ライフ

Zoom会議にも「謎ルール」。日本社会が息苦しいのはなぜ?/鴻上尚史

謎ルールが多いほど、世間や空気の縛りが強い

 自分がどれぐらいの強い「世間」や「空気」の中で生きているのかを知るひとつの方法は、自分の所属する世界に、どれぐらい「謎ルール」があるのか、です。  9月17日の朝日新聞に、「オンライン会議にも『上座』と『下座』があるのか」というタイトルの記事がありました。  Zoomは会議参加者を一覧表示できる「ギャラリービュー」に、参加者の画像を並べる順番を自由に決められる機能をつけました。  これが、日本では、「上座・下座を設定する機能」と受け取られた、というのです。  Zoom運営会社の日本法人によると、これはまったくの誤解、だそうですが、記事によると、「マナーコンサルタントで、オンライン会議についての著書がある西出ひろ子さん(53)も(中略)4月ごろから、『上座・下座があるのか』と顧客企業などから尋ねられるようになった」というのです。  さらに「部下は先に会議に入り、上司が参加したらいったん退出して、上司の下に表示されるように入り直す」という「謎のルール」がネットで広まったと記事は紹介しています。  続けて「オンライン会議は、『会議退出は上司が先に』『無表情はだめ』『化粧は2割増しで』などと、細かな『マナー』が論じられている」と続きます。  これ、まさに「謎ルール」です。  あなたの職場が、この「謎ルール」にたくさん従っているとすると、あなたの「世間」はとても強いのです。かなり息苦しいはずです。  「世間」の5つのルールのひとつは「神秘性」というもので、(日本世間学会のリーダー、佐藤直樹さんは、『呪術性』としています)、「謎ルール」はまさに、「神秘性」であり「呪術性」なのです。  「謎ルール」が多い職場や組織であればあるほど、「世間」または「空気」が強いのです。  学校やお役所、銀行、大企業などに「謎ルール」が多いのは、それだけ「社会」ではなく「世間」が残っている証拠なのです。生きづらい世界だと思います。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

『週刊SPA!』(扶桑社)好評連載コラムの待望の単行本化 第19弾!2018年1月2・9日合併号〜2020年5月26日号まで、全96本。
1
2
【関連キーワードから記事を探す】