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【丁寧な設定補完と最悪のゲーム性】ドラゴンクエストIII HD-2D リメイク 感想・レビュー

「で、グランドラゴーンは出るのか?」
本作の制作発表を見た時、俺が最初に思ったのがこれだった。
おそらく、昔からのDQ3プレイヤーには同じ感想を抱いた人が多かったのではないかと思う。

と言うのも、DQ3という作品は今まで幾度となくリメイク版や移植版が発売されているのだが、機能・追加要素の充実度としては GBC版>SFC版>それより後のリメイク といった状態になっており、あろうことか2000年発売の携帯機リメイクがシステム的には最も充実している状況が20年以上も続いていたのだ。
2019年発売のswitch版ですらSFC版よりも機能が減ったスマホ版のベタ移植というやる気の無さであり、これまでのDQ3リメイクの歴史を知っている人であれば本作HD-2Dリメイクの制作発表に対し「まさか、グラフィックだけ強化して中身はまたスマホ版ベースじゃないだろうな?」と不安になる方が自然と言うものだ。

新規追加ボス。ただし固有グラフィック持ちは一切いない

だから、制作発表の3年後になってようやくシステム・シナリオ双方に新たな追加要素があると明かされた際には嬉しかった……のだが、今度は別の問題が浮上してきた。
ドラクエはリメイクにおけるストーリーの補完が絶望的に下手くそなのが恒例であり、「シナリオ追加がある」とはつまり「また余計な設定を増やして致命的な矛盾点をいくつも作ります」と同義なのだ。
直近の作品がその悪い代表だったこともあって悪い予感しかしなかったが、まあ最悪ストーリーが改悪されていてもシステムは楽しめるだろう、と諦め半分で俺は本作をプレイした。

この予想は良くも悪くも裏切られた。
端的に言うと、ストーリー面は今までのドラクエからは信じられないほど真面目に設定補完を行っていた一方で、システム面は歴代ドラクエ作品の中でも最悪レベルで無茶苦茶だった。
つまり、俺の予想とは完全に逆の結果となったわけだ。
今回はそんな異形の怪物のような本作のプレイ感想を語っていこうと思う。
なお、リメイク版の追加要素も含めてネタバレは全開なのでご注意いただきたい。まあ、公式が一番ネタバレしてるんだから今更気にする奴なんていないと思うが。

グラフィック・表現

光や水の表現はとても綺麗

本作は開発中にトラブルがあったのか途中で制作会社が変更されており、それが原因なのか制作発表時のトレーラーと3年後に公開されたものではグラフィックも結構変わっている。
これが、旧バージョンでは「3Dのような2D」といったイメージだったのに対し、新バージョンでは「3Dの背景に2Dキャラを置いただけ」のような印象になっており、発売前から残念に感じていたのを覚えている。
しかし実際始めてみると何だかんだ綺麗に作られているので、ドラクエ3の世界の3D化としては普通に楽しめた

例えばロマリアは2Dドットの頃からは想像も付かないほどの美しい水の都として生まれ変わっているし、アッサラームは中東らしい雰囲気がよく出ている。
ダンジョンも立体化がされたことで過去作とは大きく印象が変わっており、2D時代に何度もクリアしたダンジョンでも新鮮な気持ちで探索することができた。
「HD-2D」の触れ込みに対する印象はともかく、結果的にグラフィック面の変化は十分楽しめたと感じている。
ただ、カメラが固定されているせいで時々どこが通れるのか、どこが通れないのか分かりにくい場所が発生していたのは少々気になった。俺は元の作品の記憶を呼び覚まして対処したが、本作で初めてドラクエ3に触れた人にとっては、所々で詰まる点があったんじゃないかと思う。

左から勇者、盗賊、商人、遊び人

個人的に一番嬉しかったのはキャラメイク要素の強化だ。
過去のリメイクでは職業によって外見が完全固定だったので、「グラフィックが被るのが嫌で同じ職業のキャラを複数入れたくない」「前のキャラの面影が全く残らないのが嫌で転職しにくい」といった不満を抱えることがあったが、本作では各職4パターンから選択可能となったので「勇者・賢者・賢者・賢者」なんてパーティを組んだとしても全員に固有のグラフィックを持たせることができる。
転職によってグラフィックが変わってしまうこと自体は避けられないが、転職前と同じ髪色・似たような印象のグラフィックを選択すれば「同じキャラクターである」とは感じやすくなっており、キャラメイクを楽しむプレイヤーにとっては色々と嬉しい追加要素だ。

貴重なクリア後特典

ただ、この点には一つ特大の不満点がある。
上では各職4パターンから選択可能と書いたが、勇者だけは例外だ。プレイヤーの分身であるはずの主人公だけがキャラメイク不可というのは何かが根本的におかしい気がするが、まあ「DQ3の勇者」はドラクエにおける勇者という存在の代表みたいなデザインなので、きっとそのイメージを崩したくなかったのだろう……と、不満ながら自分を納得させていた。
だが本作では追加要素がある。神竜を倒した後の願い事に「勇者もおしゃれがしたい」が追加されていたのだ。
そんなもん願い事に入れずに最初からさせろ」とも思ったが、ここでようやく勇者も違ったグラフィックが選択可能になるのかと俺は心からワクワクしてこの願いを選んだ。
その結果がこれだ。髪色以外は何も変更できない。「こんなの絶対プレイヤーはガッカリしますよ、やめましょうよ」と止めに入るスタッフが一人くらいは存在しなかったのか?と思うが、まあ、これから挙げる問題点に比べたらこんなものは些末な問題だ

