画像生成AIの学習について絵描きにアンケートを取った結果と今後の考察
どうも、よー清水です。
2023年の3月31日にTwitterのアンケート機能を使って、主にイラストレーターや同人作家など絵を描いて金銭を得ている人向けにアンケートを実施してみました。
本記事は、アンケートの結果のまとめとそれを受けての僕の考察となります。
別の記事でも書きましたが、最初に僕の意見を書いておきます。
このような立場ですので、バイアスがかかっているというのはご理解の上、読んでいたけますと嬉しいです!
アンケートの結果まとめ
【質問1】は26945票というかなり多くの人が投票してくれました。
その結果90.6%が「画像生成AIに作品を提供しない」と回答されています。
Twitterのアンケートはランダムサンプリングではない上、アカウントさえあればどんな人でも投票できるため、6:4程度になるかなと想定していましたので、投票数が2万超えの上でこの結果は正直びっくりしました。
繰り返しになりますがTwitterアンケートは誰でも投票できます。そのため、今回のアンケート対象ではない人たちが多数参加している可能性もあります。そうすると26945票のうち、絵を描いていない人が多数投票してこの結果になったとすると、絵を描いてない、作品を鑑賞してくれる人がAI学習を拒否しているのであれば、手描きできるクリエイターはAIツールを使わない方が喜ぶ鑑賞者が多いとも解釈できます。絵描きも客商売なので、お客さんに喜んでもらえるほうがいいんですよね。
この結果を受けて、いろいろな方がそれぞれアンケートに協力してくれました。そのほとんどで明らかに提供しないが多数派という結果になっています。
【質問2】は質問1で「提供しない」と回答した人向けの質問になります。こちらも12918票と多くの方にご協力いただけました。
その結果、最も多数派が「お金が払われても作品を提供しない」となっています。注目すべきは「買い切り」では多くの人が拒否し、「印税」のように使われれば使われるほど継続収入になる支払い形式を求めている事です。
【質問3】は金銭的なメリットがある上でも学習データを拒否する人に対しての質問です。多数派が「現状の画像生成AIの悪い利用法を見て」となりました。AIが嫌いだからという選択は5%と最も低く、技術それ自体に対する印象は悪くないことがわかりました。モラルのない使われ方を気にしている人が非常に多いということですね。
画像生成AIの今後の予想
僕は2023年の1月ごろまで、将来は画像生成AIの技術も使いつつ絵を描くようになるのだろうな、と楽観的に考えていました。
この記事を執筆した2023年4月4日時点では画像生成AIについては未来が見通せない、勝ち筋がわからないというのが正直な感想になっています。
なぜかというと、画像生成AIの学習には膨大なデータが必要、つまりこれまで絵を描いてきたクリエイターの協力が必須なテクノロジーなわけなのですが、AI使用者、AI開発者とクリエイターとの信頼が黎明期にもかかわず壊れ始めているからです。
現状のAIは学習に使う画像を自由に収集し、オプトアウト制というその画像の制作者から申請があれば学習データから除外するという方式を取っています。(この仕組み自体もクリエイターの強い要請を受けてやっとごく一部が対応しはじめたばかりです。)
しかし、GDPRなどの事例を見ても、今後は商用可能なAIはほぼ確実にオプトイン制になると思われます。
Webサイトを訪れた際にCookieの許諾を求めるポップアップが出てくることがありますよね?GDPRはEU一般データ保護規則のことで、個人情報保護を目的とし、Cookie許諾を求める元となった法律です。
4月4日に、GDPR違反の疑いで欧州でChatGPTの規制が入りました。
GDPRのためにテキストAIであるChatGPTが規制されるのなら、Stable Diffusionの元となったデータセットLAIONに含まれる医療記録や個人の写真はどう考えても全てアウトになるとしか思えません。
そもそも、このLAIONという学習データは研究用に開発されたものです。なんでそれを利用してサブスクリプションなど、商業活動を行っているのですかね。
話を戻します。
オプトイン制は、AI学習に事前に同意した人が提供したデータを使った学習のみを行う、という形式です。
ちなみに冒頭で僕が求めている「事前に許諾をとれ」そのままです。
本当に世界に普及しうるサービスは権利の問題がクリーンであることが厳密に求められます。
例えばYouTubeは世界を変えたサービスです。今や子供から大人まで毎日楽しんでいますが、初期は無断転載や映画がそのまま見れるなどかなりアングラなものでした。しかし、サービスの規模が広がり、多くの企業が協賛し、全世界の人がアクセスするようになった現在は著作権にかなり厳しい対応をするようになりました。
