九州電力をはじめとする電力5社が、再生可能エネルギーによる電力の新規受け入れを「保留」するというニュースでさまざまな業界に衝撃が走っています。(事業者用。家庭用は回答保留の対象外。)
太陽光など再生可能エネルギーの普及が壁にぶつかっている。北海道、東北、四国、九州、沖縄の5電力は30日までに、再生エネを固定価格で買い取る契約を中断することを決めた。送電線の能力が足りず、買い取りをこれ以上増やすと停電などのトラブルを起こす心配があるためで、経済産業省も対策に乗り出した。
現在の太陽光発電では気象条件等により発電量が大きく変化することから、太陽光発電が総発電量に占める割合が大きくなると電力の安定供給に支障をきたす可能性が強まるそうです。
太陽光発電は夏の日中に発電量が大きく増えるが、冬場や悪天候時は急減する。再生エネを買い取る電力会社にとっては域内の電力量が不安定になって「設備故障や大規模停電といったリスクも高まる」(電力会社幹部)という。ただ「電力会社の送電網が不足して買い取りが困難になることは経済産業省もわかっていたはず」と金融機関の関係者は制度設計の甘さを指摘する。
九州、とくに宮崎県などはすでに変電所がパンパンだったことは業界関係者には周知の事実だったそうなので、何らかの措置が採られるであろうことは予期できたのかもしれないのですが、これだけの接続可否の回答「保留」ということになれば、やはり影響は大きいようです。
太陽光発電事業に詳しいとある方の話によりますと、受付を終え、電力会社に接続可の判断がなされた事業者は、電力会社と按分された工事費負担金を払い込む必要がありますが、今回の九州電力などの件ではその電力会社の接続可否判断のところで「待った」がかかる格好となるため、事業者側に突如として大きな負担が直接的にかかるということはないようです。
しかしながら、受付をしようという事業者はすでに用地を取得しており、実際に発電事業を開始するまではその用地は遊休資産となるために、これが長引けば当然に業績に大きな影響があり、今後の経済産業省のFIT(固定価格買取制度)制度「見直し」によっては、中長期的な事業者のキャッシュ・フロー予測に大きな影響を及ぼす可能性もあります。
ちなみに、先ほどの方にうかがったところ、太陽光発電用に確保した土地が、長期の回答保留を受けた場合、とくに宮崎県での例では農地その他の用途へ暫定的に転用している例もみられるそうです。
さて、こうしたお話を9月20日付朝日新聞記事「九電、再生エネ買い取り事実上中断へ 太陽光発電急増で」で初めて見たとき、私は当該電力会社がこのような「保留」が出来たんだと驚きました。
なぜなら、再生可能エネルギーの売電事業は長期にわたって確定的なキャッシュ・フローを得られること、そして電力会社側がこの売電側の事業者から受ける「特定契約」の申込みには「応ずる義務」があることが、売電側の事業者、ならびに、彼らに資金を拠出・貸出する金融機関等にとって最も重要なポイントであったからです。
そこで、改めて「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」と関連する省令を覗いてみますと、なるほど「なぜ接続可否の回答の保留なのか」が分かりました。
先ほどの「応ずる義務」は、同法第4条の「特定契約の申込みに応ずる義務」と第5条の「接続の請求に応ずる義務」の2段階が明記されており、そのいずれにも「経済産業省令で定める正当な理由がある場合を除き」、「経済産業省令で定める正当な理由があるとき(を除き)」という文言が用意されていることが分かります。
省令まで眺めますと、どうやら前者である「特定契約の申込みに応ずる義務」における「正当な理由*1」は極めて限定的なものとなっており、今回の事情で電力会社側が「申込みに応じない」とまでするのは無理があります。
一方、後者の「接続の請求に応ずる義務」の場合は、法第5条一項二号にて「次に掲げる場合を除き、当該接続*2を拒んではならない」例外規定に「当該電気事業者による電気の円滑な供給の確保に支障が生ずるおそれがあるとき。」の文言があります。
これによって、「申込みは引き続き受け付けるが、電力会社側はそれに対する回答はしばらく保留する」ということになってしまうのだろうなと独りで納得しました。
(中略)既に再エネの申込みをされている事業者さま、及び今後新規申込みをされる事業者さまにつきまして、申込みに対する当社の回答をしばらく保留させていただきます。
ただし、ご家庭用の太陽光(10kW未満)などは、当面回答保留の対象外とします。
もちろん、そんな違いは当然「だから何」という話なのでありますが。
なお、先ほどの日経の記事中に『ただ「電力会社の送電網が不足して買い取りが困難になることは経済産業省もわかっていたはず」と金融機関の関係者は制度設計の甘さを指摘する。』という文章がありましたが、ちょうど今回の九電ニュースの2日前にこんな記事がありました。
常陽銀行は10月から、同行が保有する太陽光発電事業者向け貸出債権で、顧客の資金を運用する金融商品の取り扱いを始める。金銭信託と呼ぶ商品の一種で、三菱UFJ信託銀行と共同で商品化した。顧客の資金は太陽光発電向けなどの融資にも活用する方針で、再生可能エネルギーに関心の高い顧客の購入を促す。
※画像は「金銭信託”『みらい』のちから”の取り扱いについて(PDF)」より
予定配当率は3年物が年0.20%、5年物が年0.30%ということで、このニュースをみた当初は、自行が保有する貸出債権等を原資にした配当としてはナメとんのか感はありましたが、こういう状況を受けてどうなるんでしょうかね。
各行の太陽光発電事業向けの貸出条件に影響があるのかも含め、今後もその様子を眺めていきたいと思います。