システム・ゲームバランス

本作では新規職業として魔物使いが追加された他、今までのDQ3には存在しなかった呪文・特技が多数追加されている。
例えば今までの戦士は呪文も特技も一切習得しなかったし、そのせいでMPが一切成長しなかったので「転職して戦士になる」旨味がほとんど無い職業だった。
しかし本作では「かばう」「しっぷう突き」「つるぎのまい」等の特技を習得するようになっており、もちろんMPも成長するようになった。
これにより育成の楽しみが純粋に増えたのはもちろん、後から戦士に転職するメリットも生まれて……いない

鋼鉄の肉体

どういうことかと言うと、本作は敵が硬すぎるのだ。
序盤のうちは問題ないが、船を入手する辺りから敵の守備力が急激に上昇し始め、そのまま裏ダンジョンに至るまで改善されることはない。
これのせいで、物理攻撃そのものが根本的にゴミになっている。「他と比べて弱い」程度じゃない。全く使い物にならない

具体的な例を出すと、画像のボストロール戦では俺の盗賊(アザミ)が1ポイントたりともダメージを通すことができなかった
俺の盗賊はタフガイ(体力が最強、攻撃も高めの性格)で、武器はこの時点では最強クラスと思われる単体武器のアサシンダガーを装備していた。
特に低レベル縛りをしているわけではないし、難易度も通常だ。もちろん、たまたまミスが出たわけでもない。敵の守備力が高すぎてダメージが通っていないんだ。

「だったらルカニ使えばいいじゃん」と思うだろうが、これがさらに問題で本作のルカニ系は敵の守備力低下ではなく、ダメージを割合で増加させる効果になっている。
そのため元々ダメージが通らない相手には全くと言っていいほど効果がなく、歴代ドラクエで当たり前だった「硬い敵にはルカニ」が通用しなくなっている。
と言うか本作は弱体化効果が軒並み2ターン前後しか持続しなくなっており、使い勝手があまりにも極端だ。
例えば眠りや混乱は持続が弱くなった代わりなのか有効な敵がやたらと増えており、大ボス相手でも眠りや混乱を連発すればハメ殺せるようになっている。
(実際、上記のボストロール戦で俺は「勇者はライデイン、残りは全員眠りの杖」という戦法で強引に突破している)
対して幻惑は効いたところで敵の攻撃が当たる時は当たるのに2ターンそこそこで効果が切れるので完全に使うだけ無駄だ。

なお「攻撃しつつ状態異常を与える」特技は、ダメージが0にされてしまうと状態異常も通らない。俺の盗賊は眠り攻撃の特技を持っていたが、そもそもダメージが通らないので眠りの杖を振らないと眠りすら通せなかった。そのくらい物理攻撃は終わっている。
じゃあ、戦士などの物理系の職はどうやって戦えばいいのか。答えは「戦えないので魔物使いに転職しろ」だ。

最強武器を装備したタフガイ戦士のバイキルト込みの超絶火力!

これは大袈裟でも何でもなく、本作の制作者は完全に「勝てないなら魔物使いに転職すればいいじゃん」としか考えていない
その証拠と言えるのが神竜の体力設定だ。
上でも少し書いたが、本作にも神竜を規定ターン以内に倒すと願い事を叶えてもらえる要素がある。
そして要求撃破ターン数の設定は過去リメイクと変わっておらず、最初は35ターン、一度達成すると25ターン、以後は15ターンだ。
この15ターン撃破なんだが、魔物使いを一切育てていない場合、よほど極端な鍛え方をしないと達成困難だ
俺は「勇者はベホマズンかギガデイン、残りの3人はビーストモード魔物呼び」という本作でおそらく最強と思われる戦法を躊躇なく使ったのだが、これで討伐ターンは12~14だった。相当ギリギリだ。
戦士は破壊の鉄球を持ったバイキルト剣の舞で1ターンに40ダメージ、賢者で山彦メラゾーマを使っても170ダメージ×2程度しか出ない。
対するビーストモード魔物呼びは140ダメージ×4回攻撃×2回行動なので1120ダメージ程度だ。2~3ターンごとにビーストモードの仕込みが必要なのでターンごとの火力はもう少し落ちるが、平均して1ターンあたり700程度は出ているだろう。これでギリギリなら他にどうすりゃいいんだよ。
攻撃手段に関してはまだ試していないものも多いし、おそらく魔物呼びよりも強い攻撃手段も無くはないのだろう。1キャラしか使えないが、不気味な光を入れた山彦覚醒メラゾーマなら勝てそうな気はする。
だが、他にもっと強い攻撃手段があったとしてノーリスクで2回行動が可能になるビーストモードを使わない理由は一切ない
だから本作の制作者が「とりあえず3人全員魔物使いにしてください」と考えているのはまず間違いない。それじゃゲームとして破綻してるだろって?そうだよ。

ところで、本作でも勇者は相変わらず転職不可能だ。
魔物使い以外の職業に存在価値がない本作において、勇者は「ベホマズンが使える」という明確な利点を持つので立場としては一番マシではあるが、何の救いにもなっていないのは言うまでもないだろう。
それ以前に勇者が転職できないことの問題は強い弱いではなく育成がつまらない点だと思うので、これを改善してくれなかったのも残念な点だ。

