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「年収200万円」と普通に言える世の中へ。“弱者男性問題”を風化させないために必要なこと

 経済面や健康上の問題を抱えるなどして、社会の網からこぼれ落ちた人々を指す「弱者男性」という言葉。年収、病気、親の宗教……生きづらさを抱えた男性たちに取材を続けてきた本連載も最終回を迎える。彼らが“自分は存在していい”と自己受容できるようになるには、どんな支援やサービスを利用すればいいだろう。
弱者男性パンデミック

写真はイメージです。

弱者男性問題に社会が気づき始めた

 この数か月で、弱者男性を取り巻く環境は変わりつつある。弱者男性を支援するNPO法人「日本弱者男性センター」のイベントが実施され、弱者男性にまつわる問題が議論された。『SPA!』のようなザ・男性週刊誌が、弱者男性をちゃかしたりせずに取り扱っていることも、変化の一歩だろう。  これまで、弱者男性問題は「ネットの雑音」的な扱いを受けており、真面目な議題として扱われる機会すらほとんどなかったのだから。「弱者男性って、要は負け組男性の言い訳でしょ(笑)」と一蹴された時代もあったなかで、真面目な社会問題として着目された事実こそが、センセーショナルである。  最近取材した、ある弱者男性はこう語ってくれた。 「前は、年収200万円って言いづらかったんです。そんなことがバレたら、友達からも距離を置かれて、ネットではバカにされて終わると思っていました。けど、その空気が少し変わったんです。新卒で入った会社で一日12時間働いて、ぶっ倒れてうつになって、今は就労継続支援のB型事業所で単純作業をするだけ。前なら確実にコケにされたでしょうけど、今は『大変だったのに、がんばってるんですね』って、言ってもらえることが増えました。もちろん、Xでバカにしてくる人もいるんですけど、そういうアカウントを通報しようって人も出てきてくれて」

課題は弱者男性を受け入れるムード作り

 さらに、男性はこう続けた。 「実際に支援が増えたり、団体ができたりしたのも嬉しいですが、それ以上に“自分は存在していいんだ”って思える対応をしてもらえるのが、一番嬉しいですね」  傷つき、弱った自分でも、ありのままを受容されている感覚は自尊心に直結する。それが長らく、貧困や暴力の被害、障害に悩む弱者男性へは与えられてこなかった。今は、変革の第一歩なのだろう。  ただ、「受容されている空気」の醸成は、曖昧だからこそ簡単ではない。これからの私たちは、どんな支援をすればいいだろう。変に仮説をこねくり回すよりも、目の前の男性に聞いてみることにした。 「まずは何よりも、支援が欲しいです。経済的なものはもちろん、たとえばレイプの被害に遭った男性向けに、ホットラインがあるとか。DV被害に遭った男性向けにも、避難所(シェルター)が用意されているとかですね。支援が大量にあるとか、金額が大きい少ないよりも、まずは支援の存在を行政にアピールしてもらえるだけで、自分は大切にされていると感じる方が多いんじゃないでしょうか」
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弱者男性と行政サービスをつなげる支援者が必要
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ライター、経営者。主にキャリアや恋愛について執筆。5000人以上の悩み相談を聞き、弱者男性に関しても記事を寄稿。著書に『弱者男性1500万人時代』(扶桑社新書)『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)。X:@10anj10

弱者男性1500万人時代 (扶桑社新書)『弱者男性1500万人時代』 (扶桑社新書)

データで読み解く“弱者男性国家”ニッポンの現在


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