【パワポ研の決算資料探訪①】Goodpatch社の決算説明資料はシンプルが故に美しい
決算説明会資料というものがあります。株主に向けて、当期あるいは通期の決算説明を行うための資料です。主に企業のIR室(Investor Relations)、つまり企業が株主向けに現況や今後の見通しを広報する活動を主に実施する部門が書きます。
そのIR室の役割の一つに決算説明会資料の作成がありますが、これはすごく骨の折れる作業な一方で、報われない作業でもあります。なぜなら、IR担当部という全然力がないような部が、関係各所に数字をもらったり現況を把握したりレビューしてもらったりし、その上えらい人からも余計な口出しが色々と入るからです。労多くして、という典型例ですね。
しかし、今回ご紹介するGoodpatch社についてはそれはあてはまりません。なぜなら、Goodpatch社は「デザイン」という業務が事業に大きく影響するからです。そんな会社が、自社の発表する資料で手を抜くわけがなく、またそれの見栄えが悪いことはまずありません。
その証拠に、Goodpatch社の決算資料に関しては皆さん並々ならぬ関心を抱いている様子(弊社ツイート)。
どこが優れているのか、一つ一つ解説していきましょう
画像の参考URL
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS04618/0a7e879a/c53b/42c9/98fc/5476b80e2803/140120201015404158.pdf
表紙:非常にキャッチー
こういう表紙の決算報告資料はあまり見たことがないかもしれません。自社で用意したイラストで、やわらかい雰囲気を出しています。それでいて、企業名や証券コードなど必要十分な情報も掲載しています。
あえて引き合いに出して他を貶めることもないのですが、上場企業には面白みがない表紙を採用している企業が多いです。もちろん、会社の色というものがある(例えば、金融系でキャッチーにされても困りますよね?)のですが、遊び心というか、資料としての楽しさがあってもよいのでは……と思うこともあります。
アジェンダ・ディバイダー:シンプル is Best
アジェンダ、日本語で言うと目次です。ちなみに、ディバイダーというのは章と章を分けるしきいのこと(ここでは画像として挙げません)
非常にシンプルでいいですね。意外とごちゃついている企業が多い中で、あえてのこういうシンプルさ。また、各項目もMECE(漏れなく、ダブりなく……という分け方)になっており、分かりやすく構造化されています。
構造化というのは、何もスライドライティングに限った話ではありません。こういう資料全体が構造化されているというのも重要なのです。なお、構造化されていないというのは、例えば最初に会社説明があったあと、中期計画でもう一度事業の説明をして……というように、要すれば入り繰りがしっちゃかめっちゃかになって、読み手を知らず知らずに混乱させるものをいいます。もちろん、Goodpatchさんの資料はそんなことはありません。
グラフスライド:色使いが読み手に優しい
いいですね! まず、色使いがシンプルで分かりやすいです。ここで、赤とか黄色とかいろいろな色を使ってグラフを作ってしまうと、どこに注目してよいか読み手は迷ってしまいます。資料全体で統一された青系で色についてはほぼ対応しているので、読み手の理解に優しいです。ちなみに、同じ系統の色だけで構成すると、自ずと白黒印刷の時にも「白黒の明るさ」に差が出るので、意外に見やすかったりもします。
色の話ついでに。ハイライトすべきものだけオレンジという補色に近い色を使っています。これも見やすさのコツの一つですね。
また、上部にメッセージが一行キチっと決まっているのも素晴らしいです。ともすると、こういう業績発表のスライドはメッセージがないスライドになりがちですが、ハイライトされるポイントはどこか、文字を読めばよいというのは読み手の時間節約に繋がるので、良い資料の条件の一つと言えるでしょう。Goodpatchさんの資料は、ほぼ全てこの「ワンスライド・ワンメッセージ」の原則に則しているので、分かりやすいんですね。
珍しいのは、スライドの右1/4を使って図表の解説をしていることです。こういう資料はあまり見ないので驚いてしまいましたが、これはこれでアリだと思います。スライド作成の新機軸ですね。通常はグラフに吹き出しでコメントするか、あるいはきっぱりと左側半分をグラフ、右側半分をコメントと半々で区切ることが多いです。
図表スライド:シンプルながら、これも読み手にマル
例えば銀行さんの資料ですと、ここがいろいろな数値がズラっと並んでいて、少々読みづらいこともあります(あえて画像は出しません)。一方、Goodpatchさんの場合は出すべき指標を絞っているので、文字が相対的に大きくなります。
また、先ほどのグラフスライド同様に重要な点がハイライトされています。今度は、青色もハイライトの役割を担っています。ベースカラーを灰色にすることで、青色が際立っていますね。もちろん、プラスをオレンジにするというのも前述のアクセントの踏襲です。
事業説明資料:情報の絞り込みに成功
事業説明の一枚。こういうスライドの作成難易度は高いのですが、さすがデザイン屋さんということでシンプルに必要十分な情報だけを載せることで、読み手に負担をかけません。正直ごちゃごちゃしようとすればいくらでもごちゃごちゃと情報量を増やせますし、またそういった欲望に飲み込まれていったスライドを見ることは珍しくありません。しかし、他のスライドにその役割を任せることで、ここの情報量を落としています。流石ですね。
実績紹介資料:図形の最適配置に成功
こんなスライド初めて見ました! ふつうは、提携先のロゴをまぶすカオスマップのような形になるのが精いっぱいなのですが、上手く過去→未来の流れに載せて掲載しています。カオスマップ形式では、読み手は「ふーん」で終わってしまうところ、この形式ならどんどん業種が拡大していることが一目でわかります。おそらく、Goodpatchさんの資料を見たときに、デザイン的な観点でみなさんが「すごい!」と思ったのは、こういうスライドなのではないでしょうか。一発ですごみが分かりますね。
総論:シンプルな図表と色、そして絞り込んだ情報量で支配する
全てのスライドを個別に紹介することは叶いませんが、資料全体が映える理由は以下に集約できるでしょう。
・シンプルな図表
・シンプルな色使い
・必要最低限の絞り込まれた情報
この原理原則を全てのスライドで貫くことで、美しい資料が完成されています。
いかがでしたでしょうか。業績以外の観点でスライドを見ることはあまりないと思います。こういう美しい決算説明資料ばかりだと見ていて楽しいのですが、そうでもない企業も多いというのが現状です。折を見て、他の企業の決算説明資料も紹介していきたいですね。
参考までに、決算についての他の記事も以下に掲載します。お暇があれば、ご覧ください。各企業の決算説明資料の出来栄えを評価しております。
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