「しゅびりょくが110あがった!」が消えてインパクト不足になった蟹

もう少しゲーム攻略全体の話をしよう。
本作では、近年のドラクエでは割と当たり前になったレベルアップ回復が採用されている。
元々俺はレベルアップ回復について否定的な考えなのだが、本作に関しては特にゲームの楽しみを損なっていると感じる。一応言っておくが、別に俺は「不便で難しい方が面白い」みたいな老害主張がしたいわけではない。

DQ3までのドラクエは、元々ほとんどのダンジョンにボスが存在しなかった。ダンジョン攻略とは「最深部のボスを倒せるかどうかの勝負」ではなく、「いかに消耗を抑えながらダンジョンの最深部に到達し、無事に帰還するか」がゲーム性の核となっていたはずだ。
現代では消費MP0が当たり前になったルーラ・リレミトに重めの消費MPが付いていたのも、「帰還用MPの温存」が一つのミッションとなっていたのだと思う。
つまり「消耗」こそが最大の敵であったはずのゲームからレベルアップ回復という形で消耗を取り払ってしまったら、「どう温存するか」の戦略性が消えてしまうわけだ。
最初から所持金が無限の経営シミュレーションなんて何も楽しくないだろ。

存在意義を失った回復ポイント

例えばノアニールのイベントで行く地底湖の洞窟が顕著だ。
ここは時期的に考えても敵が強めでダンジョン自体もそこそこ複雑だが、ちょうど真ん中くらいの場所に回復ポイントがある。ここで一息つけるし、足を止めてレベル上げを行うこともできる。苛烈なダンジョン攻略において、非常にありがたい存在だった。
だが本作ではどうせレベルアップすれば全回復するので、この回復ポイントもどうでもよくなってしまった。

それからサマンオサ南のラーの洞窟は、過去作だとマホトラを連発するゾンビマスターが非常に鬱陶しい存在だった。こいつら自身によって全滅に追い込まれることはそうそう無いが、マホトラでMPをスッカラカンにされてしまったらリレミトも使えず回復もできず、他の敵に倒されるのを待つだけになってしまう。そうした消耗の脅威と戦い、地道な行軍を楽しむ要素が本作ではかなり薄れている。
これが最初から「道中はサクサク進んで、最後のボスとの勝負を楽しんでね」というゲーム性であればレベルアップ回復についてはもう少し肯定的に見られるのだが、本作のレベルアップ回復はただゲーム性を損ねているだけに感じる。

本作では何体かの追加ボスが用意されているが、ダンジョンの最深部に追加されたのはピラミッド・地球のへそ・ルビスの塔の三箇所だけだ。上記の地底湖の洞窟やラーの洞窟など、ボスの居ないダンジョンは多く残っており、ボスとの戦闘を前提にしたゲーム性にはなっていない。

本当にキラーになった方の蟹

ただ、行軍がヌルゲーになっていることは制作側も理解していたのか、そこに対策を用意しようとした節がある。本作では敵の同時出現数がやたら多いのだ。
基本的にどこでも4~6体のグループ出現が当たり前で、8体編成もそんなに珍しくない。その上、そこら辺の雑魚が当たり前のように2回行動するようになっている。
プレイヤー側の全体攻撃手段は過去リメイク以上に充実しているのでこちらが先手を取れれば一掃するのも難しくないが、敵に先手を取られると一気に危険になる。

その象徴みたいな存在が上の画像のキラークラブだ。こいつは裏ダンジョンのモンスターだが、過去作では大して印象に残る敵ではなかった。
だが本作では素早い上に2回行動し、ラリホーとザラキを乱発する蟹の形をしたパンドラボックスみたいな害悪モンスターに変貌した。こいつが4体も5体も平気で出てくる。
こいつに限らず、眠りや麻痺でハメようとしてくる敵は本作全体で非常に多い。そして、「これで対策してくださいね」と言わんばかりに各種状態異常耐性のリングや魔除けの鈴が序盤から販売されているが、それらの対策アイテムを装備していても普通に状態異常は当たる
つまり、運ゲーに持ち込んで強引にプレイヤーをハメ殺せばレベルアップ回復で万全の状態になっていようと死のリスクを背負わせられる、というのがスタッフの結論というわけだ。世界はそれをクソゲーと呼ぶんだぜ。

ところで本物のパンドラボックスは上記の蟹ボックスすら可愛く見えるほどの超絶害悪にワープ進化を果たしているのだが、その話は後にしよう。

3匹でタコ殴りにしてもホイミスライム一匹倒せない

本編のゲームバランスが崩壊しているということは、つまり本作の目玉要素のように扱われていたバトルロードのバランスも取れているわけがない
先述した「物理がゴミ」問題はこちらでも発生しており、いかにもアタッカー系に見えるモンスターですら物理ではまともにダメージが通らないことがザラだ。
ただのホイミスライムごときに物理攻撃を一桁ダメージにシャットアウトされ、毎ターンホイミで回復されて戦闘が終わらなくなったので諦めて降参する羽目になったりする。

そしてランクが上がってくると敵の火力だけはどんどんと上がっていき、こちらは最強クラスのモンスターですらHPが200くらいしかないのに相手はワンパンで100~150くらいのダメージを平気で出してくる。なのでHP満タンからでも集中攻撃されたらもちろん1ターンで死人が出る。
じゃあ、どうやって勝つのかと言うとメタルスライムとはぐれメタルを入れることだ。
敵の攻撃をほぼ全てシャットアウトできるし、バトルロードのメタル系はメラゾーマやベギラゴンを使えるので火力も最強クラスだ。
DQ8のバトルロードも最終的には「ギガンツ・ハルク・リーを使ってください」で終わるゲームだったが、あちらは一応それより勝率が落ちるとは言え合体モンスターやキラーマシンで攻略することもできた。
本作のバトルロードはそれよりも遥かに劣化している。すごろくと格闘場を潰してまで追加された、本リメイクの目玉要素がこれだぜ。