世界規模で商売を行うのであれば、各種権利のクリーンさは必須条件なのです。権利問題がクリーンだからこそ、ゲームや音楽、出版などIPという知的財産で商売をしてる企業から投資を受けて規模を拡大できるのです。
これはゲームなどのコンテンツも例外ではなく、最近は世界展開が前提のものがほとんどなため、実際の制作現場では使用する素材、フォントはもちろんあらゆる部分で厳密な権利チェックが求められます。この傾向は年々厳しくなっており、AIが登場したから全てなくなる、ということは考えにくいです。むしろこれまで以上に厳密なチェックを求められるようになるでしょう。
追記2023年6月
イラスト、デザイン制作の契約内容に「画像生成AIを使用しないこと」等の条文が追加されはじめました。また、既存の著作物との類似チェックのためにデザインや作品制作で「参考にした画像」を納品物と一緒に提出してほしいと求められることも増えてきました。
それに伴い、私の仕事用HPの方でもお客様に安心してご依頼いただけるように以下の内容を追記しています。
AI黎明期の致命的なミス
同意した人が提供するオプトイン制、僕は画像生成AIを商用利用するためにはまずこの制度が必須と考えていますが、オプトイン制のビジネスモデルが成り立つか、今回行ったアンケートでかなり不安になりました。
クリエイターがAI使用者や開発者にもつ信頼が損なわれてきているのが見えてきたからです。
画像生成AIが世に認知される前に、最初から、あなたの作品を使わせてくださいと依頼する形をとっていたらAI開発側と絵描きの信頼を築けていたかもしれません。
しかし、AI開発側はコストや手間を惜しんで法的にセーフということで「許可なし」に作品を使うことを選んでしまいました。一度失った信頼を取り戻すというのは非常に大変なことです。
今後商用向けのオプトイン制のサービスが生まれたとしても、データ収集に困難を伴う可能性が非常に高いと言わざるを得ません。
少なくとも、2023年現在の画像生成AIが出力できるイラストと、同レベルの作品を手で描ける人はデータ提供を拒否するとしか思えないです。
なぜなら、AIに作品を提供すれば、大量生産ゆえに絵柄自体が陳腐化してしまうという事態や学習モデル流出などのリスクが周知されてしまったからです。
また、対価を払ってデータを収集した場合もビジネスとしてなりたつのか?という問題があります。
実際にどれくらいの収入になれば、データを提供することを許諾するかですが、印税のように一年ごとに支払われれる形式として、現状の画像生成AIで同じレベルの作品を手描きできる専業のトップ層であれば最低ラインとして年収分は求めると思います。高品質なものを生み出せる人ほど、より高い対価を求めるのは自明の理です。
しかし、そうなると画像生成AIは非常に高額のソフト、もしくはトップ層のクオリティには及ばない、現状より劣化したものになることが予想されます。
画像生成AIってビジネスとして成り立つの?
さて、画像生成AIの実際のお客がどんなものになるか、なんですが、大口はゲーム、映像、広告などのクリエティブ企業を想定しているはずです。
ただ、僕は本、映像、アニメ、ゲーム、広告など絵が関わるほぼ全ての分野で仕事をした経験がありますが、クライアントが画像生成AIを「コストが安いから」使うというのが想像できません。
なぜなら、非常に悲しいことではありますが絵というのはごく一部以外は「人力で安い」からです。大体は数万円〜高くても数十万ほど。このイラストの単価は企業が社員に支払う人件費に比べれば比較にならないほど安いのです。だから、イラストレーターを雇用して正社員として働かせるより、フリーランスに外注するのが主流なのです。
もし、本当にゲームなどの制作費のコストカットをするなら、ChatGPTなどのテキストAIによって効率化されたエンジニアの人件費が先になるはずです。あまりにも金額が違いすぎますからね。
また、AIは生産性が高いと言う点について、その生産性をどう活かすのか?が見落とされがちなポイントです。例えばAIの力を使って、これまで1ヶ月に1枚描いてきたイラストを1ヶ月に100枚描けるようになったとして、だれがそれを買ってくれるんでしょう。
イラストという分野に限って見れば、大量生産の価値はそれほど高くはないというのは現状の投稿プラットフォームを見れば理解できるでしょう。大量生産されても、消費者が追いつかなくなって、飽きられてしまうのです。
絵は工業製品などとは違い、生産性=利益と言い切れない分野です。過剰に供給されたものの価値は簡単に下がります。
