそうだから」がある。自分の氏名が変わるイベントなんてあんまり頻繁に起こりうるものではない*6から、もし変更できる機会があるならしたいという気持ちは前からあった。
そういった結論ありきの上で、姓について、上記のように姓とはなにか、自分の姓はどういったものかを考えた。改姓は、元の姓を「失う」と表現することもできる行為であるため、元の姓に対する罪滅ぼしのような側面もあった。
他に、妻側の姓を選ぶ理由として、後付けにはなるが、以下のような理由がある。雑に箇条書き。
- 妻が、自らは姓が変わるのは面倒だと言っていたから。
- もし姓が変わったら、仕事上は旧姓を名乗ると言っていた。ぼくは、いわゆる「ビジネスネーム」などとよばれるような、旧姓を使用しつづける行為に関しては、あまり積極的にやるべきではないと考えている。
- 妻が、一人っ子であるから。
- 義父には「うちが一人娘やから気を遣ってくれたんやろ?べつにええのに…」みたいなことを言われた。正直に、「法を学んでいくにあたり、氏名が変わる体験をしてみたくなったから。いろいろやってみるのがおもしろそうだから。」といったようなことを話すと、法学徒として大先輩で、現役の法律の専門家である義父*7は納得してくれた。たぶん。
- 婚姻後、妻の実家の近くに住む予定であることから。
- 以前から、妻もぼくも子がほしいという共通の認識があった上で、婚約をした。そして、子を育てるならどちらかの実家の近くに住むのがよいだろうということで、妻の実家の近くに住む方針に決まった*8。妻の実家の近くに住むのであれば、そちらの姓を選ぶほうが、合理性があると考えられた。
必要な手続き
これも雑に箇条書き。
やったこと
- 婚姻届提出
- 品川区役所の夜間窓口に提出した。24時間受付しているらしい。ありがたい。
- マイナンバーカードの書き換え
- 新氏名での署名用および利用者証明用電子証明書が以降の手続きに必要なため、まず初めにこれを行う。
- 住民票の写しの取得
- 戸籍謄本の取得
- 区役所でついでに広域交付してもらった。運転免許証の本籍地の変更で必要だった。
- 戸籍謄本のコンビニ交付利用登録申請
- クレジットカードの名義変更
- 三井住友はWeb上の手続きだけで、すぐに物理カードが送られてきた。
- ダイナース(三井住友トラスト)は、Web上の手続きで紙の手続き用紙を請求し、郵送されてきたそれに記入し返送するスタイル。後述の諸々のサービス等の名義変更はこのスタイルが多かった。
- J-WESTカードは、手続き用紙の請求がWeb上ではなく電話窓口で行う必要があった。平日だけではなく土曜日も対応しているのと、すぐ繋がったのと、ナビダイヤルではない普通の06から始まる番号であることから、特に嫌な気持ちにはならなかった。
- 不要なクレカはマメに解約しているようにしているから、こういうときに楽ができる。氏名変更に限らず、引っ越しのときも類似の手続きが必要だから、必要なものだけ所有するに限る。
- 銀行口座・証券口座の名義変更
- ゆうちょ銀行は平日の昼しかやっていない窓口に行く必要があった。郵送でさせろ。
- 銀行印は、母が有り難いことにぼくの姓ではなく名(given name)で作ってくれていたから、続投。
- これも日頃から使っていない口座は閉鎖するようにしてるからすぐ完了。
- 電気/ガス/水道/通信回線の名義変更
- インターネットまたは郵送ですべて完了。
- その他諸々のサービスの名義変更
- 漏れがあるかも。
- 運転免許証の書き換え
- 平日の昼に近くの警察署に行った。日曜日に鮫洲に行ってもやってもらえるらしい。氏名変更の証明はマイナンバーカードひとつで足りる。本籍地が変更となったため、それについては戸籍謄本が必要。
- 自家用車の名義変更
- 法人の代表者の氏名変更登記
- 名刺刷り直し
- 名刺切れそうなタイミングだったから、ちょうどよかった。
- 各取引先にご挨拶
- 挨拶メールを送ったというより、なにかメール送る用事があったらそれについでに載せた。
- タイミング的に、9末締の請求書送付の際に記載することが多かった。
- 打ち合わせにおいては、そういえば名前変わったんです〜ってアイスブレイクのタネにもなってよかった。
