電子書籍は漫画家の希望となるか?
佐藤漫画製作所が運営する「電書バト」サービスの2016年2月期売り上げランキングトップ10が発表となりました。
電書バトNEWS
「電書バト」とは、「誰でも電子書籍を販売することができる電子書籍取次サービス」です。
プロアマ問わず、簡単なクオリティチェックを通過すれば、どなたでもご自分の作品を国内主要電子書籍ストア約50カ所で販売することができます。2014年11月にスタートし、取り扱い作品数がまだ100タイトルにも満たない小さなサービスですが、出版社を介さずに作家の皆さまが直販に近い形式で作品を電子書籍販売できるようお手伝いしています。
「電書バト」サービスでは、今年2月に取り扱い全作品を対象に大規模なセールを実施しました。そのセールの結果の一部を発表したものがリンクの記事となります。
記事の中からランキング表を引用します。
表からお分かりいただけるかと思いますが、セールは大成功でした。(こちらの表の公開は作家様のご許可をいただいて行なっております。一部、匿名を希望された作家さまにつきましては、お名前を伏せております)
売り上げ総額は3億円を超え、作家が受け取るロイヤリティ額は1位の佐藤秀峰(僕ですね)が1億3387万7464円、2位の佐藤智美さんが1895万6642円と続き、3位716万1136円、4位595万3012円と良好な数字を残すことができました。1億3387万7464円と言うと、紙書籍で考えた場合、単行本約300万部分の印税額と同じです。1カ月間のロイヤリティ金額としては、控えめに言っても、これまでの電子書籍の常識を打ち破る数字だと言えるのではないでしょうか。
この成功には、当然のことながら仕掛けがあります。やみくもにセールを行なったわけではありません。
電子書籍と紙書籍の違いは何か?
電子書籍にしかできないことは何か?
そのことを考えた場合、紙書籍を取り扱っている書店の現実として、ほぼ新刊しか取り扱えないという状況があります。今、紙の本は売れなくなっています。1冊あたりの本の販売部数は減り続け、出版社は出版点数を増やすことでその穴埋めをしようとしています。出版点数が増えても書店売り場面積は限られていますので、結果として、古い本はよっぽど売れるタイトルでもない限り、売り場に置けないということになります。
では古い本はどこに行くのでしょうか。新古書店に行っても買えません。膨大なタイトルを置く面積は、やはり新古書店にもないのでしょう。わずか数ヶ月前に発売されたばかりの作品が新刊書店にも新古書店にもなく、Amazonで検索して手に入る場合もあれば、手に入らない場合もある、というのが紙の本の現状ではないでしょうか。古くなった作品だって読みたい読者はいるはずなのに、紙では手に入らないのです。
一方、電子書籍は売り場の面積を気にすることはありません。古い作品でもストア内を検索するだけで容易に見つけることができますし、紙では絶版になった作品だって電子書籍ではお目にかかることができます。だけど、値段を見るとそれほど安い訳でもなかったりします。となれば、「同じ値段だったらやっぱり新しいタイトルを読みたいよなぁ」となるのが、読者の自然な心理です。各電子書籍ストアの売り上げランキングを見ても、新刊タイトルや映像化で話題の作品などが上位を占めています。作品をいくらでも置けるだけに、その中で古い作品を目立たせようと思ったら容易なことではありません。
僕は古い作品にも必ず需要があるはずだと信じていました。素晴らしい作品であれば、読みたい読者はいるはずです。ただ、それを適切に読者に届けられていないだけなんじゃないか、と。
そうして考えたのが2月のセールでした。
「安ければ読みたい読者はいるはずだ」と考え、大幅な値引きを行なった上で、取り扱い全作品を一気にセールに投入することで存在感を出そうと思いました。他にも「3月、4月は新生活が始まる時期なので、大規模なセールが組まれることが多いから避けよう」とか、いろいろ考えたことはあったのですが、適切な値段で適切に読者の前に作品を提示することができれば、必ず読んでもらえると思いました。(いえ…、そう思いたかっただけかもしれませんが…。)
今回のセールの結果を受けて、お取り扱い作家のお一人からこんなお言葉をいただきました。
「紙の本ではほとんど利益を産まなかった作品が、電子書籍として売り上げを計上したことは新鮮な驚きでした。何よりも読者に届けられたことが喜ばしいことだと思っています。また、私の作品はすでに海賊版が出回っていますが、それが売り上げにほとんど影響がなかった事も収穫。読みたい、買いたいと思っている読者に正規に届けられた、ということに電子書籍の役割、可能性を大いに感じています。加えて、『セール』という形式については『この作品、この値段なら読みたいかも。巻数の欠けもないし確実に全部読める』という読者の存在を掘り起こした、ということが大きいと思う。『新作でなくても読みたい、買いたいと思っている読者は確実にいる』ということを著作権を持っている漫画家は大いに誇るべきだと思いますよ。」
このような言葉をいただき、僕の考えていたことを僕が考えていたように受け取ってくださった作家さんがいたことにとても感激しました。
手前味噌な記事ですいません。だけど、電書バトというサービスを流行らせたいだけだったら、このように手の内を書いたりはしません。
この結果がすべての漫画家にとって希望となることを願っています。