仕事

“障害者は税金を払わない”に反発した女性経営者の野望「給料を支払うためにアルバイトも」

 埼玉県越谷市に就労継続支援B型事業所を構えるココロスキップ。就労継続支援B型事業所とは、主に障害や年齢、体力面において、一般就労が困難な人が就労する施設のことである。同じく障害や病気を抱えた人が通所する就労継続支援A型と異なり、雇用契約に基づく就労が難しい人たちが通所する施設となる。  ココロスキップの取り組みとして有名なものに、“点字名刺”がある。社会人が使用する名刺に点字を刻印するサービスだ。刻印は、ココロスキップに通所する視覚障害者による手作業だという。
大政マミ氏

大政マミ氏

鍼灸、あん摩はポピュラーだが…

 施設長の大政マミ氏がココロスキップを立ち上げたのは2007年、20代半ばでの起業だった。最初の2週間はまったく注文が来ず、落胆したと話す。 「起業から2週間くらいはまったく仕事がなくて、『ダメだったか』と思いました。その後、大手から受注があり、会社が動き出しました。それ以前も点字名刺はありましたが、個人でやっているものがほとんどでした。私は、点字名刺の作製を視覚障害者などのハンデをもつ方々に担ってもらうことによって、障害者雇用の裾野を広げたいという思いがありました」  抱える障害によっては、雇用の幅がどうしても狭くなる。ココロスキップ創設にあたって、大政氏はその現実を直視した。 「視覚障害者を支援するNPO法人などで歩行訓練のボランティアなどをさせていただきました。そこで、私は視覚障害者が生活において大変なことは漠然と理解していましたが、細部まで具体的に想像が及んでいなかったことを思い知りました。たとえば食事の際なども、どこになにがあるのか、すべてきちんと伝えないといけません。また、出社をするだけでも危険が伴い、さまざまな配慮が必要になってきます。しかも視覚障害者が就く職業としては鍼灸、あん摩などがポピュラーですが、誰でも就労できる職種ではありません。もっと社会で働いてもらうために、何か自分にできることはないかと思い、点字名刺を思いついたのです」

点字名刺で「大きな商談」がまとまったことも

 さらに大政氏にはこんな動機もあった。 「過去に叔父が交通事故に遭ってしまい、障害を負ったことから、働ける選択肢が極端に狭まってしまったのを見たことも無関係ではないかもしれません。当時から、障害を持った人がいきいきと働ける社会になれば良いと思っていました」  ビジネスの場で点字名刺を用いることは、意外な効果があるのだという。 「実際に点字名刺をご利用いただいているお客様の話なのですが、ある大きな商談の場で、クライアントから『最終的に御社と取引をすることに決めたのは、視覚障害を持つ人にも配慮できる会社なのだという信頼からです』と伝えられたそうです。点字名刺ひとつでここまで大きなビジネスチャンスを掴めることは珍しいとしても、会話の糸口になることは確実ですし、障害者を間接的に支援しているという姿勢を名刺ひとつで伝えることができます」
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「障害者を納税者に」根強く残る差別を払拭したい
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ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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