個人特化のAIモデルが、イラスト版の初音ミクのようなビジネスになると考えている人もいますが、僕は懐疑的です。なぜなら「歌姫の声」は飽きられることがないのですが「絵柄」は大量供給されるとすぐ飽きられることが2023年の時点でわかったからです。たぶん、声は明確な形のないもので、しかも「歌」という様々な作曲者の個性を伝えるための媒体だから飽きられることがないのでしょう。「絵柄」は目で瞬間的に形を捉え、それ自体が作者の個性の塊なため、飽和するとすぐ飽きられてしまうだと思います。
イラストAIの莫大な生産性を活かすのは、映像やゲーム、漫画分野であると考えています。ただ、難しいのが2Dの絵って基本的に「映像・ゲーム・漫画以外」で膨大な物量を求められることってあんまりないのですよ。
一般社会にイラストの露出が増えたので勘違いしてる人が多いのですが、世の中で当たり前に見える作品はごくごく一部の人が制作するので間に合っているのです。その数少ない仕事を取り合ってるのが現状です。イラストという分野は人手不足ではありません。明らかに人手が余ってるんですよ。みんながやりたがる人気のある仕事だからです。そのためAIで絵の生産性が高まっても、それを活かせる市場ができるかというのがかなり怪しいと考えています。
この話を、「印刷」というテクノロジーと同じ話と考えている人もいますが、印刷が世界を大きく変えたのは知識が高価で希少な時代に「知識を安く大量生産」できることが画期的なブルーオーシャンだったからです。
しかし、イラストはAI登場以前にSNSを中心に人間の手描きによって大量生産、大量消費され、簡単に複製もできる上で人件費に比べれば圧倒的に安い、飽和したレッドオーシャンだったんですよ。この違いはかなり大きいです。技術だけを見るのではなく、その技術が普及したバックグラウンドもよく考えてみましょう。
ちなみに一般社会のあらゆる広告などを見ればわかりますが、イラストより写真の方が圧倒的に需要があります。
しかし、リアルな画像を出せるフォトリアル分野は情報社会の「情報に対する信頼」をぶっ壊す技術にもなりえるので、便利だろうと経済的メリットがあろうと、どう控えめに見ても規制されるとしか思えません。情報の信頼性がなくなるということは、国家が揺らいでしまうということなんですよ。
これは実際に画像生成AIを使ったフェイク画像です。文字を入力するだけで、これだけ精細な画像を出せてしまうのです。
2024年にはアメリカ大統領選挙が控えてますが、フォトリアル画像生成AIを使ってどんなことがおきるか、それを受けて国家がどう対応するか、昨今のモラルが崩壊したネットを見ていると心配でなりません。
新技術と商業的な価値は別
新しい技術=商業的な価値ではありません。技術にだけに盲目に価値を求めるのは日本人?の悪い癖だと思います。それは、先進性のある機能や技術を導入しただけのガラケーがスマホに駆逐されてしまったようなものです。
技術を商業的な価値に変換するためには必ず別の何かが必要です。今はAIというワードがバズワードかつ投資を集めるためのキーワードになってるので、クリエイティブでも様々な領域で試験導入されることになると思います。AIを使っていることが株価を引き上げたり、広告や先進的なイメージになるからです。
しかし、本当に普及して、誰もが当たり前に考えるようになった時、ビジネスとして健全に回るかはわかりません。最近だとメタバースや、Web3、仮想通貨、NFTなど、ものすごく期待されて投資されたけど、熱狂が冷めたら誰も話さなくなる。振り返ればそうなった技術は山ほどあります。
画像生成AIが活躍しそうな分野
画像生成AIが実際に活躍できそうなのは莫大な生産性を活かせる場所です。
そのため、アニメーションや映像、ゲームなどの物量が必要な分野に導入される可能性はあるかなと思っています。
現在にもポストエフェクトという技術があります。これはレンダリングが終わった後に画面全体に特殊効果をかける技術で、絵描き的に言うと調整レイヤーのようなものです。 このポストエフェクトのようにAIをフィルターのように使うことで、映像やゲーム体験をよりリッチにできる可能性があるとは思います。また、アニメの場合は、中割りをAIに任せるようになるかもしれません。
漫画であればアシスタントのようにAIを使うようになる可能性があります。生産性とスピードのおかげで週刊連載などで締切に追われる漫画家さんは助かるかもしれません。
もちろん、これらの活用は画像生成AIの著作権付与などの問題が解決した後です。特にゲーム業界は使用した素材、アセットをめぐる訴訟などのトラブルもあり、権利問題にはガチガチに厳しくなってるので、AIについて世界的なコンセンサスが取れない限りまともな会社では導入は難しいでしょう。
また、生成AIの登場で「著作権」という権利の扱いが世界的に注目されるようになりました。そのため、これまでは比較的権利チェックが緩かった業界でもチェック体制が見直される可能性が高いでしょう。あらゆるコンテンツの制作現場でよりいっそう厳しい権利チェックが行われるようになると予想してます。
