事故のリスクはかえって下がる? 高速道路の最高速度が試験的に時速110kmへ引き上げ
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
9月28日、警察庁は、新東名高速道路の新静岡IC-森掛川IC間の上下線約50kmについて、11月1日から試験的に最高速度を時速110kmへ引き上げると発表した。加えて年度内にも、東北道の花巻南IC-盛岡南IC間(30km)も同様とする方針だ。1963年の名神高速道路一部開通から半世紀を経て、最高速度の引き上げが初めて実現されることになる。
日本の高速道路の「最高速度時速100km」は、海外に比べると明らかに低かった。先進諸国を見ると、アメリカは州によって違うが65マイル(時速105km)が中心。オーストラリアは時速110km、イギリスは70マイル(時速112km)、フランス・イタリア等は時速130km。ドイツ・アウトバーンは約6割が速度無制限、4割は場所に応じて制限速度がある(時速130kmが中心)。
韓国と中国も、最高速度は時速120kmだ。どちらも当初は時速100kmだったが、数年前に引き上げられている。中韓よりはるかに先にモータリゼーションが進み、高速道路の建設も早かった日本が、いつのまにか抜かれてしまっていた。
警察庁は、今回の試行を最低1年間続け、実際の走行スピードの変化や交通事故の発生状況についてデータを収集。その検証結果を踏まえ、時速120kmへの引き上げや、全国の高規格の高速道での引き上げについて検討する、としている。
最高速度の引き上げについて、リスクの増大を懸念する声もある。しかし私は、ほぼ何の変化もないと予測する。
今回制限速度が時速110kmに引き上げられる新東名は、もともと設計速度が時速120km、時速140kmまでの安全性を担保した日本のアウトバーンではあるが、最高速度引き上げ後も実際の平均走行速度は、ほんの2~3km上がる程度ではないか? なぜなら多くの日本人は、すでにスピードへの情熱を失っており、高速道路を飛ばしたいと思っている者自体がごく一部だからだ。
しかも日本のスピード取締りは、海外に比べると大甘である。欧米諸国は、制限速度の5%超過までが許容範囲。制限速度が時速130kmなら時速137kmで取り締まられる。まったく血も涙もない。しかし日本では、速度自動取締装置(通称オービス)は時速40km以上でないと作動しないし、パトカー(覆面含む)による追尾でも、地域や路線によって違うが、時速20kmオーバー未満で捕まることはまずない。
つまり、ドライバーが制限速度時速110kmの標識を見て、「よし、スピードを上げよう!」と思ったとしても、すでにそれを超えた速度で走行しており、「あと時速10km増そう!」とまで思う者は少ないと予測されるのだ。
たとえば時速30kmオーバーまでは大丈夫と考えて、時速130kmで走ってきたドライバーも、「ここは時速110km制限だから、時速140kmまではOK」と考えるかというとそうでもなく、逆に「ワナでは?」と、警戒心を高めることも考えられる。実際のところ警察庁は、オービスの増設やパトロール強化を進め、違反に目を光らせるという。
おそらく事故も増えないだろう。高速道路での事故は、その多くが脇見などのうっかり系だからだ。制限速度が若干上がることでドライバーの緊張感が増し、事故が減る可能性もゼロではない。
たとえば首都高では、誰もが怖がる魔の合流地点(例・C1神田橋JCT内回り)では思ったよりも事故が少なく、緊張感が薄れた結果の追突事故が約5割を占めている。東名など都市間高速道路でも同じ傾向だ。速度無制限区間が半分以上を占めるドイツ・アウトバーンでの死亡事故発生率は、日本の高速道路とほぼ同じ。速度が上がればリスクが増すという単純なものではない。最高速度の引き上げが、逆に高速道路の安全性を高める結果になることを祈りたい。

―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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