敵のイカは3回攻撃してきます

付け加えて言うなら、本作のバトルロードがつまらない理由として敵チームやオーナーに何の特徴もないことが大きい。
例えばDQ8のバトルロードではBランクに入った途端メチャクチャ強そうなドラゴン軍団「ドラゴンソウルズ」が登場した。実際こいつらはCランク以下の連中とは格が違う強さの強敵であり、とにかく印象に残る。
特に強いチームでなくても、例えばノックヒップ・ウィッチレディ・ミニデーモンの3匹組のチームを家族に見立てた「デビル核家族」なんて面白いチームもあったし、SランクではDQ4のトルネコが登場、チーム名も「アイラブネネさんズ」とファンサービスとしては中々はっちゃけていた。
だから、ゲームバランス等は別にしてイベントを楽しむ面白さはあった。

本作のバトルロードにはそれがないのだ。一応各ランクの最終戦にはイシスの女王とかモンスターじいさんとか見知ったNPCも登場するが、チームに名前は付いていないし、特に印象的なモンスターを使ってくるわけでもない。
本作の最高ランクの最終戦ではルイーダが相手となるが、使ってくるモンスターはヒドラサラマンダーだ。せめてDQ3に存在しなかったブルドーガでも出してくれればファンサービス的な価値はあったと思うのだが、それすら無い。

左側にこんなに隙間があるのに999999ゴールドが上限

ただひたすらに粗雑さと手抜きしか感じないのだが、はぐれモンスターを100体収集しないと裏ダンジョンの奥に進めないのでバトルロードの攻略を進めるかどうかはともかくモンスターを探す必要はある。
そして魔物使い無しでモンスター100匹を保護するのは凄まじい苦行なので、バトルロードに必須どころか別にバトルロードに興味がなくても魔物使いは必須になっている。このゲームのタイトル、魔物使い3に改名した方が良いんじゃないか?

と言うか、裏ダンジョンの進行条件として累計で120万くらいのゴールドも要求されるので、結局これをスムーズに進めたかったら大金を稼げるバトルロードを進めることが一番効率が良くなる。面白ければ勝手に遊ぶからよ、つまらなくても遊ばなきゃ進行できないように作らないでくれるか?
あと、この裏ダン進行のために100万を超えるゴールドを要求されるのに所持金のカンストが99万9999Gなのは流石にアホかと思った。ゴールド表示欄にはたっぷり隙間があるんだが、夢と希望でも詰めてんのか?

ロトの紋章とはちょっと違う形

先程から言及している裏ダンジョンについていよいよ言及するが、本作には神竜を倒した後の第2の裏ダンジョンとして『試練の神殿』という新たな裏ダンジョンが登場している。これこそが本作の雑さと悪意が融合して生まれた歴代最悪レベルの裏ダンジョンだ。

このダンジョンには6つの道があるが、真上の道は封じられている。他を全てクリアすると開くのだろう。
そして、ダンジョンと呼べるのは左上と右上の道2つだけだ。それぞれ「爪とブーメランの試練」「斧と杖の試練」と呼ばれている。
その名の通り、ここでは指定の武器の装備を強要される。別に武器が持てなくてもどうせ物理攻撃しないんだからどうでもよくね?と思うかもしれないが、この試練はそんな生易しいものではない。
対象の武器を装備していないと与ダメージ激減・被ダメージ激増のデバフを常時食らうので、攻撃力の関係ない特技で活躍することも許されない。
じゃあ指定の武器を装備できない職業はどうすればいいのかって?魔物使いに転職すればいい。魔物使いは両方対応できる。
魔物使いの特技だけ習得して他の職業に転職するのは禁止だ。魔物使いを捨てた裏切り者に対して嫌がらせをするためだけにこのダンジョンは存在する。

プレイヤーを不快にさせるためだけに作られた神ボス

そして、この試練の最後に待ち受けるボスがパンドラボックスだ。
最初は2体出現だが、こいつらを倒すと追加で4体現れる。眠りと麻痺を当然のように連発し、体力が減るとベホマズン、負けそうになるとメガンテを使う。そこまでプレイヤーに攻略されたくないのか?

こいつの倒し方は、はぐれモンスターを100匹集めると魔物使いが習得する黒い霧を使うことだ。これでベホマズンを封じないと、どう足掻いても倒せない。
しかしベホマズンを封じたところで怪しい瞳や焼け付く息は止めようがないため、ひたすら黒い霧を更新しながら運良く動けたキャラでチマチマとこいつらの体力を削る作業を強いられる。配信のアーカイブを見てもらえれば分かるが、俺はこいつを倒すだけで31分かかった。これは地獄の責め苦か?
このダンジョンが「制作者がプレイヤーの頑張りを踏みにじって嘲笑う」ことを目的に作られているのはよく分かるだろう。少しでも楽しんでもらおうと思っていたらこんなものを作るわけがない。

さて、それじゃあ残りの3本の道は何なのかと言うと、左の道は純度100%のおつかいで、「木の帽子を4個くれ」「スライムピアスを4個くれ」などと言われるので、それを買ってきて納品するだけだ。ただの作業じゃないかって?もちろんそうですが。
そして、このおつかいの終盤では一個4万ゴールドのエルフの飲み薬を25個要求される。
何個かはフィールドや宝箱でも入手できるが、25個には明らかに足りないので20個くらいは買う必要がある。
なお、エルフの飲み薬を売っているのは本作ではエルフの隠れ里のみで、ここでは変化の杖を持っていないと買い物ができない。
変化の杖はストーリー進行で失われるが、安心してほしい。バトルロードの景品で再入手可能だ。もちろん皆さんは制作者が大好きな魔物使いを育てたし、バトルロードも遊びましたよね??

そして下の道は「はぐれモンスターを100匹集めろ」と言われるだけだ。制作者に逆らう奴にこの先は遊ばせまいとする強い意志が感じられる試練ですね。

誰がそんな噂してんだよ

そして残った右の道だが、まず「ブルーメタルの兜を見せろ」と言われる。これは本作の新規イベントで入手するものなので、制作者が頑張って作ったイベントを無視してゲームを進行するなと言いたいのだろう。後述するが、このイベント自体は良好なのでまだマシだ。
その次は「ちいさなメダルを105枚集めてグリンガムのムチを持ってこい」と言われる。
その次の試練があるのかは分からない。俺はメダルを75枚しか集めていなくて、この試練を投げたからだ。ちなみに本作のメダルは全部で110枚なので、105枚はコンプ寸前だ。攻略本を売りたかったんでしょうね。

DQ7の石版集め、特に裏ダンジョンの入場に必須の石版がメダルの報酬になっていたのは当時相当不評だったと記憶しているのだが、本作はそれを悪化させてきた。
こんなものは言うまでもないが、お楽しみの収集要素は別にやらなくてもいいから楽しいのであって、強要されたら退屈で不快な作業でしかない。だからモンスターメダルの収集必須のGBC版DQ3のグランドラゴーンもほとんど誰も到達せずに諦めただろ。
この試練の神殿はどこを見ても「最悪」としか言いようがない。これを面白いと思って売るようなスタッフしか居ないのなら、割と本気でDQシリーズは畳んだ方が良いとさえ思う。

ユーザビリティ

状態異常やデバフはこの画面で見るしかない

少々今更な話になるが、本作の仕様周りで一つだけ明確に良い点がある。属性攻撃や状態異常が無効の場合、「耐性が高くて効果がない」と表示されるようになった点だ。
過去のドラクエだとボスに対してルカニを3回くらい使って、それでも通らなければ「多分無効なんだろう」と諦めるのが恒例だった。
しかし本作では無効なら一発で無効だと分かるし、逆に「効かなかった」表記であれば少なくとも無効ではないことが分かるようになった。これは数少ない本作の良い点だ。

ただ良い点はそれぐらいで、本作は令和の時代に出たとは思えないほど不親切な仕様が多い。
まず一つ言えるのがバフ・デバフ効果の見辛さだ。本作の戦闘画面は、コマンド選択前は上の画像のように自キャラの後ろ姿と敵が両方写った画面、それ以外は敵だけが映った画面で進行する。
そして、この部分の仕様は本当に意味不明なので正しく認識できているか怪しいのだが、以下の仕様になっているはずだ。

  • ルカナン・バイキルトなどのステータス変化効果は自キャラの後ろ姿が出ている画面の時、キャラクターへのエフェクトと、ステータスバー横にアイコンが出る。敵だけの画面の時はアイコンも表示されない。

  • ステータス変化ではないバフ・デバフ効果(補助呪文や状態異常)は自キャラの後ろ姿が出ている画面の時、キャラクターへのエフェクトのみが出る。どちらの画面でもアイコン等の表示は一切無い。

つまり、実際にバトルが進行している敵だけが表示されている画面の時は、状態異常もバフ・デバフも誰に何が付いているのか確認できない。
待機画面ではステータスバー横にアイコンが出せるのに、戦闘進行中は消すべき理由が何かあるのかよ。

まあ、過去のドラクエ3もアイコンで補助効果の表示等はしてくれていなかったが、2024年発売のリメイクで20年以上前のゲームの不便さを再現するな

男性って何でしょうか?(すっとぼけ)

装備関係の仕様は特にダメな部分で、まず装備の詳細な効果が分からない
これは商人の「みる」コマンドに価値を持たせたかったのではないかと思うが、その商人も例えば具体的に何のダメージを何割減らせるとか、状態異常の確率を何%下げるとかは教えてくれない。
そして大雑把な耐性や特殊効果はアイテムの説明に書いてあるので、基本的に商人に聞く必要もないのだ。一部、オルテガの兜のように説明欄に耐性が記載されていないものがあるので「本当に耐性がないのか?」を商人に確認する価値はあるが、そもそも耐性を記載しろ。

それからステータス変化の表示も妙に不親切で、例えばキャラクターの装備画面から武器を変更する際には「そのキャラクターが今のステータスからどう変化するか」のみが表示され、武器自体の攻撃力は表示されない。
一方で、装備袋の中の武器を確認した場合は「その武器の攻撃力」が表示されるので、装備の強弱の確認が地味に面倒なのだ。
こういった点も普通に遊んでいれば確実に不便を感じる部分だと思うが…制作者は魔物使いしか使っていないから装備に興味がなかったんだろう。

あと、今更気味な話だが本作の発売前に騒がれていたポリコレ要素は凄まじくやる気がない
男女をルックスABに言い換えているのはキャラクター作成時のみで、以後は当たり前に説明文でも会話文でも「男」「女」が使われている。
こうもりルックスAやミイラルックスAも出てこない。

