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香港が大変すぎて、見ていて悲しい

 チベットや新疆ウイグル自治区の問題は、あまりにも酷すぎて憤りを感じるけれども、香港や台湾の問題は「いよいよこれは大変なことになったぞ」と思うわけです。

 天安門事件のような武力侵攻が起きるようなリスクはいまのところ香港にはない、と信じたいけれども、さほど親しくは無かった香港人から悲鳴のような近況連絡を聞き、また、デモに参加した帰りに地下鉄(?)で見知らぬ人から殴られて怪我をしたけど、怪我で黙ったり我慢したりすることなく別の日も包帯巻いてデモに参加をしているのを見ると、本当の意味での「抑圧」とは何なのか、また、経済力が武器であった香港がその経済的安定をなかば捨ててまで守らなければならないものがあると立ち上がっているのを見るに、想像以上に大変なことになったぞと思うわけであります。


 在韓米軍の撤退について、特に巷で言われているトランプ政権の同盟軽視の姿勢が東アジアの安全保障を流動化させている、というのはある程度正鵠を射ているとして、しかし、だからといって異なるオプションを考えないまま香港を、台湾を、韓国を、そしてチベットやウイグルを放置していいのか、という問題は日本人に突き付けられているものでもあります。

 同様にして、フィリピンやオーストラリアでも、「アメリカに封殺されそうな中国(共産党)」を支援する中国人の組織が、大学やシティホールなどで集会を開き、民主主義政体の各国の中から団結を崩そうとしているようにすら見えます。

 私がしばしば訪れるオーストラリアのダーウィンでは、一昨年ぐらいまで中国資本の進出により結構面倒なことがありつつも、退屈な10万人ぐらいの街に高速インターネットが敷かれ中国人旅行者がお金を落とし中国資本が不動産に投資をするということで潤ったりして、歓迎と警戒とが交錯していたわけですよ。

 しかしながら、オーストラリア政治や当局が異変に気付き、いまや「中国人に占領されそうな豪州」という警戒感とともに、中国の資本的、人的な浸透圧に抗おうとし始めました。

 その結果として、いざアメリカと中国の対立が先鋭化し始めると、浸透した中国人が民主化を求める中国人や華人グループを抑え込もうとし、愛国心をアピールしようという下心も相俟って面倒が続発することになります。

 同様のことは、フィリピンでもカナダでもニュージーランドでもリスクをもたらしていて、繁栄と友好を約束してくれているはずの中国人が親共産党派と民主派に分かれて騒動を起こし、単なる地政学上の問題ではなく社会的に分断を呼び起こしていることは詳しく知っておくべきだと思います。

 いずれ、中国のバブルがどういう形でか終焉を迎えたとして、寄せてきた波が引いていくとき、いまの程度の混乱で収まるのだろうか、世界経済だけでなく各国国家が中国人を受け入れれば入れるほど、頼れば頼るほど、喰えなくなった中国人をどう国内で維持するのかという課題を突き付けられ、場合によっては中国人排斥の動きを起こし、場合によっては踏み絵を行いその中国人が我が国に相応しい人物であるかどうかを判定しようという話になるかもしれません。外国人を差別するなという人権思想は試練に立たされ、綺麗事と現実との間で多くの国民が頭を悩ませていくなかで、古き亡霊のような日本主義にも似た愛国心を掻き立てる人たちによる「中国人など外人が日本にいるお陰で、多くの日本人にとって貧しく苦しい状況になった」という喧伝が説得力を持つ日が来るのかもしれません。

 一方で、いままでは経済が伸びていて、中国資本も中国企業も中国人起業家もやることなすことすべてうまくいく黄金期の間はスピード重視でイケイケドンドンやり、コストとリスクはいずれ経済成長によって帳尻が合うものと信じて留学から帰国した若者に大きな資金を与えてチャレンジやトライをさせてきました。

 バブル経済を経験した日本でも、ほぼ同様の動きがあったことは記憶に新しいわけですが、そういう時期はいずれ過ぎます。そして、過ぎるときは、必ず外縁から崩壊していくのです。日本が地方経済やそれを支える不動産、小売りから崩壊していったように、中国においてもアメリカにおいても外縁部、緩衝地帯から崩壊していきます。

 日本は、アメリカの影響下にありますが、まるでローマ帝国時代のガリア地方やイングランドのように、国力の衰退とともに引き潮の圧力をまともに食らいます。いまヤバイことになっているのは韓国ですけれども、それもこれも、まだ伸びている中国と、引いていくアメリカとの間で起きている力学にほんろうされている状態です。

 トランプ政権でなくとも、朝鮮半島専用の軍隊であった在韓米軍28,500人は、いつまでも維持しておくべき軍隊ではないと判断されることはそう遠くはないでしょう。北朝鮮が長距離ミサイルを打たない確約をするうちは、朝鮮半島などアメリカにとってさして重要な地域ではなくなり、その主戦場は台湾であり南シナ海であるというアジアの安全保障再定義とともにアメリカの役割はワントップ体制からNATOのような集団安全保障体制をどう築くのかという話へと移行していきます。そこへ、老大国である日本が衰えゆく国力を何とか抱えながら存在感を維持しようとするとき、私たちはいったい何を考え、どう行動するべきなのかはちゃんと考えておく必要があります。

 戦前も戦後も一貫して我が国には資源がないことで戦争し、資源がないことで貿易立国として頑張ってきました。資源の輸入なしには日本は成り立たず、資源が輸入できる安定して平和な世界という環境からの最大の受益者が日本であることは言うまでもありません。

 その日本が一番享受している平和な世界が、アメリカの衰退と中国の台頭による対立によって脅かされているとするならば、日本はこれから何をするべきなのか、虚心坦懐、冷静に社会、国家、教育、産業の何たるかをいちから考え直す必要があります。

 そのためには、入管法をどう考えるのか、いま日本を楽しんでくださっている外国人旅行者や、日本がいいと言って来てくれている技能実習生、日本を選んで定住してくれるという留学生も含めて、日本社会とは何であるか、誰を受け入れ、どういう仕組みで彼らを受け入れるのか、きちんと考えていかねばなりません。

 やはり、私たちが怖れるべきは、可能性は無いと思いますけど日本の周辺に中国の軍艦が来て、日本に住んでいる中国人同胞の権益と安全を守れと中国から要求され、経済が中国資本に依存しすぎて苦渋の決断を政府が取り、日本国家のために働く警官が日本社会のために立ち上がる日本人をぶん殴るような事態にならないようにすることに尽きます。

 不穏なことを書くようですが、香港人に心を寄せる理由こそ、いま香港が置かれている現状がこれだ、ということです。心から、「香港加油」と言いたい。私たちが香港のために、あるいは、韓国や台湾、ウイグル、チベットのために、民主主義国として何ができるのかを考えるべき時期に来たのではないのかなあと思うわけであります。

 戦争したくねえなあ。平和が一番だよ。心から、そう思います。



 

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山本一郎(やまもといちろう)
神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント