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海外アーティストを日本に呼ぶときにおさえておくべき5つのこと

今までHIPHOPを中心に海外アーティストの招聘や興行に関わって仕事をしたなかで得たものを書いてみました。

全てのシチュエーションに当てはまるわけではないけど、海外アーティストを呼んでコンサートやイベントを主催したい方、店舗運営者、そしてブッキングエージェントとして活動していきたい方に少しでも役に立った!と思ってもらえたらうれしいです。

・アーティスト招聘はボランティアと投資
・契約で気をつけるべき4つのポイント
・LANDEDとは? 飛行機は誰が予約する?
・ライダーとは?  
 ・文化の違いを理解する

アーティスト招聘はボランティアと投資

まず最初に、海外アーティストを一回のイベントで呼んで利益を出すのはめちゃくちゃ大変です。

・自社興行

自社の興行は当然リスクがありますが、特に海外アーティストの場合はそれが想像以上です。

ドタキャンのリスクだけでなく、数ヶ月交渉して実現しないことなんて当たり前。

コストも、見込みどおりには100%ならないと思ってください。

想定外のことが起こりまくる。

それが海外アーティストの招聘です。

・他者に売る場合、ブッキングを請け負う場合

イベント主催者や店舗など他者にまるっと売る場合でも、ブッキングフィーで稼げる金額はそれにかかる時間・労力・ストレスとは基本合いません。

誰でも知っている大物アーティストなら10-15%でも大きな額になりますが、そのレベルになると向こうのエージェントと国内の大手プロモーターで契約するので、入りこむスキはありません。

さらにVISA取得が必須となるので、それにはノウハウが必要です。

他社に代行してもらうにもお金がかかります。

世界にくらべて日本での人気が異常に高い場合をのぞいては、ストレートなビジネスとして利益をあげることには期待しないほうがよいです。

単発で確実に利益が出るのは、予算が潤沢にある企業クライアントからの受託で、実際の招聘コストを大幅に超える予算が提示されている場合くらいです。

その場合も自分なら相場をきちんと伝えます。

ボッタクリ商売して一度儲けても、どこかで相手も気づいて信用を落とすのでオススメしません。

・長期的ならアリ

単発ではなく長期的な視点での投資と捉えるならビジネスとしても全然アリです。

たとえば店舗で呼ぶ場合は、その日が赤字だったとしても新規客獲得コストと考えると成立しやすいです。

また人さえ入ればバーで売上をつくれるのも大きいです。

個人で呼ぶのは金銭的には厳しいですが、アーティストを呼ぶことで普段知り合えない人と繋がれる、自分の実績となる、などのメリットがあります。

もちろんビジネス関係なく単純にこのアーティストが大好きで日本呼びたい!そのためなら時間も労力も惜しまない!って思うなら、やる意義がありますよね。

むしろクラブカルチャーってそういうひとたちのエネルギーの集積で成り立ってる気がします。

結論、アーティスト招聘で短期で稼ぐのはほぼ不可能。長期的な投資、またはカルチャーへのボランティアとしてやるなら全然アリです。

ネガティブなことを最初に書きましたが、それでもチャレンジしたい!という方のためのアドバイスを書いていきます。

契約で気をつけるべき4つのポイント

全て挙げると長くなるので、契約時にアーティスト側と確認しておくべきことを4つに絞ります。

・渡航人数
・VISAの種類
・同エリアでの出演制限
・滞在中の活動

・渡航人数

これはギャラと合わせて一番最初に確認すべき。

いくらギャラ交渉しようとも、1人増えるとその分などすぐふっとんでしまいます。

飛行機や経費については後述しますが、まずは○○人しか無理だとはっきり言いましょう。

・VISAの種類

興行VISAを取るのは簡単ではないので、必ず確認しておきましょう。

・同エリアでの出演制限

たとえば、アーティストと12月に東京で出演する契約を6月に交わしているとします。

ところが、10月に突如SNSでそのアーティストが東京で緊急出演するという告知をみてビックリ。

あわててマネージャーに連絡すると、そのアーティストが急遽韓国に行くことになったので帰りに東京に寄ることにしたのだという。

「せっかくアジアにいくのだから日本にも寄ってライブをやりたい。2ヶ月開いてるからいいじゃないか。」

先にライブをされてしまったら主催者はたまったものじゃないですよね。

じゃあ何ヶ月前ならいいのか。後ならOK? 東京でないならOKなのか。横浜は? 名古屋は? 

これを定めるのが、特に巨大フェスプロモーターが”Radius Clause”(ラディアスクロース) と呼ぶ条項。

出演日のxヶ月前からxヶ月後までは●●の地域では他のイベントに出演しないでね、という一文です。

Radius(ラディアス)は「半径」という意味です。

ただ、これには注意が必要。

ブッキングは結局パワーバランスなので、当たり前のように半径何km以内での出演を出演前6ヶ月、出演後1ヶ月禁止するといった条項を入れてもアーティストサイドに嫌な気にさせてしまう可能性もあります。

そんな細かいこというならこっちももっと要求するぞ、となりかねない……

自分の場合、クラブイベントではRadius Clauseという言葉自体使ったことがありません。

あくまで巨大フェスのプロモーターが使う言葉なのでご注意を。

契約の交渉も結局は人間同士のやり取りなので、こういうセンシティブな話をするときはFacetimeなどビデオチャットで話すのがベストです。

もちろん、そこで同意したことは追ってメールなどで議事録として相手に送ると、言った言わないで揉めるリスクをへらせます。

ちなみに、Radius Clauseはプロモーターからすると当然のように感じますが、特に権利を尊重するアメリカなどでは賛否両論があります。

アーティストがライブをやる権利を尊重すべき、大手プロモーターが独占すると小さな都市でライブをできなくなる、と。

アーティストとしてはいろいろなイベントに出演したいと考えるのは普通のことなので、その立場も理解した上で交渉するとお互いいやな気持にならずに仕事ができます。


・滞在中の活動

これも揉めがちです。

基本的に海外アーティストは、ライブなどやることをやれば滞在中に他に何しようと自由だという感覚があるのが前提となります。

せっかく日本にいるのだからその機会をできるだけ活用したいと思うのは当然ですよね。

ただ、イベントはいろいろな人の協力で成り立ってます。

招聘している方としては、イベントに協賛しているブランドの競合他社と一緒になにかやられると困ったことになります。

赤字は挽回できますが、一度失った信用を取りもどすのはめちゃくちゃ大変……

クライアントがいるなら、前項と同じく事前に確認しておく必要があります。

クラブイベントなどでは、滞在中の活動についての制限を契約書に入れるのは難しい場合も多いので、ビデオチャットなどで状況を説明して理解してもらうのがよいです。

権利意識などは文化の違いもあるので、当然と思わずに相手の文化も理解した上でやり取りするとストレスも少なくなります

ちなみに、このように契約書には載せないけど相手をおもんばかることを”courtesy”(カーテシー)、相互理解していることを”mutual understanding”(ミューチュアル・アンダースタンディング)といいます。

航空券は誰が買うか〜LANDEDとは?

飛行機のチケットをアーティスト側で予約、購入することを業界ではLANDED(ランデッド)といいます。

LAND(着陸)するまでの費用はアーティスト負担、その後の送迎やホテルは招聘側負担ということ。

LANDEDの場合のメリットとデメリットは以下の通り。

・招聘側
    メリット:  飛行機チケットの価格変動に左右されないのでコストの計算がしやすい

   デメリット: 到着時間をコントロールしづらい(スケジュールへのグリップが弱くなる)

・アーティスト側
   メリット: 好きな航空会社を取れる。高くてもよいので直行便がよい、など。

   デメリット: 価格変動に左右される

欧米のアーティストがアジアツアーを行う場合などはLANDEDでやると、アジア各国とのやりとりがシンプルになるのでオススメ。

日本人アーティストが海外でブッキングを取ってくるときも上記を考慮してケースバイケースで変えていくとよいですね。

ライダーとは? 