本当にやばい問題は
今の画像生成AIが出力するレベルの高クオリティな作品を「手描きできる人たち」は膨大な時間と労力を作品に投入しています。このクラスになると、作品とアイデンティティが一体となっている人が多いです。
また、この問題では都合よく忘れられがちですが、制作するためには画材代、機材代、プロは結構な割合で美大などで学んだ経験がある人がいるため学費などもかかっています。
これらの時間と労力と費用を無償で提供したいという人は、アンケートの結果から分かるようにほとんどいません。
「時間と労力と費用と己のアイデンティティがかかっている知的財産を簡単には提供できない」
というごく当たり前の感情をAIを開発したり、推進してる人たち(の声の大きいごく一部)が理解できてない、というのが僕が1番やばいと思ってることです。
本当に理解できてないのか、理解した上で無視してるのか、もしくはルサンチマン的な悪意でゴリ押ししようとしているのかわかりません。
AIという、人の代替となりうるテクノロジーが出てきた時代に、他者が物事をどう捉え、どう考えるか、どんな感想を持つか、気持ちがわからない人が推進してるというのは社会に大きな分断を招くとしか思えません。
よく揶揄されるラッダイト運動が起きた19世紀は、資本家であれば子供を炭鉱で使い潰せるような、個人の人権を完全無視できる時代でした。
しかし今は21世紀です。先進国では個人の権利、人権がなにより尊重される時代です。絵描きだけなく、生成AIはありとあらゆる分野の人間や企業と対立することになるでしょう。
そうなった時に効率的だから、経済的だから、合法だからで全てが押し通せるとはとても思えません。200年前の倫理観なら別ですけどね。先端技術を扱うなら、せめて倫理観も現代レベルまで引き上げてほしいものです。
今後AIは医療や創薬などさまざまな領域で活用されるようになると思います。
ただ「人間の気持ちが理解できない」人たちが作った人の代替となりえるAIがどのように活用されるか、それを受けて社会がどのように動いていくかは予測ができません。
最悪、テクノロジーの開発側と、一般人が敵視し合う時代になるかもしれません。それがかなり怖いです。
ここまでが、僕がアンケートを受けて書いていた内容です。この辺りを書いていたときに、バイデン米大統領のニュースが飛び込んできました。
米大統領がAI規制を明言
このように発表しています。
アメリカ大統領が「企業の個人データ収集に厳しい制限を課す」と言い切ってます。
メインは個人情報の収集についての懸念、本記事で紹介したGDPRの懸念そのままなのです。そうなったとき、医療記録や個人の写真などが含まれているLAION学習データ、それを元にした画像生成AIが規制されないわけがありません。(ちなみにアメリカのアーティストがLAIONの個人情報について政府に通報しまくってました)
また、「人々の権利」という言葉には、知的財産、著作権なども確実に含まれているはずです。これらのことから、画像生成AIやそれに伴うデータ収集について強力な規制が入ることは間違いないと確信しました。
日本はこれらの規制の動きに数年遅れると思いますが、生成AIの本拠地がアメリカにあり、IPなどのグローバル展開では日本の企業も絶対に無視できないため、各種問題は鎮静化するでしょう。
僕個人としては、オプトイン制によるデータ収集の健全化と学習データの健全化が達成されればOKという立場ですので、画像生成AIの問題は一旦終了したと考えています。
ただ、日本の法で規制が入る数年の間に、各種プラットフォームや創作コミュニティでこれからも多数の問題が発生し、規制前に画像生成AIに対する人々の感情が最悪になっている可能性もあります。
また、今回の騒動で「著作権をなんとも思ってない企業や個人」「技術にしか興味のない人」「クリエイターに支えられてきたはずのプラットフォーム」等への信頼の毀損は、取り戻せるものではないでしょう。みんなしっかり見ていましたよ。
当初は健全化された画像生成AIは積極的に使おうと考えていましたが、イラストレーターは人気商売であり、コンセプトアーティストは大手ゲームなどIPの機密に深く関わる仕事ですので、しばらく制作フローに導入するのは無理だろうなと考えています。
頑張って手で描きますので、これからも応援、よろしくお願いします。
追記2023年6月
イラスト、デザイン制作の契約内容に「画像生成AIを使用しないこと」等の条文が追加されはじめました。また、既存の著作物との類似チェックのためにデザインや作品制作で「参考にした画像」を納品物と一緒に提出してほしいと求められることも増えてきました。
それに伴い、私の仕事用HPの方でもお客様に安心してご依頼いただけるように以下の内容を追記しています。
【宣伝】
こんな本を書いてますので、もしよかったらポチってみてください!