まあ、これはそもそもポリコレ要素自体が意味不明なので徹底されても全く嬉しくはなかったが、作中での呼称が統一されていないのは違和感がある。
このポリコレ問題については、他ならぬ堀井雄二氏自身が「なぜこんな事をしなきゃいけないのか分からない」と発言していたので、こんな半端な変更の原因はおそらくポリコレコンサルに見せる最序盤だけ呼び方を変え、残りは当初のまま放置した結果だろうと思っている。
しかし本件については、おそらく最高責任者であるはずの堀井雄二氏すら「意味が分からない」と言っているのに、「だからやらない」とは言えない状況の恐ろしさを感じる。もう普通に検閲だろ。

シナリオ・演出

彼には72通りの名前があるから、何て呼べばいいのか…

ここまで本作を散々こき下ろしたが、本作で珍しく掛け値なしに素晴らしかった点がある。それがストーリー面の追加要素だ。
先述した通り、ドラクエのストーリー追加と言えばDQ5のゲマの出番増加やデボラの追加による大量矛盾とか、DQ7のキーファをひたすら無能クズ扱いするイベントとか、全てが最悪だったDQM3とか、絶望的に酷いものばかりだった。
しかし本作は何がどうなったのか、プレイヤーからもネタキャラ扱いが多かったオルテガに関して真摯で真面目な設定補完を行い、彼の行動の不自然だった点について納得できる理由とドラマを用意してきた。本当にどうしたんだよ。

例えば、オルテガはムオルの村で「ポカパマズ」との珍妙な名で親しまれていたが、過去作ではオルテガがなぜそんな偽名を使っていたのか何の説明もなかったし、その村でオルテガと出会ってから15年近く経っているはずのポポタが子供のままだったりしていた。
本作はムオルのイベントではその理由について語ってくれないのだが、後のサイモン絡みのイベントの中で「オルテガの名が有名になりすぎた結果、それを聞きつけて魔物がひっきりなしに襲ってくるようになったので名を捨てることにした」と語られている。
つまり、ポカパマズはその後に名乗るようになった偽名の一つと暗に伝えてくれている。
ムオルで理由が説明されなかったのも、そもそもムオルの人はポカパマズの名しか知らなかったのだろうと考えれば説明が付く。
あと、本作ではポポタがちゃんと大人になっている。

実際、過去作の頃からオルテガは世界各地で「あの人はすごい」と持ち上げられまくっていたので、そりゃ魔物たちの耳にもその名は入るだろうし、オルテガが魔物に常時襲われ続けてまともに休む暇もなかったと考えれば、オーブ集めを一切やらずにネクロゴンドに突入しようとしていたような彼の不自然な冒険も多少は納得しやすくなる

本作は、過去のドラクエなら確実に「それはゲームの都合なので(^_^;)」で済ませたり、逆に公式の側から不自然さをネタにし始めるような部分を、可能な限りゲーム内の世界で辻褄が合うように設定を補完している。
そうだよ。本来リメイクってこういう事をやってほしいんだよ。何で本作で急にできるようになったんだよ。ゲームシステムはこんなに崩壊してるのに。

背負いすぎた男の背中

リムルダールに追加されたオルテガの手記は、本作でも特に素晴らしい内容だ。ここでは、アレフガルドに訪れると共に記憶を失ったオルテガの強さと使命感、そして不安と罪悪感が綴られている。

オルテガは記憶喪失となりつつも、おぼろげに「自分は世界を守るためとは言え、幼い子が生まれたばかりの家族を捨てて旅に出たらしい」事だけは覚えていた。
そのせいで「家族を捨ててまで戦いを選んだ俺が悪を倒さなければならない、守るものがある他の人を関わらせるべきではない」と、半ば強迫観念に近い思いに駆られていたことが読み取れる。
このシーンで「自分は家族を捨てて旅に出たのか?」と浮かんだ疑問に対し「きっとそうなのだろう。オレならそうするだろうと思う自分がいる」と自答する様子は、冷静に状況を受け止める彼の落ち着いた強さと、どこか自身を軽蔑しているような痛々しさが感じられて、心に染み入る場面だった。

彼がそんな心持ちだったのなら、「虹の雫無しで単身でゾーマの城に特攻」なんて無茶苦茶な行軍をしたのも説明が付く。彼は一人で背負いすぎていたわけだ。
オルテガの記憶喪失設定は、過去作では特にオルテガの心情も語られなかったし、主人公と再会した際には記憶を取り戻すので何のためにあったのか分からない設定だった
しかし、本作ではオルテガの心情が描かれたことで物語に深みが出ているし、アレフガルドにおける彼の不自然な行動の説明にもなっている。どこからこんな超有能なライター連れてきたんだよ。

ドラクエ10は本作を見習ってくれ

そして、オルテガに関する最大の山場と言えるキングヒドラとの戦いについても大幅な改善がされている
まずFC版でオルテガがカンダタの色違いだったのはもう諦めるとして、本シーンに関しては以降のリメイク版で追加されたムービーにも「主人公たちがオルテガのすぐ後ろにいるのに、オルテガが敗北するまで加勢せずに観戦」「ベホマに回すべきMPをバギクロスで無駄遣いしてMP切れを起こすオルテガ」について散々ツッコミが入っていた。

しかし、本作ではまずオルテガとキングヒドラの戦いを、主人公たちは橋の向こうから目撃する形に変わっている。
そして駆け寄っていく最中にも彼らの戦闘が進行し、主人公たちが取り巻きの魔物を片付けてオルテガの元に辿り着いた時には決着してしまっていた……という展開になった。

この決着のシーンもオルテガがキングヒドラをダウンさせ、いざトドメ!と飛びかかったところで、最後の力を振り絞ったキングヒドラの火炎をモロに喰らって逆転敗北する表現になっている。
これにより、初見のプレイヤーには直前まで「なるほど、ここで父がカッコよく敵を倒し、親子の再会シーンが来るのだな」と感じさせるミスリード要素を持たせたショッキングで印象的な描写となった。

一体全体どうなってるんだよドラクエ。お前はもっとこう、「オルテガが最後にカンダタスタイルに戻ります!」みたいな、ネットのネタに媚びて原作の感動シーンを自らぶち壊しにするゴミ追加シナリオをドヤ顔で描いてくるゲームだったはずだろ…?

