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“空港の最寄り駅”なのに「滑走路の逆側にあって使われない」秘境駅。空港から歩いて行ってみた

―[シリーズ・駅]―
 日本国内にある空港は97か所。そのうち鉄道が乗り入れているのはわずか12か所しかない。ただし、鉄道が走っていない離島を除けば、空港最寄り駅は存在する。  とはいえ、そのほとんどは距離的に離れており、駅によってはバスが接続しているが、徒歩で空港と行き来する者はまずいない。だが、地図で調べてみると最寄り駅まで数キロ圏内という空港もある。  それでも空港へのアクセスとしてまったく機能しておらず、なかには秘境駅と化しているケースも。そのひとつが鹿児島空港の最寄り駅であるJR肥薩線の中福良駅(鹿児島県霧島市)。
鹿児島空港

鹿児島空港

 筆者は昨春、仕事で鹿児島を訪問。通常マイカーやレンタカー以外では、鹿児島中央駅などと結ぶバスの利用が一般的だが、せっかくなので空港からこの最寄り駅まで歩いて向かうことにした。

滑走路の隣に茶畑が広がる鹿児島空港

茶畑が広がる

空港近くは茶畑が広がる

 ちなみに空港から駅までの直線距離は2㎞弱。しかし、駅は滑走路を挟んだ反対側の地域にあり、地図アプリだと最短ルートでも3.6㎞、所要時間44分と表示されている。この程度なら歩けない距離ではない。  でも、空港ターミナルの出入口の横に天然温泉の足湯を発見。無料だったので早速足を入れてみたが気持ちいい。これから歩いて駅に向かうのが嫌になってしまったが、なんとか心を奮い立たせて出発。まずはターミナル前のロータリーから脇道に入り、滑走路のフェンスに沿ってしばらく歩く。
空港地下道

空港地下道

 突き当りの通り右折した先には『空港地下道』があり、滑走路の下を潜って反対側に向かう。中は等間隔で小さな照明が付いていたが、日中なのに車も人もまったく通らないのでちょっと怖い。  地下道を抜け、緩やかな坂を上った先には、あたり一面に茶畑が広がっている。意外に思われるかもしれないが、鹿児島県のお茶の栽培面積と生産量は、いずれも静岡県に次ぐ全国2位。  大昔の噴火によって形成された火山灰を含んだシラス台地がお茶の栽培に適していると聞いたことはあるが、空港のすぐ横に茶畑がある空港は全国でもここだけ。なんだか不思議な光景だ。

街灯すらない細い山道で、空港最寄り駅へ向かう結ぶ道とは思えない

完全に山道

山道。ここからさらに山深くなっていく

 ところが、この景色にもすぐ別れを告げることになる。鹿児島空港と山と山に挟まれた谷底に位置する中福良駅の標高差は約130m。実は、ここから駅に向かう道は、一応舗装されているものの完全な山道。駅や空港を示す案内板もなければ、街灯もまったくない。  以前、空港最寄りの秘境駅として一部の鉄道ファンの間で有名な北海道の西女満別駅から女満別空港まで歩いたことがあったが、秘境度はこちらのほうが上。  まだ晴れているから木々の間から日差しが入ってくるが、人気のない山道を1人で歩くには勇気が要る。恥ずかしながら人一倍臆病な筆者は、時折聞こえてくる鳥の鳴き声にも思わず身体をビクッとさせてしまう。  おまけにまだ春先で虫が少なかったのはよかったが、山はスギだらけ。花粉が大量に飛んでいるのか、山を下りながら何度もくしゃみは出るし、目もちょっと痒い。
途中で見かけた湧き水スポット

途中で見かけた湧き水スポット

 山道は途中、湧水スポットが1か所あった以外は似たような景色が延々と続く。ただし、山道に入ってからはずっと下り坂のため、疲労感はそれほどない。逆に中福良駅から歩いて鹿児島空港に向かう場合は、最初の約1㎞はひたすら上りになるのでキツそうだ。
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空港最寄り駅とは思えない、絵に描いたような山間の秘境駅
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フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

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