- 挨拶メールを送ったというより、なにかメール送る用事があったらそれについでに載せた。
- 会社として社会保険の手続きの確認
- 認印の購入
- 新しい姓は、珍しいものではないから、文房具屋さんに置いているはんこいっぱいある回転する棚*13にあった。普通の硬いやつと、朱肉不要のゴム印のやつを買っておいた。
まだやっていないこと
- 旅券(パスポート)の発行
- すでに持っている旅券は、自動的に失効したものとなる*14。
- 次に海外旅行行くことが決まったらそのとき発行しに行けばええかな。
- 実印の作成
マイナンバーカードの書き換えとそれで即日できる手続き用に平日1日お休み取って、その後マイナンバーカードの電子証明書が有効になってから*15オンラインでできる手続きはやっておいて、戸籍謄本のコンビニ交付利用登録が完了したあたりでもう1日休みとれば残りの手続きできるはずで、計2日休みを取れば足りる。
基本的には、引っ越しのときの住所変更とおなじようなことをするだけ。いままで自分で引っ越し3回やってきた人間としては、慣れた作業ではある。クレカや銀行口座類をまめに解約して最低限にする戦略は、終の棲家を見つけるまで継続予定。
感想
姓が変わったらこんなに大変!といったことを根拠に、選択的夫婦別姓制度の導入*16を主張する人は少なくないが、ぼく個人としては、そんなに大変ではないと思った。もちろん個人差はある。ぼくが変更しなければいけない登記は代表を務める法人の1つだけで、10分もかからない作業ではあるが、数多の法人の代表をしていたり、複数の不動産を所有していたりする人は、めちゃくちゃ大変な作業になってくると思う*17。マイナンバーカードおよびそれに載っている電子証明書を利用することが多く、これがなかった時代はそれなりに大変だったとは思う。さらに進めて、あらゆる法律行為は氏名ではなくマイナンバーをもって行うことにしたら、もっと楽になるのになあと思った*18。
炎上しているらしいと噂の地方公共団体情報システム標準化プロジェクトがうまくいって、なんかいい感じに連携が進んだらもうちょっと楽になるのではないかと考えている。地方公共団体情報システム標準化プロジェクトに関わってるみなさん、応援しています!!!
*2:民法上、「氏」というが、「姓」のほうが一般的な呼称であると考える。
*3:参考: 高橋朋子・床谷文雄・棚村政行. 民法7 親族・相続〔第7版〕. 有斐閣アルマ. 2023
*4:個人呼称説と呼ばれることが多い。
*5:演繹の過程は個別具体的でありすぎるため省略。
*6:婚姻以外に、ぼくの身近な例だと、相続税の節約を目的とし祖父母の養子になって姓が変更された、性同一障害で性の変更に伴い名を変更した、みたいなことはあるっぽい。
*7:義父は法曹。
*8:ぼくの実家の近くに住むことについては、妻は、積極的に選びたくはなさそうだった。まあそらそうやろという感じ。結局子どもを産むことになるのはぼくではなく妻で、心理的肉体的負担が大きいのは妻であることに間違いはないため、その意見を優先した。
*9:ぼくの両親が最初に同居したときの賃貸マンションの所在地。たぶん。
*10:妻の出生時からの本籍地。
*11:自動車保有関係手続のワンストップサービス 申請画面マニュアル 【変更登録(所有者本人による申請)】
*12:参考: https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha2/20140930.html
*13:調べてみたら、あれ「印鑑タワー」と呼ぶらしい。
*14:あと8年有効期限残っていたのでもったいない気分ではある。
*15:マイナンバーカードの書き換えから24時間後に電子証明書は有効になる。
*16:法学の界隈では、選択的夫婦別姓制度については、導入すべきであろうというのが通説ではある。その上で、ぼくは導入にはより慎重になるべきだと考えている。
*17:とはいえ、登記などに限らず法人を一つつくってそれにすべてを集約させる人も少なくないから、実際そこまで問題になるケースは多くないのではないかとも思う。ぼくはいろんなお仕事の契約をぼくが代表である法人1つに集約させているから、お仕事で契約のまき直し等の必要はない。業を営むにあたって、法人をつくることの利便性を実感した。