本作での名称は「ひかりのかぶと」

裏ダンジョンの話で少し触れたブルーメタルの兜に関する話をしよう。これは何なのかと言うと、オルテガの兜をブルーメタルで補修し、後のロトの兜として鍛え直したものだ。
これも長年のファンにとっては面白い追加イベントだったと思う。
何故かって「オルテガの兜が後のロトの兜」との公式設定は以前から存在していたが、明らかに見た目が全然違ったからだ。
この点に関する明確な回答は今まで公式から出されておらず、プレイヤーたちは「なんか色々あったんだろう」と諦めるしかなかったが、本作ではその答えが示されている。

そもそもオルテガの兜はリメイク版の追加装備と比べると性能で劣っていた。特に問題となるのが、市販のミスリル製品であるミスリルヘルムに守備力で負けていることだ。
ドラクエにおいては昔から鉱石の強さに序列が設けられており、 オリハルコン>ブルーメタル>ミスリル の順に強いことになっている。
ロトの兜は設定上ブルーメタル製だったはずなのだが、もしもオルテガの兜がそのままロトの兜になったのだとしたらブルーメタル製であるはずのロトの兜が、DQ3の世界では一般に流通している程度の製法で作れるミスリル製品にも劣っていたという妙な事になってしまう。

本作は、そのデザインと性能の両方の疑問をしっかりと解決してくれたわけだ。
特に「伝説のブルーメタル製品が市販のミスリル製品より弱いのってどうなんだ?」なんてポイントは俺みたいな一部の厄介ファンしか気にしていない要素だと思っていたので、それを真面目に解決してきたことは心底驚いた。
このゲーム、もしかして最高のリメイクか…?いや、ゲーム性はゴミ未満だったな。

そんなに目立った会話もない

と、ここまでオルテガ関連のイベントをベタ褒めしてきたが、不満が一切なかったわけではない。
最も不満なのは、やはり発売前から情報が出されていたネクロゴンド火山でオルテガを倒した魔物、レヴナントがパッとしないことだ。

言動も今ひとつ小物臭いし、美味しい役どころの追加ボスなのに固有グラフィックも与えられていない。
一応DQ3には居なかったヘルビースト系のグラフィックなので本作内に限れば固有になっているが、それでもガッカリ感は否めない。

過去の書籍「知られざる伝説」では、オルテガを倒した魔物はサタンと呼ばれていた覚えがある。
SFCの追加ムービーでオルテガと戦っていた魔物も固有のグラフィックが与えられていたし、こいつをサタンとして出すのが一番無難だったんじゃないかと思うのだが、なぜヘルビースト系になったんだ?
……と思ってSFC版のムービーを確認してみたら、顔は明らかに違うし体格もこんなにスリムではなかったが、体色を含めた全体のシルエットは結構近かった。だからってヘルビーストをそのまま持ってくる必要は無かったと思うが。
ついでに言うと「レヴナント」の名前自体もDQ3の世界から見るとかなり浮いているように思えるのだが、これはもう難癖のレベルなので深く言わないようにしよう。

実家の両親より頻繁に連絡してくる精霊

オルテガと無関係な部分について言うと、本作は全体的にナビゲーション的なイベントが増加している。
これ自体は基本的に悪いことではないと思うが、船の入手直後に「今後の目的はオーブ集めだ」と指示されるのは流石に余計だと感じた。
どうせレイアムランドに行けばオーブ集めのことは聞かされるのだし、船を入手して行動範囲が広がったとワクワクしているプレイヤーに対し、わざわざゲーム上の目的を押し付けて臨場感を削いでいるとしか思えない。

それから、ナビゲーションが増加したことで元々のゲーム上の情報が価値を失ってしまった部分もある。
例えば、過去作ではガイアの剣の使い道を教えてくれるのはルザミの老人だったのだが、本作ではガイアの剣の入手直後にそのまま「この剣をネクロゴンドの火山に投げ込め」と指示されるので、ルザミの存在意義が消滅してしまっている。

サクサク進めたい人のためのガイドを用意するのは良いとしても、世界を巡って情報収集する楽しさを単純に潰してしまっているのは少々残念な点だ。

無能カス店員と化したグプタ君

細かな点ではあるが、ナビ要素で最もダメだと思ったのがグプタの改悪だ。
グプタが誰だか覚えていない人のために説明すると、バハラタの胡椒屋だ。
彼は、カンダタ一味に攫われた恋人のタニアを救うべく単身で彼らのアジトへと乗り込み、案の定あっさりと彼も捕まって主人公たちに救助される醜態を晒す
だが、そのお礼として主人公に無料で黒胡椒を渡してくれる他、「北に行くとダーマ神殿がある」との情報もくれるので、多少は彼の名誉も回復されていた。