招聘の際に契約書と一緒にアーティストから送られてくるのがライダー(RIDER)という書類です。

誰が、いつ、どこで、ギャラいくらで何をするか、という基本的なことで同意しましたよ、というのが契約書。

機材、ステージ、ホテル、食事、宣伝方法などについて細かい指定が書かれているのがライダーです。

・テクニカルライダー

パフォーマンスに必要な音響、照明、映像、特殊効果などの機材の指定が細かく書かれた書類。

DJであればミキサーやモニタースピーカーなどDJ機材だけのシンプルなものが多いですが、シンガー、ラッパー、バンドなどは結構細かいのでPAさん、舞台監督さん、会場などと相談しましょう。

これもコストが変わってくるので早めにもらったほうがいいです。

・ホスピタリティライダー

見落としがちだけど意外とコストかかるのがこれ。

たとえばBEYONCEのライダーはこんな感じ。

よほど大物でないかぎりここまで細かいひとはあまりいませんが、それでも注意が必要です。

僕が以前沖縄でLIL JONのコンサートを主催したときはお酒の指定が細かくて、バックステージの酒代で10万以上かかりました……笑 

特に1本数万するテキーラを3本用意したのが大きかったです。

LIL JONから指定されたうちの1本がDon Julio 1942という高級テキーラ。1本3万近くします。


本人と乾杯させてもらいましたが、スムーズかつまろやかなテキーラでした。

美味しいお酒を飲むと一瞬どうでもよくなっちゃうかもしれませんが……

ホスピタリティライダーには注意しましょう。

文化の違いがあることを理解する

細かいテクニックやノウハウはたくさんありますが、一番のポイントはここにある気がします。

僕たち日本人と外国人はちがう価値観をもっています。

自分たちにとっての当たり前は、相手にとっての当たり前ではないです。

真逆だったりもします。

以前、フランスの高校生バスケチームの日本ツアーをコーディネートしたときに、予定がギリギリまで決まらず、当日にいきなり変わりまくるので困ったことがありました。

よくよく話してみると……

実際にやってみないと(行ってみないと)わからないから先に100%決定することはできない。

臨機応変に動きたい、と言っていました。

別にただ面倒で決めたくないのではなく、フレキシブルに動く前提なんだと気づきました。

とはいえ、確実に決定しなくてはいけないことはあるので、それは逆にこっちの文化や仕組みも説明してわかってもらえました。

文化の違いがある前提でやらないとストレスたまりますし、頭ごなしに彼らに言っても、お互いハッピーにはなれません。

これって国の違いだけじゃなくて、音楽ジャンルの違いとかでもいえるかも。

やはりそれぞれカルチャーや仕組みが違うけど、そこもふくめてリスペクトすると、頭にくることもほとんどなくなります。

イベント終わった後、一緒に仕事してよかったね!とお互い思いたいですよね。

+α プロのエージェントを活用する

ここまで読むと、そんな大変なら呼べないよ!って思うかもですが、こういう面倒なことをプロのブッキングエージェントに投げちゃうというのが最良かもしれません。

経験やアーティストマネージメントとの関係値があるので、事故る確率がうんとさがります。

予算をいえば、できない場合はできないと言ってくれます。

僕の場合、Facebookやインスタで海外の知人から「●●が日本行きたがっているから呼べないか」とメッセージが山ほど来ますが、よほどのことがないかぎり即答で丁重にお断りしてます。 

自分の経験だと、アーティスト本人からもふくめ、そういった売込からやり取りして着地できたのは1/20くらいです。

やり取りしていくうちにコツを掴んでいくのでダメな案件がわかるようになり、取捨選択できるようにはなりますが、それでもたくさんの時間がかかりました。

自分はもちろん、相手の時間も無駄にしないために、最初にできないとはっきりいうようにしています。

もしプロのブッキングエージェントとしてやっていきたい!ということであれば、国内、海外の取引先から信用をえて利益が出るまでにかなりの時間と金銭がかかることを覚悟したほうがよいでしょう。

さいごに

というわけで、リスク負っていろんなアーティストを呼んでくれているイベント主催者、店舗。

とんでもない時間と労力かけて来日を実現してくれているエージェント。

みなさんに大感謝!というお話でした。

僕も最近は招聘業務に関わることは少ないですが、本当に好きなアーティスト、応援したいアーティストはごくたまにやります。

いろいろ大変ですが、アーティストがステージに上がってお客さんが大歓声をあげた瞬間の感動は言葉で表現できないくらい最高です。


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