子供たちを容赦なく襲う、中国大気汚染の悲劇
中国各地で深刻化する大気汚染だが、なかでも懸念されているのが抵抗力の弱い子供への健康被害だ。
北京市在住のメーカー勤務・内田義隆さん(仮名・45歳)は話す。
「今、子連れ客が殺到しているのが小児科病院とショッピングモールです。鼻や喉をやられた子供たちが小児科に殺到し、周辺道路は駐車場の空きを待つ車で渋滞が巻き起こっている。ショッピングモールのキッズスペースは、大気汚染から逃れて子供が遊ぶことができる、シェルターと化している」
’14年に南カリフォルニア大学の研究チームが、中国で増加する早産が、大気汚染に関連しているとする調査結果を発表したが、最近では、妊娠を控える者さえ出始めている状況だという。
インド紙『タイムズ・オブ・インディア』(12月8日付)は、中国で大気汚染が深刻化しはじめた11月末からの1週間、中国ECサイトでコンドームの売り上げの伸び率が、マスクや空気清浄機のそれを上回ったと報じた。この報道に関し、北京市在住の主婦・大西靖子さん(仮名・38歳)は話す。
「『大気汚染で外出できないから家でセックスするカップルが増えた』と面白おかしく報じられていますが、実際はもっと深刻。『こんな状況で子供なんか育てられない』と、避妊を選ぶ夫婦が増えたことが原因なんです」
一方、子供を持つ中流層以上の世帯を中心に、綺麗な空気を求めて移住する動きが活発化しているという。中国人ジャーナリストの周来友氏はこう証言する。
「多くの富裕層が、リゾート地・海南島に一時避難している。移住できない北京市民は、比較的空気の綺麗な郊外の通州区に引っ越す人が増えている。大気汚染の悪化を受け、将来的には首都機能の一部が同区に移転されるという話もあり、周辺の不動産相場が上昇しています。さらに、同じマンションでは、上階に行くほど大気中の汚染物質濃度が低いとされているため、10階以下の部屋の空室が目立っています」
中国の子供たちを蝕むのは大気汚染だけではない。広東省仏山市で貿易業を営む林田岳男さん(仮名・50歳)は言う。
「昨年、近所の子供たち数人が、次々に体調不良を訴えた。その後、親たちが調べた結果、遊んでいた公園の遊具から高濃度の鉛が検出され、体調不良の原因が鉛中毒であることがわかったそうです」
11月には、深セン市の幼稚園で園児ら86人が一斉に体調を崩す事件が発生。お昼寝部屋の床が腐食し、ゴキブリやウジ虫などの巣窟となっていたことが原因だった。また、中国各地の小中学校では、陸上トラックに使用される化学物質が原因で、子供たちが鼻血や目眩、発疹などを発症する「毒トラック事件」も頻発しており、子を持つ親は気が休めない状態だ(『人民網』12月1日付ほか)。
「近所の主婦から最近、『せめて子供だけでも日本に移住させたい。不動産を購入したらビザが下りるのか』と相談を受けるようになりましたね。綺麗な空気と水を求めて、日本を目指す中国人も増えるでしょう」(前出の大西さん)
一人っ子政策を廃止した中国だが、安心して子育てができる保障のない限り、当局の目論む「官製ベビーブーム」は失敗に終わることだろう。 <取材・文/奥窪優木>
週刊SPA!連載 【中華人民毒報】
行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し
1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
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