本作では何故か彼が改悪されており、「お礼として黒胡椒を渡したいが、品切れなのでダーマの商人から直接貰ってくれ」とほざき始める。
胡椒屋が胡椒を切らすって何だよ。なんで恩人に余計な頼み事を増やすんだよ。

まあ、やりたかったことは分かる。
制作者はプレイヤーがダーマ神殿に行って全員を魔物使いに転職させることを忘れないよう、ダーマに行かなければゲームが進行しないようにしたかったのだろう。
だが、それにしたって他に方法はあっただろ。グプタをここまでカスにする必要は無えだろうが。
たかがチョイ役のキャラとは言え、雑なナビ追加のためにとんでもない畜生にされたグプタは泣いていい。ドラクエの追加ストーリーはやっぱりこうでなくちゃな!!
しかし、なぜオルテガ周りはあれだけ丁寧だったのにグプタはこんなに酷いんだろうな。オルテガ関連のイベントだけ外注したのか?

広報の姿勢とドラクエの未来

ラスボスってバラモスですよね?

ドラクエには公式から配信ガイドラインが提示されており、本作もラスボス戦後のエンディングイベントは発売後しばらくの間配信禁止となっていた。
ここで恐ろしいのが、このガイドライン中に堂々とゾーマの名前が載っていることだ。この記述のすぐ上には「ネタバレを含む場合は注意書きをしてね」と書かれているが、お前が一番ネタバレしてんだろうが。

なぜ俺がここにツッコミをしているかと言うと、DQ3は「表向きはバラモスがラスボスのように見えて、実はその背後にゾーマがいました」というストーリーの作品だからだ。
バラモスを倒し、これで平和が戻ったと安心して凱旋、エンディング……と思わせて、祝いの席の兵士を皆殺しにして現れたゾーマの声が届く展開は、本作でも特に衝撃的なシーンの一つだった。
DQシリーズのラスボスの中でもゾーマが特にカリスマとして高い人気を誇るのは、この登場シーンの影響も大きいだろう。
そんな作品なのにゾーマの存在をプレイ前からバラしてくるのがどれだけ台無しか、と考えてほしい。

まあ、これも原因の予想は付く。
もしも配信者が本当にバラモスをラスボスだと思い、配信禁止区間のエンディングだと勘違いしてゾーマの登場シーンをカットしてしまったら困ると考えたのだろう。だから「バラモスはラスボスではない」と伝える必要があったのだ。もしくは、何も考えていなかっただけの可能性もある。

例えばこの「大魔王ゾーマのいてつく配信」企画だ。
これからDQ3を初めて遊ぼうとするプレイヤーにとってはとんでもないネタバレだ。なのに発売の一週間後には公式が平然とネタバレしている。
これを見るに、上記ガイドラインのネタバレだって配信者に対する配慮でもなんでもなく、ただ単に公式が「まさか今更ゾーマの存在を知らない人なんていないでしょ」と本気で思っているだけの可能性も大いにある。

あと、堀井雄二もこんな発言をしていた。これも当時は「クリア後に明かされる衝撃の事実」的な情報だったと思うのだが、もう新規プレイヤーに対してプレイ前からバラして問題ない程度の認識らしい。ネタバレやめてください!!

昨今では「ドラクエなんて、もう年寄りしか遊んでいない」との意見を見ることも増えた。プレイ経験の無い人が否定的に言うこともあれば、DQファン自身が自嘲的に言うこともある。俺も言っている。
まあ実際、そうなんだろうと思う。昨今では公式の広報すら往年のプレイヤーと内輪で盛り上がることばかり考えて、新規プレイヤーに対して訴求する気が全く感じられない。

例えばこの漫画だ。
オルテガの最期は本作でも特にシリアスかつ重要なシーン
のはずだが、発売の4日後に公式自らがそれをネタバレしつつ、全力で茶化しに来ている。新規プレイヤーの存在を考えたら間違ってもこんなものは出さないだろう。

あと、この漫画の作者である藤原カムイは本企画でもう一本描いているのだが、そちらも同シーンを茶化した内容だ。
彼は過去にDQ7のコミカライズを担当した際に原作の内容を完全に無視したオリ展開を延々やって打ち切られた前科持ちなのだが、相変わらず全く読者の気持ちを考えようとしていないのはある意味清々しさすら感じる。

それでも本作は売れている。この記事を書いている時点で全世界での売上が200万本を突破しているとのことだが、これを素直に喜んで良いのか分からない。
俺が楽しんできた「ドラクエ」が、こんな小学生が作ったツクールゲー並のバランスのクソゲーとして世に広まってほしくはない
だが、シリーズが生きていれば次に面白い作品が出る可能性もある。だったら本作が全然売れずにシリーズが死ぬよりはマシなのか?
「どんな形であれ生きていてほしい」と、「まだ美しいうちに死んでくれ」の心が2つある。

公式もプレイヤーに対して発売後アンケートを実施しており、少なくともプレイヤーの感想を聞く気はあるようなので(聞いた上で改善するとは言っていない)、まだ悔い改める気を無くしたわけではないと信じたい。
このアンケートもワンタイムパスワードの入力後に「回答のためにアプリをインストールしてください」と言い出すアホ仕様だったが、信じたいんだよ。信じさせてくれ。信じ…られるか?

まあ、本作がしっかりと売り上げたことで次は予算や納期をしっかり確保してまともなゲームを作ってくれることを祈ろう。俺にできることはもう、それしかない。


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