コンピュータ操作が自動化されると真っ先に困る人たちについて
昨年、OpenAIが最後までComputerUse、つまりコンピュータの自動操作する、いわゆる「本物のエージェンティックAI」を出さなかったことが腑に落ちなかったのだが、よくよく考えると、作るのは簡単でも、それを世に放つのは難しい問題というのがある。
特に今年から正式にOpenAIは非営利団体ではなく営利団体になった。
営利団体というものが目指すものは、当然ながら営業利益である。
さて、ではComputerUseがChatGPTのように「誰でも」使えるようになると困るのは誰だろうか。
まず最初に困るのは、おそらくGoogleだ。だが、すでにサム・アルトマンはGoogleは敵に回してもいいという判断をしている。だからChatGPT Searchを作って、デフォルトの検索エンジンとして使うように勧めている。ただ、まだデフォルトの検索エンジンにするにはChat GPT Searchは不便なことが多いと個人的には思っている。
次に困るのは誰だろうか。
そう、Microsoftだ。そしてMicrosoftはOpenAIの最大のスポンサーでありビジネスパートナーでもある。Microsoftが困るようなことをOpenAIはできないのだ。
人々はなぜ「PC」を必要としてきたか
ではなぜ、Microsoftが困るのだろうか。
もしもコンピュータ操作が全自動になった場合、当然、パワポもWordもExcelもAccessもe-mailも全部自動的に操作してくれることが期待される。まだそこまでできなかったとしても、近い将来必ずそうなってほしいというユーザーの切なる願いがある。
するとどうなるか。
WindowsとOfficeが売れなくなるのだ。
考えてみてほしい。そもそもなぜ我々はPCを必要とするのか。
まあ俺のようなプログラミング中毒は別として、ごく普通の人がごく普通に必要に迫られてWindowsを買うのは、ExcelやWordを使うためだ。Webを見るだけならiPhoneだけでいいし、ビデオ編集だってiPhoneだけでいい。良くてiPadである。
ExcelやWordだけじゃない、Adobeも使うという人もいるかもしれないが、それは90年代に「Rupoがなければ死ぬ」とか「文豪miniがなければ死ぬ」と言っていた人と同種なので、もう淘汰されゆく存在である。特にビデオ編集に至ってはCapcutがよく出来すぎていて、世界シェアはとっくにNo1なのではないかと思う。あと、Canvaも出来がいいから、たいていの印刷物やWebサイトやプレゼンテーションはCanvaで作るのが若い人の間では普通になっている。ここにWindowsは一切必要なくなる。
Microsoftのこれまでの勝ちパターンを振り返ってみよう。
・黎明期
マイコン用BASICを開発。日本国内市場向けに意図的にメーカーごとに互換性をなくして各メーカーに売り込むという武器商人のような悪質な商法で財をなす。ホビイストたちには威嚇の手紙を出し、ここにヒッピー vs Microsoftという対立構造が出来上がる。
・コバンザメ期
IBMがAppleに脅威を感じてIBM PCを構想するが社内にリソースがなかったため、マイコン用OSを作っているデジタルリサーチ社に電話するが電話に出ないので、仕方なくシアトルの小さい会社に電話する。電話を受けたビル・ゲイツとポール・アレンは、そもそも自分達はOSなんか作ってないのでどうしようか考えるが、日本でBASICわ売り捌いていてMicrosoft全体の売り上げの70%強を叩き出していた西和彦が「そんなものどっかから買ってきて転売しろ」と強く主張し、近所で売っていたシアトルコンピュータプロダクツ社が作っていたCP/Mクローン(これ自体もかなり志の低いソフトだが)を買いたたき、IBMに転売することで大きな利益を得る。
日本国内では、MS-DOSを提供したジャストシステムの「一太郎」が大ヒット。ジャストシステムは一太郎にあえてコピープロテクトをかけず、違法コピーで日本中に浸透し切った頃から、地方自治体や公立学校に電話をかけ、「一太郎の新バージョンが出たんですけど」と、売り込んだ。すでに違法コピーソフトを使いまくっていた地方の役所はまさか自分たちが違法コピー品を使ってるとは口が裂けても言えず、爆発的に買うことになった。これが後押しして、日本国内におけるMS-DOSは磐石な地位を築いた。
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