制服自衛官は飲食店にも入りにくい。ひっそり缶詰で昼食休憩する現実
「自衛隊ができない40のこと 37」
皆さんは仕事にどれくらい集中できますか? たとえば、高速道路の運転にはかなりの集中力が必要です。だから、2時間以上の運転をする時にはSAやPAなどで休息をとるべきとされています。深夜バスなどの旅客自動車運送事業では、連続2時間以上の運転で20分以上の休憩時間をとらなければなりません。人間が集中して働き続けることができる時間は限られていますから、休憩をとらなければミスが多発し、体にも負担が大きいのです。
労働基準法第34条でも「8時間を超える労働には、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない」と定められています。自衛隊を含む公務員も人間ですから、昼食や休憩をとらなければ仕事なんてできません。当たり前のことですよね。でも、災害派遣で自衛官は人に見えないところでひっそりと缶飯を食べ休息をとります。制服公務員はなぜか正当な休憩時間でもおおっぴらに休憩をとっている姿を「見られたくない」のです。
2017年、愛知県一宮市の消防団の団員が、昼食をとるために消防ポンプ車でうどん店に立ち寄ったことが市民からのクレームとなり、口頭注意の処分となった事例があります。そのタイミングで食事をとらなければ次の予定に間に合わなかったためだそうです。消防車を私的に食事のために使ったのではないかという疑念での通報だったようですが、この問題は賛否両論で紛糾しました。どちらが正しいかという議論は本題ではないので置いておくとしても、制服の公務員は食事休憩も許されないイメージがあります。
自衛隊の場合も、災害派遣などで疲れて果てて休憩時間にうとうとしている様子を写真に撮られると、不適切だ、さぼっていると言われることがあります。だから、酷暑の中でも食事や休憩はできるだけ人目につかないトラックの荷台等でとるのです。
公務員は税金で働いているのだから職務に専念しなさい、という論法はよく聞く「正論」です。職務に専念することは、会社員でもアルバイトでもごくごく当たり前のことに思われますが、実は「この職務に専念しなければならない」という部分において、自衛隊を含む公務員は特別なのです。
ここで法律の話をします。
国家公務員法第96条及び地方公務員法第30条では、公務員の服務の原則として「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当っては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と法律で決められています。もちろんこれは「そりゃ、そうだ」と思います。
でも、国家公務員法はさらに突っ込んでいるのです。地方公務員もほぼ同様です。
◆国家公務員法第101条第1項
「職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない」
◆自衛隊法第60条
「隊員は、法令に別段の定がある場合を除き、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用いなければならない」
自衛隊や公務員に求められている集中力は、一般の企業のそれとは格が違うようです。勤務時間の全ての注意力を職務遂行のために注がないといけないとなると、極端な話「彼女に最近電話してないな~」とか、「今日は暑いなぁ~」なんてフッとでも考えちゃいけないってことですよね。想像するだけでもかなり窮屈な話です。
自衛隊員が有事に徹底的に注意力をその任務遂行に費やさないとやっていけない職種なのは間違いないですが、通常でもこんな法律に縛られているのです。
そもそも、人間の集中力が8時間勤務の間ずっと続くとは思えません。小中高の授業時間がだいたい45~60分あたりで区切られていることをみても、無理難題です。しかし、「かくあるべき」の理想論であったとしても、勤務時間の職務専念遂行義務は法律で明記されています。だから、自衛隊を含めた公務員が昼食や休憩を人前でとると、それが正当なものであっても、職務に専念していないと批判されたり通報されたりします。これは、経済的にもあまりいいことではないはずです。基地に近い自衛隊に好意的な町でも、制服の自衛官が飲食店で食事をとっている姿を見ることはかなり稀です。制服で飲食をすると誰に見とがめられるかわからず、寛いで食事もできないのです。経済縮小効果、消費縮小効果の高い話なのでとても残念です。
制服公務員は昼食休憩にも一苦労?
公務員の職務専念義務とは?
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おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
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