見知らぬ男に中指を立てられた「文京区白山」の夜――清野とおる×パリッコ
【本記事は雑誌『酒場人 vol.1』(オークラ出版、2015)より転載。お店の情報は当時のものです】
清野とおる。東京の北の端「赤羽」という街で繰り広げられる、小説より奇怪なエピソードの数々を描いたノンフィクション漫画「東京都北区赤羽」シリーズが大ヒットし、今や押しも押されぬ大人気漫画家である。
清野氏といえばまた、日本屈指の街歩き、飲み歩きの達人。今回の「酒場人」創刊にあたり、是非赤羽のディープな飲み屋を案内してもらいたい! そんな想いからオファーを試みた我々であったが——。
――……というわけで、お願いできないでしょうか?
清野とおる(清野):……また「赤羽」ですか……?
――えっ!?
清野:また「赤羽」なのですかと聞いているのですが……?
――あの……まずいですか?
清野:「酒場人」だか「インド人」だか「ウズベキスタン人」だかなんだか知りませんけど、来る日も来る日も毎日毎日赤羽赤羽で、こちとらもう、街中で赤い服を着ている人物を見るだけでドギマギして身体中の至るところから汗やらなんやらが出てくる始末なんですよ!
――大変失礼しました!
清野:なんか他にないんですか!? ほら、青とか、黄とか、そういう「赤」以外の街は。
――あ、それじゃあえっと……ここなんかどうでしょう!?「白山」。ほら、「白」ですよ。何ものにも染まってない感じが良いんじゃないですか?
清野:……。
――……。
清野:いいじゃないですか(ニッコリ)
そんなやりとりがあったかどうか定かではないが、2015年11月某日、我々取材班と清野氏は、東京都文京区にある「白山」駅にいた。事前に少し調べてみたところ、「東洋大学をはじめとした各種学校が多く存在する学生街」であるらしい。そうなのか。
我々も清野氏も全く馴染みのないこの街での飲み歩きは、そんなぼんやりとした予備知識のみでスタートした。さて、今日は一体どんな酒場と人に出会えるのだろうか——。
「へー、ここが「白山」ですかー」あまり興味がなさそうな清野氏。地上へ出ると、旧白山通りともうひとつ何かの通りが交わった、大きな十字路が見える。派手な繁華街という感じではないが、児童公園の奥に串揚げ屋が見えたりして、何か良さそうな予感のする街だ。
歩き始めてすぐ、道行く真っ赤な服を着た人物に、勢いよく近寄ってゆく清野氏。まずい。今日、先生と「赤」は。赤い人の身の安全を確保するためにも、清野氏を制止しなくては。早足になる清野氏を追いかけてゆくと……。
どうやら、赤羽の行きつけの飲み屋でよく会う飲み仲間であった模様。知らない街へやってきてすぐに、こんなキャラクターの濃そうな人と偶然会うなんて、さすがの吸引力だ。
清野:Kさん、こんなところで何してるんですか?
Kさん:清野さんこそ何してるの? 俺は、これから飲み会で。
清野:僕らは今、取材中なんですよ。
Kさん:え、ヌキ系ですか?
こちらは清野氏、本誌監修パリッコ、編集者山口女史という3人編成。そんなわけがない。
清野:(笑)。飲み屋を探してて。このあたり詳しいですか?
Kさん:うん、少しね。
赤い服を着ている人を見るだけでドギマギする
東洋大学などがある学生街・白山に到着
1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):@paricco
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